のらくら詩人諦楽

諦楽(あきら)。のらくら詩人。 18歳から中原中也に憧れて詩の執筆をはじめる。 ほかに…

のらくら詩人諦楽

諦楽(あきら)。のらくら詩人。 18歳から中原中也に憧れて詩の執筆をはじめる。 ほかに敬愛する詩人は、中桐雅夫・辻征夫・友部正人・長田弘・谷川俊太郎など。 1995年詩集「この灯を絶やさぬために(詩学社刊)」上梓。 2012年活動休止。2022年詩人復帰目指して只今リハビリ中。

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about this note.

過去から今に至るまでに書いた詩を掲載します。 1995年頃までに書いた詩について、芳山鑑名義の詩集『この灯を絶やさぬために(1995年詩学社刊)』の中から、8作品を掲載しました。 上記詩集出版以降から2012年までに書いた詩について、芳山鑑名義の未発表詩を、テーマ別に編纂して掲載予定です。 「恋ごころ」がテーマの詩集『冬の手紙』を掲載しました(2022.10) 「家族」がテーマの詩集『a miracle』を掲載しました(2022.11) 2022年活動再開以降の詩は

    • なみだのわだち

      小高くまぁるい丘をかすめて いくつかの星がつらなって落ちていくよう ぽろぽろぽろぽろ とめどないなみだ おまえのちいさなこころにもあるのだろう 泣くことでしか向きあえない恐さを感じる、おさない回路 そういえば、おとうちゃんもたくさん泣いてきたな しくしく泣いたり大泣きしたり、いろんな涙があったけど 今おもいだしたのは、とてもつらかったあの日のこと ずぶ濡れで泣きじゃくった嵐の夜 そのとき、なぜひとは泣くのか おとうちゃんははじめて考えたよ トーコ、泣くことでしか向きあえ

      • 弥生

        さくらんぼうの花が咲いたよ、 十年越しだね おおきなおなかを抱えて うら庭のお散歩から戻ってきたのは きみのおかあさん 寒い朝にほんのちょっと、春色の水彩 はじめて花が咲いた樹の話題に ぼくら、とてもゆたかな気持ちになれた まだまだストーブの暖が恋しい日々だけど 暦の上ではあと幾日で、弥生三月 啓蟄もまぢか さくらんぼうは甘い実がつくかな 小鳥や虫たちに食べられないうちに 出来るだけ早めにとってしまおう おとうさんとおかあさんの 意地汚い会話に聞き耳をたてて さくらん

        • 終戦記念日の食卓

          親父たちのお決まりの話題に、ばあちゃんはおとなしかった 「ばあちゃん、もういいかげん買い溜めはしなさんな」 ばあちゃんの子供たちが一斉に集まる日は 決まって誰かが冷蔵庫の大掃除をする 昔は勝気だったばあちゃんも、今は子供たちに逆らわない ばあちゃんの生きがいのひとつ 食べきれないくらい買い集めて 誰も食べきれないままに腐らせる ときこも、やすまさも、さちこも、 みんなおなかを空かして死んでしまった 六才のときこは おもちが食べたい そう言いながら、背中で軽くなって死んじゃ

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        マガジン

        • 詩集「a miracle」
          7本
        • 詩集「冬の手紙」
          8本
        • 詩集「この灯を絶やさぬために」
          8本

        記事

          わたゆき

          らんぼうものの木枯らしが 師走の気配にそぞろになって 暗い暗い空を去っていった 遠慮がちな家々のあかり 風がとまって、ほろほろと わたゆきが降りてきた はかなく消える身にまとう あたたかなきおく、みんなのいとなみ トーコはおねむなまなこ おくちをぽっかりあけて見ている おとうちゃん、おかあちゃんのあいだ トーコ、願わくは忘れてくれるな このわたゆきも太郎の あのわたゆきも次郎の、雪。 初稿:2004/01/01 Ⓒ2022 Akira Yoshiyama and AK

          フォール

          とおくなった空は面持ちをすなおにさせる ぽっかりくちをあけ、まばたきを忘れるトーコ ゆったりとした白鯨の群れはあまりにも近くを泳ぐから その影から出て また影にはいる ぼくら うるおった地表のうえをすべる雲  虚空からの俯瞰へとぼくは連れ去られ 瞬間とてつもないスピードで 彼女の傍らへと墜とされた ふたたび空を見上げて立ち眩んだ つめたい突風があしもとをさらう こがねの葉っぱをふきとばす ぼくは生きて居り、娘のやわらかな手をにぎりかえした 彼女のまなこはこの惑星の縮図な

          いちごラムネ

          おひるねから覚めたかい  おやつの時間だよね、トーコ まだ少しだけおねむなまなこで 小さな指は ラムネをはこぶ 窓のカーテンが、フワリ、ヒラリ 机のえんぴつがころがって、コトリ 風がはいってきたんだよ。 トーコの瞳がおおきくなって 音の鳴るほうヘ、あたらしいおともだちへ 風がはいってきたんだよ、トーコ。 ふいっとおとうちゃんに顔を向けたので おとうちゃんはわらって おかあちゃんもわらって トーコもわらった 風の行方は きっとおくちのなかの ラムネと一緒に 初稿:20

          a miracle

          もうじき10キログラムになるトーコ 僕には、この重さが伝える事実でさえいとおしい おそとはそろそろ過ごしやすいよ、お散歩にでかけよう まだまだ片腕で抱きかかえてあげなくちゃあ。 夕暮れまぢかの公園につながる道 ゆっくりのんびり、ふたりでひとつのかげぼうし よろけない走らない、軽やかなあゆみでしっかりと この足どりおぼえておいてもらわなくちゃあ。 ちょうちょがふたりを横切った あれはアゲハだね。きぃ、くろ、みどり。 ねこじゃらしを振ってみせると、ちいさな歯がわらった こん

