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第41回 やくざの墓場 くちなしの花(1976 東映)

 渡哲也追悼企画を書いている間に自分の体調が渡哲也と近似してしまい、寝込んでしまいました。祟りかもしれませんが、これが供養です。

 第二弾が『仁義の墓場』になった以上、トリは選択の余地がありません。(名ばかり)続編の『やくざの墓場 くちなしの花』でお送りします。

 当然渡哲也の代表曲である『くちなしの花』が使われるわけですが、完全に取って付けた名義貸しの歌謡映画です。

 しかし、ヤクザ映画としては前作以上に優れた一本です。この前年に作られた不朽のBLヤクザ映画『県警対組織暴力』と同様にヤクザと警察の癒着を主軸に、民族問題や麻薬といったモデルに気兼ねしてやりにくいテーマが盛り込まれています。

 お馴染みのサングラスで完全に団長スタイルの狂気のマル暴刑事である渡哲也が梅宮辰夫といちゃつき、梶芽衣子とデキてしまい、悪役俳優ばかりで案の定癒着まみれの警察に潰されて破滅していくという話です。

 この年大ブレイクしたピラニア軍団も総出演で画面にユーモアとペーソスを提供。特に深作欣二のお気に入りの室田日出男は前作以上に美味しい役です。

 映画は材料が揃い過ぎるとかえって持て余した感のある出来になりがちですが、そこは天下の深作欣二と笠原和夫のコンビです。金!暴力!SEX!で完全装備の隙のない一本に仕上がっています。

 そして、やっぱり渡哲也はモテモテです。純愛、腐れ縁、忠犬、俺様と、腐女子大満足のシチュエーションの見本市です。絵面が強烈ですが、そこに慣れれば東映ヤクザ映画という豊饒の海はあなたのものです。

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真面目に解説

コンプリートヤクザ映画
 本作はヤクザ映画に必要な物は概ね備わっている完成度の高い映画です。ヤクザ映画の"外様"の渡哲也が主演でこれだけの映画が作られたのは奇跡的です。

 芸術祭に参加しようとしたのも納得ですが、ヤクザと警察の癒着をリアルに描きすぎたために大阪府警から抗議を受け、クレジットだけで参加は取りやめになりました。

 その他にも麻薬、民族問題と普通のヤクザ映画ではなかなか取り上げられない難しい題材に果敢に挑んでいます。

 というのも、実録映画の担い手であった脚本の笠原和夫はヤクザとの関係に疲れ、これを最後にヤクザ映画から足を洗ってしまいました。最後だから遠慮は無用というわけです。

 ヤクザの生態もリアルに描かれています。プー屋(野球賭博師)、ギョク(銃弾)、トッパ(短気)、ペー(ヘロイン)、お春(売春)など、使う機会はまず訪れないヤクザ用語が身に付きます。とても勉強になるヤクザ映画です。役に立たない知識こそ真の学問ではないでしょうか。


汚い黒岩軍団

 渡哲也の役どころが例のサングラスのマル暴の黒岩という時点で色々狙っています。本作発表の1976年の年始に『大都会 闘いの日々』が始まったので乗っかったのは明らかです。

 警察の面々がそりゃあもう凄まじく、署長が金子信雄、暴対の副本部長が成田三樹夫、マル暴の課長が藤岡重慶という、どっちがヤクザだか分からない顔ぶれです。

 この警察署の管轄には住みたくないものです。そして、こんなデンジャラスな面々の中でも浮いてしまう黒岩。

 裕ちゃんも居なければ慕ってくれる団員も居ない。今回は谷さんも保身の事しか考えていない。これでは荒むのは無理からぬ話です。

 そして荒み切った黒岩はテレビでは逮捕せずに射殺して済ませていたヤクザと触れ合ううち、どんどんこっちへと傾いて行ってしまうのです。


国民的娯楽
 大阪ミナミの西田組という小さな組が、大組織である山城組の進出に抵抗する形になっています。

 そして西田組のチンピラが野球賭博で客と揉めて野球場で拳銃をぶっ放すという相変わらず飛ばしまくったスタートを切ります。

 何故か試合が巨人広島戦(多分仁義なき戦いの使い回し)ですが、これは何気にリアリティのある描写です。

 というのも、山城組のモデルが山口組なのは明白ですが、当時の山口組は「野球は国民的娯楽である」という分かったような分からないような綺麗事に基づいて野球賭博が表向き御法度だったのです。

