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第12回 実録外伝 大阪電撃作戦 (1976 東映)

 ヤクザ映画は大鉱脈と言って任侠映画を紹介したのに、実録映画についてここまで紹介しなかったのはあるいは手落ちかもしれません。

 良い機会ですのでここ急遽順番を繰り上げて紹介いたしましょう。東映実録路線の中でも最も過激でホモ臭い一本『実録外伝 大阪電撃作戦』です。

 舞台はヤクザが群雄割拠していた60年代の大阪。大阪の支配を狙う神戸の大組織の脅威にさらされる中、松方弘樹演じる安田渡瀬恒彦演じる高山は組が違いながらもホモレベルの絆で結ばれ、神戸の侵攻を阻止しようと目論むが、上手く行かず大阪は神戸に飲み込まれていくといった話です。

 筋は説明するのが面倒なほど複雑ですが、何も心配いりません。そこにあるのはひたすら暴力とホモばかりです。差し当たってピラニア軍団の顔が識別できれば後は何もいりません。

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真面目に解説

実録映画というジャンル

 ヤクザ映画は任侠実録に大別されると『日本侠客伝』で説明しましたが、今作は典型的な実録映画です。

 実録とは書いてその名の通り、実際に起こったヤクザの抗争事件を元に作られた映画です。概ねヤクザマニアならモデルが一発でわかる作りになっています。

 今作は山口組が大阪に勢力を拡大するきっかけになった明友会事件が元になっています。実際の抗争事件がモデルというのは大きな興味を呼び、任侠映画が飽きられる中で実録映画は東映の看板となっていきます。

 しかし、実録映画は長続きしませんでした。というのも、映画になるような抗争は滅多に起きないからです。この明友会事件も『京阪神殺しの軍団』『日本の首領』三回も映画化されました。作中のエピソードとして挿入された回数はもっとです。

 そして、本物が口出しをしてくるというのも大きな問題でした。細部のディティールを詰めるのには本物の助言は大いに助かった一方で、忖度が横行しました。

 当時の興行はヤクザに世話をしてもらわなければ成立しませんでしたし、映画館もヤクザが自ら経営しているところも少なくなくありませんでした。また、当時のスターはどんなに音痴でも一枚はレコードを出しましたが、これは映画の合間に各地の親分の興行に出演するためでもあります。

 単純にモデルのOKが出ずに没になった企画も沢山ありました。その一方でヤクザ社会はどんどん山口組が統一していってしまうので、ネタがたちまち枯渇し、70年代のうちに実録映画は廃れてしまいます。

ヤクザ情勢は複雑怪奇

 実話が元になっているだけに、押し並べて実録映画は筋が難解です。ちょっと気を抜くと話が分からなくなります。

 しかし、ヤクザ映画初心者の皆様にご安心いただきたいのは、分からないなら分からないでいいという事です。そもそも当時の人達もどれほど理解して見ていたか甚だ疑問です。

 ヤクザがホモホモして喧嘩して最後は全員死ぬか刑務所。その程度の認識で最初は大丈夫です。何本も観ていればおのずとヤクザの行動原理やルールがわかるようになります。そうなってから筋について考えても何も問題はありません。

 スターたちがホモホモし、ピラニア軍団が無残に殺され、女優がおっぱいを出す。実録映画の中身は突き詰めればそれだけです。筋などコンドームの厚い薄い程の意味しか持ちません。

在日コリアンとヤクザ

 ヤクザには大きく分けて四種類あります。博徒、的屋、愚連隊、その他です。それぞれ商売や成り立ちが違います。今となっては全部いけない薬屋さんでありますが。

 即ち博打を仕切って寺銭を得るのが博徒、闇市や露店を仕切っているのがテキヤ、チンピラの集まりが愚連隊、建設業や炭鉱、港湾労働、火消しといった荒っぽい仕事で自然発生したのがその他です。

