のらくら詩人諦楽

諦楽(あきら)。のらくら詩人。 18歳から中原中也に憧れて詩の執筆をはじめる。 ほかに…

のらくら詩人諦楽

諦楽(あきら)。のらくら詩人。 18歳から中原中也に憧れて詩の執筆をはじめる。 ほかに敬愛する詩人は、中桐雅夫・辻征夫・友部正人・長田弘・谷川俊太郎など。 1995年詩集「この灯を絶やさぬために(詩学社刊)」上梓。 2012年活動休止。2022年詩人復帰目指して只今リハビリ中。

記事一覧

なみだのわだち

小高くまぁるい丘をかすめて いくつかの星がつらなって落ちていくよう ぽろぽろぽろぽろ とめどないなみだ おまえのちいさなこころにもあるのだろう 泣くことでしか向きあ…

弥生

さくらんぼうの花が咲いたよ、 十年越しだね おおきなおなかを抱えて うら庭のお散歩から戻ってきたのは きみのおかあさん 寒い朝にほんのちょっと、春色の水彩 はじめて…

終戦記念日の食卓

親父たちのお決まりの話題に、ばあちゃんはおとなしかった 「ばあちゃん、もういいかげん買い溜めはしなさんな」 ばあちゃんの子供たちが一斉に集まる日は 決まって誰かが…

わたゆき

らんぼうものの木枯らしが 師走の気配にそぞろになって 暗い暗い空を去っていった 遠慮がちな家々のあかり 風がとまって、ほろほろと わたゆきが降りてきた はかなく消え…

フォール

とおくなった空は面持ちをすなおにさせる ぽっかりくちをあけ、まばたきを忘れるトーコ ゆったりとした白鯨の群れはあまりにも近くを泳ぐから その影から出て また影には…

いちごラムネ

おひるねから覚めたかい  おやつの時間だよね、トーコ まだ少しだけおねむなまなこで 小さな指は ラムネをはこぶ 窓のカーテンが、フワリ、ヒラリ 机のえんぴつがころが…

a miracle

もうじき10キログラムになるトーコ 僕には、この重さが伝える事実でさえいとおしい おそとはそろそろ過ごしやすいよ、お散歩にでかけよう まだまだ片腕で抱きかかえてあげ…

夢と手帳

あなたのことだけを記した手帳なのでした まなざしがとても柔らかなあなたについて 夜毎の夢の中で大事にしていたはずだったのに とうとう失くしてしまったようです どこ…

夏の宿題

草いきれがする なだらかな参道の途中、 彼女は突然くちぶえを吹きだした。 背中の汗が気になり出していた僕は、 ふいに青空を見上げた。 木々の若葉をそよがせる無数の…

林檎をスケッチ

煤けた顔が乱暴に流れていく地下街を 原色たる彼女は陽気に闊歩する 手に持っているのは紅玉の果実 どんなふうにあなたたちは出逢ったのだろう 花でさえ曖昧な表情をするこ…

やまと薔薇

ふくよかな唇は饒舌そう あお空に映える無邪気な容姿 なのに、たくさんの秘密を抱えているような 野性的でおおらかな肢体だから 用心深く触れないと怪我をする かたくなな…

vagabond

宵くちにあがりたる月の まじることなき乳と灰のしずかなるせめぎ あかずとみつめつづけるこのむねのうちに あおき火の粉のふりかかりたる うみはくらくくろく、やうやう…

ダリアの女

花弁の、ひとひらずつに強さがあるの。 俯きながら、あしもとにことばをおとす 少しやつれたようにみえる彼女の頬の向こうで 一輪のダリアが、優雅に落日の陽をあびる 厳…

きみの踊りを讃える詩を知らない

きみの踊りを讃える詩を知らない きみの想い見守る人たちの顔を知らない 知らないことが多いけれど この胸に満ちる誇らしいきもちを まずきみのもとに、そしてぼくの糧に …

冬の手紙

冬のはじめにあなたと出逢った まだ見ぬあなたに手紙を書いたのは 乾いた路上にちいさな虫の亡骸があったから 僕はひしゃげた胸に、灯色の北風を吸い込んだ クリスマスを…

友への手紙

故郷の友に手紙を書いた 一行目には前略と記し 二行目には相手の身を気遣う文を 三行目には元気でやっています、と書いた 四行目…五行目…最後まで書き通して はじめか…

