第26回 強盗放火殺人囚(1975 東映)

 今回で「木曜は脱獄」の最終回です。東映映画の常としてシリーズを追うごとに過激化の一途で、今回紹介する『強盗放火殺人囚』という最高に頭の悪いタイトルの一本で打ち止めとなります。

 当初は『強盗放火強姦殺人囚』という更にえげつないタイトルでした。東映らしさが爆発しています。あの『新幹線大爆破』が悪い意味で大爆発してしまったので東映は切羽詰まっていたのです。

 監督脚本が前作までの中島貞夫・野上龍雄のコンビから山下耕作・高田宏治と変わり、作風も随分変わってしまっています。何しろ松方弘樹演じる緒方は仮釈放を待つ模範囚なのです。

 大コケして東映の尻に火をつけつつシリーズ終了と相成ったそうですが、この映画にも良いところがあります。脇の役者が光っているのです。そりゃあもう東映らしくホモ臭く胡散臭く黒光りしています。

 その一方で前作までの松方弘樹のキャラを引き受ける形で脱獄と殺人を繰り返す凶悪犯、若山富三郎演じる三宅が事実上の主演として登場し、バディ物としての側面が強くなっています。バディ物、それは即ちBLです。しかも若山富三郎です。面白くないはずがないのです。

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真面目に解説

せめてなりたや仮釈放
 性欲と反骨精神のみで行動していた前作までの松方弘樹と違って、今作の緒方は殺人で刑務所には入ったものの、真面目に真面目に懲役を務める模範囚で、間もなく仮釈放になる運びです。

 これまで説明してなかったので説明しておくと、仮釈放と言うのは模範囚に与えられる特権で、刑期の途中で出所させて貰えるというものです。

 仮釈放を貰おうとすると大変で、他の囚人を統制するくらいの器量が必要になります。汚い事も多少はやらねばならず、緒方もヤクザの前河(岩尾正隆)と組んで、刑務所で印刷を委託された医大の試験問題を横流ししています。

 そして妻の幸代(ジャネット八田)を大事にしています。面会で仮釈放が貰えそうだと夫婦で大喜びし、大阪城みたいなでっかい家を建てると出来もしない約束をしちゃいます。

 ジャネット八田では当然と思うかもしれませんが、じゃあ小泉洋子や賀川雪絵はどうしてあんな雑な扱いだったんだという話です。作り手が変われば価値観も変わるのです。そして私は小泉洋子がいい。


恐怖の刑務所医療
 刑務所の医療はおぞましいものです。あんなに勇ましい人権団体も囚人の人権についてはまともに考えてはくれないのです。

 医療とは緊急を要するものですが、刑務所では医療にもしゃくし定規の規則が悪意を持って厳格に運用されるのです。

 緒方の仲間の黄(前田吟)という囚人が盲腸になりますが、看守は取り合ってくれません。刑務所で盲腸になったら死刑も同じというゾッとするような事がさらっと語られます。

 結局緒方が前河に頼んで黄は命拾いしますが、刑務所の嫌さの表現も作り手が違うと変わってくるものです。

 そんな矢先に緒方の仮釈放が決まりかけますが、あんなに喜んでいた幸代が身元引受人になるのを拒否したことから話がややこしくなっていきます。


東映のヒトラー
 ここで緒方は松方弘樹らしさを取り戻し、脱獄の決意を固めて盲腸のふりをして病室に向かいます。命拾いした黄が「僕のがうつったのかな」等と言っちゃうのが萌えポイントです。

 緒方は模範囚なので医務室で三宅がアルコールをくすねたのを見とがめますが、殴り倒されて騒ぎになります。その間に医者に金を握らせて買収を頼みますが、これが通じては映画が終わってしまいます。

 課長のヒトラーこと菊地(菅貫太郎)にリンチを受ける緒方。「藤巻」と称してぐるぐる巻きにされ、ホースで水をかけられます。弱気で謝りながらリンチを受ける松方弘樹は新鮮です

