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第28回 クリード 炎の宿敵 (2018 米)

 「火曜はロッキー」と銘打って続けてきたシリーズも、今回の『クリード 炎の宿敵』で一応ひと段落という事になります。思えば今まで公開したレビューの1/3近くはロッキーシリーズなのですから、我ながらなんと汗と精液とステロイドにまみれたnoteなのかと驚くばかりです。

 自分の力でついにチャンピオンになったアドニスの元に現れたのは『ロッキー4』で父を殺したドラゴと息子のヴィクターでした。敵討ちをしたいアポロサイド、名誉を取り戻したいドラゴサイド、親子二代の因縁を清算する熱い映画です。

 もはやレーガンに忖度する必要もありませんので、ドラゴサイドが一方的に悪者にならない作りになっています。今までにもまして筋肉モリモリですが思ったよりも深い内容になっています。勿論BL的にも

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真面目に解説

第三次世界大戦だ

 映画は何処で始まるか?キエフだ。軍隊で、筋肉モリモリマッチョマンになったドルフ・ラングレン演じるドラゴもっと筋肉モリモリマッチョマンな息子のヴィクター(フロリアン・ムンテアヌ)のアパートで、ここに住んでる。

 ロッキーに負けたことで国家の英雄としての地位を失い、奥さんのルミドラ(シュワちゃんの元カノのブリジット・ニールセン)に逃げられたドラゴは、ヴィクターと港湾労働者組合のモンとして働きつつ、ヴィクターをボクサーとして育てています。

 この設定は明らかに作った人は狙っています。しかし、私の組合員としての未熟さが露呈するのが嫌なのでシュワちゃんネタは以後封印します。

 ヴィクターを演じるフロリアン・ムンテアヌも例にもよって本物のボクサーです。最近試合をしている気配がありませんが、68勝10敗という凄い経歴の持ち主です。

 ボクシングは誰に勝ったかが重要なので単純な数字はあてにならないところがあります。ミッキー・ロークだって数字の上では6勝2引分のプロボクサーですが、同じような成績で真面目に取り組んでいるボクサーと比べたらそのボクサーは怒ります。

 ですが78戦こなしているというのは勝ち負けがどうあれ凄い事です。通算40試合をこなすボクサーは稀です。190センチを超える巨体もそうですが、この根性をスタローンは気に入ったのでしょう。

足に来る

 一方アドニスはコンランとの敗戦以来一回り成長して6連勝を記録し、前作で車を賭けて負けた因縁のウィーラー(アンドレ・ウォード)とのヘビー級タイトルマッチに挑みます。

 『クリード チャンプを継ぐ者』でも紹介した通り、ウォードは世界チャンピオンになりましたが、公開当時にはもう引退していたので出てくれたのでしょう。気前のいいひとです。

 ビアンカにトイレの心配をされ、ロッキーにリングに上がる階段について妙に深い説教を頂戴し、アドニスはウィーラーに押し気味に試合を進めます。ウィーラーはもう衰えているのです。引退したから当然です。

 アドニスは見事にウィーラーをKOし、「車のキーを返せ」と吠えまくります。ベルトより車です。そしてベルトよりビアンカなのです。そしてビアンカよりオジキです。

 とはいえアドニスはボクシングは強いのに女には弱いので、試合後にビアンカに指輪をプレゼントしてプロポーズしようとしますが、どうしたらいいのか分からずオジキに泣きつきます。そしてロッキーはエイドリアンとの動物園プロポーズの思い出を披露してくれますが、あまり役に立ちません。

 結局頭のスイッチを切って心に喋らせろという分かったような分からないようなアドバイスが採用され、ひざまづいて「結婚してくれ」という古風なプロポーズをしますが、ビアンカはちゃんと聞いていませんでした。

 これが深夜アニメなら鈍感な主人公がヒロインに殴られてお終いですが、ビアンカは本当に難聴ですし、アドニスが殴ったら多分死ぬので、ちゃんと言い直してビアンカは承諾し、ロッキーシリーズには誰も求めていない濡れ場に突入するのです。