なみだのわだち

なみだのわだち

小高くまぁるい丘をかすめて
いくつかの星がつらなって落ちていくよう
ぽろぽろぽろぽろ とめどないなみだ
おまえのちいさなこころにもあるのだろう
泣くことでしか向きあえない恐さを感じる、おさない回路

そういえば、おとうちゃんもたくさん泣いてきたな
しくしく泣いたり大泣きしたり、いろんな涙があったけど
今おもいだしたのは、とてもつらかったあの日のこと
ずぶ濡れで泣きじゃくった嵐の夜

そのとき、なぜ

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弥生

弥生

さくらんぼうの花が咲いたよ、
十年越しだね

おおきなおなかを抱えて
うら庭のお散歩から戻ってきたのは
きみのおかあさん
寒い朝にほんのちょっと、春色の水彩

はじめて花が咲いた樹の話題に
ぼくら、とてもゆたかな気持ちになれた
まだまだストーブの暖が恋しい日々だけど
暦の上ではあと幾日で、弥生三月
啓蟄もまぢか

さくらんぼうは甘い実がつくかな
小鳥や虫たちに食べられないうちに
出来るだけ早めにと

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終戦記念日の食卓

終戦記念日の食卓

親父たちのお決まりの話題に、ばあちゃんはおとなしかった
「ばあちゃん、もういいかげん買い溜めはしなさんな」
ばあちゃんの子供たちが一斉に集まる日は
決まって誰かが冷蔵庫の大掃除をする
昔は勝気だったばあちゃんも、今は子供たちに逆らわない

ばあちゃんの生きがいのひとつ
食べきれないくらい買い集めて
誰も食べきれないままに腐らせる

ときこも、やすまさも、さちこも、
みんなおなかを空かして死んでしま

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わたゆき

わたゆき

らんぼうものの木枯らしが
師走の気配にそぞろになって
暗い暗い空を去っていった
遠慮がちな家々のあかり

風がとまって、ほろほろと
わたゆきが降りてきた
はかなく消える身にまとう
あたたかなきおく、みんなのいとなみ

トーコはおねむなまなこ
おくちをぽっかりあけて見ている
おとうちゃん、おかあちゃんのあいだ

トーコ、願わくは忘れてくれるな
このわたゆきも太郎の
あのわたゆきも次郎の、雪。

初稿

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フォール

フォール

とおくなった空は面持ちをすなおにさせる
ぽっかりくちをあけ、まばたきを忘れるトーコ
ゆったりとした白鯨の群れはあまりにも近くを泳ぐから
その影から出て また影にはいる ぼくら

うるおった地表のうえをすべる雲 
虚空からの俯瞰へとぼくは連れ去られ
瞬間とてつもないスピードで
彼女の傍らへと墜とされた

ふたたび空を見上げて立ち眩んだ
つめたい突風があしもとをさらう こがねの葉っぱをふきとばす
ぼく

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いちごラムネ

いちごラムネ

おひるねから覚めたかい 
おやつの時間だよね、トーコ
まだ少しだけおねむなまなこで
小さな指は ラムネをはこぶ

窓のカーテンが、フワリ、ヒラリ
机のえんぴつがころがって、コトリ
風がはいってきたんだよ。

トーコの瞳がおおきくなって
音の鳴るほうヘ、あたらしいおともだちへ
風がはいってきたんだよ、トーコ。

ふいっとおとうちゃんに顔を向けたので
おとうちゃんはわらって
おかあちゃんもわらって

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a miracle

a miracle

もうじき10キログラムになるトーコ
僕には、この重さが伝える事実でさえいとおしい
おそとはそろそろ過ごしやすいよ、お散歩にでかけよう
まだまだ片腕で抱きかかえてあげなくちゃあ。

夕暮れまぢかの公園につながる道
ゆっくりのんびり、ふたりでひとつのかげぼうし
よろけない走らない、軽やかなあゆみでしっかりと
この足どりおぼえておいてもらわなくちゃあ。