 以後、この菊地は絶対悪として立ち回ります。もっとも、菅沼太郎は善人役をやっても最初は悪役から入るくらいの悪役俳優なので当然です。


物言わぬピラニア
 ピラニア軍団もすっかり東映の顔になり、ますます扱いが良くなっていきます。中島貞夫はピラニア軍団の村長ですが、山下耕作も御意見番なのでやはり彼らが可愛いのです。

 岩尾正隆だってちょっと地味ですがピラニア軍団です。松方弘樹より優位に立てる役に就けるほどにピラニア軍団の存在感は増していたのです。

 室田日出男は今回はお休みですが、志賀勝が特に強烈です。この人は見た目の押出しの強さの代わりにあまり芝居の出来る方ではありません。

 それを逆手に取り、口のきけないヤクザという無茶な役で存在感を発揮します。同じ口のきけない囚人(蓑和田良太)に面会に来て手話で会話して、規則違反だから筆談しろと怒られたりしちゃいます。看守に分からない言葉で会話するのはNGという刑務所のリアルです。

 以後は緒方の敵役に回りますが、手話と筆談と唸り声だけで強烈な印象を残します。ピラニア軍団が出世していく様を観るのが東映実録映画の影の楽しみ方の一つです。

 出世頭の川谷拓三はもっと印象深く、黄の義兄弟の文という在日コリアンを演じます。二人とも見事な韓国語を話します。胡散臭い訛りで在日コリアンを演出していた室田日出男の立場がありません。

 もはや準レギュラーの『ニューシネマパラダイス』に登場した韓国人の友人に鑑定させたところ、これなら韓国でも通じるとのことでした。しかし、障害者や在日コリアンをこんなに悲壮感に乏しく描いた映画も珍しい。

 文は黄の命を助けてくれた緒方の脱走の手引きを韓国語で頼み、ヒトラーの官舎用に作らせたタンスの中に緒方を隠して官舎へと出すのです。


肉食女子ますみ
 官舎にはヒトラーの嫁さんの敏子(春川ますみ)が居ます。登場と同時に死亡フラグです。囚人を奴隷扱いし、総桜作りの立派なタンスを2000円で買っておいて金を払うのを渋る『トラック野郎』で見せた良妻賢母ぶりとはえらい違いの嫌な女です。

 緒形はタンスの中から敏子に襲い掛かり、人質に取って台所に籠城して幸代に会わせろとヒトラーに要求します。

 緒形は模範囚とは言え松方弘樹なので、逃げようとする敏子に欲情してきつーい一発をかまします。幸代が到着したというのに、一発が終わるまで待たせるのが流石の松方弘樹です。

 幸代はヤクザに脅されて身元引受人になる事が出来なかったことが判明しますが、この代償は高くつき、仮釈放を取り消されてリンチを食らいます。

 この件は前河が糸を引いていました。試験問題は医者のバカ息子に高く売れるのです。前河は所詮は岩尾正隆なので緒方に喧嘩で圧倒され、仮釈放の為に組長に賄賂を積むように強要しますが、これでどうこうならないのは明白です。


トミー大暴れ

 策に窮した前河は、脱走8回殺人6回で懲役48年の日本記録保持者という三宅を酒で釣って暗殺させようとします。6人も殺して死刑になってないのが不思議です。

 三宅は何しろ若山富三郎なので恐ろしく強く、残忍な笑みを浮かべつつ緒方の首を締めて熱い焼却炉で手を押し付け、焼却炉に放り込もうとします。その顔の凄まじい事。これぞ若山富三郎です。えぐい芝居は弟より上手です。

 幸い途中で止めが入りましたが、緒方だってだって松方弘樹なので、三宅をハンマーでぶん殴って痛み分けの形で勝負は終わり、二人仲良く手錠でつながれて懲罰房に入れられます。ヒトラーの保安課長としての手腕のほどが知れる措置です。

