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第40回 仁義の墓場(1975 東映)

 渡哲也追悼企画、実は映画の選定に非常に悩むのです。というのも、団長に忙しくて渡哲也は案外映画に出ていないのです。

 いっそ『西部警察』を事細かにレビューしてもいいのですが何しろ何百話もあるので時間がかかりすぎます。そして日活を辞めた後の映画はいまいちBL的に美味しくない。

 そこでこの際出し惜しみはやめて、第二弾は東映に三顧の礼で迎えられて作られた『仁義の墓場』でお送りします。

 あまりのイカれぶりで戦後の新宿で伝説になったヤクザ、石川力夫のイカれ切った生涯を深作欣二が作家性を前面に押し出して撮る。オーソドックスな実録映画とは違った味わいの異色作です。

 弟の渡瀬恒彦は実に東映向きにネジが外れていましたが、逆に優等生を捨てきれず東映向きとは思えない渡哲也が頭のおかしい狂犬ヤクザを演じる。そう考えるととても貴重な映画です。

 そして、東映実録映画はやっぱり濃厚なBLであり、渡哲也はBLスターなのだと思い知らされる、腐女子に是非見てもらいたい一本です。

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真面目に解説

実録映画の主人公
 実録映画のモデルになるようなヤクザは限られています。歴史を作れる立場の大親分か、さもなければヤクザ社会からもはみ出したクレイジーです。

 石川力夫というヤクザは典型的な後者です。仁義も糞もなく暴れまくり、麻薬に溺れ、挙句は親分兄弟分さえ殺そうとして最後は惨めに死んでいった、限りなく渡瀬恒彦向けの狂犬です。

 現在でも実録映画はVシネで撮られているわけですが、大親分が主人公の映画は忖度と本物の横槍が激しく、毒にも薬にもならない仕上がりになってしまう事がままあります。

 その点この手のクレイジーは所詮はチンピラであり、少々無茶苦茶やっても文句を言う人があまりいないため、ヤクザの汚さを余すことなく描くことができるのです。

 果たして本作の主人公の石川は実に汚く、みっともなく描かれています。監督の深作欣二と脚本の鴨井達比古がもめ、強行軍で撮られたにも関わらず、石川の狂いっぷりがそれを埋めてくれているのです。


渡哲也と東映

 かねて説明の通り渡哲也は日活でキャリアをスタートさせたわけですが、日活は困窮してロマンポルノに舵を切り、渡哲也はホームを失って石原プロに入り、各社の映画に出ていました。

 そして大河ドラマの『勝海舟』に主演するまでになるのですが、身体を壊して松方弘樹に勝海舟を明け渡して療養する羽目になります。その褒美に松方弘樹が撮ってもらったのが以前紹介した『脱獄広島殺人囚』です。

 一方東映は丁度任侠映画から実録映画へ路線転換の最中で、健さん以下任侠映画のスターとの仲が冷え切っていたので、健さんの後釜として渡哲也が欲しかったのです。

 何処も渡哲也は欲しがっていたので取り合いでしたが、弟の渡瀬恒彦も世話になっていますし、松方弘樹に穴を埋めてもらった手前もあり、アクションがやらせてもらえるというのもあって東映が口説くのに成功し、本作が撮られました。

 というわけで、低予算でさっさと撮るのが常の東映映画に珍しく、本作はかなり贅沢に作られているのが見て取れます。

 これを足掛かりに東映は渡哲也の映画をジャンジャン撮るつもりでしたが、渡哲也の体調は思いのほか悪く、過酷な撮影でダウンしてしまいこの話は流れてしまいました。

 しかし、渡哲也の体調が悪いのが良い方向に働き、石川の演技は実に不気味な凄味が出ています。不摂生なジャンキーですから、血色が良いと却ってリアリティがないのです。


実録(直球)
 本作は石川の幼少期の写真と、縁者のインタビュー音声で始まります。写真は偽物ですが、音声は隠し撮りした本物で、インタビュアーは深作欣二その人です。まさに実録というわけです。

 内気だが負けん気が強く、頭が良くてカリスマがあるといういかにも凶悪犯罪者っぽい幼少期の人物像や、ヤクザを志して東京に出て、親分の悪口を言ったチンピラを切りつけて始めて刑務所に入ったというエピソードなどが語られます。

