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第20回 脱獄広島殺人囚(1975 東映)

 コロナによる非常事態宣言はようやく終わりました。その間にこのnoteを軌道に乗せるという目標は見事に外したわけですが、これで条件付きとはいえ喫茶店で煙草を吸いながら生姜焼き定食を食べて碁を打っていても社会的に許されるようになったのは嬉しい限りです。

 思えば自宅待機期間は刑務所で過ごす気分でした。幸いまだ入った経験はありませんが、こんな暮らしはもう御免です。いわばこの宣言解除を持って私は出所したのです。

 というわけで、この事を記念して新シリーズ「木曜は脱獄」と称し、私の大好きな松方弘樹の出世作となった「脱獄シリーズ三部作」を紹介いたします。

 生憎私は初手に「ショーシャンクの空に」を選ぶほど上品でも「網走番外地」を選ぶほど素直でもありません。それにBL的映画鑑賞に欠かせない東映のヤクザ映画が不足していたので、ここで巻き返します。

 記念すべき第一作「脱獄広島殺人囚」をお送りします。最高に頭の悪いタイトルですね。所謂脱獄モノは打率の高いジャンルですが、その多分に漏れず、東映らしくの下品と暴力とエロでどぎつく味付けされた松方弘樹の為にあるような傑作です。

 戦後の荒れた刑務所を舞台に脱獄に次ぐ脱獄を繰り返し、アホな理由でその度捕まる松方弘樹演じる植田のギラギラとした演技。恐るべきはこの映画は実話が基になっていることです。そして刑務所モノにつきもののホモも必要以上にしっかり抑えられています。

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真面目に解説

脱獄というロマン
 刑務所に入ったあかつきには私も一回くらいは脱獄を試みたいものですが、今の日本では脱獄など年に1件あるかどうかです。アメリカでは毎年千件単位で脱獄が起きると言いますから、日本は素晴らしく治安の良い国です。

 治安が悪いのは犯罪者が多いという事であり、刑務所の収容率が高いという事であり、刑務官の負担が増えるという事であり、刑務所の環境が劣悪になるという事であり、脱獄の発生率が高まるという事です。

 従って、戦後の日本では脱獄は珍しいものではありませんでした。法律を守ってヤミ米を拒絶した判事が飢え死にし、刑務所は満杯で保釈金さえ積めば出してもらえたような時代です。

 恐るべきは、今作は実話が基になっている実録映画である事です。『仁義なき戦い』の広能のモデルとなった美能幸三氏の知り合いで、脱獄を繰り返しながら都合十八年刑務所で暮らしたというイカレた男が今作の主人公の植田のモデルになりました。

 植田は悪友の田上(渡瀬恒彦)と麻薬密売に手を染めていましたが、取引相手をもめた挙句射殺し、20年の刑を打たれたのを振り出しに、脱獄と逮捕を繰り返す、話の中身はそれだけです。

 実話だけに脱獄の手段は雑で、せっかく脱獄しても信じられないアホな理由ですぐ捕まるのです。それはもう信じられないほどアホです。利口な人間は刑務所に入らないのです。

 モデルになった人物はやがて脱獄を辞め、仮釈放を待って出所し、保護観察中にこっそりスタッフが会いに行って今作は作られました。


恐怖のカンカン踊り
 刑務所の作業場と房舎の出入りの際には身体検査が行われます。ここで行われるのが我が国の刑務所文化を象徴する「カンカン踊り」です。

 全裸で刑務官に両手足の裏表を見せ、同時に舌を出しながら自分の番号を大声で唱えて何も隠していないか調べるのです。最近廃止されたそうですが、これは囚人にとって耐え難い屈辱で、これが嫌で逮捕より自殺を選ぶ前科者も居るくらいです。

 しかし、囚人はカンカン踊りをやらされても煙草くらいは刑務官の眼を盗んで簡単に持ち込んでしまいます。その手口が描かれますがほとんど芸術です。こんなことを考え付くくらいなら刑務所に入るなという話ですが、人間とは所詮愚かなものです。