 今作で言うと明友会をモデルとした双竜会や、柳川組をモデルとした大東組は愚連隊、山口組をモデルとした神戸川田組は神戸港の港湾労働の仕切りから始まったその他です。

 ヤクザも種類によって微妙に毛色が異なります。愚連隊の特徴は凶暴で在日コリアンが多いことです。

 愚連隊自体は戦前から居ましたが、特に戦後の混乱の中で生まれた愚連隊はこの傾向が顕著でした。無法地帯では手段を選べません。また、戦前抑圧されていた反動で在日コリアンは大暴れしていました。

 また、そういう出自の人間を受け入れてくれるのがヤクザだけであったという悲しい事情もあります。日本人のヤクザも所謂被差別部落の出身者が多いことが知られています。

 双竜会の組員たちは多くが朝鮮風の役名が付いており、在日コリアンであることが暗に示されています。一方、神戸側の先頭に立った大東組も、モデルとなった柳川組は男山根も懇意にしていたという組長の柳川次郎以下、多くが在日コリアンでした。

 こういう構図になったのには裏があります。山口組の田岡組長の姐である田岡文子の朝鮮人同士でやらせればいいという意向があったのです。ゾッとするような話ですが、ヤクザ内でも差別が存在したわけです。

 もっとも、この辺の問題は今作では全く触れられることはありません。同じ明友会事件を柳川組サイドから撮った『京阪神殺しの軍団』ではある程度描かれましたが、それでも幾分大人し目です。こういうモデルへの忖度が実録映画を衰退させていったのも、数を観れば伺えるようになります。

 余談ですが、『京阪神殺しの軍団』は暴力も大人しめだったのでコケましたが、民族問題を真正面から描いたというので評論家筋からは評価されました。そして、真正面から描いた結果BL的には素晴らしい作品に仕上がっているのですが、これについては後の機会に譲ります。

山口組戦術

 山口組は今では三つにも四つにも分裂してすっかり落ち目ですが、今作の時期ははさに日の出の勢いで全国制覇の過程にありました。

 山口組が勢力を広げる為に取ったやり口は、まず狙いの土地の有力なヤクザの組長と山口組の幹部(場合によっては組長の田岡自身)が杯を交わすのが第一段階。これで橋頭保を確保します。

 そして抗争が起きたら大量の助っ人を送り込んで暴れさせて相手の組を潰しにかかるのが第二段階です。勝てばその土地は山口組の物です。

 この第二段階が今作の肝です。助っ人が西日本各地から送り込まれ、三人一組になって双竜会を攻撃して回る「人間狩り」です。この壮絶な暴力描写が当時の東映の売り物でした。

ヤクザと興行

 今ではヤクザが興行に触るという話はとんと聞かれなくなりましたが、ほんの数十年前まではそれが当然の事でした。コンプライアンスなんて言葉はなかった時代です。

 今作はボクシングの興行から始まります。双竜会の組員がボクサーとして出場し、組員たちは賭け札を買って総出で応援。不利になるや乱入して興行を無茶苦茶にするという最高に頭が悪いスタートを切ります。

 今でも後楽園ホールへボクシングを見に行けば、最前列はいかにもそっち系な人が陣取っていたりしますが、当時は今の比ではありませんでした。引退後にヤクザ、ヤクザからボクサーは今でもそう珍しい話ではないですが、ヤクザ兼ボクサーが珍しくもなんともなかったのです。そりゃあ男山根も柳川次郎と懇意になります。

 そして抗争の直接の引き金になったのが、神戸側が歌手を連れてクラブに遊びに来たのに双竜会が絡んで喧嘩騒ぎになった事でした。

 これは本当に起こった事件でした。歌手は田端義夫です。今時演歌歌手でももう少し気を使うと思いますが、こんな話は当時の歌手にはつきものです。

 ヤクザを肯定してはいけないのでしょうが、ヤクザがそうして各地で下支えをしてくれたからこそ日本のショービジネスは質を保っていられたのも事実です。もはや歌手の地方回りでの修行など成立しません。

 例えば『兵隊やくざ』に登場した浪曲師の友人は、「ヤクザが興行にタッチしなくなって浪曲は一気に衰退した」「田岡の人生を浪曲にしたレコードがある」など、興味深い話を色々してくれたことがあります。とても書けないような話もありましたが。

