Tamula_Rasa

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早川書房に見捨てられた三部作たちについて

 アメリカ人はとにかく三部作 (Trilogy) が好きだ。とくに SF やファンタジーの長編は三部作として計画されているものが非常に多い。売れたから続編を出す、というようなことではなく(そういう場合もないわけではなかろうが)、作家も出版社も三部作として長編を計画する。猫も杓子も三部作で、いまどきの作家のウェブサイトとかみにいくと、既刊一覧のページでは Trilogy では "ない" やつが Stand-alone novel として別に記載されていたりするくらいだ。  こ

    • 写真には写らない

      「中列のメガネの方、ちょっとだけ顎引いてくださーい。光っちゃってるんでー!」  もうすっかり酔いが回っている同窓会の参加者たちが声を揃えて笑った。指摘を受けた子は参ったな、というように頭をかいていた。 「いいですね! みなさんその笑顔をキープで、ここからまばたき禁止でお願いします。はい、じゃあ一枚目撮りますよ……はい、チーズ!」  ストロボが焚かれた。わたしの笑顔はちゃんと笑顔になっていただろうか? 「自己申告します! 俺いままばたきしました!」  サッカー部のキャプテン

      • 『ガラスの宮殿』その他

        山梨正明『小説の描写と技巧』(ひつじ書房)  認知言語学の観点から小説の表現を検討する本。  文体の舵を取るやつではやれ方言を使ってみろだの句読点なしで書いてみろだの形容詞を使わないで書いてみろだのバカバカしいトレーニング課題しかなくて、あんなものをやったところでじゃあ文章力がつくかといわれるとたぶんみんなぜんぜん自信を持てないだろう。そんな中サイズの文体よりさきにもっとミクロな文体でわたしたちは困ってるからである。  たとえば小説の冒頭をどう書き出すか?  さて、この二

        • 『フルメタル・パニック!』その他

          アイラ・M. ラピダス『イスラームの都市社会』(岩波書店)  マムルークって……かっこいいね。よそから奴隷を連れてきて高度な教育を与えてエリートに据えるっていう仕組みってどれくらい頭いいんだろう。世襲されないっていうメリットはあるだろうけど忠誠を誓わせるやりかたが(べつにそれは物でも心でもよいのだが)相当確立されていないと難しいだろうな。  ローマとかヴェネツィアとか、その時代の世界標準からすると圧倒的に栄えていた地域の社会経済史を読むとウオーさすが俺たちの(任意の国家や王朝

        早川書房に見捨てられた三部作たちについて

          『わたしたちの怪獣』その他

          中西鼎『たかが従姉妹との恋。 2』(ガガガ文庫)  キャラが多すぎる!  一巻ですでに年上の従姉妹、同い年の従姉妹の双子、とくに従姉妹というわけではない同級生の女子がヒロイン候補としてでてきたのに、二巻で年下の従姉妹と年下の女子小学生の従姉妹を増やすやつがおるか? しかも年下の従姉妹たち、2 巻ではあんまり話に絡んでこないし……。  キャラやシチュエーションを用意してから継ぎ接ぎして話を作っているようにみえて、物語全体としての結構が整っているようには全く思えない。著者はラノベ

          『わたしたちの怪獣』その他

          文舵一章のこと

          アーシュラ・K. ル=グウィン『文体の舵をとれ』(フィルムアート社)を買いました。  一章からさっそく難しい!  よい文章は、声に出して読まれたときによいひびきやよいリズムを備えている必要がある。まず、よい文章の必要条件が提示されたわけだ。つぎはとうぜん「よいひびき」や「よいリズム」の必要条件か、すくなくとも十分条件が提示されることを期待する。かくして、「生き生き、軽快、すらすら、力強い、美しい」といったリスト形式でよいひびきの十分条件が与えられる。きっとほかにもリストに挙

          文舵一章のこと

          『オレンジ色の世界』その他

          カレン・ラッセル『オレンジ色の世界』(河出書房新社)  「竜巻オークション」のオチの付け方はソーンダーズっぽいというかソーンダーズっぽいひとたちっぽい。というのつまり標準的な(ってなに?)短篇小説っぽいということで、わたしはこういうのが嫌いではない。「ブラック・コルフ」はおもしろかったが「レモン畑の吸血鬼」のほうが覇気を感じた。  収録作はどれも面白かったがどれもメッセージが存在してしまっていて、なんか初期の頃ってもっと意味不明なのに美しくなかった?みたいな不満を抱いてしまう

          『オレンジ色の世界』その他

          『ロジカ・ドラマチカ』その他

          辻真先『深夜の博覧会』(創元推理文庫) 辻真先名義を読むのは初めて。牧薩次は読んだことあるんだけど。 昭和初期を舞台にしたミステリで、まぁ、なんというか、足し算に足し算を重ねて作った感じ。まとまりはないし、大がかりなトリックもそれありきで舞台を作られたんじゃぜんぜん響かない。反戦思想開陳パートもぜんぜん興味がない。少年の淡い初恋みたいなのもややキモだった。じゃあつまんないのかといわれると、読んでる間は無心で読める。でもそれだけだ。 マルカム・ラウリー『火山の下』(白水社)