極悪公務員
 東映映画はアナーキーなので、官憲は常に極悪人として描かれます。今作も例外ではありません。

 刑務官は凶暴で横柄です。何かといえば囚人をリンチし、規則を曲げて嫌がらせをし、そのくせ袖の下は平気で受け取る外道です。

 思えばあんな大変な公務員も居ません。24時間営業で大量の犯罪者を相手し、扱いを間違うと襲われます。ヤクザの「お礼参り」の相手は警官より刑務官にずっと多いのです。

 刑務官は他の公務員より給料が良いのに、なり手がなくて多くが親も妻の父親も刑務官という事実上の世襲なのが全てです。

 植田は医者を襲撃してわざと古びた独房に入り、便所の穴を広げて汲み取り口から腰を痛めながら無理矢理出るという力業で最初の脱獄を成功させます。神戸の妻の昌代(小泉洋子)の元には刑事(八名信夫)が張っていますが、食糧難のさなか食事をたかって迷惑がられています。

 植田は昌代の元に舞い戻ってきつーい一発をエンジョイします。松方弘樹の真骨頂です。そして植田が庇ったおかげで娑婆に居る田上に頼んで拳銃を仕入れ、神戸に行くなと忠告されますが、植田はアホなので神戸に戻って片岡千恵蔵の映画なんか見に行っちゃいます。

 通報されて拳銃を持った警官に取り囲まれますが、植田は人混みの中なので撃てないと計算してその場を乗り切ろうとしますが、進駐軍が駆けつけて来るやあいつらは平気で撃つと察して投降します。

 進駐軍の横暴はそこら辺のお年寄りでも身をもって知っていますが、植田がアホだか利口だかわからないのがリアルです。そしてこんなことをやって加算される刑がたった1年3か月なのが当時の日本の治安と刑務所の過剰収容を物語っています。


刑務所の娯楽

 刑務所で娯楽は限られます。食事が最大の娯楽というのが表向き、裏に回れば非合法な娯楽があるわけです。

 一つが煙草。酒は我慢できても煙草は我慢しがたいというのが両方好きな私の持論です。刑務所に煙草が非合法に持ち込まれて通貨として流通するのは国と時代を問わない話です。

 火の調達方法が印象的です。箒の針金を布団の綿で包み、電球ののソケットでスパークさせて火を点けます。これを称して『オリンピック』とはよく名付けたものです。

 そして博打です。野球中継に食事を賭けて遊んでいたところ、無神経に刑務所が野球中継を中断したのがストーリーを動かします。

 刑務所には碁盤や将棋盤が置いてあるものです。作中描写はないですがこれも当然賭けの対象になります。というよりも、この手のボードゲームは本来が賭博です。というわけで、職業柄人生の数割を刑務所で過ごすヤクザは碁将棋が強い人が多いのです。

 そして最後はお待ちかね、セックスです。一昔前まで自分で致す行為は陰部摩擦罪と称して懲罰の対象になったそうです。その一方で同性愛が蔓延するのが刑務所のリアルです。これについては性別不問なのは『女囚さそり』あたりでご確認ください。詳しくはBL的解説の方に譲ります。お楽しみに。


刑務所のヒエラルキー

 人が二人集まれば争い、三人集まれば差別が産まれると申します。当然刑務所にも有形無形のヒエラルキーがあります。

 その頂点に居るのは表向き刑務官ですが、裏では常にヤクザがその地位を脅かします。刑務官が法の執行者にあるまじき行いをしていた場合にはもう凄い事になるわけですが、そうでなくても所謂牢名主としてヤクザは囚人を支配する立場にあります。

 実録映画らしく特に必然性なく登場する親分衆が囚人を支配しています。植田もビビる迫力を持ち、懲罰覚悟で植田を助けてくれる岡田(若山富三郎)、捨てた恋人(勿論男)に付きまとわれる富松(遠藤太津朗)、岡田なき後悪政を振るう意味もなく名古屋弁の前戸(小松方正)と、無駄に豪華でアクの強い連中が揃っています。


刑務所式出世術
 若手ヤクザにとっては刑務所は名前を売る為の仕事場でもあります。植田は特定の親分を持たない愚連隊ですが、それでも脱獄を繰り返すうちに一目置かれる存在になります。

 そんな中、野球中継の件で怒った末永(梅宮辰夫)という囚人が監視塔の刑務官を拳銃を奪ったうえで立てこもり、所長の今津(金子信雄)に土下座とカンカン踊りをさせ、この件を不問に処すことを条件に投降します。

