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冬の手紙

冬のはじめにあなたと出逢った
まだ見ぬあなたに手紙を書いたのは
乾いた路上にちいさな虫の亡骸があったから
僕はひしゃげた胸に、灯色の北風を吸い込んだ

クリスマスを好きだと無邪気に書いたぼくに
宗教ではない信仰を愛したいとあなたはつぶやいた
孤独な帰りみちに家々の夕餉の香りが漂う頃
失くした信仰を慕ってあなたは泣いた

冬の手紙には死の影があったが
血と酒の匂いを嗅がなければ湿った岸にたどりつけない
寄る辺ない脆弱なぼくたちの小船でもあっただろう

騒々しいだけの大晦日が終わり
七草の頃になって冬の手紙は途絶えたけれど
あなたは長い旅の始まりに、春泥の匂いを吸い込んだ


初稿:2005/10/16
Ⓒ2022 Akira Yoshiyama and AKIRA


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