          『ロジカ・ドラマチカ』その他

          『方舟』その他

          宮部みゆき『ブレイブ・ストーリー』(角川文庫)  小学生のころ読んだやつを再読した。なんでとつぜんそんなことをしたくなったかというと……たぶんダイナゼノンのせい。世界の危機と人生の危機をまったくおなじ重さで扱うこの感覚がなんとなく懐かしくなってしまったのだ。じゃあはてしない物語とかでもよかったんじゃない? まぁそっちもそのうち読み返します。  再読して思ったのはやっぱり現代編が圧倒的に面白いということ。小学生の頃も幻界編のほうはあんまりハマらなかったのだが、読み直してもあんま

          『方舟』その他

          『世界でいちばん透きとおった物語』

          杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』(新潮文庫 NEX) すばらしい! ネタバレ厳禁とか予測不能な衝撃のラストとかしゃらくさい宣伝がされてて編集のセンスを疑ったが、まぁきもちはわからんでもないし、今回ばかりは許したる。 以下はネタバレあり感想へのリンク。 パスワードは「     」に当てはまる五文字です(既読者ならまちがいなくわかるはず) https://301.run/r/do/n54ldX2

          『世界でいちばん透きとおった物語』

          4/28-5/1

          ジョー・ホールドマン『ヘミングウェイごっこ』(ハヤカワ文庫 SF) おもしろかった。劇場版ってかんじだ(?)さいきんはやりだしな、マルチバース。けっきょく帰還兵文学になってしまうのはアメリカ人のかなしき性(さが)というか……。 トマス・H. クック『緋色の記憶』(文春文庫) おもしろかった。さいごに苦い思いをさせるためだけにこの上なく美しい記憶をこれだけ作り込めるのはド変態だと思う。しかしこの小説ってけっきょく一人称だし、主人公はわざわざさいごにサプライズを持ってくるように

          『尾崎翠の詩学』

          山根直子『尾崎翠の詩学』(臨川書店)よんだ ざんねんながらぜんぜんおもしろくない。町子はけっきょく三五郎に恋をせず、浩六に恋をする。三五郎は肉体を有する=恋愛すれば結婚、出産する羽目になる、肉体を持った他者であるが、浩六は町子が恋したときにはもう引っ越ししていたからで、山根によればこれは家父長制の強制する産む性としての女性の社会規範から逸脱せんとしてのことであるらしい。 べつにそういう読みがかんぜんに無意味とはいわないが、ぜんぜんおもしろくない。 そもそも三五郎は金銭感覚

          『尾崎翠の詩学』

          『夢の家』

          魚住陽子『夢の家』(駒草出版)よんだ 「萌木色のノート」がとくによい。終わりに向けて加速していくというか、密度を増し続けていくというか、とにかくこれは短編じゃないとできないことだ。「郭公の家」みたいなくふうのある小説はきらいではないがこの作家には求めていない。 Ageyev は 1-4 まで。 ブルケヴィッツがドイツ語の授業中、先生に当てられて黒板の前に立っているときにくしゃみをしてしまい、それでクラス中から笑われてしまう。それからブルケヴィッツはとつぜんクラス全員と関わり

          『夢の家』

          『錬金術の歴史』

          『錬金術の歴史』よみおわった まぁ……よくかんがえたらべつにこのさき錬金術やる機会ないしな Ageyev の続き。1 章の 3. 主人公も属しているクラスのカースト上位集団の話。馬蹄が湾曲しながらその両端が接するように、あたまいいやつと最底辺が混在するグループだったとか。たぶんどうでもいい節で、さいごにでてきたヴァシリイ・ブルケヴィッツが重要人物。

          『錬金術の歴史』

          4/23

          池上英洋『錬金術の歴史』(創元社)よみはじめる。みなさんご存じみたいなかんじで錬金術は金を作るだけじゃなくて人類を次のステージにみたいなことを言い出すので想定読者のレベルがちょっと高くてややウケ 古本屋でドラキュラ紀元とドラキュラ戦記とドラキュラ崩御を買いました。本屋で尾崎翠の詩学を買いました。火曜日にマケプレでポチった本が届きません。キレそー 髪の毛切りに行ったらいつもとちがうひと出てきてなんか特撮オタクでびっくりしました。電光超人現役世代でいろいろ教えてくれました。

          『方壺園』

          4/21-22 陳舜臣『方壺園』(ちくま文庫) んーおもんな! ジャハーンギール時代の話の「獣心図」だけは設定が面白かったがミステリがぜんぜん楽しめなかった しかもこれ犯人当て企画として出されてフーダニットとハウダニットとホワイダニットぜんぶ当てろって書いてあったらしいがこのホワイダニットを当てるのは無理だろ しかもなんかどの話も似たような造形の人物が出てきて意外と引き出し少ないのか……? みたいなかんじに いまさらよむようなものでもない M. Ageyev "A Roma

          『方壺園』