 所長は金子信雄にしては潔くこれに応じてカンカン踊りはしますが、そこは金子信雄なので司法取引は反故にして末永は懲罰房に入れられます。

 この件で植田は末永を気に入り、二度目の脱獄の仲間に引き入れるのです。二度目の脱獄は岡田の捨て身の援護もあって成功しましたが、二人とも時同じくして結局は刑務所に戻されます。この時の加算もやっぱり少ない1年4か月。

 岡田の権力に割り込んで台頭したのが前戸です。前戸は有名人となった末永にしつこく絡み、末永は暗殺されかけます。

 植田は末永が傷が治り次第報復を狙っているのを察知します。舐められっぱなしではヤクザとしての沽券に関わるのです。

 しかし、刑期が二十年が百年になっても同じと植田が先回りし、前戸を刺し殺します。これは高くついて8年でした。前戸も親分だけあって度胸があり、応戦の姿勢は見せましたが、喧嘩はよりイカれている方が勝つのです。従って松方弘樹に勝てる相手は東映には何人も居ません。

 これは役者としては大切な事です。松方弘樹の父親である近衛十四郎はそりゃあもう殺陣が上手い人で、座頭市に出た際も近衛十四郎は斬られないだろうという理由で引き分けになったほどです。こういうイメージが物事を決定付けるのは役者に限った事ではありません。

 しかし、前戸の舎弟の吉原(伊吹吾郎)が植田が報復を宣言します。兄貴分が殺されて黙っていてはヤクザとしてやっていけません。ヤクザの喧嘩は血のバランスシートとはよく言ったものです。

 吉原は筋金入りの極道なので正々堂々と決闘を提案しますが、植田はこれは勝てないと悟り、風呂で刺し殺して決着を付けます。そう、イカれている方が勝つのです。これで7年加算されます。しかし、無駄に豪華なキャストです。


悪乗り黄門様

 格さんがかくして使い捨てされたわけですが、今作は黄門様も出てきます。西村晃演じる物資調達の上手い老囚人小島は今作の大物たちの中では一番長い尺を得ました。

 その腕を買われて末永と植田と一緒に脱獄させて貰い、盗んだ鶏に当たって三人仲良く野糞をした挙句、進駐軍のトラックをヒッチハイクしようとしてひき殺されてしまいます。

 中島貞夫とは古い仲であり、まだ黄門様になる前なのでこんな下品な役も引き受けてくれました。本来こういうのが専門の人なのは『南国土佐を後にして』でも話した通りです。

 黄門様もそういう傾向が覗きますが、悪乗りする(誉め言葉)タイプの役者なので、こういう役の方が光るのです。小沢昭一とキスしたり、去勢された女房持ちのヤクザなる変態的な役をやったり、それが西村晃の本当の姿なのです。


刃物は使いよう
 二度目の脱獄は田上の協力を得ました。刑務官に賄賂を掴ませて昌代の弁当を植田に食わせます。海老天の中にはノコギリが隠されていました。

 普通の脱獄モノならこれで鉄格子を切るわけですが、油で揚げたせいで刃が鈍っていて鉄格子が切れません。皆様も刃物は油で揚げないように気を付けましょう。こんな映画で鍛冶が学べるとは思いませんでした。

 結局窓枠が古いのを末永が見抜き、三人して一週間がかりで鉄格子を回して窓枠を壊し、ようやく二度目の脱獄となります。多分この辺はほぼ実話です。


ピラニアは肉を食う

 三人は野糞の後で別れ、植田は唯一の肉親である妹の和子(大谷直子)を頼って愛媛に落ち延びます。和子は戦争で亭主を亡くして困窮し、近所の三国人に裏山を貸して細々と生計を立てています、

 室田日出男、川谷拓三、志賀勝のピラニア軍団のビッグスリーが演じる三国人たちは、裏山で牛を鑑札無しで殺して解体する所謂「密殺」を行っています。

 牛を殺せばそれは牛肉です。当然闇市に持って行けば高く売れるわけですが、正規の手続きを踏むと闇市には持って行けません。そこで密殺と相成るわけです。もちろん盗んだ牛もこのように処理されます。