 国技の巡業や国民的歌姫で儲けてた口で何を抜かすという話ですが、こういう綺麗事は大組織の運営には結構大事なのです。御法度にしたってどうせ苦労するのは子分だけですから。

 野球場でヤクザが銃乱射というのも今考えれば無茶苦茶ですが、当時としては大いにあり得るし実際よく起こる事でした。

 何しろ競馬場や競輪場で些細な事から暴動になった時代です。金を賭けている客にとってみれば野球場も競輪場も一緒なのです。選手よりも本気なのです。


玉玉
 残念ながら野球場でのシーンはすぐに終わり、ひと騒動起こしたチンピラ二人、若本(矢吹二朗)と明(小林稔侍)が組経営のパチンコ屋で玉の入った入らないでゴネる労務者(片桐竜次)をシメるというやっぱり頭の悪いシーンに続きます。

 釜ヶ崎の労務者に片桐竜次のような男前が居るのかという疑問はさておき、おちおちパチンコもやってられない時代だったのです。

 こういう時は店員を呼んで玉詰まりを直してもらい、サービス玉と称して何発か入れてもらって手打ちとなるはずです。ヤクザの店だと玉じゃなくてパンチを何発か貰う羽目になるのです。

 この騒ぎに乗じて黒岩が片桐竜次の残した玉を失敬して換金し、二人に殴られて金を取られ、殴られるだけ殴られて例のサングラスを黒岩がかけたところでオープニングとなります。

 まさか黒岩がデカとは知らない二人はパトカーに十円パンチ、万引き、スカートめくりと息をするように犯罪をしながら歩いて行きます。犯罪のスーパー玉出状態です。


汚い団長

 そして締めくくりに立小便をしたところで、全部後ろから見ていた黒岩はダボシャツに腹巻というヤクザその物の格好で警察手帳を出して本性を現すのです。ピラニア軍団だけに泳がせたというわけですね。

 矢吹二郎はピラニア軍団どころか『仮面ライダー』に出て人気者でしたが、発起人の千葉ちゃんの弟なので実質身内です。

 そして当然喧嘩になるわけですが、渡哲也に勝てる法はないのでボコボコにされて手錠をかけられてしまいます。

 これだけなら『西部警察』とかでは週二回くらい見れる光景ですが、東映はそんな甘くありません。

 なんと黒岩は改造モデルガンの弾を持っていて、若本のポケットに入れて無理矢理機能の発砲事件の犯人に仕立て上げてしまうのです。

 当然バレますが「これくらいの細工は警察はなんぼでもできるんじゃ」と逆ギレです。どっちがヤクザだかわかりゃしません。


出世魚軍団
 ピラニア軍団は売れ出していたので主だった面々は皆顔が見えますが、ビッグスリーの川谷拓三、志賀勝、室田日出男はやっぱり美味しい役で登場します。

 拓ボンは警官です。黒岩と取り調べをしてイキり倒して笑いを誘います。権力を持っても弱いのが拓ボンなので、ヤクザ(岩尾正隆)を柔道場で制裁しようとして逆にやられたりと絶好調です。これぞ拓ボンなのです。

 そして黒岩はこんな調子なのでヤクザの志賀勝を撃ち殺して転属になった過去があります。去年まで一山いくらの大部屋だったのに、渡哲也と銃撃戦ができる身分になったのがピラニア軍団の権勢を物語っています。