 しかし、この親分思いに見える石川は、戦後の混乱からかイカれ始め、最後は破滅するわけです。

 そして最後に「上へ上へ飛び上がるしか能のない風船玉」と自分を評したことが語られてオープニングになります。

 それだからか、風船は作中唐突に色んなところに現れます。時々モノクロにしてみたり、スローモーションが使われたり、こういう作家性の入った画を東映が許すのは珍しい事です。深作欣二の権勢と渡哲也への色気があればこそ許された貴重な映画です。


戦後の新宿
 戦後の新宿は空襲で完全に焼け野原でしたが、終戦数日後にはもう闇市が出て、続いて何人もの親分がそれぞれの縄張りに闇市を作り、愚連隊や不良外国人も入り込んで今のカオスな新宿の原型ができました。

 そしてそんな闇市の風景が実にリアルに描かれています。残飯に群がる人達、バイオリンを弾く傷痍軍人、ぼったくりの靴磨き、犬でも何でも捌く肉屋、煙草の吸殻を拾ってて巻煙草を作る職人、焚火で暖を取る戦災孤児。もちろんBGMは『リンゴ追分』です。

 というわけで、他所から流れてきた暴力靴磨きを石川が拳銃で撃退するという深作欣二特有のロケットスタートで華々しく毒々しく映画は本格的に始動するのです。


河田組とゆかいな仲間たち
 石川の所属する河田組は、親分河田がハナ肇、若頭の吉岡が室田日出男という実に不安になる陣容です。私ならこんな組に入りたくありません。

 特に室田日出男が良い味を出しています。石川の狂いぶりに頭を抱えつつ、組の為にどうにか操縦しようと頑張る中間管理職の哀愁と自慢の顔芸が見事です。

 まだピラニア軍団は結成されていませんが、こんなおいしい役にありつけたのにはそれなりの理由があります。これについてはこの記事の最後に譲ります。

 そしてまだ駆け出しの苅谷俊介も三下役で出てきます。なにしろ顔が怖いので下積み時代はこういう役ばかりだったのです。

 そして石川に殺されかけ、殺しに行きます。大門軍団恐怖の内ゲバです。しかも石川は「リキ」と呼ばれているのです。まだ『西部警察』どころか『大都会』さえ始まていません。東映は預言者でも雇っていたのでしょうか。


綺麗な辰兄ぃ
 石川の身内で頼れそうなのは石川の刑務所時代からの兄弟分の今井(梅宮辰夫)くらいです。池玲子を愛人にし、山城新伍や郷えい治を引き連れて一緒に不良外人のアジトの中華料理屋を襲撃したりとご機嫌です。

 ヤクザ映画にある程度通じていれば、キャスティングだけでもこいつらが大概おかしい連中なのは想像が付くと思いますが、相対的にまともに見えます。それくらい石川は狂っているのです。

 今井はそんな一匹狼気質の石川に独立を勧め、石川が破門されれば取りなしてやり、破れかぶれの石川を最後の最後まで庇おうとします。これは実はすごく貴重なのです。

 というのも、一般に梅宮辰夫と言うと人情派の大御所のイメージですが、当時は格好良い役は殆ど回ってこない役者だったのです。人の嫌がる役を引き受けてしまう男気に溢れすぎるスタンスが兄ぃの初期のフィルモグラフィーをドぐされにしているのです。

 何しろ代表作がヤクザ映画より数段頭の悪い『不良番長』シリーズです。ヤクザ映画では姑息な敵役ばかりです。そりゃあアンナもグレます。

 だからこそ、石川にとって唯一の大事な兄弟分という役どころが際立ちます。これが皆様の知っている辰兄ぃの姿なのですから。


戦後ヤクザの力学
 そして何より、当時の新宿の生々しいパワーバランスが分かるのが面白い所です。これを読み解けるようになればヤクザ映画の中級者なので読み解いてみましょう。

