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2021年8月の記事一覧

どもるぼくと、時々どもる川(ぼくは川のように話す/ジョーダン・スコット,シドニー・スミス)

どもるぼくと、時々どもる川(ぼくは川のように話す/ジョーダン・スコット,シドニー・スミス)

朝、目をさますと、
口のなかにはもう、
そんなやっかいな音が
つまっている。

――本文より引用

「その話し方って、わざと?」

と、言われたことがある。

「なんだか、甘えた感じの話し方ですね」

とも、言われたことがある。

自覚はない。ぼくは、ただ普通に話しているだけだ。それなのに、言いがかりをつける人がいる。しかも、一人や二人じゃなくて。

ぼくは、親しい人であればあるほど、滑舌がゆるく

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どこから行っても「近い」町(猫町/萩原朔太郎)

どこから行っても「近い」町(猫町/萩原朔太郎)

何処へ行って見ても、同じような人間ばかり住んでおり、同じような村や町やで、同じような単調な生活を繰り返している。

――p9より引用

『猫町』は、小説である。という事実に、少なからず違和感を覚えた。

語り手である「私」は、朔太郎本人でも(おそらく)差し支えなく、『猫町』は、一見かわいらしい名前でありながら、結局のところは、「私」が「私」を通して見えた世界なのである。

「私」が語るところによれ

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夜を纏う、“寂しさ”と生きる――『小さな灯りと鉛筆で描いた線と』に寄せて

夜を纏う、“寂しさ”と生きる――『小さな灯りと鉛筆で描いた線と』に寄せて

どこへも行けない“寂しさ”がある。それは、剥がそうとしても、振りほどこうとしても、付いて離れない。途方もない諦念と共に、肩の上にのしかかる。呼吸もままならない。“寂しさ”は、別の“寂しさ”を吸い込んで、さらに重くなる。どうしようもない。

膨れた“寂しさ”は、暗闇だ。目が慣れることはない。自分の姿もろくに見えない。恐れを遠ざけるには、目を閉じること。なにも見えない。なにも聞こえない。“寂しさ”は、

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締め付けられる痛みに、(智恵子抄/高村 光太郎)

締め付けられる痛みに、(智恵子抄/高村 光太郎)

いやなんです
あなたのいつてしまふのが――

――『人に』より引用

指先が火照る。その内、火が灯る。のは、見間違いにしても。熱は脈打ち、血液を血管を支配する。この熱は、どこへ行くのだろう。心臓へ戻るのか。熱なので、冷めてしまうのか。

すると、火照った指先が花開いた。白詰草のようにしたたかで、しおらしい花。すぐに、しおれてしまうけど。その儚さを、いとおしく思った。

阿多多羅山の山の上に
毎日出

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