 そして、室田日出男に至っては黒岩の同期で警部補になった日高として準主役です。この二人の関係性がいいのです。しかし、詳しい話はBL的解説の方に譲ります。

 その他八名信夫、曽根晴美、福本清三など、ピラニア軍団ではないですがお馴染みの面々もちゃんと揃っています。深作欣二はやっぱり彼らが可愛いのです。


府警対組織暴力

 この警察署の腐敗ぶりは凄く、署長の赤間(金子信雄)は西田組の親分の杉(藤岡琢也)との宴席に黒岩を連れて行って懐柔を図ります。

 喧嘩をすると盆(賭場)が立たないという杉の言い分がリアルです。ヤクザにとって喧嘩はあくまで最終手段で、無暗に喧嘩をしていては商売ができないのです。

 杉は山城組との勢力争いに備えてに黒岩を味方に付けようとしますが、「警察の褌で相撲取るようなみみっちい真似せんとけよ」ときつーい一発をかまして首を縦に振りません。

 おまけに若本の親分で西田組の実力者の岩田のタボ牛(梅宮辰夫)なる男に殴り倒されて危うく喧嘩という一触即発の状態になってしまいます。

 子分への非道な振る舞いに岩田は「極道にも赤い血が流れとるんじゃい」と実に親分らしい事を言って頑張ります。こういう上司を持ちたいものです。


ヤクザなんてなりたくない

 こんな上司なので尽くしたいと思うのは人情で、若本と明は黒岩を『蒲田行進曲』でも見かけた病院の見える踏切で襲撃します。

 勝てるわけがないのでたちまち二人はのされてしまいますが、こういう場合親分の名前を出すことは許されないので、あくまで自分達だけの考えでやったと言い張ります。

 親分を庇いたいばかりに二人は野球場での発砲の件を白状して若本の母親の君代( 菅井きん)のやっている飲み屋に預けてある拳銃を三人で取りに行きます。

 黒岩もまさか母親の前で刑事とは言えないので「旅の兄さん」と名乗ったのが間違いの元でした。

 君代は拳銃を黒岩に渡して陽気に酔っぱらいながら親子の不幸な身の上とその成り行きで若本がヤクザになってしまった事を話し、最後には親子喧嘩になってしまいます。この菅井きんの演技が見事です。必見です。

 感状的になって暴れる若本に黒岩は同情してしまい、拳銃を知り合いの堅気に頼んで落とし物として交番に届けさせるよう指示して二人を開放します。

 泣きながら感謝する二人。小林稔侍は健さんの子飼いなので任侠映画のテイストが入ってしまうのです。しかし、好き好んでヤクザになる者ばかりではないという悲しい現実は間違いなく実録です。


キックボクシングという興行

 岩田はキックボクシングのジムを経営しています。格闘技興行は例外なくヤクザとズブズブですが、キックボクシングというのは戦後になって日本で作られたものなのでもう成り立ちその物がヤクザなのです。

 当時ははキックボクシングは黄金時代で、毎日どこかしらでゴールデンタイムに中継があるような時代でした。つまり金になったのです。

 ゾンビのようにタフで当時の人気選手だったロッキー藤丸が特に必然性なくリングでスパーリングをしていて、良い位置にクレジットされているのが色々と物語っています。映画興行もまたヤクザとズブズブだったのです。

 ちなみにこのロッキー藤丸のリングネームはスタローンの『ロッキー』から取ったと思っている人がキックボクシングファンにも多いですが、実は映画より先です。


恐怖のマル暴

 二人に恩を売った黒岩は、西田組の賭場を荒らす金井(曽根晴美)という山城組系のヤクザを二人の協力で追い込みます。

 賭場の荒らし方というのは色々ありますが、金井のやり方は一番穏当かつ確実な方法で、拳銃をカタに金を借りるというものです。断ればぶっ放すということです。

 金貸しの事務所にいると二人の備考で知れたので黒岩は踏み込んでいきますが、そこには警察OBで署にもよく出入りしている寺光(佐藤慶)の姿が。

 この金貸しは寺光の経営で、社員も全員元マル暴で山城組のフロント企業なのです。佐藤慶が悪徳金貸しというのはちょっと似合い過ぎです。

 マル暴のデカが金貸しになるのも、警察OBがヤクザのフロント企業を経営するのもよくある話ですが、こういう事件の繰り返しで段々黒岩は警察を信用できなくなっていきます。


