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にぎた/BA
2020年1月9日 19:07
(→第十話)アパートに着くと、順子はいつも通りパートに出掛けていった。 今日は祖母の家ではなく、サニーハイムに帰って来たのだが、家の中が少しおかしい。浦島太郎ではないけれど、母も少し窶れた顔をしていて、居間にはゴミが散らかっていたりした。 今回のは、きっと大戦だったのだろう。 圭司は、そんな戦の傷痕を引きずる母を見送ると、「いなくて良かった」と一言こぼしてから、自室に向かった。
2020年1月6日 18:56
(→第九話)「ひとつ思ったんだけどさ」 まだ鼻声であったけれど、しょうちゃんは元気に部活へ来ていた。 朝、顔を見るなりこちらへ駆け寄ってくれた友人は、まずは昨日の欠席を律儀に謝った後、自身の調査について述べた。 結果は白紙。喜ばしいことだけど、クラスメイトたちが事件や事故に巻き込まれたことはなかった。 圭司も告げた。家族には変わりはない。引っ越した先のサニーハイムにも、何も手が
2019年10月2日 18:46
(→第八話) 晩ご飯のメインは豆腐ハンバーグだった。 歯の悪い祖母でも食べられるよう、ヘルパーさんは柔らかく作ってくれた。 まだ日は沈みきっていない。ヘルパーさんは料理を作り終えると、「お孫さんがいるから」といつもよりも少し早めに帰っていった。 さて、祖母との二人きりのディナーなんていつぶりかしら。 歳のわりには元気な祖母は、アクティブシニアと世間では呼ばれるのだろう。身な
2019年8月1日 19:20
(→第七話)祖母の家「ごめんね。気を遣わせて」 ゴホンゴホン、としょうちゃんの声が電話越し聞こえた。どうやら夏風邪は本当らしい。ひどい鼻声だった。「もう熱は下がったんだけど……ヘックション! ごめんごめん。まだ咳と鼻がでるんだよぉ」 練習が終わり、祖母の家へ向かう道中、圭司は彼に電話をかけたのだ。2コールほどでしょうちゃんは出てくれた。きっとゲームでもしてたのだろう。圭司はどこ
2019年7月12日 21:40
(→第六話)呪い「今日はお祖母ちゃん家に行くよ」 翌朝。運転する順子に、圭司はそう伝えた。「……そう」 バックミラー越しに感じた母の視線を、圭司は代わり映えのしない窓外を見ることで避けた。 結局、昨日はしょうちゃんから連絡が来なかった。お化けの正体を突きとめるための、最後の道しるべ。きっとしょうちゃんも行き止まりにぶち当たったのだろう。 ぼくはころされた――。 お化けが
2019年7月1日 19:17
(→第五話)小さな争い 帰り際に、男性社員が圭司を呼び止めた。「どうして事故物件だと思ったの?」 圭司は喉元まで出掛けた「お化け」のことをグッと堪えて、「夏休みの自由課題」と嘘をついてみた。 男性社員もそれ以上は突っ込まなかった。圭司が何かを隠していることくらい、気づいてるに違いない。だから、「何かあったら連絡して」と最後に名刺を渡してきたのだ。 滝川ホームズ営業部 服
2019年6月21日 20:17
(→第四話)小さな冒険 バスに飛び乗ったところで、圭司は冷房を消したのか不安になってきた。 外は茹だるような暑さだった。陽炎が揺れ、「よくこんな中を走りまわっていたな」と、自分でも不思議に思えた。 目的地へは、バスでおよそ二十分ほどのところだ。さすがに車内は涼しかった。人も少ない。運転手さんの後ろに座るおばあちゃんひとりだけ。圭司は一番後ろに座って、窓の外を眺めた。 田んぼに挟
2019年6月13日 19:02
(→第三話)推理 部活は昼過ぎに終わった。 校門の前で、母の車を圭司はひとりで待っていた。 他のチームメイトたちは「この後どこで遊ぼうか」と、駄弁りながらさっさと帰ってしまっていたのだけれど、タイミングを見計らったようにして、しょうちゃんが声をかけてくれた。「じゃあ……帰ったら調べてみるね」 自分たちの他に誰もいないか確認してから、用心深く言った。真っ白なヘルメットに太陽が反
2019年5月31日 19:57
(→第一話)部活 目が覚めると、圭司はすぐさま昨晩のノートを見直した。 数学の宿題のノート。その隅っこに書かれた一言。――ぼくはころされた 僕は殺された、とつぶやいてみる。それからようやく、圭司はホッと胸を撫で下ろした。いつの間にか書かれていたそれは、また消えてしまうのではないかと、正直ヒヤヒヤしていたのだ。 けれど、確かにそれは見間違いではなかった。 季節は夏の盛り。昨日
2019年5月14日 19:27
はじめまして。にぎた と申します。小説連載を中心に、たまに映画やカルチャーのつぶやきもします。小説第1弾は短編ミステリーの『子鬼のつぶやき』です。毎週更新しますので、よろしければお読みになられてくださいね。――――――――――――――――――――――――――――――――~あらすじ~その言葉の秘密は、決して知られてはいけなかった中学三年生の夏休み。半田圭司は、数学の宿題ノート