野良犬

 いちゃつく二人をよそにヴィクターは港湾労働者の仕事の最中です。肉体労働は体力を活かせるしトレーニングにもなるとお思いの方も多いでしょうが、トレーニングとしては調整が効かない上、怪我や疲れが試合に障る危険もあるので格闘家は意外と肉体労働をやりません。引退後にやる人は多いですが。

 ベガスでタイトルマッチのアドニスに対し、ヴィクターは相変わらず地元の小さな体育館で試合をしています。勿論ドラゴの息子なので無茶苦茶強いのですが、これではお金になりません。

 一方チャンピオン夫婦はロスへの移住を画策しています。ビアンカがもっと大きな仕事がしたいからです。しかし、アドニスはオジキが気がかりです。久しくカナダへ逃げたジュニアとも会っておらず、エイドリアンとポーリーの墓参りしか楽しみの無い寂しい日々です。

 そこへなんとドラゴ親子がフィラデルフィアに現れます。美術館ではしゃぐ観光客を見て、いまだ英雄視されているロッキーに思いをはせる二人。

 アドニス達は取り返したマスタングで前作にも出てきたステーキサンドの店で祝杯です。なんとマスタングはアポロの形見であったことが語られます。そんな大事な物を賭けるなという話です。

 ロッキーが自分の店に行くと、オジン趣味が大喜びする渋いオッサンとなったドラゴが待っています。親子はアドニスに挑戦に来たのです。アドニスはテレビで記者会見をする親子を見て複雑な表情です。ビアンカは色々と察して乗ってはいけないと警告します。

 一方ドラゴは負けたせいで何もかも失ったとロッキーに恨み言を言い、「ウクライナの野良犬は餌にもありつけず唾を吐きかけられる」と何か凄い事を言って挑発しますが、ロッキーも挑発に乗って2回も痛い目に遭っているので「こっちじゃ野良犬は追い払うんだ」と相手にしません。

血は争えない

 しかしアドニスはアポロの息子なので、ファイティングスピリットが有り余っています。プロモーターのマーセル(ラッセル・ホーンズビー)にそそのかされるとすっかりその気になってしまいます。

 ロッキーに挑戦を受けたいと語りますが、ロッキーはアドニスの危険を鑑み、アポロのトラウマもあるので止めます。

 痴話喧嘩の末に二人は決別し、アドニスはロッキー抜きで戦うことを決めます。決めといてロッキーに未練たらたらです。世界チャンピオンにあるまじきメンタルの弱さです。

 そしてビアンカに八つ当たりしちゃいます。明らかに『ロッキー4』の時の父親と同じ道を歩いています。

 そして当てつけのような形で夫婦でロスに移住してしまいます。メアリーは息子が手元に戻ってきて嬉しそうで、嫁姑の仲も問題なそうです。そしてビアンカが二人の知らぬ間に妊娠しているのを見抜きます。

 文字通り自分で蒔いた種に苦悩する若夫婦。アドニスは命がけの試合を控えていますし、ビアンカもこれからミュージシャンとしてステップアップしていく途上にあります。メアリーはひたすら嬉しそうです。

 しかし、メアリーはアドニスの試合については最初から諦めムードです。男同士の決め事に女が口を挟んでも仕方ないというマンコントロールの原則を身をもって知っているのがメアリーです。

 母親にも思ったほど構ってもらえないので産まれてくる子供に癒しを求めるアドニス。しかし、ビアンカは自分の難聴が遺伝しないか心配しています。

二代目コンビ誕生

 オジキが居なくなったので、アドニスはリトルデュークを頼ることにしました。自分の育てたウィーラーを完全にKOされて気まずいうえ、ヴィクターのパワーと根性を危険視しています。デュークの息子なので見る目は確かです。

 アドニスはアポロの為に戦おうと浪花節に訴える戦術で見事リトルデュークを口説き落とし、前哨戦のトレーニング合戦に突入です。

 ヴィクターはヒクソン・グレイシーがよくやっていた縄を振り回すトレーニングをしたり、ウェイトボール(よく腹筋にぶつけているあれ)をサンドバッグに投げつけたりと見るからにしんどそうなトレーニングでインパクトを残します。