タランティーノも納得
 黒岩は殺した志賀勝の女房の初江(八木孝子)とデキています。あいびきするホテルで『東京流れ者』が流れているのが笑いどころです。

 この初江というのが所詮は志賀勝の女房なのでとんでもないオメコ芸者で、自分の店が欲しいなどと無茶を言うので二人の仲は冷え切っています。

 そこへ現れたのが西田組の若頭の姐さんで組の中枢にいる啓子(梶芽衣子)です。抗争で身動きが取れないので、鳥取の刑務所に入っている亭主の松永(今井健二)に面会に行きたいので手引きをしてほしいと頼みに来たのです。

 「あんたの顔見たら気狂いよるかもしれんで」という黒岩の言葉が実に説得力があります。

 ヴィスコンティでもノンケに走るレベルの一番美しい時期の梶芽衣子です。面会なんて行ったらその晩の松永の同房の囚人は全員切れ痔になっちゃいます。

 しかも持って行った話というのが、若頭不在で困るので岩田を若頭に引き上げたいという嫌な話題だったので松永は半狂乱です。

 「この淫売、ド朝鮮」と凄まじい事を言って看守に取り押さえられてしまいます。

在日コリアンの憂鬱
 啓子は父親が朝鮮人なので苦労をしてきたのです。これにはさすがに啓子もショックを受け、鳥取砂丘で酒を飲んで荒れます。

 黒岩も満州からの引揚者なので啓子の気持ちがそれなりにわかります。二人は結局鳥取砂丘の波打ち際で傷口を舐め合う仲になってしまうのです。

 そういう事になったので二人はたちまち接近し、黒岩は啓子から白いスーツを贈られて、西田組と山城組との手打ちの披露に招待されます。

 ヤクザの披露に警察が招待されるというのが当時の警察行政を物語っています。それが普通だったのです。

 二人が披露の席でイチャイチャしているのにまたも吹き上がってしまったのが若頭を飛び越えて組長代行に引き上げられた岩田です。

 何しろ梶芽衣子です。多少の危険は何とするというわけで、二人はたちまち大喧嘩になります。

 大慌ての杉をしり目に手打ちの仲介に立った九州の親分衆が大喜びで焚き付けるのが笑いどころです。『ダイナマイトどんどん』でも紹介したヤクザの地域性が如実に表れています。

 そして、二人はタイマン張ったらマブダチというわけで仲良くなってしまい、岩田が呼んだ外人の姉ちゃんを抱いてノーサイドです。

 黒岩は岩田のシノギを手伝う仲に雪崩れ込み、ついには岩田は「混じりけなしの朝鮮人」である事をカミングアウトして兄弟盃をします。ヤクザと警察とは衝撃的です。

 この映画の言う所の民族問題はこの程度です。それでも画期的ではあったのです。


全員悪人
 しかし、この件がバレて黒岩は謹慎を言い渡されてしまいます。言い渡すのが本部長役の大島渚です。ヤクザ映画が好きだから引き受けたそうですが、何故好きだったのかを話すのは『御法度』かもしれませんね。

 西田組と山城組の抗争は深作作品特有の無駄にダイナミックな銃撃戦で景気を付けて最終段階に突入します。

 杉がついに逮捕され、出費と刑務所が嫌な杉は岩田を売ってしまいます。しかし、岩田は身を隠していて居場所が知れません。

 そこで寺光は黒岩をとっ捕まえて麻薬を打って居場所を吐かせ、岩田は逮捕されます。

 岩田は警察との癒着をぶちまけてやると徹底抗戦の姿勢でしたが、なんと留置所で暗殺されて口封じされてしまいます。そりゃあ大阪府警も怒ります。

 岩田を裏切ってしまった形の黒岩を啓子は殺そうとしますが上手く行かず、やけになって二人でヘロイン打って爛れたセックスの後に最終決戦です。この演技こそ梶芽衣子です。

 黒岩は警察署に乗り込んで寺光を射殺し、追って来た日高に撃たれ、稽古に抱き起されながら日高にしてやったりとばかりVサインをして息絶え、『くちなしの花』をバックに波打ち際で戯れる黒岩と啓子の姿で映画は終わります。