 まず、警察は進駐軍の締め付けもあって拳銃も持たせてもらえないので、治安維持を手に負えずにヤクザに肩代わりしてもらっています。

 この癒着が現在に至るまで日本社会に闇を落としているのはご存知の通りです。『県警対組織暴力』も渡哲也に出てもらうつもりだったようですが。

 親分同士は自分の縄張りの闇市で物が売れればそれでいいので共存共栄路線ですが、闇市は金になるので外敵が侵入してきます。

 第一が俗に三国人と呼ばれる不良外国人です。台湾国旗を振り回しながらジープでパレードしたり、お座敷で裸の芸者に金を紙吹雪のごとくばらまいたりと、実に深作的に大手を振るっています。

 ボスが汐路章なので実にインチキ臭いのが笑いどころです。こういう役をやれる役者はもう絶滅してしまいました。

 そして第二が古来の侠客としてのバックボーンを持たない愚連隊。今風に言えば半グレです。

 新宿は戦前からヤクザがしっかり縄張りを抑えていたので、愚連隊はヤクザの地盤が弱い学生街の渋谷や池袋で勢力を伸ばし、そこから新宿に進出してこようというわけです。


リアル超えた何か
 そして、野津喜三郎という新宿で一番の大親分がなんと衆議院選挙に打って出ます。ヤクザたちにとっては自分たちの利害を代表する人物が議員になるのは喜ばしいのでロビー活動なんてしちゃいます。

 モデルは尾津喜之助という東口を仕切っていた親分です。「光は新宿より」というキャッチフレーズも、惜しい所で落選したのも史実通りです。

 ゴールデン街あたりに行けば当時の親分衆に世話になった人はまだまだ生きているとはいえ、ヤクザの親分が惜しい所まで行けたのが戦後の国政だったのです。

 石川はアホでクレイジーなのでその選挙運動の最中に池袋から来た愚連隊を斬ってしまい、危うく大喧嘩になりかけますが、野津の機転で進駐軍を介入させて抗争を回避します。そう、一番強いのは進駐軍なのです。

 野津を演じるのは安藤昇。本物の組長だった人なので貫禄十分です。しかも、当時の渋谷の愚連隊である安藤組の組長です。

 つまりほぼ当事者です。イカれたキャスティングです。もっとも、安藤は石川のような小者は知らないと言い残しています。

 そして本作より後の時代になって安藤組は尾津一家と抗争を起こし、安藤昇自ら尾津の家に乗り込んで拳銃を突き付けて無理矢理手打ちを承知させたという逸話があります。

 そんな安藤昇が、賭場での借金を断られて暴れる石川を諭して金を恵んでやるという、ヤクザ映画の型通りの大親分をやっちゃうのです。裏事情を知っているとブラックジョークとしか思えません。

 もっとも、この手のヤクザの武勇伝は話半分なので、安藤昇の証言も真相は藪の中です。


愚連隊とヤクザの違い

 建前だけだとしてもヤクザは任侠道を掲げているため筋目を重視します。ところが、愚連隊にはこれがありません。

 石川に子分を斬られて池袋のボスである梶木(成田三樹夫)が出張ってきます。 吉岡が金を持って謝りに行って手打ちを提案しますが、無言で金を叩き返して拒否です。

 普通のヤクザなら後々の事も考えてここで有利な条件を引き出すことを考えるわけですが、愚連隊は所詮不良の寄り合い所帯なので、喧嘩その物に意義があるのです。

 結局進駐軍に無理矢理手打ちにしてもらいましたが、セリフゼロで何か凄い奴が来たと思わせるのは流石に成田三樹夫です。


深作作品の女
 深作欣二の映画はホモソーシャルの極致です。女は他の監督にさらに輪をかけてコンドーム扱いしていきます。

 何しろ男性機能の低下を嫌って前立腺ガンの治療を拒んだ性豪ですから、女性への意識が伺えます。

 今作のメインヒロインは一応多岐川裕美演じる地恵子ということになっています。凄い美人ですが、徹底的にコンドーム扱いされます。

 石川に犯されて情婦になり、石川が破門されて大阪に行く際に売り飛ばされ、とうとう逮捕された石川の保釈金や裁判費用の為に借金を重ねて結核を患い自殺するという救いようのない有様です。

 それでも石川はダメ人間なりに地恵子を愛してはいたらしく、千恵子の自殺の直前に籍を入れ、自分と一緒に入る墓を作り、河田組に押しかけてお骨を食うという斬新かつ狂気にあふれた恐喝で代金を脅し取るのです。