 案の定緒方は三宅から手錠をしながら小便をする方法を教わったりして親交を深めてしまいます。のんきなBGMが笑いを誘います。


護送車は危険

 一方娑婆では前河の親分の藤本(遠藤太津朗)が入試問題の横流しで大儲けの最中です。一人1500万円で売っています。しかし、日本の医療に不安を覚えさせる映画です。

 そんな中に緒方暗殺が失敗したという報が入り、何やらよからぬ相談を始めます。手話でまくしたてる志賀勝がキュートです。

 緒形と三宅は持て余されて他の刑務所へ移送されることになりました。しかし、そこを藤本の子分たちが襲撃してワイルド極まる抹殺を企てます。トラックでぶつけられてひっくり返される護送車。脱獄モノの一つの型です。

 危険人物の移送だけにそれなりの刑務官を用意したらしく、阿波地大輔が血まみれになりながらも頑張り、手錠を外そうとする二人に拳銃を突き付けます。しかし阿波地大輔なので限界があり、逆に緒方に射殺されて物凄い顔で息絶えます。

 この人は松方弘樹の父親の近衛十四郎の弟子なので、松方弘樹の映画には結構良い役で出てきます。怖い顔が気に入られたのか、あの『ブラック・レイン』にも出ていました。

 とどめを刺しに来た組員に拳銃を乱射して緒方は錯乱気味ですが、三宅は慣れているので看守の財布を抜け目なく頂戴し、緒方に弾を無駄にするなと警告する余裕さえあります。そして「ワイが面倒見たる」と師匠宣言です。


悲しい浦島太郎
 三宅は常習犯なので逃走用の服と拳銃を近くに隠していました。しかし、刑務所に入ったのが20年も前の昭和20年の大晦日なので軍服です。無駄に似合っています。

 貨幣価値が変わったのも知りません。完全な浦島太郎状態です。刑務所に長く入っているとよくある話です。あなたの知り合いに出てきたばかりのヤクザが居るなら、スマホを見せるとびっくりすることを請け合います。

 ここからはもう若山富三郎の可愛さがフルに発揮されます。テレビに興味津々で、自分たちの手配写真が映ったのを観て「これ俺、あれお前」などとはしゃいじゃいます。


オッパイで客が入る
 二人は銭湯に行きます。のんきに軍歌を歌ってくつろぐ三宅ですが、緒方は実は幸代に連絡を取っていました。番台の下で再開する二人。幸代は「一緒に言ったらあかんの?」などと可愛い事を言って金を渡して去っていきます。

 そこは松方弘樹なので、ついでに覗きをやらかして番台の婆さんに怒られてしまうのが笑いどころです。

 そこへ誰かから通報されたらしい刑事が踏み込んできます。着替えを持って女湯に逃げ込む二人。前にも言いましたが、オッパイで集客できた時代なのです。

 幸代以下都合よくきれいな姉ちゃんばかり入っている湯船に飛び込んで刑事が撃てないようにけん制し、幸代が刑事を湯船に引きずり込むというナイスアシストの間に逃走に成功します。残念ながらジャネット八田のおっぱいは拝めません。


瞼の娘
 二人はお遍路スタイルで愛媛は今治に潜入します。お遍路に犯罪者が紛れ込んでいるというのは古くからある話です。

 孤児院に三宅の娘が居るというのです。目を瞑ると瞼に浮かぶと長谷川伸な事を言い、高峰三枝子のような美人だというのですが、若山富三郎から高峰三枝子が産まれるのはコペルニクスへの冒涜だと思います。

 孤児院で聞いてみると夏子というそれらしい子供が結婚して子供と暮らしているというので二人してスーツで訪ねていきますが、部屋で高峰三枝子どころかはおばちゃんが下品な姿で子供をほったらかして昼寝しているだけです。「二十年たてば鰹節でも腐る」という恐らくアドリブのコメントが光ります。

 子供の方に活路を見出そうとする二人でしたが、誘拐犯と間違われて大騒ぎです。そこへ本物の夏子(小泉洋子)が帰ってきました。おばちゃんは留守番だったのです。

 脇役専門ではありますが、小泉洋子と言えば当時の東映でも指折りの美人女優なので高峰三枝子と比べるのも納得ですが、どっちにしても若山富三郎の種で生まれてくるのはメンデルへの冒涜です。