 一方アドニスは『ロッキー3』をオマージュしてかプールを活用し、水中でシャドーボクシングしたりして対抗します。ロッキーは居ませんが、リトルでデュークの元でスピード勝負宣言です。

 そして試合前日の計量ではお約束のにらみ合いです。これが無きゃボクシングじゃありません。そしてドラゴに「親父よりチビだ」と挑発されてブチ切れて小突き合った挙句「ファザコン野郎」と決め台詞です。ヴィクターもアドニスにだけは言われたくないと思います。こっちは父親二人体制ですから。

 ドラゴ親子は30年経ってもアメリカでは嫌われ者です。明らかなアウェームードにも全く動じないのは親父譲りです。

 『ロッキー5』よろしくフィラデルフィアの店でなんだかんだ応援しちゃうロッキー。しかし、アドニスはオジキロスでメンタルが弱っているので押され気味です。リトルデュークに教わったスピードとテクニックを全く活かしきれないアドニス。

 一方ヴィクターはドラゴがアドニスがまだ立って居るのが何故だ?とスパルタな発破をかける余裕があります。2Rでついにダウンしてしまうアドニス。何とか起きますが今度はあばら骨を折られて再びダウンしてフラフラです。

 リトルデュークは棄権を勧めますが、メンタルが弱っていてもアポロの息子なので断固拒否です。一方ドラゴは「そんな事だからあの女に捨てられた」とルミドラに未練を見せつつヴィクターを叱ります。ロッキーはこりゃ駄目だと心配そうです。

 3R開始早々アドニスはダウンしますが、そこをさらにヴィクターに殴られ、試合はヴィクターの反則負けで幕を閉じます。しかし、サンダーリップの業界ではこの手の反則勝ちは実質負けです。

メンタル勝負


 みっともない形ながらもベルトはどうにか守りましたが、アドニスは入院して虫の息です。ロッキーは居ても立ってもいられず見舞いに来てくれました。

 物凄いガッツだったと取って付けたような言葉でロッキーは励ましますが、アドニスはいじけ切っていて恨み言を言うばかりです。挙句悔しくてアドニスは泣いちゃいます。体格ではなくメンタルで負けたのは明白です。

 どうにか退院を迎えますがアドニスは杖を突かなきゃ歩けないほどボロボロです。メンタルはもっとボロボロで凶暴化し、ビアンカはメアリーに助けを求めます。

 そんなビアンカにメアリーは支えてやれの一点張りです。そう、メアリーも同じ経験をしているのです。かくしてボクサーの妻の心得は伝承されていくのです。そして生まれてくる子供に癒しを求めてどうにか繋ぐアドニス

 一方ヴィクターは再起戦を圧勝してインタビューで再戦を要求して挑発します。そして領事館にお呼ばれされ、偉い人からロシア国旗のあしらわれたトランクスを贈られて激励されます。

 使い捨てされた悲惨な過去を忘れたのかドラゴはご機嫌ですが、ヴィクターは不機嫌です。なんとルミドラは偉い人と結婚していて、ヴィクターに「自慢の息子ね」などと言っちゃうのです。

 怒って退席したヴィクターをドラゴは「将来の為だ」と叱りますが、ヴィクターは「あいつらは父さんを捨てた」「あんな女は赤の他人だ」と至極尤もな理由でブチ切れます。

 あんな嫌な女を演じきれるブリジット・ニールセンは見事です。そして出演させちゃうスタローンのお人好しぶりにも驚きです。もっと驚きなのは、この時ニールセンは50過ぎというのに妊娠していたことです。

 かくして、二人の勝負はネガティブな方向のメンタル勝負へと突入するのです。

赤コーナーの憂鬱

 ここでメアリーがボクサーの妻としてナイスアシストです。孫のエコー写真にメッセージを書いて送り付け、ロッキーを呼び寄せてくれました。

 アポロの遺した大量のトロフィーを前に「お前もこうなれる」とロッキーは励まし、自分は孫にまだ会った事がない事を後悔している事から入ってカムバックを促します。

 アドニスはチャンピオンの重圧と父親になる不安もあってメンタルが弱り切っていますが、それだけにオジキの言葉を素直に聞き、ガタイの大きな相手には根性だというロッキーの経験則に基づいた提案を聞き、二人はよりを戻します。