魚には骨がある

 東映ヤクザ映画の肝である暴力描写を支えていたのが東映が誇るイカれた野郎ども、皆大好き「ピラニア軍団」です。

 酒癖が悪くて忘年会にも呼ばれないような落ちこぼれの大部屋役者の集まりでしたが、1975年に渡瀬恒彦が音頭を取ってセットで売り出され、悪役や殺され役で東映のヤクザ映画を下支えしてムーブメントを起こしました。彼らこそ東映の背骨だったのです。

 華はゼロ、男臭さと熱意は無限大という愛すべきバカ、リアルエクスペンダブルズです。画面に映っただけ何かやりそう感を見せることができる役者が今の日本にどれだけいるでしょうか?彼らの代わりはもはや居ないのです。

 今作はピラニア軍団の村長であった中島貞夫が監督しただけあり、ピラニア軍団のオールスターキャストという様相です。主だった面々で居ないのは小林稔侍くらいです。長生きした甲斐もあって今やこの人は大御所です。

 まず双竜会の組長の趙宗泰がリーダー格の室田日出男組合活動に入れ込んで干され、ヤクザと喧嘩してスカウトされたというイカれた経歴の持ち主です。もっとイカれた子分に頭を抱えるバックボーンを活かしたキャラ造形になっています。ただ、この人が在日コリアンをやると変な訛りでしゃべります。

 その他強烈な顔で存在自体が面白い最近亡くなった志賀勝ドラム缶で火あぶりにされる片桐竜次、抗争を前にしたこの世の名残の大宴会で「チンピラ万歳」と唱える成瀬正孝、とにかくピラニア軍団が画面に出てくると何かが起こる。それが東映です。

 特に片桐竜次の殺られぶりは圧巻です。ドラム缶に土と一緒に詰め込まれ、下から火をたかれて他の幹部の居場所を吐けと拷問されます。タイヤを被せられて顔を真っ黒にされ、最後はガソリンをかけらるというところで吐いてしまいます。この壮絶なやられぶりこそがピラニア軍団なのです。この人も近年主演映画ばかりか監督までやる程に出世しました。

 そしてどんどん殺されます。菅原文太主演で主役に出世した夜桜銀次がモデルの郷えい治に逃げた末切り殺される志賀勝、千枚通しで手を柱に縫い付けられて梅宮辰夫にリンチされる成瀬正孝、暴力の大喜利状態です。

嗚呼拓ボン

 ピラニア軍団の出世頭といえば何と言っても川谷拓三に他なりません。リアルを求めてヤクザと喧嘩をして回り、飛び降りる役で稼ぐために俳優会館の屋上からマットへ飛び下りる稽古をし(空挺部隊の訓練と同じ方法)、本当に殴られる、飛び降り、水没、火だるまとスタントマンのやるような命の保証なしの過激な仕事をことごとくこなして主演俳優まで上り詰めた男の中の男です。

 この頃には拓ボンといえば東映ヤクザ映画の裏の顔であり、流石に美味しい役です。スナックでお姉ちゃんを裸に剥いてワカメ酒を無茶苦茶楽しそうに飲んで用心棒にぼこぼこにされ、仕返しに石村組の車に火炎瓶を投げつけ、歌手に率先して絡みに行きます。

 最初はその他大勢のチンピラだったのに、だんだんと存在感を増していく拓ボン。言うなれば、実録映画はそれ自体が拓ボンの壮大な出世物語でもあるのです。

スターも負けられない

 渡瀬恒彦と松方弘樹のコンビも負けちゃいません。高山はボクシングの試合に乱入した安田を襲い、自分の組にちょっかいをかけて来る大東(成田三樹夫)にドスを向け、裏で糸を引く神戸の大幹部の山地(小林旭)の暗殺を決意します。

 その後の行動が実にイカれています。安田を仲間に引き入れるべく双竜会のボクシングジムへ乗り込み、安田とボクシングに挑みます。どうも本当に殴り合っているようです。流石は芸能界最強と噂された男です、『ロッキー』のさわやかさと比べて何と汚いのでしょうか。