20世紀ブラジル
 二人は再会を喜び、亭主(野口貴史)も加わって四人ですき焼きでお祝いです。夏子夫婦は裕福とは言えませんが幸福な家庭を築いています。野口貴史もピラニア軍団のくせに良き亭主です。

 三宅はブラジルでコーヒー農園を開いて成功し、緒方が秘書という設定で通しています。今では現実味がありませんが、当時はリアリティがありました。

 今や日系ブラジル人が日本のそこら中で見かけられますが、逆に当時を知る人ならブラジルやその他南米の国に移民した知り合いが必ず居るはずです。日本は貧しかったのです。

 向こうで成功して帰ってくるというのは当時のフィクションにおける肉親の再会の一つの型でさえありました。コーヒー農園というのはまさに定番です。実際そういう例が沢山ありました。

 緒形は長居を危険視して忙しいという事にして三宅と無理矢理帰ります。三宅は調子よく鉄筋コンクリートの家を建ててやるとできもしない約束をしてしまうのです。緒方も同じことをやっていたので二人が気が合うのは運命だったのでしょう。


愛の貧乏脱出作戦
 出来もしない約束をしてしまった三宅は金儲けの口はないかと苦悩します。馬鹿ですが娘への愛は本物なのです。

 緒形は藤本を試験問題の件で強請って金を取ろうと提案します。ヤクザ相手はまずいと躊躇う三宅でしたが、緒方の熱意と娘への愛で決行と断酒を決意します。

 ところがここで思いがけない問題が発生します。三宅は20年前に6歳で娘と別れたのに、夏子は22歳なのです。計算が合いません。

 コペルニクスとメンデルの理論が証明されて大笑いする緒方ですが、露骨にしょげ返って逆上して緒方の首を締めにかかる三宅。緒形は力負けして20年たてば少しくらいの狂いは出ると無茶なフォローを入れますが、だんだんと悲劇的な方向へ話は進んでいくのです。

 ご機嫌斜めの三宅は隣のうるさい宴会に殴りこみますが、悪い事に警察の宴会でした。柔道の得意な大前均にぶん投げられて危うく逮捕されそうになる三宅でしたが、緒方がアル中で病院から出てきたばかりと機転を利かせて切り抜けます。

 上手い事合わせて頭のおかしいふりをするのが若山富三郎全開で最高です。弟の勝新と違って下戸のはずなのに。

 警官たちもキ〇ガイなら仕方ないと今ならコンプライアンスに引っかかる同情の仕方をして解放してくれますが、一人が二人の正体に気づいてしまいます。しかし、二人は逃げた後です。

 三宅は若山富三郎なので無茶苦茶強いのですが、歳でアル中なので追っ手に捕まりそうになり、緒方は三宅を隠して大阪で落ち合おうと約束して単身大阪へと向かいます。


お待ちかねのきつーい一発
 三宅は刑事の眼を盗んでトイレから自宅に忍び込み、幸代と再会を果たします。三宅は待ち合わせに来ませんでした。

 ここで緒方は藤本が幸代を脅したことを知ります。そしてそのまま幸代のパンツを下ろしてきつーい一発をかましながら警察が手出しできない沖縄へ行こうと提案します。

 沖縄はまだ返還前なので、警察としては本当に手の出しにくい土地でした。西部劇のメキシコみたいな扱いです。しかし、大抵のアウトローはメキシコ国境を目前に死にます。

 松方弘樹はジャネット八田に本当に執心で、このシリーズにたびたびオファーを出していましたが、ようやく最後に実現したのです。松方弘樹はつくづく男の夢を体現しています。

 今までのコンドーム扱いの奥さんと違って幸代はなかなかのタマで、藤本の娘の令子(森田めぐみ)の大学を事前に調査して知っていました。

 「きっとインチキで入りよった」と幸代はなかなかきつーい事を言いつつ、緒方の浮気を心配します。女性の権利が前作までとはえらい違いです。

 緒方は「あんなハイカラ口に合わん」と一応幸代を立てますが、幸代は「あんたどの口でも合わすやないか」と実に良く分かっています。当時の春川ますみに合わせられて森田めぐみに合わせられないはずがないのです。