 久しぶりに二人がいちゃいちゃしていると、メアリーから子供が生まれるという連絡が来ます。大慌てで病院へ向かう二人。ロッキーも大概メンタルが弱っているので、ジュニアに電話しようとはしますが踏ん切りが付きません。

 そうこうしている内に娘のアマーラが目出度く誕生します。アドニスは「名付け親はオジキって事で」とビアンカに相談もなく宣言してウキウキです。

 しかし、心配なのは難聴の遺伝です。検査の結果はどうも思わしくありません。再検査になりますが夫婦は心配で一杯です。ロッキーは障害なんて気にするなとポジティブです。

結局根性

 どこから聞きつけたのか、家に帰るとマーセルのお祝いが届いています。微妙にうれしくないお祝いの一方で、アマーラは激しく夜泣きします。

 策に窮したアドニスはアマーラをジムに連れていき、泣き喚きながらサンドバッグを打つという奇策でアマーラを泣き止ませるのに成功します。「この子はファイターだ」と微妙にズレた見解を述べるアドニス。

 再戦を決意するアドニス。当然ビアンカは止めますが、彼女もマンコントロールの原則をメアリーから学んだのか「負けたら許さない」と折れちゃいます。

 むしろ弱腰なのがロッキーです。しかもヴィクターはロシアでしか対戦しないと逆に条件を付き付けてきます。ボクシングではこういう場合判定になると絶対に負けます。KOしか勝ちはないのです。

お前は虎の眼になれ

 ロッキーはアドニスを荒野へと連れ出します。言った先には謎の荒んだ露天のジムが。ロッキー曰く「ファイターの虎の穴」だそうです。サンダーリップにでも教わったのでしょうか。成程梶原一騎テイストにあふれています。

 ヴィクターが体育館を借り切って割とオーソドックスなトレーニングに励む一方、アドニスは地面をハンマーで叩いて穴を掘りまくったり、タイヤを重ねたサンドバッグを叩いたり、首に重りをぶら下げて鍛えたり、懸垂しながら腹にウェイトボールをぶつけられたりとこれぞロッキーなトレーニングに励みます。

 挙句の果てにはリングにタイヤを置き、スパーリングパートナー共々片足をタイヤに突っ込んで接近戦の特訓です。変な癖が付いて逆効果になる気がしてなりません。一方ヴィクターはドラゴ自ら防具を付けてスパーリングパートナーを買って出て元気一杯です。

 アドニスはメンタルは回復しましたが身体の方が壊れていき、氷風呂に入ったりビアンカとスマホでテレビ電話したりでどうにか持ち堪え、ドラム缶に火を焚いてその前でシャドーボクシングをしたり、鎖でタイヤを引っ張たりとますますロッキー成分を強化し、もりもりと強くなります。

ロシアでは王者が挑戦者の元へ行く!

 すっかりムキムキに仕上がったアドニスはロッキーと一緒にモスクワに乗り込みます。前評判はドラゴの圧倒的有利だそうです。

 東側特有の無駄に大きなスタジアムに大歓声の元入場するドラゴ親子。勿論ルミドラも偉い人と一緒に観戦です。

 一方アドニスはアナーキーな歌詞の歌を歌うビアンカの先導で入場して対抗です。今日はメアリーも来ています。そしていつものメンバーの放送席はロッキーが居るから大丈夫だろうと相変わらずロッキー信仰です。

 偉い人から貰ったトランクスを履いたヴィクターはパワー全開ですが、アドニスは明らかに動きが良くなっています。接近戦にも怯みません。ロッキーパワーは明白です。ヴィクターはドラゴと同じ動きをするはずとアドバイスもくれます

 しかし体格差があるので先にダウンを奪ったのはヴィクターでした。しかしロッキーが付いているのでアドニスは根性を見せます。

 ロッキーはポジティブですが、ドラゴはネガティブです。ヴィクターをひたすら叱ります。そしてヴィクターは相変わらずゴングを聞きません。間違いなくドラゴの息子です。

 ヴィクターはどんな相手もさっさと片付けてきたので長丁場の経験が無く、ラウンドを追うごとに劣勢になります。反則すれすれの攻撃でアドニスのあばらをもう一回折って抵抗しますが、アドニスはもはや実質ロッキーなので屈してくれません。