ちょうちょがふたりを横切った
あれはアゲハだね。

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夢と手帳

夢と手帳

あなたのことだけを記した手帳なのでした
まなざしがとても柔らかなあなたについて
夜毎の夢の中で大事にしていたはずだったのに
とうとう失くしてしまったようです

どこで落としたのか見当もつかず
今覚えているのは
天王寺で逢う約束を交わしあった事だけ
けれども、あなたにまた逢える日が思い出せない

曇天からおもたい雪が降ってきました
あなたはどんな顔で、どんな声だったのでしょう
なぜこんなにも過去の幸

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夏の宿題

夏の宿題

草いきれがする なだらかな参道の途中、
彼女は突然くちぶえを吹きだした。
背中の汗が気になり出していた僕は、
ふいに青空を見上げた。

木々の若葉をそよがせる無数のやさしい指だ。
肌に心地よくなじむ風。
どうしよう、この瞬間を切り取りたい。
くちぶえが夏を連れてきた。

彼女の柔らかな唇が、
くちぶえを吹けない僕のかわりに、
二度とは訪れない景色を連れてきた。

僕が彼女にしてやれることってなんだ

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林檎をスケッチ

林檎をスケッチ

煤けた顔が乱暴に流れていく地下街を
原色たる彼女は陽気に闊歩する
手に持っているのは紅玉の果実
どんなふうにあなたたちは出逢ったのだろう
花でさえ曖昧な表情をするこの季節に

またあるときは
おもたく不愉快な湿気に沈む深夜のホームで
少女が少年の尻ポケットに指を入れ
少年は少女のやせた肩を抱いている
君たちがあまりにも不安げな面持ちだったから
不器用にナイフで断ち割られて
少しずつ酸化していくその

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やまと薔薇

やまと薔薇

ふくよかな唇は饒舌そう
あお空に映える無邪気な容姿
なのに、たくさんの秘密を抱えているような

野性的でおおらかな肢体だから
用心深く触れないと怪我をする
かたくなな幼さが匂いたつ 春の庭

強靭な無数の棘をまとうのは
愛されたい欲求を見透かされないためか
つよい生命に恵まれた花なのに

彼女たちが表情を閉ざす夜
おぼろげな囁きの中身は闖入者のうわさ
深いふかい茂みのくらがりに 彼女たちの戦利品

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vagabond

vagabond

宵くちにあがりたる月の
まじることなき乳と灰のしずかなるせめぎ
あかずとみつめつづけるこのむねのうちに
あおき火の粉のふりかかりたる

うみはくらくくろく、やうやうとして在るのみにて
ただなみうちのおと、しろき駿馬のあしおとをつたえつたえ
処は死におもむきたるもの、いきてもがきするもののさかい

のぞみはこえに こえはうたになり
おのがむねときはなちたるそのときをまつ 
うきしずみ、まなこはなみの

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ダリアの女

ダリアの女

花弁の、ひとひらずつに強さがあるの。

俯きながら、あしもとにことばをおとす
少しやつれたようにみえる彼女の頬の向こうで
一輪のダリアが、優雅に落日の陽をあびる

厳格な真冬の空はいよいよくろくくらく
鬱屈しがちな街角のいたる処に、冷めた水彩を描く
耐えきれずシェルターに駆け込んだのだ
彼女自身がその絵に取り込まれないように

わたしにはやりたかったことがある
それを喧騒のなかでわすれていた
さほ

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きみの踊りを讃える詩を知らない

きみの踊りを讃える詩を知らない

きみの踊りを讃える詩を知らない
きみの想い見守る人たちの顔を知らない

知らないことが多いけれど
この胸に満ちる誇らしいきもちを
まずきみのもとに、そしてぼくの糧に

青白い影に染まるつまさき
たおやかに揺らぐ灯を綴るゆびさき
情感の五線譜、線と線のはざまを軽々と跳ねる
春誘う純白のイマァジュ

きみが演じるさまざまな愛のかたちは
ちいさいころに好きだった寓話のようで
もしかして失くしてしまったの

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冬の手紙

冬の手紙

冬のはじめにあなたと出逢った
まだ見ぬあなたに手紙を書いたのは
乾いた路上にちいさな虫の亡骸があったから
僕はひしゃげた胸に、灯色の北風を吸い込んだ

クリスマスを好きだと無邪気に書いたぼくに
宗教ではない信仰を愛したいとあなたはつぶやいた
孤独な帰りみちに家々の夕餉の香りが漂う頃
失くした信仰を慕ってあなたは泣いた

冬の手紙には死の影があったが
血と酒の匂いを嗅がなければ湿った岸にたどりつけな

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友への手紙

友への手紙

故郷の友に手紙を書いた

一行目には前略と記し
二行目には相手の身を気遣う文を
三行目には元気でやっています、と書いた

四行目…五行目…最後まで書き通して
はじめから読み返すと
「おれは」という書き出しが七箇所もあった

恥ずかしくなってせっかく書いた手紙を破り
それから二度書き直したが
いくじなしの一人称が減ることはなかった

三度目の手紙を破った時
もう一度自分自身で
なんとか頑張ってみよう

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