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第23回 暴動島根刑務所(1975東映)

 「木曜は脱獄」と称して前回紹介したシリーズ第1作「脱獄広島殺人囚」は実話をもとにしていました。つまり実録映画です。

 これが大当たりしたことで急遽シリーズ化したので、これ以降は実録ではなくなりました。その代わりスケールが無駄に大きくなっていきます。

 今回紹介する「暴動島根刑務所」は刑務所を挙げての大暴動がテーマです。洋画ではよくあるテーマなので元ネタを探す努力はしたそうですが、戦後に至っても日本は案外治安が良く、そういうケースは無かったようです。


 モデルが居ないという事は誰にも遠慮せず好き勝手出来るという事でもあるのです。下品さにターボがかかり、偏差値が大幅に低下(褒め言葉)しています。

 そして今作は松方弘樹と北大路欣也とのバディ物という側面が強くクローズアップされています。同い年で同時期に売り出された二人が喧嘩しながら逃げる。そしてバディ+脱獄はBLにならざるを得ない組み合わせなのです。

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真面目に解説

絶対悪金子信雄
 このシリーズはそれぞれストーリー上のつながりは全くありません。金子信雄は前作では所長でしたが、今作では吉成なる牢名主に転落しています。地元出身という事で幅を利かせています。刑務所のリアルです。

 松方弘樹演じる沢本に親切にしてくれた皆川という無期懲役(田中邦衛)を卑怯な手段で懲罰に追い込んだことから、吉成は沢本に作業場で撲殺されます。

 周りの囚人が取り囲んで刑務官を完璧にブロックするのがポイントです。人望の無さが伺えます。

 金子信雄という役者は料理を作っている時を除けば絶対悪です。西のナチス、東の金子信雄と言っても過言ではありません。この撲殺シーンは客席から大歓声が上がったと伝わります。

 沢本の殺し方が見事です。吉成が便所に入って身動きが取れなくなったところで襲い掛かるのです。便所は狭いので囚人のブロックも効果的というわけです。

 頭から鮮血を飛び散らせて吉成は死にますが、よく考えれば金子信雄が死ぬのはあまり見かけないので貴重です。若いものを犠牲にして生き残るのが絶対悪なのです。


暴れん坊とプリンス
 刑務官たちもフィクションなので容赦がありません。凶暴な連中が揃っており、沢本に殴る蹴るの壮絶なリンチを加えます。これをちゃんと受ける松方弘樹のギラギラした芝居は衰えていません。

 そして懲罰房に入った沢本に、牢名主で筋金入りの九州ヤクザである川村(北大路欣也)は皆川から差し入れられたという煙草を届け、激励の言葉を残していきます。

 川村は直後に内妻の昌子(橘真紀)を身柄引受人に仮出所しますが、殺した相手の組に情報が漏れており、報復の為の追っ手が三人駅に待ち構えています。川村は返り討ちにしますが、このせいで刑務所へ逆戻りです。

 今じゃ北大路欣也はすっかり大御所で犬のお父さんですが、若い頃は九州ヤクザなんてやっていたのです。

 この映画を観ても、松方弘樹より扱いが良いのに気付くでしょう。というのも、二人は同い年ですが生まれながらに格差があったのです。

 北大路欣也の父親は戦前の大スターである市川右太衛門。対して松方弘樹の父親は近衛十四郎。どっちも二世には違いありませんが、近衛十四郎は市川右太衛門の門弟なのです。この差は大変なものです。

 北大路欣也は「東映城のプリンス」として華々しく売り出され、一方松方弘樹は「東映城の暴れん坊」というキャッチコピーが付けられました。役の付き方も北大路欣也の方がやっぱり恵まれています。

 もっとも、二人に確執があったかというと全くそんな事はなく、父親の複雑な関係をよそに仲良く遊び歩いていたそうです。これはよく覚えておいてください。


ピラニアも大きくなる
 川村襲撃のリーダーはなんと川谷拓三です。駅で夫婦で大阪へ逃げようと襲撃しているところへ拳銃を突き付け、銃撃戦の挙句殺されます。

 最後に殺されるのはピラニア軍団の宿命ですが、北大路欣也相手にこれだけ見せ場を作って死ねたのですから、前作で牛の解体なんてしていたのを考えれば大変な出世です。

 『大阪電撃作戦』の回でも書きましたが、東映実録映画はそれ自体が拓ボンの出世物語なのです。最後は主演俳優になるのですから。

 ピラニア軍団のリーダー格である室田日出男も、鬼看守として横暴の限りを尽くします。組合活動に入れ揚げて一度はクビになり、覚せい剤で逮捕されたとは思えぬ権力の犬っぷりです。嫌味な小物こそ室田日出男の真骨頂なのです。

 ついでに言えば、川村の内妻役の橘真紀も「女ピラニア」と称してピラニア軍団の一員でしたが、あまり活躍の機会には恵まれませんでした。ホモソーシャルの極致である東映映画では残念ながら女はコンドームでしかないのです。