BL的に解説

岩田×黒岩
 何と言ってもこの警官とヤクザという許されざるロミオとロミオこそがこの映画の最大の肝です。

 黒岩は最初は冷酷非道な暴力刑事であり、ヤクザなど殺しても別にいいというスタンスでした。

 一方、岩田は任侠道をよくわかっていて、それぞれ不幸な生い立ちを背負った大事な子分を無神経に攻撃する黒岩が許せません。

 岩田は黒岩を見つけるや否や殴りつけます。そして若本たちが借りを作っても「いつでも返したるさかい好きな時に請求書持ってこいや」と強硬姿勢です。

 その一方で黒岩は警察という組織に嫌気がさし、若本たちと触れ合うにつれてヤクザもまた人間であるという事に気付いて態度を軟化させていきます。

 啓子の件でついに殴り合いになってついにお互いの強さを認め合い、お互い貧しい境遇で喧嘩ばかりして育ったことを知ります。

 そして岩本は言うのです。「喧嘩もようやったがセンズリもようかいたな」とド下ネタで距離を縮めにかかります。私はどうにも共感できないのですが、二人に言わせると喧嘩の後はもよおすのだそうです。

 そして岩田は「センズリ兄弟」を宣言し、外人の姉ちゃんを呼んでダブルでお祭りをおっぱじめるのです。ヤクザの射肛もとい社交の基本。間接ホモセックスです。

 そしてひとしきり女を楽しんだ後、岩田は寝ている黒岩に拳銃を突き付けて「おまはんに惚れたさけ命貰いたいんや」と凄まじい求愛をします。

 黒岩も黒岩で「お前にやったらやるよ。好きなようにせい」と言い切ってしまいます。もう外人女などコンドームでしかありません。これから二人きりで、黒岩は岩田に好きなようにされてしまい、真の意味で兄弟になるのです。

 二人は「黒さん」「岩さん」と石原軍団スタイルで呼び合う仲になり、岩田は啓子を松永と離婚させて黒岩と引っ付けようと提案します。

 相方の表の幸せを壊さないのが良いホモカップルの条件です。13歳から売春で食ってきたという啓子が気の毒だし、黒岩なら相手に良いだろうと思ったのも事実なのでしょう。

 しかし、承知するなら兄弟盃をという交換条件を出します。なんのことはない、啓子もコンドームなのです。梶芽衣子は世界一コンドーム扱いの似合う女優かもしれませんが、贅沢なカップルです。

 そして朝鮮人である事もカミングアウトします。岩田にしてみれば一世一代の告白なのでしょうが、ヤクザの半分くらいは在日コリアンである事をマル暴の黒岩が知らないはずがありません。

 それに、国籍などこの際意味を持ちません。愛の前に国境などプレイの道具にこそなれ障害にはなりえないのです。

 そして二人は組員たちを見届け人に略式ながら兄弟盃をしめやかに執り行います。盃は実質セックスです。「死ぬまでの付き合いやで」と岩田は言いましたが。黒岩は嘘をつきました。死んでも二人は兄弟でした。

 しかし、この件が問題になって黒岩は謹慎を食らってしまいます。岩田は責任を感じてしまうのです。良いカップルです。

 しかし、寺光に麻薬を打たれて黒岩は岩田の居場所を吐いてしまいます。そして岩田は黒岩の憎む警察に暗殺されるのです。

 黒岩はボロボロになって岩田の葬式に駆けつけて涙ながらに詫びます。しかし、杉は自分で岩田を売っておいてけんもほろろの扱いです。

 そして黒岩は麻薬で岩田を裏切ってしまった後悔から寺光を殺します。そして悠々と立ち去り、日高に無抵抗に撃ち殺されて息絶えます。

 もっと急げばもう一回鳥取砂丘で啓子といい事できたのに、そうはしませんでした。ここで殺されたかったのです。黒岩は愛に殉じたかったのです。やっぱり梶芽衣子はコンドームなのです。けど大丈夫。タランティーノが拾いに来ます。さもなきゃ私が。