 松方弘樹がサウスポーなのがポイントです。左利きゆえにこの人は時代劇の殺陣で損をしました。

 反則アリの泥試合の末に二人は意気投合。負けじとイカれた安田も暗殺計画に乗り、山地の車を襲撃しますが失敗。高山は車にしがみついて引きずられ振り落とされます。

 こんな体を張るスターが今の日本にいるでしょうか?この情熱が今の日本映画には足りません。

きつーい一発

 渡瀬恒彦が芸能界最強なら、松方弘樹は芸能界一の性豪と名高い人物です。パイプカットした逸話は有名ですが、父親と琵琶湖畔で特殊な銭湯を経営し、きつーい一発と称してセクハラ爆発の対談の連載を雑誌に持ち、数多の女優と浮名を流した男の夢を体現した人でした。

 従って、ヤクザ映画に出て来る松方弘樹は必ずスケベです。今作でも高山に女を世話するにあたって女に「あの時ワンワン泣くそうや」「汁が多くて臭いそうや」など、嫌なリアリティに満ち溢れた短評を付けてくれます。

 そして抗争が本格化する直前、この世の名残の大宴会を芸者を総揚げして挙行しますが、芸者の足元に潜り込んで覗いてご機嫌です。

 あんなスケベ面をできるスターが今の日本に居るでしょうか?300キロの本マグロを釣り上げた時でもあそこまでいい笑顔をするでしょうか?

 ちなみに、『仁義なき戦い 頂上作戦』では男にも求愛します。必見です。

親分衆は汚い

 それがヤクザのリアルです。実録映画で格好良い親分というものは滅多に出てきません。今作の神戸側はダーティーで怖いばかり、大阪側は保身の事しか考えない腰抜けです。

 特に大阪側の大将格である南原(折本順吉)の格好悪さは特筆すべきものがあります。親分衆の前では「喧嘩は数やない、根性や」と大見得を切り、子分の宮武(梅宮辰夫)と高山に山地暗殺のゴーサインを出しておいて、失敗して大東に誘拐されると山地にペコペコして兄弟盃を貰い、文句を言った姐さんに暴力を振るい、子分を養う責任を唱えていじけます。

 室田日出男演じる趙の方も安田の山地襲撃にお冠です。喧嘩は自分がやると強硬に主張する安田に対し、趙は双竜会を守るのがわしの役目やと怒ります。

 組織の長であることと男を通すことはなかなか両立しないという悲しい現実も描かれているわけです。

 また、神戸側の長であり、田岡一雄がモデルの川田は丹波哲郎が演じています。実録映画に置いて田岡は大抵丹波哲郎です。『仁義なき戦い』でも『極道の妻たち』もそうです。日本一の大親分はあのくらいの貫録がないと務まらないのです。

おっぱいと映画

 当時の東映はヤクザ映画に限らず、暴力とエロがあれば客が入るという「不良性感度路線」というイデオロギーで映画を作っていました。おっぱいを出せばそれ目当てで客が入ったのは事実です。

 今回のおっぱい担当は片桐夕子。安田の内妻淑子役で、高山と濡れ場を演じます。実に見事です。それもそのはず、片桐夕子は日活から借りたロマンポルノ女優です。

 BL的映画鑑賞という看板を掲げておいてなんですが、ロマンポルノの女優は押し並べて美乳です。しかし、今やポルノ映画館は女に興味のない人間しか出入りしないのは公然の秘密であります。ですが彼女たちはスクリーンの中では永遠に美しいままです。

BL的に解説

安田×高山

 この映画の真骨頂はこの二人のホモレベルの絆です。どっちも異常性欲の戦闘狂。二人が惹かれあうのは必然なのです。

 ボクシングの試合に乱入する安田のアホさ加減に惚れて暗殺の仲間に引き入れようというぶっ飛んだ発想に至る高山。安田は最初は取り合わないのですが、高山に喧嘩を吹っかけられるという引いて駄目なら押してみろ戦術で交渉のテーブルならぬリングに立つのです。闘争その物に意義を見出す狂人の発想です。

