『オレンジ色の世界』その他

カレン・ラッセル『オレンジ色の世界』(河出書房新社)
 「竜巻オークション」のオチの付け方はソーンダーズっぽいというかソーンダーズっぽいひとたちっぽい。というのつまり標準的な(ってなに?)短篇小説っぽいということで、わたしはこういうのが嫌いではない。「ブラック・コルフ」はおもしろかったが「レモン畑の吸血鬼」のほうが覇気を感じた。
 収録作はどれも面白かったがどれもメッセージが存在してしまっていて、なんか初期の頃ってもっと意味不明なのに美しくなかった?みたいな不満を抱いてしまう。でも読み返したら初期のものもわかりやすかったのかもしれない。

E. C. ベントリー『トレント最後の事件』(創元推理文庫)
 どっかでだれかが『透明な季節』はトレント最後の事件のオマージュっていってたので読んだ。表面的なところから核心までたしかにオマージュされてた。透明な季節の感想で「すべてのネタばらしを手紙の独白でやるんじゃなくて、ハウダニットフーダニットまでは少年ががんばって推理して、ホワイダニットだけ手紙で明らかにするという構成でもよかったのでは?」みたいなのがあってそうだよね~と思っていたのだが、トレント最後の事件のオマージュならそうするわけにはいかなかったわけだ。

中西鼎『たかが従姉妹との恋』(ガガガ文庫)
 文章がうまい、というか、表現がところどころ小気味よすぎる。ストーリーはぜんぜんまだ評価できる段階にない。しかしこれはまったくすっからかんなプロットに妙に熟れた表現が用いられているからなんか面白いだけで、ちゃんと目鼻立ちの整った物語にこういう文体や表現が用いられていたらなんかふつうにあーよくできた小説だねということでなにも特筆しなかったのではないか、というきもする。でも「直射日光みたいに俺の瞳を見る」とか「チョークみたいに細い指」とか奇抜でもないが陳腐でもない、かなりありがたみのある優等生的な直喩が妙に心地よい。センスのよさはことばで説明できない。

有栖川有栖『江神二郞の洞察』
 どれも大したネタではないがきちんと小説になっていて、大したネタを使わないでいてくれてありがとうという気持ちに。ていうか大半日常の謎だ。「名探偵は、屍肉喰らいではない」はいいね。なんかで引用したくなるくらいいい。「除夜を歩く」でこれまでの収録作振り返りみたいなのをやるのは東京創元しぐさで非常にムカついたけどポオ論議は面白い。たしかに「昭」って漢字は「昭和」以外で使ったことない。後期クイーン問題もいまさらひとの興味を引くような問題ではないけど、それを「京都の道は碁盤の目や。なんぼでもルートはある」とさっぱりオトしてしまうのはかっこいい。



 とにかく雨がすごい。雨が降ってるとなんだか落ち着くというのは月並みだがかなりよくわかる話だ。なのでよく集中専用 BGM みたいなので雨音とかが用意されている。ところが、あれを聴いてもぜんぜん心地よくならない。というのも、雨音が心地よいのはそれが屋根を叩いたりベランダで跳ねたり雨樋を伝って落ちたり木々に吸われたり排水溝に流れ込んだりそういう音の総体だからなのであって、ザーザーいうノイズがなんらかの数学的にシンプルな形で表せるからではない。世界が存在して、人間にとってはどうでもいいようなところまで演算がしっかり行われていて、その結果雨音が周囲数キロメートルにわたって存在するのがよいのであって、耳元数センチのところから 1/f ゆらぎが聴こえたところでなんの意味もない。