 この墓は新宿に今でも本物が残っています。しかし、やっぱりコンドーム扱いなんだなという作りになっているので、詳しい話はBL的解説に譲ります。


破門ヤクザの悲哀
 とにかく狂っている石川は河田にも持て余され、最後は衝突して河田を斬り付けるという暴挙に出ます。ヤクザの世界ではこれは絶対にやってはいけない御法度です。

 ちなみに河田は足が不自由という設定ですが、モデルになった親分はこの時の事件で足が不自由になったそうです。足だけではつまらないからもっと上を狙うための措置でしょう。

 そして石川は破門と十年の関東処払い(出入り禁止)を言い渡されて刑務所に入ります。この刑務所がヤクザの世界では曲者なのです。

 刑務所で一番威張っているのがヤクザで、一番いじめられるのは有名人と元警官ですが、親分を襲って破門になった悪名高い石川には人権はないも同然です。

 この手のヤクザはむしろ殺せば殺した奴は名が上がるというわけで、功名心に燃えたヤクザに次々襲われるのです。破門をヤクザが恐れるのはサラリーマンのクビ以上の意味があるからなのです。


身内キラー石川
 暴れまくってどうにか刑期を終えた石川は、地恵子を売り飛ばして金を作り、今井の紹介で大阪へ身を寄せてほとぼりを覚まします。

 しかし、パンパン(芹明香)にヘロインを教わってしまったので石川はどんどん狂っていきます。後に覚せい剤で何度も逮捕された芹明香に教わったのが実にブラックです。

 石川はアホなので打ちまくって金がなくなり、売人を襲撃して薬を手に入れようとします。そしてジャンキー仲間の小崎(田中邦衛)と一緒に売人を殺していよいよ後戻りできない段階に入ってしまいます。

 ここからのヤク中の演技は鬼気迫るものがあり、一見の価値ありです。やっぱり渡哲也は渡瀬恒彦の兄貴なのです。

 そして処払いなのに小崎と一緒に東京へ舞い戻って今井に金をたかり、身柄をかわせという忠告に腹を立て、ついには唯一の味方である今井を射殺してしまうのです。

 そうして逮捕された石川は保釈中に河田組に襲われたのに生き残り、刑務所の壁に有名な「大笑い 三十年の 馬鹿騒ぎ」という辞世を残して刑務所の屋上から飛び降り自殺を遂げるのです。ナレーターが「疫病神のような男」とコメントするのが笑いと涙を誘います。

BL的に解説

河田×石川
 石川は救いようのないイカれたアホでしたが、最初は親分の悪口に怒って相手を斬る程の忠誠心の持ち主でした。

 これの出来るヤクザはそうはいません。つまり、二人はデキていたのです。だからこそ暴れ者のリキを河田は戦後に至るまで飼っていたのです。

 一方石川も暴れているのは基本的に河田組の為です。やり方が信じられないほどアホなだけで、忠義な男には違いないのです。この行き違いに悲恋の火種が生じてしまいます。

 野津の選挙という大事な時期に池袋の愚連隊に喧嘩を仕掛けた石川。最終的に手打ちにはなりましたが、河田組は300万円からの出費で大損をこき、組のためを思ってと言い訳をする石川は怒られて謹慎を言い渡されてしまいます。

 この時の悲しそうな顔。愛する人に裏切られたと石川は思ったに違いありません。石川のアホにはターボがかかり、賭場で暴れて野津に恵んでもらった金に火をつけて野津の車に放火するという暴挙に出ます。

 車だけにターボです。しかし、車を燃やすのが好きな男です。

 これには河田もブチ切れて、石川を杖で滅多打ちにします。愛の揺らぎからかリキの眼が反抗的なので河田は余計に怒ってしまいます。

 そしてリキの愛は最悪の形で暴走し、ついには河田を逆恨みして斬りかかります。ここで河田が刀を持ち出して思い切り抵抗したのがリキの憎悪を刺激したのだとは考えすぎでしょうか?