 『大阪電撃作戦』でも見せた胡散臭い訛り初めて人に演技を褒められたという室田日出男、高知県出身というバックボーンを活かして土佐弁の川谷拓三、もう存在が面白い志賀勝の三人が本当に牛を解体するのです。これが東映でありピラニア軍団なのです。

 ところがこいつらはピラニア軍団だけにケチで、一頭何千円の儲けが出るというのに和子には十円しか渡しません。しかも室田は和子とちょいちょいヤッているようです。大谷直子と十円でとはなんと羨ましい話でありましょうか。それだけ三国人は戦後幅を利かせていたのです。

 植田はブチ切れて三人組を叩きのめします。喧嘩はイカれた方が勝ちますが、ピラニア軍団はどんなにイカれていても無条件に負けるのが東映の力学です。

 かくして植田はリーダーとなり、牛の手配まで自分で初めて大儲けします。本当にこの人たちはこんな関係だったので実に決まっています。

 和子は和子で「鬼の兄ちゃんと鬼の妹やもんね」などと言って札束を数えてウキウキです。漫画アニメには決して登場しない形態の妹萌えです。

 手懐けた三人と一緒に顔を血まみれにしながら牛の解体をするシーンは大河ドラマで主演を張った直後とは思えないギラギラとした迫力に溢れています。そして植田はアホであり、松方弘樹なので女郎屋できつーい一発をエンジョイしますが、喧嘩騒ぎを起こして逮捕されます。

 しかし警官を殴り倒して逃走、橋の下で手錠を叩き壊します。田舎の手錠はヤワだそうです。犯罪を犯す予定のある方は覚えておいて損はないでしょう。

 そして旧家に逃げ込み、飾ってあった鎧兜を着込んで隠れるという奇策で切り抜けようとします。一旦は成功したのに気を抜いて脱いだところを捕まり、今度こそ刑務所に戻されるのです。


とにかくギラギラする松方
 吉原殺しで革手錠をはめられて地下房に入れられた植田ですが、アルマイトの食器を曲げてとがらせ、手錠を切ってしまいます。そして見回りにきた看守(名和宏)を200キロの本マグロをヒットさせたときのような不敵な笑みで待ち構えています。

 「お前は人間じゃない」と怒る名和宏に植田は「相手をするお前も人間じゃない」と毒づき、挙句は千枚通しで名和宏を切りつけ、殺人未遂で4年加算されてついに刑期は40年の大台に突入します。

 しかし、植田はやっぱりアホで松方弘樹なので、裁判所で表に女が居るのを見て突発的に脱走を決意し、警備を振り切って逃げ出すのでした。

 本当に今作の松方弘樹はギラギラしています。というのも、当時の松方弘樹の境遇はギラギラせざるを得ない物でした。

 この年の大河ドラマ「勝海舟」は渡哲也主演でしたが、その渡哲也は病気で降板。代演として時代劇スターとして売り出した直後に時代劇が衰退するという不幸に見舞われて暇していた松方弘樹に白羽の矢が立ちました。

 大河ドラマは拘束期間が長く、ギャラが安いので実は嫌がられます。そこで東映は終わったら主演映画を一本作ってやるという褒美を用意して送り出しました。

 そうして今作は作られたのです。一番客が入らない12月の公開だったのは東映のケチさですが、かくして松方弘樹はハングリーさを爆発させ、大当たりした今作はシリーズ化し、松方弘樹はヤクザ映画で大々的に売り出すことになったのです。


鬼の妹
 どうにか植田は逃走に成功して和子の元へ舞い戻りますが、和子はもう出ていくと怒っています。女郎屋で捕まるような恥さらしをして、おまけに人まで殺してというのが理由です。女郎屋で捕まった方が先に来るのがポイントです。鬼の妹らしい倫理観です。

 室田が植田を警察に売り、植田が今まさに飯を食べようとしているところに警官が押しかけてきますが、和子はたまらず棒きれで警官を殴りつけて逃走を助けます。手つかずのお膳を観て悲しそうな顔をする和子。密殺を不問にするという条件で植田を売った室田ともども逮捕されてしまいます。

 山狩りが行われ、植田は木材運搬用のロープウェーにぶら下がり、川に飛び込んで追っ手をまくことに成功。飛び込む部分以外はノースタントだったそうです。さすがに根性あります。

