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第105回:声にしなければ得られないものもある

こんにちは、あみのです。
今回の本は、青谷真未さんの『水野瀬高校放送部の四つの声』(ハヤカワ文庫JA)という作品です。

私は、青谷さんの「エモさ」「純粋さ」を感じることができる青春小説が大好きです。今作でも青谷さんの魅力がたっぷりと楽しめます。
また心にもやもやした感情を溜めてしまいがちな人には、勇気が貰える要素もある物語かと思います!

あらすじ(カバーより)

校庭に響いたマイクの音に心奪われ、衝動的に放送同好会を設立した高校三年生の巌泰司。一人気ままに活動するはずが、NHK杯全国放送コンテスト出場を目指す一年生の赤羽涼音と白瀬達彦が入部してくる。さらに競馬実況女子の二年生・南条梓も加わり放送”部”として歩み始めることに。だが四人はそれぞれ言葉にできない悩みを抱えていた。友達、家族、将来——ままならない思いを声に託した高校生たちの青春群像四篇。

感想

放送部に集まった4人の高校生。一見好感度の高い生徒たちに見えましたが、それぞれの心の中には誰にも言えない深い悩みがありました。
章ごとで明かされていく4人の秘密。彼らの悩みを解決するヒントは、人々が口にする「言葉」にありました。

例えば家族との関係で悩んでいた南条さんは、大好きだった父を否定する母の言葉に日々苦しめられていました。また赤羽さんや白瀬くんは、自らの「言葉」によって、「自分らしさ」を上手く表現できなかったところがありました。

他にも放送部で地元のパン屋を取材した際、間違った情報を流してしまったことによって生徒たちだけでなく、パン屋側にも迷惑をかけてしまったというシーンも作中にはありました。

今作を読んでいると「言葉って身近だけど、取り扱いが結構難しいな」と感じさせられ、「言葉」と「呪い」を結びつけていたのも凄くわかりやすい表現だなと思いました。でも一方で「言葉の呪い」に対する希望を感じる言葉もいくつか見られました。

「呪いをかけるのは言葉だけど、呪いを解くのも言葉だと思うから」
言葉は呪いで、言葉は祈りだ。

自分ひとりでは解決できなかった悩みも、放送部の仲間となら乗り越えられる。悩みを誰かに打ち明けるって難しいことではあるけれど、思い切って仲間に話した結果、それぞれが欲しかった言葉や視点に出会うことができました。

心に隠しておきたいことがあったとしても、声に出して誰かに話してみることで「呪い」を解くことができ、それが成長にもつながることを実感した物語でした。もやもやした感情を口にすることで、今の自分に合ったヒントと出会える可能性だって充分に考えられますね。

また今作は放送部員たちの自己紹介的なエピソードの印象が強く、本格的に「Nコン」を目指していく物語はもう少し先のことになるのかな?と思いました。部活の設立者である巌先輩は卒業してしまいますが、これも放送部のひとつの「スタート」ではないのでしょうか。

残された3人はこれから放送部でどのような経験をしていくのか。またどんな「言葉」と出会っていくのか。機会があれば読んでみたいなと思いました。赤羽さんたちの活躍に惹かれて放送部に入部する人とか出てきたら嬉しいなあ…。

先日読んだ汐見夏衛さんの『真夜中の底で君を待つ』も似たテーマを扱った作品ではありましたが、今作はまた違った観点から「言葉」のメリットデメリットを描いていて、またひとつ学びが増えた作品でした。

選んだ言葉によって不快な思いをすることもあれば、逆にそれが希望を呼ぶことだってある。今作に込められた最大のメッセージはぜひ多くの人に感じてほしいなと思いました!

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