絶対悪の強弱
 夫婦は首尾よく令子を誘拐し、藤本をホテルに身代金を持ってくるよう電話します。遠藤太津朗の狼狽えぶりが見事です。この人も出てきたら即悪人と決めて大丈夫な役者ですが、金子信雄より小者扱いなので結構ひどい目に遭います。そこにこの人の真骨頂はあるのです。

 待ち合わせ先のホテルで緒方夫婦は令子をふん縛って待ち伏せていますが、案の定緒方は令子に欲情して襲い掛かります。この辺の期待を裏切らないのが東映なのです。スケベ丸出しでパンツをずりおろしてのしかかる緒方。しかし、きつーい一発は幸代に知れて先っちょだけに終わります。

 幸代は逆上して包丁を持ち出し「あんたを殺してうちも死ぬ」と大暴れです。今までのコンドーム扱いの嫁さん達とは格が違います。そしてそこへ藤本が到着して簡単に収まってしまうあたりいい女です。

 ところが藤本は札束ではなく新聞紙を持ってきて子分をけしかけます。しかし幸代がさっきまで亭主に向けていた包丁を令子に向けてナイスアシストです。こんな奥さんが私も欲しいものです。

 その隙に緒方も子分から拳銃を奪い取り、世界一汚い共同作業で形勢逆転です。藤本は本当に一千万払うと泣きを入れますが、緒方は藤本をぶん殴って二千万に増額を要求して車を走らせます。

 ところが緒方もやっぱりアホなので、勝利を目前にしながら車をぶつけて刑務所へ逆戻りする羽目になります。リンチの食らい損です。


嗚呼拓ボン
 緒方は懲りずに文と組んで何やら脱獄の支度を始めます。そして執行猶予で済んだ幸代が面会に来て、おっさん(三宅)が訪ねてきたことを告げます。大阪行きと間違って台湾行きの船に乗ってしまったそうです。画面に映らなくても富三郎全開です。

 そして緒方は幸代宛ての手紙を木賃宿に潜伏した三宅に託します。三宅も慣れたもので、何という事もない内容の手紙には炙り出しで「10日以内にやる」と書いてあります。炙り出しで連絡も刑務所モノの型ですね。

 そして大雨の夜に緒方と文は外に抜け出し、房の屋上からスパナを結び付けた縄を電柱に投げつけて固定し、縄を伝って脱獄を計ります。

 失敗して音を出したり、スパナが電線とショートしたりしてバレそうになりながらどうにか緒方は渡りましたが、文は縄がショートした電気で焼き切れて途中で落ちてしまいます。

 雨の中を血を吐いて苦しみのたうち回りながら捕らえられる文。これぞ川谷拓三です。このやられぶりで主演俳優に上り詰めたのです。この哀愁無くして東映の下品な映画は成立しえないのです。


嫁さんは大事
 塀の外には幸代と三宅が車で待ち受けていて、緒方は逃走に成功します。ところが、入試問題の件がバレて自殺者が出て大騒ぎになっています。

 買い主のバカ娘が入学はしたもののついて行けないので発覚したそうですが、藤本が黒幕なのはまだ知れていません。

 三宅は「えらいアホ娘のせいで地獄行きや」こぼしますが、幸代がこれに乗って緒方に「あんたも身に染みてるやろ」と本来の意味のきつーい一発をかまします。三宅はそれを見て大事にしたれと尤もな事を言います。


最後のピース
 当初のタイトルが『強盗放火強姦殺人囚』であったことは冒頭で述べましたが、強盗と放火はまだ出ていません。いよいよ最後のピースを回収すべく緒方は藤本の家へと向かいます。

 見張りの若い衆は三宅が問答無用で殴り倒し、そして緒方は家の周りにガソリンをまいて火を点け、悪代官スタイルで組員と情婦と一緒に海外逃走の算段をしている藤本を襲撃します。

 火を見て慌てて金庫を開けて金を持ち出そうとする藤本に二人が襲い掛かります。子分たちが応戦しますが、所詮は遠藤太津朗なので緒方に刺されて撃たれて見事に殺されます。こういう悪代官役はお手の物です。