 大根をかじりながら線路を歩き、煙草の吸殻を見つけて火を点けるべく線路を石で叩きつつ映画は終わります。世界一下品な『スタンド・バイ・ミー』です。

BL的に解説

刑務所とホモ
 刑務所映画にはホモがつきものです。それは『ショーシャンクの空に』だってしっかり描かれました。

 スティーブン・キングも腰を抜かすほど下品かつリアルに今作は刑務所のホモの実態をクローズアップしています。オープニングからして若者が掘られて便所に駆け込むというBLには決して描かれないリアルな濡れ場がばっちり描かれているのです。

 ここでBL作者の皆様に覚えておいていただきたいのは、刑務所とヤクザの間では攻め受けを称してカッパ・アンコと称するということです。この辺をしっかりと抑えているBLにほとんどお目にかかったことがありません。

 当然ヤクザは性処理の為にアンコを沢山飼うわけですが、これには実利的な理由もあります。娯楽など何もない環境下で掘られ続けたアンコは多くの場合女性相手には不能になってしまうのです。

 こうなると人に馬鹿にされるのです。その汚名を雪ぐためにカッパの言われるまま人を殺し、決して白状しない殺人マシーンになるのです。

 この辺は拙作『焼け跡の薔薇』でも描いたところですが、有名な親分はこういう絶対服従なアンコを何人かは飼っているものなのだそうです。ヤクザの世界で刑務所で杯を貰ったという話はよくありますが、こういう裏事情が入っている事が多いのです。さあ、これであなたも実話誌をBLとして読む技能を手に入れました。

 植田のモデルになった人物も200人近く掘ったそうです。機械用のグリスをくすねてきてローションに使ったというエピソードは残念ながら映像化できませんでした。

 そして、彼が脱獄を辞めた理由は恋人ができたからだと前述しましたが、それは当然男の恋人でした。男同士の愛は子供は産めませんが平和を産むのです。


植田×田上
 『大阪電撃作戦』には伏線があったのです。そもそもこの映画は渡瀬恒彦の兄貴の不始末で作られたのですから意味深です。

 田上はヤクザにモルヒネを売ろうとしますが、逆にヤクザに殺されそうになり、そこへ植田が駆けつけてヤクザとその愛人を射殺し、一人で罪を被って刑務所へ行くのです。

 一回目の脱獄で昌代ときつーい一発をかました植田は大阪の田上を頼り、拳銃を仕入れてもらいます。「秤に乗らんほど借りがある」とは田上の弁です。

 男がいける口で渡瀬恒彦にそんな貸しがあって、掘らない手はありません。こうして二人の絆はますます深まっていくのです。なればこそ賄賂まで用意して田上は二度目の脱獄にも手を貸してくれたのです。二度目の脱獄を最後に昌代は映画から姿を消します。男をすっかり覚えた証拠です。


岡田×植田
 愛する田上の忠告を聞かず、神戸に舞い戻って捕まった植田は、刑務所に戻されて狂犬のように暴れます。

 そんな植田を岡田は煙草を与えてなだめようとしますが、植田と来たら恨み言を言って聞く気配がありません。

 すると岡田は植田に水をぶっかけ、「どたまぶち切ったろけ」凄んで黙らせます。流石は天下の若山富三郎で大変な迫力です。植田もすっかり参ってしまいます。

 そして二人は懇意になり、植田は騒動を起こした末永を同じ房に移してくれと岡田に相談します。それだけの権限を岡田は持っているのです。

 脱獄の決意を知り、岡田はこの申し出を了承します。しかし、タダで引き受けるようなお人好しでは親分にはなれないでしょう。

 ここにお越しの皆様は『ゴールデンカムイ』はお読みになっておられるでしょう。漫画史に不朽のものになるだろう伝説のホモエピソード『親分と姫』の親分のモデルは誰あろう若山富三郎です。植田が今回の姫なのです。

 そして二度目の脱獄を計る三人組。しかし、塀を上るのにもう歳の小島が手間取り、危うく見つかりそうになります。

 ここで同房の囚人(カップルアリ)を叩き起こして見守っていた岡田は捨て身の援護に出ます。件の火をつける「オリンピック」をやるのです。これをやると一時的に停電します。出所を前にして岡田は懲罰を受けますが、その間に三人は脱獄に成功します。

