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#4 京都嵐山芸術祭から始めるポストコロナのアート&ツーリズム

嵐山渡月橋から見る山々の美しい風景が、30年後も見られる保証がないとしたら。

おひさしぶりの編集長noteの更新です。編集長・松島はハロウィーン生まれなのですが、今年の誕生日は子どもからもらった風邪でダウンしてしまい、キャンディーもお化けもディナーもケーキもない、かわりに熱と頭痛に見舞われた誕生日でした。とほほ。
さて、今回は京都嵐山芸術祭について。11月3日のまさに「文化の日」に開幕した今年初開催となる京都嵐山芸術祭。じつは文章などでちょこっとお手伝いさせていただいていることもあり、オープニングセレモニーに行ってきました。

京都嵐山芸術祭公式ウェブサイト

俳優でバンド満身創痍のギタリストでもある塚本高史さんと音楽プロデューサーの池内ヨシカツさんとのトークショーが行われたこともあって、多くのお客さんが来られていました。屋外のしかも嵐山公園内ということもあり、通りすがりにのぞいていく原チャリのおばちゃんなんかもいて、いやあいいですね。とっても和やかなイベントになりました。屋外で人が集まるのってやっぱりいいもんだなあと、あらためて思いましたね。

セレモニー終了後にはバックヤードでご挨拶させていただきました。京都市の観光大使でもある池内さんとは以前にもちらっとお話しさせていただく機会があったのですが、塚本高史さんも気さくな方で一緒に写真も撮っていただき、やさしく飾らない方でした。
来年はぜひ塚本高史さんのバンド「満身創痍」のライブも演ってもらえたらなあと思いましたし、またせっかくなら池内ヨシカツさんと満身創痍による、ここでしか実現できないコラボライブなんかがあってもいいですね、という話なんかも。実現するといいなあ。

さて、トークショーに先立って行われた、バルーンでかたどった龍を用いたダンスパフォーマンスに続けて、主催者の磯橋さんのご挨拶。これがぼくはけっこうジーンと来るものがあったんです。なんというか、いわゆる形式ばった主催者挨拶とは違い、このイベントの趣旨とご自身の思いをご自身の言葉で語られておられたためだと思います。たぶんあの場所にいた人みんなにも伝わったんじゃないかなあって思いました。

その趣旨というのは、かんたんにひとことで言っちゃえば「嵐山の自然・景観保護と文化の継承」ということになります。なんていうと堅苦しいお題目のように感じるかもしれませんね。でもとっても大事な話です。ちょっと長くなるんですけど、ぜひじっくりと読んでみてほしいのです。

「もしかしたら30年とか50年後には渡月橋から見るあの美しい山々の風景が見られなくなってもおかしくない」というと、たぶんほとんどの人が驚くと思います。
恥ずかしながらぼくも初めて知ったのですが、嵐山に「戸難瀬の滝」という平安時代には多くの和歌に詠まれたり、絵画にも描かれた有名な景勝地があります。嵐山周辺の地域を象徴する歴史的にも知られた存在でしたが、明治以降の治水工事、さらには周囲の雑木林が放置されたことにより、現在では滝の水量は乏しくなり、いまや滝の存在すら知られてないのが実情です。この例を筆頭に、雑木林の放置などによって桜や紅葉など嵐山の四季を彩る木々の植生にも影響を及ぼし、このままでは30年後にあの渡月橋からの美しい山々の風景が見られる保証はどこにもない、と関係者の皆さんも危機感を感じておられました。

そこでクラウドファンディングを立ち上げ、民間の手によってこの美しい嵐山の自然とそれに培われた文化を継承しようという試みが、今回の「嵐山芸術祭」なのでした。
ではなぜ嵐山で芸術祭なのか?ひとつにはコロナ禍で苦境に立たされたのは自分たち観光業会だけではなく、アーティストやパフォーマーの人たちも同じだということ。こうしたアートやパフォーマンスに触れる機会を取り戻し、観光の復興を通じて彼らの活動の支援もできたらという磯橋さんはじめ、主催者や関係者の皆さんの思いがあります。

みんなの嵐山を未来へつなぐ 嵐山景観保護プロジェクト クラウドファンディング

もうひとつ嵐山は、古来より文化と芸術の集積地であることを発信したい、ということ。嵐山の価値は、決して街ブラを楽しむだけのテーマパーク的魅力だけにあるのではないことを、あらためて多くの人に知ってもらうきっかけにしたいからです(それも大事な魅力のひとつではあるけれど)。

現状、テレビやSNSなどで紹介される「嵐山」といえば、渡月橋やメインストリート周辺の飲食店や土産物店など、いわゆる写真映えする観光スポットとしてのイメージに集中しています。

しかし本来の嵐山は、藤原定家が編纂した小倉百人一首の舞台として知られる小倉山、火伏せの神様としての信仰が篤く本能寺の変の前に明智光秀が参拝したとされる愛宕神社のある愛宕山など、自然と文化と歴史が交わる山の麓に位置する地域。そうした風光明媚な土地柄もあり、貴族や天皇家の狩猟地・行楽地としても栄えてきた場所でした。

また、足利尊氏が開基した臨済宗天龍寺派の大本山「天龍寺」、嵯峨天皇の離宮を寺に改めた皇室ゆかりの寺院「大覚寺」、藤原定家とゆかりが深く小倉あん発祥の地とされる「二尊院」、百人一首に詠まれた小倉山中腹にある紅葉で有名な「常寂光寺」、空海によって開山され、法然が念仏道場を開いたとされる「化野念仏寺」など、全国に知られた名だたる寺院が立ち並んでいます。

小倉百人一首を編纂した藤原定家の山荘「小倉山荘」をはじめ、松尾芭蕉の弟子である向井去来が結んだ草庵「落柿舎」など、貴族・文人の山荘なども多く建立され、文化・芸術の集積地としても発展してきた歴史を有しています。
そう。考えてみれば「嵯峨地域と自然と文化」いう視点を見ると、嵐山というのはこんなにも芳醇な歴史と文化を有する土地なのですよね。住んでる京都人の方がむしろ「ああ、あのヨソさんで混雑してる場所ねー」と、つい避けてしまいがちなところもあったのではないかなあ。でも京都人自身がそうしてしまうのは、さすがにもったいない!

最終日の12日に行われるクロージングセレモニーでは、ずっと長くお付き合いのある松尾優さん(https://note.com/matsuoyuu)や、以前取材させていただいた舞踏家の宮原由紀夫さんなど、個人的に知っている人も出演されます。
今回の京都嵐山芸術祭は、嵐山を広域の「嵯峨エリア」として捉え直し、自然、文化、芸術が調和した文芸都市としての嵐山を「再発見」してもらうきっかけになればいいなと思います。同時に、ポストコロナの新しい観光を考えていく上でも、外国人を含めたヨソさんにたくさん遊びに来てもらいつつ、住んでる地元の人間も新たな視点で楽しめて、自然も文化も経済もサステナブルなツーリズムの提案になるといいなと思いました。

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