 そこへ警察が駆けつけてきて、志賀勝が応対します。撃たれた志賀勝は血文字で「オガタ」と書いて警察に真相を注げますが、とっくに一行は金を持って逃げた後です。しかし三宅は腹に一発食らってしまいました。


最後はやっぱりコンドーム
 山狩りの行われる中を手負いの三宅を担いで逃げる緒方と幸代。三宅は自分を置いて逃げるように言いますが、緒方は拒絶して娘の事を持ち出して励まします。しかし、三宅はすきを見て姿をくらましてしまいます。

 遺された二人はパン屋のトラックを奪って検問を突破しますが、その直後に銃声が。緒方は三宅が警察に見つかったと悟り、金の一部と幸代を放り出して救出に向かいます。

 そして緒方は警官に取り押さえられた三宅を銃を乱射して救い出し、助手席に乗せて逃げ出します。三宅は息絶え、札束の散らばる運転席で検問を突破して何処かへ去って行って映画は終わります。

BL的に解説

三宅×緒方
 今回は珍しく松方弘樹が受けです。何しろ若山富三郎が相手ですから。この二人のホモレベルの絆が間違いなく今作の肝です。親分と姫のルーツです。

 出会いは最悪なものでした。酒に目の無い三宅がアルコールを盗もうとしたのを緒方がチクり、次は酒の為に緒方暗殺を企てて三宅が襲い掛かったのです。

 そして二人は仲良く手錠で繋がれて懲罰房行きです。BLの世界ではタイマン張ったらホモ達です。小便の仕方を指南された緒方にもはや三宅への敵意はありません。

 そして二人は移送中に襲撃され、阿波地大輔を殺して脱獄して特別な仲となります。緒方のおっさんは脱獄6回の大ベテランであり、殺しも慣れっこの歴戦の勇士です。ここに二人の主従関係が完成しました。

 緒形は幸代と対面しながらも一発ができずに逃走する羽目になりました。女のお預けはBL的にはフラグです。おっさんも女とご無沙汰なのは同じこと。主従関係も成立した今、緒方はおっさんにアンコにされることは避けられないのです。

 そして二人はお遍路へ向かいます。お遍路とは空海の行跡を辿る物であり、空海が衆道の開祖であるという俗説は江戸時代には一般常識でした。二人は当然お遍路宿で空海の足跡をたどるのです。

 スケベの緒方も夏子には手を出そうとしませんでした。何しろ小泉洋子です。私でもおっさんの眼を盗んできつーい一発を狙う事でしょう。しかし私より数段スケベなはずの緒方はそうしなかったのです。おっさんへの愛が伺えます。

 夏子がおっさんの娘でない疑惑の対応にもおっさん愛が見て取れます。いくら戦争で混乱していたとはいえ、年齢が20年で4歳も狂うはずがないのです。そうと分かっていても、おっさんの悲しそうな顔には抗えない緒方なのです。

 その後のおっさんの迫真のアル中芝居も二人がもはや命を預け合う特別な仲であった証拠です。そして緒方は捨てて逃げれば逃げられるものを、律義に三宅を隠して落ち合う約束をして逃げるのです。

 幸代も二人の仲には最初は協力的でした。緒方は女関係で何度となく幸代を泣かせてきたのが伺えますが、まさか男ならそんな心配もあるまいと幸代は思ったのでしょう。幸代は利口な女ですが、刑務所がどういう場所かまでは気が回らなかったのです。

 おっさんは刑務所の王者なので男関係はさぞ盛んであったことでしょう。緒方に幸代を大切にするよう忠告するように王者の余裕を見せます。女関係はノータッチがゲイのリアルです。

 強盗放火殺人で金の強奪には成功したものの、手負いのおっさんは自分を捨てていくように二人に提案します。

 おっさんは夏子は自分の娘じゃないと弱気ですが、家を建てる約束は守りたいので金を届けてやってくれと頼みます。しかし、緒方は夏子が欲しいのは金じゃなくてお父ちゃんやと泣かせる事を言います。