 適当にドスを振り回して疲れたところで取り押さえておけば、リキは河田を刺さずに済んだはずです。本心から河田に手を下したいと思っていたようにはどうも思えないのです。

 そして刑務所に入った石川は暴れに暴れます。当然一回くらいは掘られたはずです。そして石川が東京へ舞い戻ったと聞いた河田は、殺せばいいものを一旦は追い出して済まそうとします。河田もまたリキを愛していたのです。

 そして、地恵子の骨を持って恐喝に来たリキは、骨を食う奇策ではったりを利かせ、一家を興すという名目で新宿二丁目の空き地を強請り取るのです。本当にくれたはずはないですし、当時の二丁目は遊郭で、ゲイタウンになるのは随分後の事ですが、それは些細な問題です。

 そしてここでようやく河田はリキを始末する決意をします。場所がリキと地恵子の墓所というのが泣かせます。

 しかしリキは死なず、刑務所で飛び降りたわけです。河田のモデルになった親分は、刑務所に入ったリキについては何も語らず、訃報を聞いてただ一言「親不孝な奴だ」と言って黙りこくってしまったそうです。

 このやり取り、さすがにリアルです。並の作家に書ける物ではありません。絶対にリキが好きだったはずです。


今井×石川

 今作の大トロはここです。二人は石川が初めて少年刑務所に入ったときに出会い、二人とも番長であったことが語られます。今井のリキへの友情を明らかに超えた面倒見の良さはここに根拠があるのです。

 少年刑務所の番長ともなれば男は思うままです。そして、ハーレムの頂点に位置する二人が最終的に結ばれるのは当然の帰結です。

 アンコ(受け)が往々にして性的不能になってしまうのは『脱獄広島殺人囚』でも説明しましたが、カッパ(攻め)の方も男に病みつきになって女に興味を失う事がままあります。それくらいホモセックスは魅力的な物なのです。

 そして、二人は戦後に至ってもつるんでいます。今井は子分を集めて一本立ちしようとしていて、手始めにリキを誘って不良外国人の撃退に見事成功します。

 そして芸者を挙げてどんちゃん騒ぎをして祝杯を挙げ、二人で組を作ろうと今井は誘います。それも芸者を押しのけて。この時の今井の眼にはリキしか映っていないのです。

 しかし、石川は救いようのないアホですがこの時点では親分の悪口に怒って相手を切りつけた忠誠心の持ち主なので、この誘いに踏ん切りが付きません。

 野津の車の一件で河田に指を詰めろと言われたときも、指を詰めさせろと暴れるリキを子分たちとなだめ、一緒に組をやろうとしつこく誘います。しかし、リキは河田を斬るという最悪の手段に出てしまうのです。

 出所の出迎えにも今井は行きました。本来破門されたヤクザの出迎えなどは御法度です。今井には任侠道よりリキだった証拠です。

 そして今井の紹介で大阪に落ち延びたリキですが、悪い薬を覚えて処払いを無視して東京に戻ってくるのです。

 今井の賭場を荒らし、無言で恐喝同然に金をせびるリキに今井と子分達は呆れ顔です。しかし、子分や池玲子が嫌そうにするのをよそに、今井は「あんなペー中どうしようもねえ」と苦い顔です。

 つまり、あくまで今井はリキを助けるつもりなのです。金はとられる、河田組にあれこれ言われるでいい事などないのですが、愛の前には池玲子共々コンドームです。

 案の定河田は石川が戻って来たのを察知し、穏当に追い返せと今井に命じます。河田もまたリキが好きなのです。

 ここでリキが今井の言う通り素直に身柄をかわしていれば万事丸く収まったはずです。しかし、リキは今井をもっと愛していたのです。

 「俺を売りたきゃ売ったっていいんだぜ」「どんな時でも体張って助け合うのが兄弟分だ」などと面倒くさい事を言い始め、駄々をこねます。薬を打ってヤンホモ化しています。

 そして二人は痴話喧嘩の末に決別し、リキは今井を斬り付けます。唯一の味方で最愛の人に裏切られたリキはもう誰にも止める事が出来ません。

 今井はどうにか命は助かりました。そしてリキを捜索しますが、リキはホモ特有の執念で再び今井組を襲撃し、包帯でぐるぐる巻きの今井に5発もタマを食らわせて殺します。

 看病していた池玲子にもついでに一発食らわせたのがポイントです。ヤンホモリキにとっては許せない存在です。

 そして、死期を悟った石川は保釈中に仏を拝ませてくれと今井組を訪れます。アホですがこの行動はヘビー級です。半端じゃありません。

 お参りは池玲子に拒絶されましたが、今度は石川は"三人分の"墓を作ります。自分と地恵子、そして今井のです。今でも新宿に残るその墓は、墓碑銘が石川と今井の連名になっています。