 背中のトラの刺青をネコと馬鹿にされ、プロ級だという安田に歯の立たない高山。しかし、股間に噛み付くという意味深な奇襲戦術で泥試合に持ち込みます。

「おんどれオカマか」と怒る取り巻き連中に、高山の弟分は「チン(顎)狙いじゃ」と下品極まるやり取りが最高です。ネコの刺青、オカマ呼ばわり、ここから受け攻めは決めることができます。

 リング上で湯浴みをしながら山地暗殺の相談を持ち掛け、周囲が止めるのも聞かず独断で参加を決めてしまう安田。ヤンキー漫画にありがちなタイマン張ったらマブダチ理論です。その先には愛が待っているのは説明するまでもないでしょう。

 この計画の失敗を受けて高山は身柄を交わせという宮武の忠告を聞かず破門されてしまいます。やけ酒を呷る高山を見つけ出し、双竜会に来てもう一回山地を殺ろうとラブコールを贈る安田。車で引きずられた根性を気に入っています。この時点で二人は相思相愛なのです。素直になれない高山が萌えポイントです。

 そもそも破門されたヤクザを自分の組に引っ張るなど、組同士の喧嘩になって当然のご法度です。しかし、安田にとっては仁義よりも高山が大事なのです。

 難色を示す高山を組の持つクラブで接待する安田。どの女でも世話すると言われ、指名したのが上手とは言えない「黄色いサクランボ」を歌っていた淑子です。自分の内妻なので難色を示す安田ですが、高山がちょっとごねると応じてしまいます。女より高山なのです。

 そうとは知らずお楽しみの高山の元に、クラブでの喧嘩騒ぎで安田が捕まったという知らせが届き、彼女が安田の内妻であることを初めて知ります。「安田のボケ」と憤慨する高山。大切な人のおもちゃを取り上げるなど男として恥ずべき事なのです。そう、安田は既に大切な人なのです。

 安田を迎えに行き、安田を殺しに来た刺客とカーチェイスを展開する高山。流石に渡哲也の弟です。カーアクションはお手の物です。

 何で自分の女だと言わなかったのかと怒る高山ですが、気に入ったんやからええやないけと気に留めません。「お前の女やと分かったら手出せへんやないけ」と申し訳なさそうに怒る高山の姿を見て、安田は無茶苦茶嬉しそうに笑い、「お前が喜んでくれたらそれでええねん」と爆弾発言です。

 お互いの優先順位が女を完全に上回った瞬間です。もはや片桐夕子もコンドームになってしまいました。当noteで何回か提唱した間接ホモセックスの典型です。

 人間狩りが始まる頃、二人は再び山地を殺る決意をします。二人笑って「高山、ワレええぞ」ともはや隠す気もない愛の言葉と共に大喜びで喧嘩支度を始める二人と双竜会の面々。

 喧嘩を前にしてこの世の名残のどんちゃん騒ぎに耽る双竜会の面々。スケベ丸出しでエンジョイする安田に対して、高山はつまらなそうにコップを噛み砕く奇行に出て苦い顔です。男のジェラシーに他なりません。

 女ならハンカチ程度ですが、男同士のジェラシーはコップなのです。ハードです。そしてそのうっ憤を晴らすように太鼓を乱れ打ちするのです。赤穂浪士の陣太鼓、無法松の櫓太鼓に次ぐホモの怨念のこもった太鼓です。

 人間狩りを避けて安田は淑子の元に逃げ込みますが、淑子はコンドーム扱いされて怒っています。そんな淑子に安田は「嫌いな女抱かすけ」「お前が一番大事な女や」と、よくよく考えたら最低なフォローを入れます。

 そして嫌い嫌いと言いながら抱かれてしまう淑子。ダメ男について行ってしまうのはロマンポルノの型ですが、これも間接ホモセックスです。一番大事な女かもしれませんが、一番大事な人ではないのです。

 一方高山は山地を単身狙いますが失敗。大東たちに安田の居場所を吐けと拷問されますが、一遍死んでみたいと思うとったと全く吐きません。愛は命より重いのです。片桐竜次は愛が足りなかったのでしょう。

 安田はそれを受けて南原組に自分で居場所を密告し、宮武をおびき寄せて逆に人質に取り、カルーセル麻紀さえ口説いた一番大事な部分に拳銃を突き付けて高山との人質交換を要求します。