 松方弘樹くらいこの手の浪花節の似合わない役者は居ません。夏子を犯すのが本当の松方弘樹です。しかし、おっさんへの愛は主義主張を超越するのです。

 しかしおっさんはすきを見て姿をくらませてしまいます。「これで助かった」と現実主義の幸代に緒方はビンタを食らわせるのです。ここへ来て幸代もついにコンドームに格下げです。この瞬間女よりおっさんの優先順位が高くなったのです。

 そして緒方は危険を承知でおっさんを救出に向かいます。金の一部と一緒に放り出される幸代は「うちよりおっちゃんが大事なんか?」「赤の他人やないか」等と嫁として当然の権利を主張します。

 しかし緒方は「女のお前には一生分からへんやろな」とガチホモ宣言です。女のホモは居ません。ホモこそ最も男らしいのです。

 そしておっさんを見事救出した緒方ですが、おっさんは「何で幸代さんと一緒に行かんかったんや」と息も絶え絶えに言います。愛のシーソーがおっさんから緒方に傾いた瞬間です。

 おっさんは愛する緒方の事を案じつつも、緒方は自分の事よりおっさんが大事という構図です。純愛とはこういうものです。

 緒方は「ムショも地獄なら娑婆も地獄、どうせならほんまもんの地獄行こうけ」と鬼も逃げ出す愛の言葉を高らかに叫び、それを聞いたおっさんは息絶えます。冥府魔道へ向かって明日なきクライドとクライドが行くのです。

 そして緒方は松方弘樹特有のギラギラした表情で検問に突撃し、映画は終わります。まだエイズが存在しない時代の事です。もはや二人には幸代というコンドームさえ必要ないのです。

 幸代は不憫ですが、考えて下さい。ジャネット八田の亭主はミスタータイガースこと田淵幸一氏です。

 もはや氏の全盛期を知る人はお年寄りばかりです。多くの人にとって田淵と言えば『がんばれタブチくん』でヤスダといちゃつく姿か、もっとストレートに星野仙一や山本浩二といちゃつく姿しか思い浮かばないのです。つまり彼女は日常的にコンドーム扱いされているのです。道理で良い芝居をしているわけです。二人が幸せでありますように。


緒方×黄

 愛は国籍を超えます。ジャネット八田だってハーフなんですから。お隣韓国との国境など破れたコンドームも同じです。存在しないも同然です。

 黄にとって緒方は命の恩人です。本当は盲腸で死ぬところを、緒方が前河に借りを作って規則を曲げて助けたのです。

 いくら牢名主とは言え、そこまでする義理はないはずです。そう、牢名主にそんな義理はないですが、黄が緒方のアンコだとしたら?

 刑務所は驚異の女日照りです。婆さんの演歌歌手でも慰問に来た日には刑務所中のトイレットペーパーが底をつくと言われるようなところです。少しでも女性的な所を見れば襲い掛かり襲い掛かられるホモの魔境です。

 その点黄は優しいけどアホの子で方言属性持ちの萌えキャラです。前田吟のどこかおとぼけなキャラも相まって、実に刑務所で人気をしそうです。

 また、刑務所内で在日コリアンを「アリラン」と呼ぶことが知れます。アリランとは朝鮮半島の民謡ですが、一般には北朝鮮の盛大なマスゲームの方が有名でしょう。

 前田吟と言えばやっぱり『男はつらいよ』の博であり、博はさくらの亭主であり、さくら演じる倍賞千恵子は倍賞美津子の妹であり、倍賞美津子はアントニオ猪木の元妻です。

 猪木はいつものとにかくデカいことをしたい欲で北朝鮮でプロレスを開催しようとした際、先代の将軍様が寅さんの大ファンであり、自分が実質寅さんと義兄弟なのをフル活用して北朝鮮とのパイプを作りました。

 回りくどい事を言いましたが、要は刑務所のアリランは皆緒方の「喜び組」なのです。彼らと緒方は既に一線ではなく三十八度線を越えているのです。黄が掘られて奏でる魂のアリランが緒方のパイプカットミサイルを狂わせるのです。