 これがノンケの発想ですか?いや、夫婦でも別々の墓に入りたがる人が増えてるご時世です。これ程の純愛を男同士が貫いたのはまさしく奇跡です。

 そして、ちゃんと墓に入っているのに今井の前に敗れた地恵子はやっぱりコンドームなのです。


小崎×石川
 田中邦衛は何気にBL力の非常に強い役者の一人です。『県警対組織暴力』が最たる例ですが、本作も例外ではありません。

 麻薬の売人に薬を寄越せと襲い掛かるリキに、突然拳銃で援護をする小崎。銃が何故かまだ世に出ていないM29。いわゆる44マグナムです。『ダーティーハリー』『西部警察』のリキが使っていたやつです。やっぱり預言者を雇っていたのかもしれません。

 いずれにしても、この時二人は運命共同体になったのです。同じ注射器で薬を、ケツから小崎のマグナムをぶち込まれ、二人は決して離れられない仲に落ちていくのです。

 考えて見て下さい。リキの東京行きに小崎が同行する意味は本来全くないのです。あるとすれば、二人がデキていたという線だけです。

 今井を斬りつけた時も、小崎は拳銃で援護しました。完璧な連係プレーです。他人には出来ないコンビネーションです。

 そして今井を殺した後、二人はアパートの空き室に潜伏し、警官隊相手に悪あがきします。二人でヘロイン打ちながらヤッてたのは明白です。むしろそれで警察にバレたまであります。

 しかし、弾と薬が切れて小崎は禁断症状で行動不能になり、リキは小崎を捨てて窓の破片を片手に警官隊に突入して御用になります。

 所詮薬で補強しただけの関係だったという事なのでしょう。今井の前にはコンドーム、いや、ラッシュでしかありません。

BL的に解説(ナマモノ注意)

深作欣二×渡哲也
 本作の撮影には渡哲也の人格者ぶりを物語る、そして非常に尊いエピソードが残っています。

 撮影の準備中、渡哲也がずっと立って待っているのを見て付き人が深作欣二に椅子を要求したところ、渡哲也は「初めての仕事で初めての主演で偉そうに座ってられない」と断ったのです。

 深作欣二はこの一件で渡哲也をいっぺんに好きになり、意気に感じて仕事をしたそうです。

 これが本作の続編という事になっている『やくざの墓場 くちなしの花』の製作につながったのは言うまでもないでしょう。

 裕ちゃんは怒るかもしれませんが、二人はデキていたとしても驚きません。何しろ前立腺がんの治療を拒否した男と、大腸がんになった男。ああ、これ以上は恐くて書けません。死者への冒涜と言われてしまいます


深作欣二×室田日出男
 トリはまさかの組み合わせでお送りします。何故ピラニア軍団になる前の室田日出男がこんな良い役を貰えたのか?彼は深作欣二のお気に入りだったからです。

 室田日出男は本来は大部屋役者ではなく、倍率1000倍近いという東映ニューフェイスのオーディションに合格して映画の世界に入ったエリートです。

 しかし、酒乱と過激な組合活動がたたって干された挙句クビになり、その度に深作欣二の取りなしでどうにか切り抜けてきたという芸歴の持ち主なのです。

 つまり、深作にとって室田はなんとしても東映に残した人材であり、室田にとって深作はかけがえのない恩人なのです。

 そして室田の葬式では深作が弔辞を読み、その半年後に後を追うようにして亡くなりました。

 このエピソードだけで薄い本一冊書けちゃいます。しかも、室田には古くからゲイであるという疑惑がささやかれているのです。

 ケツを差し出してでもヴィスコンティの映画に出たいと言ったショーケンとデキていたという噂さえあるのです。しかし、この話も拓ボンが嫉妬すると悪いのでこの辺にしておきましょう。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

『東京流れ者』(★★★)(連続レビュー)
『やくざの墓場 くちなしの花』(★★★★★)(連続レビュー 次作)
『実録外伝 大阪電撃作戦』(★★★★★)(弟バージョン)

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