 アドニスはファイナルラウンドでついにとどめを刺されかけますが、実質ロッキーな上ビアンカとメアリーが見ているので無駄に元気一杯に立ち上がってヴィクターをびびらせます。

親らしさ

 そして逆にヴィクターをダウンさせ、例にもよって封印されていたロッキーのテーマが鳴ります。こうなるともう手のつけようがありません。

 ヴィクターも根性を見せて一回は起き上がりましたが、もう一回ダウンしてしまい。ルミドラは見切りをつけて帰ってしまいます。こんな最低な女に執着するドラゴの気持ちが理解できません。息子さえエクスペンダブルするなんて。

 ヴィクターはどうにか起き上がりますが、コーナーに追い詰められて虫の息です。見かねたドラゴはタオルを投げます。それでも戦おうとするヴィクターを労い「もういいんだ」と優しい言葉をかけるドラゴ。

 アポロを殴り殺してにやついていたというのに、地獄を見てドラゴも変わったのです。泣き崩れるヴィクターを誰が責められましょうか。いや、ルミドラは平気で責めるでしょうね。

 一方アドニスはビアンカとひとしきりいちゃつき、アポロに「お前の時代だ」と嬉しい言葉をかけてもらいます。

 アドニスはアポロの墓参りをして、孫をお披露目します。一方ロッキーはカナダのジュニアに会いに行き、孫のローガンと初の対面を果たします。ドラゴ親子は再起を期してロードワークです。

 ちなみに今作には未公開シーンがあり、ドラゴが試合後にアドニスとロッキーに謝るそうです。レーガンと違ってトランプはロシアとズブズブなので、ドラゴサイドもちゃんとフォローが入るのがこの映画の良いところです。

BL的に解説

アドニス×

 このロッキー総受けを前提とした掛け算も今日限りと思うと少し寂しくなります。

 ドニ―とロッキーとの仲はもはや後戻りできないズボズボの状態になっています。ドニーもロッキーもお互いにアポロの面影を見ているのです。爛れ切っています。

 ドニーはヴィクターとの試合を最初からやる気満々で、オジキも協力してくれると固く信じていたのです。アポロが生きていたなら承知しただろうとはメアリーの弁ですが、ドニーはオジキにアポロを見ているので当然承知すると思うわけです。

 一方ロッキーの方はドニーにアポロを見ています。ここに尊い歪みが生じます。アポロは自分のせいでドラゴに殺されたと信じているロッキーです。もう一回殺されてはたまりません。

 ドニーは「好き勝手言われて黙ってられるか」と血気盛んですが、ロッキーは「親父さんも同じことを言って俺の腕の中で死んじまったんだ」と何気に凄い事を言います。

 俺の腕の中で?その通りでしたが普通言いますか?ところが二人の仲は普通じゃないのです。「お袋さんがどんなに悲しむか」と尤もらしい事をロッキーは言いますが、メアリーはコンドームでしかないのは明白です。

 予想に反して承知してくれないオジキにドニーは怒ります。ロッキーは「ずっとは一緒にいてやれない」とドニー愛に溢れたことを言いますが、ドニーは「側に居てやってるのは俺の方だ」と愛の重さを競うシーソーゲームをおっ始めます。

 アポロは言い出すと聞かないのを知っているのでロッキーは諦めて一人でやれと身を引きます。するとドニーは「俺を見捨てるのか」と面倒臭可愛いことを言います。挙句「タオルを投げる心配もなくなるな」ととんでもない事を言います。命よりオジキなのです。

 そしてビアンカに「ロッキーがガンになった時だって付いて居てやったんだ」とドラゴの正拳突きより重い愛を語って八つ当たりです。もはやビアンカもコンドームです。

 当てつけがましくロスへ飛んだドニーはこれまた当てつけがましく昔の男であるリトルデュークと組んでヴィクターに挑みますが、最愛のオジキを失った傷心状態で勝てるはずもなく、ボロボロにされて限りなく負けに近い反則勝ちの屈辱を味わいます。