 これ程の事をしてやる理由が愛の他にありましょうか?看守たちに殴る蹴るのリンチを受けながら、親分は姫への愛に思いをはせるのです。たとえその愛が冥府魔道に続いていようとも。


前戸×末永
 二人は結局刑務所に戻ります。すると岡田の勢力衰退の間に前戸が台頭しています。そして前戸は末永を呼びつけます。

 「これから毎日俺の肩揉んでや」と訳の分からん要求をする前戸。勿論これに応じるほど末永は安い男ではありません。しかし、前戸は末永を暗殺しようとします。

 前戸は何故そこまで末永に執着したのか?言うまでもなく恋です。可愛さ余って憎さ百倍という奴です。男のジェラシーは醜いものです。

 末永が応じたとしてどうでしょうか。最初は肩を揉ませる前戸ですが「前もあんませい」と言って股間のしゃちほこのマッサージも強要するのは明白です。

 「信長公と蘭丸もこうしたんでよ」とか何とか言って末永を掘るのが最終目標です。ういろうのように甘美な恋の始まりです。


植田×末永
 植田は刑期が今更伸びても同じと前戸を殺します。しかし、あのアホの植田がそこまでするのは何故か?これも勿論愛です。

 そもそも梅宮辰夫は共演女優に手を出すので悪名高かったのですが、策に窮した東映はカルーセル麻紀と共演させるという裏技で対抗しました。それでも辰兄ぃは平気で口説いたという川浜フィフティーンが聞いたら幻滅するような伝説があります。そりゃあ松村雄基もきーちゃんに走ります。

 この事件はアンコの取り合いと考えれば合理的に説明が付きます。刑務所でこの手の痴情のもつれからくる事件は実際少なくありません。

 二人は共に協力して脱走し、連れ野糞までした文字通り臭い仲です。二人の間に肉体関係があったとして何ら驚くことはありません。

 とすれば前戸は俺の末永を取ろうとした挙句殺そうとした。殺害動機としては十分です。二人の愛の前にはクラウディアもコンドームでしかないのです。そりゃあアンナもグレます。


前戸×吉原

 殺された前戸の復讐を誓うのが舎弟分の吉原です。『京阪神殺しの軍団』では梅宮辰夫と伊吹吾郎は恋敵でしたから非常に意味深な取り合わせです。

 吉原には植田を殺さないわけにはいかない理由があるのは前述のとおりですが、BL的理論に基づけば勿論舎弟などというものは盃だけでなく肉体でも結ばれているのは言うまでもありません。

 そして、伊吹吾郎が近頃本性を隠さなくなってきたのも重要事項ですが、これは安売りできないので別の機会にとっておきます


富松×松井
 全く必然性なく挿入されたカップルがありました。しかも悲恋です。富松は松井を捨てたのです。

 しかし松井は諦めません。煙草と「捨てられたあなたの小鳩は小さなハートが傷んで餌も食べないのよ」などという凄まじいラブレターを贈り、色目を使って気持ち悪く微笑むのです。若宮浩二の役者人生のハイライトはここだと私は確信しています。

 松井は刑期が短いので、遅かれ早かれ富松とは別れることになります。しかし、富松を忘れることはできないのです。そうして男を覚えてしまった人は二丁目ではかなりの勢力を持っています。

 ちなみに富松演じる遠藤太津朗おっさん同士のロミオとロミオと名高い『県警対組織暴力』で松方弘樹の親分となり、刑務所ですっかり腑抜けになって田中邦衛をアンコとして連れ帰ってきて、子分の松方弘樹と室田日出男は頭を抱えます。『ドーベルマン刑事』でもガチホモ作曲家役(明らかに古賀政男がモデル)をやって印象を残しました

 それだけならともかく、本物だという疑惑さえある凄腕のBL役者です。遠藤太津朗はホモジゴロ、これをよく覚えておいてください。


お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

脱獄三部作
『暴動島根刑務所』
『強盗放火殺人囚』

『大脱走』(★★★)(スタイリッシュな脱獄)
『実録外伝 大阪電撃作戦』(★★★★★)(松方弘樹×渡瀬恒彦)
『兵隊やくざ』(★★★★)(大映式脱獄)
『県警対組織暴力』(★★★★)(松方弘樹と遠藤太津朗が…)

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