 盲腸がうつったという頓珍漢な発言も、ホモ視点から説明ができます。当時の在日コリアン、まして刑務所に入るような人達は満足な教育を受けていません。当然病気への知識も乏しいのです。

 BL的には刑務所で一番多い病気は何と言っても痔です。緒方と仲の良い物は黄も含めて皆痔です。ここで黄は万病は伝染するという間違った事実に気づくのです。痔がうつるなら盲腸もうつるだろうという考えです。このアホの子ぶりが緒方にはたまらなくかわいく見えるのです。


緒方×文
 文は後から来たくせにもっと親密です。黄が緒方の相談を持ち掛けるや、お前の命の恩人だから何でもすると言っちゃいます。ん?今何でもするって言ったよね?

 文の協力で一旦は脱獄に成功しますが、結局緒方は刑務所に戻る羽目になります。妻に、ヒトラーに裏切られた悔しさを文の尻に向けるのは当然の帰結です。

 もう一度脱獄に成功しますが、結局これも失敗して刑務所に逆戻りです。怖い顔をして二人で脱獄用の縄なんて結っちゃいます。BL的には縄は性具であるのは説明を要さないでしょう。決行の夜までは夜な夜な脱獄とは別の用途に使って馴染ませたに違いありません。

 そして二人は縄と絆で結ばれて決行の夜を迎えます。緒方からまず逃げ、次に文です。しかし、文は縄が切れて落ちてしまいます。

 緒形は一人だけ逃げようと思えばできたはずなのに、文が逃げるのを律義に待っていました。そして文が落ちても、自分が看守に見つかるのを厭わず苦しむ分を見守り続けたのです。

 一方文も死にかけながらも緒方の事を案じています。もはや二人の愛はリスクを超越しているのです。

 松方弘樹は面倒見が良く、公私に渡ってピラニア軍団の面倒を見た事でも知られています。そもそもがピラニア軍団は薄い本の一冊は書ける集団なのですが、これについては後の為に大事に取っておきます。


ヒトラーホモ説
 ヒトラーコスプレの菅貫太郎がこの映画の象徴かもしれません。多分こいつはホモです。

 そもそもホースを体罰に多用するのが非常に意味深です。刑務所においてホースによる放水は体罰の定番ですが、ちょっと前に死者を出して大騒ぎになった有名な使用法があります。

 そう、ケツにぶち込むのです。下手をすると直腸破裂で死に至りますが、割と色んな国で聞くので刑務所では定番です。取材の過程で当然そういう体罰がある事は知れるでしょうし、映像にはなっていませんが緒方も食らっているはずです。

 そして嫁さんが春川ますみです。おばちゃんになった姿ばかり有名ですが、若い頃の彼女はストリッパーだけにそりゃあもうチャーミングで、いかがわしいお店向きの男好きのする身体付きをしたいい女でした。

 しかし、ヒトラーはそんな素晴らしいエヴァ・ブラウンが居ながら子供が居る気配がありません。そして敏子は緒方に犯されたというのに満更でもないのです。これはヒトラーホモ説の根拠としては十分です。

 そして二度目の脱獄に失敗して戻った緒方には当然壮絶なリンチが加えられます。ご丁寧に阿波地大輔以下殉職した三人の看守の遺影を用意して。

 よく考えて下さい。緒方自ら撃ち殺した阿波地大輔はともかく、他の二人については緒方に責任はないのです。阿波地大輔の件だって殺人そのものには情状酌量が付くはずです。

 言うなればこのリンチは殆ど八つ当たりなのです。リンチそのものはあって然るべきですが、緒方が出るところに出ればヒトラーは出世が遅れることでしょう。

 なのにヒトラーはなぜこんなリンチ大会を催したのか。死んだ看守たちを愛していたからです。俺の阿波地大輔を殺した緒方が許せないというのは動機としては十分です。ヒトラースタイルの菅貫太郎と阿波地大輔ではあまりに絵面が強烈過ぎますが、このゲテモノ感を楽しめればあなたはBL的映画鑑賞の名取です。

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