 遠路はるばる見舞いに来たロッキーはビアンカに「俺が付いていればこんな事には」とドニーの敗因を完璧に見抜いています。

 そんなオジキにドニーは当たり散らします。「今更トレーナーぶって」と依存心丸出しです。

 オジキに育ててもらったのにみっともない姿を見せてしまったという負い目がドニーにはあったはずです。これは『ベン・ハー』のメッサラと同じメンタリティです。ヤンホモは2000年の時をも超えるのです。

 ビアンカは「ロッキーはあなたを愛してるのよ」と自分からコンドームになりに行きつつ「私が付いてる」と上手い事巻き返しを図ります。BL的にはコンドームでもボクサーの妻としては100点満点です。負けた時にこそボクサーには寄り添ってくれる人が必要なのです。

 しかし、ビアンカの愛もオジキロスの前には力不足で、ドニーは半分錯乱状態です。そんな姿を見て、メアリーが機転を利かせて心のリハビリの為にロッキーを呼び寄せます。

 実家に呼び寄せられたアドニス。行ってみるとそこにはロッキーが。これで二人が濃厚なキスをかまして物陰でビアンカが見ていれば悲劇が起きますが、二人の仲はビアンカ公認なので安心です。

 目論見通りドニーはたちまちオジキ愛でメンタルを回復させます。そして娘の誕生で完全にドニーは立ち直ります。ロッキーとしてはメアリーは俺のアポロの奥さんなので深く信頼していたのが伺えます。

 そしてロッキーは再戦を期するドニーを虎の穴に連れていきます。足に来るビアンカは居ません。俺のドニーを独り占めしつつ管理し、強化できる一石三鳥の妙案です。

 そしドニーはオジキが乗り移ったとしか思えない根性でヴィクターを追い詰め、真の王者となるのです。二人で勝ち取ったチャンピオンベルトも、二人の愛の前には単なるコスプレの道具でしかないのです。

ドラゴ×ヴィクター

 よく考えたら近親モノはこのnoteで初ですね。しかし、タブーなき映画レビューですから気にせず行きましょう。

 ドラゴはルミドラにエクスペンダブルされたにも関わらず、未だルミドラに病的な未練を残しています。これはBL的には大変な事です。

 シングルマザー、シングルファザーが段々子供が別れた相手に似てくる事への複雑な感情はよく聞く話です。そう、ドラゴは折に触れてヴィクターにルミドラを見てしまうのです。行き着く先は夜のタイトルマッチです。

 そしてドラゴはヴィクターを完璧なボクサーに育てる事に全てを賭けています。「俺の息子はこいつ(拳)の使い方しか知らない」とロッキーに自信満々で息子自慢です。

 ヴィクターはボクシングしか知らないのです。つまり、足に来る女も知らないのです。そして足に来ないホモセックスはボクシングの一部である事はこのnote的には基本です。

 一方ヴィクターもアドニス同様重度のファザコンです。偉い人に招待されても露骨に不機嫌です。当然処世術も知らないので、大好きな父さんを捨てた共産党はヴィクターにとって許しがたい敵なのです。ツァーリと謁見したら殴り殺しそうな勢いです。もっともあの人はKGB仕込みの殺人術で抵抗するでしょうが。

 その上ルミドラです。よくぞ「自慢の息子」などと言えたものです。党以上の許せない敵です。父さんを捨てた女です。そしてルミドラが居る限り自分は父さんの一番にはなれないのです。ドラゴは名誉とルミドラを取り戻すために自分を仕込んだのですから。

 ルミドラはあの場で殴り殺されても文句は言えないところですが、ヴィクターはそうはしませんでした。父さんが悲しむからです。殺しても飽き足りない不倶戴天の敵が父さんの最愛の人なのです。そりゃあヴィクターも歪みます。

 モスクワでもヴィクターは父さんの為に果敢に戦いました。しかし、ルミドラが去った時、ドラゴはヴィクターの方が自分を愛してくれていることにようやく気付いたのです。

 そしてドラゴが取った選択は愛する息子の為にタオルを投げる事でした。それでもヴィクターは父さんの為に戦おうとするのです。そんな最愛の息子を優しく抱きしめるドラゴ。泣き崩れるヴィクター。なんと美しい愛でしょうか?

