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#小説
今昔コロツケー奇譚 〈3998字〉第18回坊っちゃん文学賞撃沈作品③
表通りから離れた狭い路地の奥に、その小さな店はあった。
外の看板にはひとまずバーと謳ってあるが、入ってみれば壁中所狭しと品書きが貼ってある店内は、むしろ寿司屋のカウンターに近い。
ポテト・かぼちゃ・クリーム・さつまいも・カレーポテト・餅・チキンライス……
「ねえマスター。俺さ、この店通うようになってから、何だか元気になったみたいだ」
「ほう、そうですか」
客は若い男が一人いるだけだった。中年の
令和青春恋絵巻 〈3997字〉第18回坊っちゃん文学賞撃沈作品①
「はあ……マジで無理……」
紫苑は、ため息まじりに部屋の天井を仰いだ。頭の中に放課後の光景がまざまざと甦る。
「一之瀬さん、隣の席だからって中里君にベタベタしないで。目障りなのよ」
誰もいない教室で、まるで般若のような形相の清原香澄に睨みつけられた紫苑は、才色兼備で名高い香澄の豹変ぶりに言葉を失った。
確かに中里哲哉とは時折会話を交わすこともなくはない。だが顔立ちが良く性格も爽やかな上に、
牙はなくとも 〈12518字〉~某児童文学賞応募作品
「ごめーん、ちょっとまわり見張っててくれる?もうめっちゃノド渇いちゃってさぁ」
突然足元から上ってきたカン高い声に驚いたキリンは、慌てて長い首を下に向けた。
キリンの足の半分の高さにも及ばない小さなインパラが、返事も待たずにさっさとキリンを追い越して目の前の川に向かっていく。キリンは仕方なく足を止めた。次から次へと続く彼女の仲間たちを踏んでしまいそうだったからだ。インパラの群れはそれぞれ川にたど
文字盤のない時計店 〈8090字〉 ~眠気を誘う小説
曲がりくねった路地裏の奥に、その不思議な時計店はありました。
くすんだガラスのはまった古い木の扉をぎいっと押し開けると、チリリンとドアベルが音をたてました。店の中は薄暗く、どことなく埃っぽい匂いが漂っています。表の看板には時計店と謳ってあるものの、とても時計には見えないものばかりが大小様々店中いたるところに置いてあり、天井のランプの灯りがぼんやりとその影を浮かび上がらせていました。
「いらっ