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創作

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記事一覧

【ミナ】

【ミナ】

 そんなに生きづらいんなら死んじゃえばってすぐ思う。私。乱暴だし雑だ。でも思ったことはしかたない。変えられない。私はその男について生きづらいんなら死んじゃえばって思った。でも直後にすぐ思った。死んでいるんだった。

 おおよそ思春期の頃から(みんながうだうだしはじめる時期)、うだうだしている人を見るのが嫌いだった。周りからああでもないこうでもないという心の嘆きを聴かされることが増えたその頃は、みん

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【キョンちゃん】

【キョンちゃん】

 私はやぶれかぶれになってそこにいた。

 という設定でそこにいた。
 実際さんざんだった。好きな男に飲み屋に誘われてうきうきと1時間電車に揺られて行ったら好きな男含む男ばかり5人でしみじみしてて。何かと思ったらそれは好きな男の結婚記者会見みたいな飲み会で。はあ?????? 先に言えよ、言ってくれたら来なかったのに。いや結局は来ちまったんだろうが、心の準備というものがあるでしょうよ。乱れた情緒が漏

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【はつこいふしまつ】 前編

【はつこいふしまつ】 前編

 私はついに冷静になった。精神をひんやりとした風が吹き渡り、湿度の低いその風は、身体までをも軽くしていった。ここ最近の混沌が嘘のように胸の中が透き通っている。自分の胸がゆっくり上下するのを意識して、これまで息をちゃんとしていたことなんてなかったのではとあやしんだ。ものがまともに見えるのは実に二週間ぶりのことだし、もしかしたらもっとずっと前からなかったことかもしれない。米良とはじめて出会った十歳の初

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【はつこいふしまつ】 後編

【はつこいふしまつ】 後編

 承前

 翌朝の六時過ぎ、二人でホテルから出た。駅近くまで来ると、じゃあまたね、と言い合って別れた。別れてからは米良のことを考えなかった。早朝の冷たい風が吹き抜けるデパート前の空間で、相鉄線の方向へ米良の背中が消えるのを見るともなしに眺めたあと、JRの改札へと向かう私にあったのは、耳の奥で何かが擦り切れていくようなチリチリという微かな音だけだった。湘南新宿ラインの列車に乗り込んでボックスシートに

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【湯けむりダンス】

【湯けむりダンス】

お医者さまでも 草津の湯でも
ア ドッコイショ
惚れた病は コーリャ
治りゃせぬよ チョイナ チョイナ

 マーサの運転する車は草津温泉街近くの駐車場に入る。場内はがらんとしていてどこでも停め放題だ。それもそのはず、時刻は午前0時を回ったところ。わたしはマーサとユキジに続いて車を降り、地面を踏むとざりりと音が鳴る。ピッ ピッ という電子音が続いて車にロックがかかる。どちらも夜に遠くへ来たときだけの

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【米田アカリのこと】

【米田アカリのこと】

 おれは米田アカリのことを他の大学連中と同じようにヨネと呼んでいたし、大学を出て5年以上経った今でも——といっても機会はそうないが、共通の友人の結婚式やサークルOBの飲み会で顔を合わせることがあるときには変わらずヨネと声をかける。周囲の誰もと同じように。

 大学のサークルで知り合ったころから、米田だからヨネ、というごく簡単なあだ名ともいえない呼び名以外で米田アカリを呼ぶ人間はいなかった。酒の席で

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