 そして二人は再び二人三脚で出直します。今度はお互いの名誉だけの為に。ルミドラなど使用済みのコンドームに付いた毛でしかありません。

 ちなみに、ムンテアヌのインスタグラムにはラングレンと無茶苦茶にこやかにいちゃつく姿が確認できます。二人はあんな風に再び王座への道を進むのです。

アドニス×ヴィクター(リバ可)

 よくよく考えて見て下さい。お互いの父親に遺恨はあっても、本来二人の間に直接の遺恨は何もないのです。

 2度にわたる激闘で愛が芽生える。それは父親世代で証明されたことであり何ら驚く事ではありません。

 続編が決まっているので、今作で大きく株を上げたドラゴ親子がクローズアップされるのは十二分にあり得る話です。そうなるともうBL的には最高の流れです。ドニエプルの流れが変えられたとしても二人の愛の流れは変えることができません。

 ベルトを確固たるものにしたアドニスとは言え、親父やオジキがそうだったように、いつか王座を追われる時が来ます。その時ヴィクターが現れ、再起の為にキエフの港を走り、ロシア国旗のあしらわれたトランクスを授ける。

 逆パターンだって十分あり得ます。ヴィクターが再起の為にアドニスとロスの海岸を走って星条旗トランクスを貰ったっていいのです。歴史は繰り返す。評論家筋がこのオマージュにメロメロになるのは目に見えています。

 そしてアドニスはWBCの世界王者です。世界チャンピオンを認定する団体はWBC、WBA、WBO、IBFと4つあるので、二人同時に世界チャンピオンになる事も可能です。なんなら統一戦でもう一回戦って更に深みにはまるのも一興でしょう。いずれにしても続編が楽しみでなりません。


ドラゴ×
 息子世代が引っ付いた場合、ロッキーとドラゴはエクスペンダブルされてしまいます。これはもう余り者同士でで引っ付くしかありません。そもそもバーニーとガンナーは一回くらいヤッてるはずです。

 そもそもドラゴは最初からヤンホモ全開です。ロッキーに惚れているのは明白です。店に来て「俺の写真がない」と悔しそうです。

 恨み言を散々言うドラゴにロッキーは「あの試合は大昔」とつれない態度ですが、ドラゴは「俺には昨日だ」と恐ろしく重い事を言います。英雄のドラゴはあの日死んだのです。ドラゴにとってあの日から時間は止まったままなのです。

 ウクライナの野良犬が英雄に戻るにはロッキーを屈服させるしかないのです。そして追い払われた野良犬ドラゴは、入り口の目立つところに飾られたアポロの写真を指さして「いい写真だ」と言い残して去っていきます。明らかに嫉妬してます。

 そしてモスクワでの試合を前にしてロッキーとドラゴは再びリングで相まみえます。今にもタッグマッチに雪崩れ込みそうな勢いです。

 しかし、未公開シーンではドラゴはアポロを殺した後悔から謝りに来ます。こうなればお人好しのロッキーですから心を許してしまいます。

 とにかく次作でドラゴ親子が掘り下げられるとしたら、この二人が濃厚なBLを展開するのは必定です。夜のドッグファイトです。その時を楽しみしつつ、このシリーズの幕を下ろさせていただきます。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します。

『ロッキー』(1976 米)
『ロッキー2』(1979 米)
『ロッキー3』(1983 米)
『ロッキー4/炎の友情』(1985 米)
『ロッキー5/最後のドラマ』(1990 米)
『ロッキー・ザ・ファイナル』(2006 米)
『クリード チャンプを継ぐ男』(2015 米)

『レイジング・ブル』(1980 米)(★★★★★)(上品なボクシング映画)
『リベンジ・マッチ』(2013 米)(★★★★)(そして悪魔合体)
『ランボー』(1982 米)(★★★★★)(根暗な側面の出たスタローン)
『エクスペンダブルズ』(2010 米)(★★★★)(ロッキーにヤンホモのドラゴ)
『ベスト・キッド』(1984 米)(★★★★)(空手バージョン)

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 東京の野良犬はいくらなんでも嫌です。


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