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記事一覧
「繭を捨てる」【短編小説】
「落とされましたよ」
背後で鋭い声がしたので振り返ると、背の低い中年男が私を見上げていた。
「落とされましたよ、これ」
男の右手のひらには楕円形をした金色の繭のようなものが乗っている。それはたとえるならテレビタレントが胸に付けるピンマイクの先のスポンジの風防のようなものだ。風が吹くと飛んでいってしまいそうなくらい、小さくて軽そうである。
「いえ、私のじゃないです」
「そんなことはない
「地球儀を売る」【短編小説】
僕のうちはこの町に一つしかない地球儀屋さんを営んでいる。
地球儀を売るというのは、地球儀を売ったことがない人の想像する何倍も大変なことだ。僕自身、もちろんどこかの誰かに地球儀を売ったことなんてないから、つまりは僕の父さんと母さんは僕の想像する何倍も頑張っているということだ。
そんな二人の日々の頑張りに、一人っ子である僕は心から感謝しているし、二人を尊敬してもいる。けれど、だからといって僕
「ソメダさん・断章」【掌編小説】
「見下してる」ソメダさんは憤然として言った。「あの言葉、わたし、大きらいなの」
私は突然のことにびっくりして、「どの言葉がですか」と言った。
すると彼女は、食堂のテレビ画面を顎で示して、
「口にもしたくない」と言う。
テレビ画面には、最近よく様々なメディアでその顔を見かける某IT系ベンチャー企業の社長が映っていた。番組のテロップには、『令和時代の人材育成』とある。
「……“人材”っ
「異星人」【短編小説】
我が家に異星人がやってきた。
ずいぶん丸々と太った異星人だった。彼は縦にも横にもおよそ一二〇センチくらいある体を左右にいちいち重心を移動させるようにしてゆっくりと動かした。そんな彼の歩みはとてつもなく緩慢だった。
私は異星人をリビングに通した。彼は異星人にしては小柄な方だと私はなんとなく高を括っていたが、彼がリビングのソファーに座ったとたん、私たちの部屋はずいぶんと狭く感じられてきた。