岩田組ホモ集団説
 岩田組の結束力は特筆すべきものです。若本も明も岩田に心酔しきっています。不幸な生い立ちを抱えた自分達を拾って育ててくれた岩田に絶対の忠誠心を持っています。

 また、そんな子分たちが岩田は可愛くて仕方ないのです。だから黒岩を初対面でいきなり殴り倒すという狂気の沙汰に出たのです。

 そして二人は黒岩を襲撃します。親父の為に死ぬ。それはヤクザにとってペー打ってセックスする以上の快感なのです。

 しかし、二人は黒岩に助けられ、涙ながらに感謝し、黒岩の心もまた氷解していきます。二人は黒岩の為にも命を張れるとあの時思ったのです。そして黒岩はオジキになりました。これは二人にとってもうれしい事だったはずです。

 だからこそ、明は黒岩が許せませんでした。まさか麻薬で吐かされたとは知らなかったとはいえ、葬式の席でドス持って黒岩に襲い掛かるとは相当です。

 小林稔侍は健さんの小姓であったという噂が昭和の昔からが根強くありますが、こういう精神的ホモの入った芝居に強みを見せるのは説得力を上積みさせます。

 大体、キックボクシングというシノギもなかなか怪しいものがあります。そもそもキックボクシングはムエタイに勝つ為に空手家が作ったものです。タイと言えばムエタイとニューハーフ。日本に負けず劣らずのゲイの先進国なのです。

 細かい事を書くと投下予告を大幅に超過するのは明白なので後の機会に譲りますが、タイのボクサーにゲイが少なくないのは事実です。そして、舞台になっている大阪ミナミは二丁目より奥深いゲイのメッカです。


日高×黒岩
 黒岩はモテモテです。特に日高は絶対黒岩が好きです。そうじゃないと色々と説明が付きません。

 日高が抗争を担当するために所を訪れて黒岩を見つけた時の嬉しそうな事。同窓会で初恋の人を見つけた時のようです。

 黒岩の方は日高の事を何とも思っていないようですが、日高は明らかに黒岩が好きです。一緒に鍋で再会を喜び、今じゃ上司と部下というのに「四課(マル暴)の畑じゃお前が先輩や」と黒岩を立てます。

 そして「昔のコンビを復活して西田組をぶっ潰してやろう」とウキウキです。この二人のコンビの刑事ドラマなら私は是非見たいですが、黒岩はもうヤクザサイドに心が傾いているのでこんな提案に乗るはずがありません。

 そして初江との仲に言及し、責任をって結婚しろと揺さぶりをかけます。黒岩は「警部補になったらそんな事も調べないかんのか」と怒り出します。

 これについては日高にも同情すべき点があります。まさか梶芽衣子に乗り換えようとしているとは思わないでしょう。もうあんなオメコ芸者顔も見たくないというのが黒岩の本音なのです。

 決裂しそうなので日高は「四課に残すも外すも俺の考え一つなんやぞ」と上司パワーで引き留めようとしますが、これで応じるくらいならもう二人はデキちゃってます。

 しかし、日高は何かにつけて黒岩を気にかけるのです。そして岩田と杯を交わしたことを怒ります。怖い顔してます。完全にホモのジェラシーです。

 その後黒岩は潜伏中の岩田に会いに行きますが、それを日高は付けていました。「誰に会ってきたんや」と言う時の表情がこれまたホモのジェラシーむき出しです。

 そして無線で署に連絡しようとした日高をあろうことか黒岩は殴り倒して片を付けます。まあ室田日出男じゃ槍を持っても勝てるか怪しいので当然黒岩が勝つわけですが、日高はこの件を上に報告した様子がありません。

