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終戦記念日の食卓

親父たちのお決まりの話題に、ばあちゃんはおとなしかった
「ばあちゃん、もういいかげん買い溜めはしなさんな」
ばあちゃんの子供たちが一斉に集まる日は
決まって誰かが冷蔵庫の大掃除をする
昔は勝気だったばあちゃんも、今は子供たちに逆らわない

ばあちゃんの生きがいのひとつ
食べきれないくらい買い集めて
誰も食べきれないままに腐らせる

ときこも、やすまさも、さちこも、
みんなおなかを空かして死んでしまった
六才のときこは おもちが食べたい
そう言いながら、背中で軽くなって死んじゃった

ある終戦記念日の食卓
中国大陸を南進するソビエト兵の映像
ぽろぽろ涙をこぼし、ばあちゃんは言う
じいちゃんは、ただ痛む膝をさすった
親父はうつむき加減に、黙々と飯をほおばった

彼女が今まで買い溜めをした食べものは
ときこおばさんや、やすまさおじさん
さちこおばさんのおなかの中を満たすはずだった
おもちのかわりではなかったか
今となっては永遠に満たされることのない
母親の飢餓のかわりではなかっただろうか

今年の終戦記念日の食卓
行儀がよくない二才の娘の食事を見ていたら
あの日の、ばあちゃんの涙を思い出した


初稿:2005/08/15
Ⓒ2022 Akira Yoshiyama and AKIRA

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