          夢と手帳

          あなたのことだけを記した手帳なのでした まなざしがとても柔らかなあなたについて 夜毎の夢の中で大事にしていたはずだったのに とうとう失くしてしまったようです どこで落としたのか見当もつかず 今覚えているのは 天王寺で逢う約束を交わしあった事だけ けれども、あなたにまた逢える日が思い出せない 曇天からおもたい雪が降ってきました あなたはどんな顔で、どんな声だったのでしょう なぜこんなにも過去の幸福感だけがのこされたのか 狂おしいほどに、絶望の涙は溢れてくるのに 手帳はもう

          夏の宿題

          草いきれがする なだらかな参道の途中、 彼女は突然くちぶえを吹きだした。 背中の汗が気になり出していた僕は、 ふいに青空を見上げた。 木々の若葉をそよがせる無数のやさしい指だ。 肌に心地よくなじむ風。 どうしよう、この瞬間を切り取りたい。 くちぶえが夏を連れてきた。 彼女の柔らかな唇が、 くちぶえを吹けない僕のかわりに、 二度とは訪れない景色を連れてきた。 僕が彼女にしてやれることってなんだろう? 途方もない宿題を抱えたくちぶえのやつ、 ふたりのはじめての夏を連れて来た

          林檎をスケッチ

          煤けた顔が乱暴に流れていく地下街を 原色たる彼女は陽気に闊歩する 手に持っているのは紅玉の果実 どんなふうにあなたたちは出逢ったのだろう 花でさえ曖昧な表情をするこの季節に またあるときは おもたく不愉快な湿気に沈む深夜のホームで 少女が少年の尻ポケットに指を入れ 少年は少女のやせた肩を抱いている 君たちがあまりにも不安げな面持ちだったから 不器用にナイフで断ち割られて 少しずつ酸化していくその断面をみてしまった もうすぐ、真夏の夜の最終電車が滑り込む そういえば 家庭科

          林檎をスケッチ

          やまと薔薇

          ふくよかな唇は饒舌そう あお空に映える無邪気な容姿 なのに、たくさんの秘密を抱えているような 野性的でおおらかな肢体だから 用心深く触れないと怪我をする かたくなな幼さが匂いたつ 春の庭 強靭な無数の棘をまとうのは 愛されたい欲求を見透かされないためか つよい生命に恵まれた花なのに 彼女たちが表情を閉ざす夜 おぼろげな囁きの中身は闖入者のうわさ 深いふかい茂みのくらがりに 彼女たちの戦利品 奪われたのは剪定バサミ ふくよかな唇で、またひとつ秘密をつくる 初稿:20

          vagabond

          宵くちにあがりたる月の まじることなき乳と灰のしずかなるせめぎ あかずとみつめつづけるこのむねのうちに あおき火の粉のふりかかりたる うみはくらくくろく、やうやうとして在るのみにて ただなみうちのおと、しろき駿馬のあしおとをつたえつたえ 処は死におもむきたるもの、いきてもがきするもののさかい のぞみはこえに こえはうたになり おのがむねときはなちたるそのときをまつ  うきしずみ、まなこはなみのまにまに流木をおう あのよるのゆめ ふたたびのゆめをみん きみが、しげりたるは

          vagabond

          ダリアの女

          花弁の、ひとひらずつに強さがあるの。 俯きながら、あしもとにことばをおとす 少しやつれたようにみえる彼女の頬の向こうで 一輪のダリアが、優雅に落日の陽をあびる 厳格な真冬の空はいよいよくろくくらく 鬱屈しがちな街角のいたる処に、冷めた水彩を描く 耐えきれずシェルターに駆け込んだのだ 彼女自身がその絵に取り込まれないように わたしにはやりたかったことがある それを喧騒のなかでわすれていた さほど大きすぎず、艶やかに自立しているダリアを 一輪挿しにね、さりげなく飾ってあげる

          きみの踊りを讃える詩を知らない

          きみの踊りを讃える詩を知らない きみの想い見守る人たちの顔を知らない 知らないことが多いけれど この胸に満ちる誇らしいきもちを まずきみのもとに、そしてぼくの糧に 青白い影に染まるつまさき たおやかに揺らぐ灯を綴るゆびさき 情感の五線譜、線と線のはざまを軽々と跳ねる 春誘う純白のイマァジュ きみが演じるさまざまな愛のかたちは ちいさいころに好きだった寓話のようで もしかして失くしてしまったのかも、なんて 記憶の標を探してみたり きみの踊りを讃える詩を知らなくてよかった

          きみの踊りを讃える詩を知らない

          冬の手紙

          冬のはじめにあなたと出逢った まだ見ぬあなたに手紙を書いたのは 乾いた路上にちいさな虫の亡骸があったから 僕はひしゃげた胸に、灯色の北風を吸い込んだ クリスマスを好きだと無邪気に書いたぼくに 宗教ではない信仰を愛したいとあなたはつぶやいた 孤独な帰りみちに家々の夕餉の香りが漂う頃 失くした信仰を慕ってあなたは泣いた 冬の手紙には死の影があったが 血と酒の匂いを嗅がなければ湿った岸にたどりつけない 寄る辺ない脆弱なぼくたちの小船でもあっただろう 騒々しいだけの大晦日が終わ