 みっともないからと言うのもあるでしょう。しかし、本心は違うはず。そう、黒岩を守る為です。もう黒岩が岩田とズボズボの仲なのは明白。しかし、自分の愛が叶わないとしても、惚れた弱みで黒岩を売るようなことはやっぱり日高には出来ないのです。

 しかし、日高のあずかり知らぬところで事態は大きく動き、黒岩は寺光を殺す為に署に現れます。

 すべてを白状しろと寺光に迫る黒岩ですが、寺光は「薬でも使うとるような様子やな」と白々しく嫌味を言います。

 これに真っ先に反応したもの日高でした。そして黒岩を危険を承知で追いかけたのも、射殺したのも日高でした。半泣きで黒岩と向き合う日高。室田日出男の迫真の顔芸の前には、やっぱり梶芽衣子はコンドームなのです。


寺光×黒岩
 寺光はなぜあんなに黒岩に執着したのか。やっぱり歪んだ愛があったのでしょう。

 そもそも『大都会シリーズ』では裕ちゃんは実は外部協力者(記者や警察医)でしかなく、軍団のボスは佐藤慶なのです。

 特に第一作の『大都会 闘いの日々』では深町軍団(深町は佐藤慶の役名)と呼んでいたくらいなのです。ここに創造の余地が色々と産まれるのです。

 大体寺光がマル暴だけの金貸しをやっているというのも実にホモ臭い話です。ヤクザとマル暴が人間として近似していくとするのなら、ヤクザの必修科目であるアンコカッパをマル暴が知らないわけがないのです。

 つまり、寺光は会社と大奥を兼ねた寺光軍団を抱えているというわけです。そこらの警察署と比べ物にならんデカの地獄部屋だそうです。当然入社面接は深夜に及ぶわけです。

 黒岩を寺光は気に入っていたように思えてなりません。金井を追いかけて来た時も「君の勇敢さは高く評価しとるんだよ」と十万円くらいくれました。

 これは寺光の求愛行為である事は言うまでもありません。安月給の警官なんてやめて俺達といい事しようぜというわけです。ヤクザとの繋がりはともかく、有能な警官にこの手のヘッドハントはありがちな話です。

 しかし、黒岩は貰った金を燃やしてしまいます。そして「枠にはまるのはド好かんのや」とアナーキスト宣言です。この時、寺光の心の中で嫉妬の炎もまた燃え始めたのです。

 寺光も元は腕利きのデカです。電話を盗聴されているのに気付き、黒岩を捕える事に成功するのです。

 そして、岩田の居場所を吐かせるために拷問します。手錠で縛り付けて殴る蹴る。これは役得です。どうせ薬があるんならこんな事に手間をかける必要なはないのですから。

 そしてついに薬の出番になります。ドイツ軍が捕虜の自白に使うために使った新型のヤクだそうです。普通にシャブでもヘロインでもいいのにそんな大層な薬を使うのはもちろん寺光のどす黒い欲望の為です。

 自白した後は古式に則り「下の口にも聞いてみよう」というわけです。「岩田とどっちがいいかね?」とか聞いちゃう。男の本懐です。

 思えば佐藤慶くらいゲイのサディストの似合う役者は稀です。それに役者なら一度はホモをやってみたいものと言っていたくらいなので、こういう機会にやってみない手はないのです。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

『東京流れ者』(★★★)(連続レビュー)
『仁義の墓場』(★★★★★)(連続レビュー 前作)
『実録外伝 大阪電撃作戦』(★★★★★)(弟の似たような映画)
『県警対組織暴力』(★★★★★)(こっちにも出る予定だった)

ご支援のお願い

 本noteは私の熱意と皆様のご厚意で成り立っております。

 良い映画だと思った。解説が良かった。憐れみを感じた。その他の理由はともかく、モチベーションアップと資料代他諸経費回収の為にご支援ください。

 こんな汚れの物書きにも赤い血は流れているのです。



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