林檎をスケッチ
煤けた顔が乱暴に流れていく地下街を
原色たる彼女は陽気に闊歩する
手に持っているのは紅玉の果実
どんなふうにあなたたちは出逢ったのだろう
花でさえ曖昧な表情をするこの季節に
またあるときは
おもたく不愉快な湿気に沈む深夜のホームで
少女が少年の尻ポケットに指を入れ
少年は少女のやせた肩を抱いている
君たちがあまりにも不安げな面持ちだったから
不器用にナイフで断ち割られて
少しずつ酸化していくその断面をみてしまった
もうすぐ、真夏の夜の最終電車が滑り込む
そういえば
家庭科の授業を早退する
僕のぶんのサンドウィッチ
手早く作って持たせてくれたのはたかこちゃん
たかこちゃんと食べたかったのに
落ち葉が積もる山の散歩道で
泣きながらシャリシャリとほおばった
うさぎのかたちのデザート
高熱にうるんだ目で
蜜入りの林檎をむく君を見ていたら
少しだけ猫背気味の背中に
勝手なスケッチをしてしまった
雪がやまない、しずかな夜だから。
初稿:2006/01/28
Ⓒ2022 Akira Yoshiyama and AKIRA
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