 待って下さい、宮武ならもっと使い道があったはずです。組織的には割に合いません。大佐と少尉の捕虜交換などありえません。しかし、そんなことは安田にはもはやどうでもいいのです。高山との愛は天皇陛下との交換でも買えないのです。

 安田は大東は自分を殺すために交換に応じるという計算です。高山だけは見殺しに出来ないとは安田の弁。淑子の制止などコンドームの空き袋ほどの価値しかありません。

 果たして捕虜交換は穏当には進まず、高山は宮武に捕まって大東の子分の金崎(松方弘樹の弟の目黒祐樹)にマシンガンで二人一緒に撃ち殺されます。

 高山の死体と抱擁し、大東を睨みつける安田。なんと美しい愛でしょうか。大阪だけに曽根崎心中なんて目じゃありません。

 安田は命を保証され、指を詰めて手打ちとなります。しかし、手打ち式の会場となった有馬温泉のホテルで安田は最後の悪あがきに出ます。包帯の中に隠した千枚通しで大東を刺し殺し、何発も撃たれながらロビーの他の連中まで狙いに行きますが、エレベーターがロビーに着き、ドアが開いたところで安田は息絶えます。

双竜会ホモ集団説

 この抗争事件で柳川次郎は全国に名が知れて「殺しの柳川」というニックネームを頂戴するわけですが、同じ民族で殺しあうことには苦悩があったと言います。

 そして、趙と大東は終戦直後はともに助け合って売り出していった仲であったことが語られます。しかし、趙がクラブの事件の手打ちを頼みに行っても大東は全く相手にしてくれません。趙は双竜会はこのままやと終いやと頭を抱えます。

 南原を通じての仲裁も頼みますがやっぱり不発です。幹部全員切腹するなら会うと、もう戦争は避けられない状況です。本当に腹を切っても多分会ってくれません。

 ここで趙は腹より尻を使うべきだったのです。そうすれば大東も昔のよしみ、同郷のよしみ、惚れた弱みとなった可能性も否定できません。男山根の面倒を見てくれるような人がモデルですから。

 結局趙は妻子を人質に取られ、無条件降伏に応じます。命の保証と引き換えに他の幹部も出頭し、幹部全員指を詰めて手打ちとなります。無条件降伏。そう、ケツ貸せと言われたら断れないのです。しかし、弱腰ながらも組の事を第一に考えていた趙にとって、神戸の連中に輪姦されたとしてもそれは快感でしかないのです。

 そもそも双竜会がホモ臭い組織です。胸にお揃いの髑髏の刺青を入れてます。究極のペアルックです。裸でもお揃いですから。

 そして双竜会の面々は仲良しです。ボクシングの応援、大宴会、こういう組なら入ってもいいかなと錯覚させるほどの仲良しです。

 安田は高山を誘う時「双竜会は自由で民主主義」というキャッチフレーズを使いました。そう、双竜会はフリーセックスなのです。

 最後の悪あがきに出た安田をロビーまで追いかけてドアに銃を向けて待ち受ける大東の子分達。そこに掴みかかって阻止しようとしたのは仲良く指を詰めて新しいペアルックを得た双竜会の面々でした。

 これは危険な選択です。手打ちがぶち壊しにされても文句は言えません。しかし、彼らにとってもまた安田は大切な男だったのです。

 安田は満足して死んだ事でしょう。高山の仇を討ち、仲間達の決死の愛に見送られながら高山の元へ行けたのですから。蓮の葉の上で思う存分二人きりの世界に耽るのです。エイズはまだない時代です。コンドームなど必要ありません。いや、よく考えたらヤクザは間違いなく地獄行きですね。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

『ゴッドファーザー』(★★★)(アメリカ版)
『沖縄やくざ戦争』(★★★★★)(沖縄版)
『県警対組織暴力』(★★★★★)(瀬戸内版)
『仁義の墓場』(★★★★★)(お兄ちゃん版)
『ロッキー3』(★★)(ボクシングが繋ぐホモ臭い絆)

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