 志賀勝も出てきますがちょっと後です。顔が強烈過ぎて重宝される代わりに役が限られるのです。


囚人の戦術
 川村と比べて沢本は恐ろしく反抗的です。余りに暴れるので最後は誰もが嫌がる絞首台の掃除を申し付けられます。死刑は拘置所で行うので、刑務所に絞首台などないはずですが。

 血まみれの絞首台を掃除し、ふざけて首に縄をかけて危うくセルフ絞首刑をしそうになったりと、この掃除を通じて柄にもなく死というものについて考えた沢本は、釘を飲み込みます。

 健康な状態で病院に移されれば脱獄は簡単とされています。そして看守の反抗手段としては、ハンストと異物を飲み込むというのは常套戦術です。私も刑務所に入った折には一回やってみたいものです。

 しかし、そんな事はお見通しの室田日出男に死ぬほど芋を食わされ、釘は芋で固められて沢本の身体を傷つけることなくあくる日には出てくるのです。ちなみにこの映画、ウンコネタがやたら多いのは特筆です。


鬼看守
 もはや刑務所への気兼ねも要らないということなのか、今作での看守の外道ぶりは目に余ります。もっとも、善良な看守ばかりでは脱獄など起こりえないわけですが。

 川村の扱いがまず酷いのです。出所後の襲撃を恐れ、牢名主として囚人を制御する代わりにこっそり出所させるという約束があったのですが、いざ仮釈放となれば妻の昌子を保証人として呼び寄せ、せめて夜まで待ってくれという頼みにも応じず、松江駅は目立つからと他の駅に回ってくれという頼みも昌子が指輪を賄賂に差し出してようやく応じます。

 刑務所内で事故を起こされるのは出世に響くので困るというのは作中でも語られますが、後の事は知らんというのが刑務官の本音なのです。

 そして、この悪意に満ちたお役所仕事の一方で、リンチは規則を曲げて平気で行うのです。役人は悪、それが東映です。

 そして沢本は所長の官舎の掃除に使役されます。横暴である以前に危険だと思うのは私だけでしょうか?

 そして沢本は看守を殴り倒して所長の偉そうな奥さん(八木孝子)を強姦し、看守の制服に着替えて逃走します。しかし、靴は合わなかったのか裸足で。


濡れ場
 沢本は刑務所に入る前の根城だった徳山に逃げ込み、一緒にヤクザを殺して埋めた仲の江口(川地民夫)にかくまってもらいます。本シリーズの松方弘樹はアホで凶暴ですが、無駄に義理堅いので仲間は売らないのです。

 江口は妹のあき(賀川ゆき絵)をこき使い、進駐軍相手にシェパードの養殖行をやって羽振りの良い暮らしをしています。逃げ込んだ沢本は犬の餌をそうと知らず貪り食うのですから戦後日本の食糧事情がうかがい知れます。

 そして沢本はアホなので、あきと一緒にシェパードの交尾を観ていて欲情し、あきを手籠めにしてしまいます。犬の交尾がガッツリ映されます。そして処女のはずのあきがたちまち沢本のきつーい一発で調教されていく様も。東映の映画作りへの姿勢はこれが全てです。

 仲が知れて江口は怒ります。怒る理由がリアルです。捕まれば十年は食らう沢本は死人も同然だから惚れてはいけないというものです。山男にゃ惚れるな方式です。

 ヤクザの世界ではこれはよく聞く話です。亭主が長く刑務所に入っている間に待っていてくれる殊勝な女性はそうは居ません。お互い不幸になります。

 出て行ってくれという江口に沢本は逆切れし、有り金を奪ってあきと一緒に大阪へ駆け落ちします。

 所詮沢本はアホなのであきを働かせて遊び呆ける日々です。しかし無駄に義理堅いので、川で溺れている子供を引っ張ってもらっているとしか思えないスピードで泳いで助け、警察で表彰されてしまいます。

 最初は警戒していた沢本ですが、所詮アホなのでいい気になり「金一封付かんのか」などとのんきなことを考えています。案の定警察は沢本の正体に気づいて逃げる羽目になり、映画館の便所に隠れますが、そのせいでウンコを漏らした人の通報で結局御用になります。曰く「これが本当の雪隠詰め」です。


小指の思い出
 川村は昌子の為に少しでも早く出ようと真面目に懲役していますが、沢本は相変わらず池に飛び込んで徹底抗戦を宣言したりとアナーキーそのものです。

 そんな沢本に感動し、松崎(槙健太郎)という若者が指を詰めてプレゼントし、若い衆にしてくれと懇願します。

 沢本は若い衆などいらんと取り合いませんが、松崎と来たら出来が悪いから若い衆にしてくれんかと思ったと大喜びし、もう一本プレゼントです。10本しかない指だというのにまるで通販のオマケです。

 指を詰めるのは何かやらかしたかヤクザを辞める時と一般的に信じられていますが、本来は今作のように愛情表現として遊女が詰めて客に渡したのが起源です。松崎は古式に則っていると言えます。

 しかし、松崎の出番はこれっきり、まったく必然性がありません。多分前作のモデルの人から聞いたエピソードの余りでしょう。


公務員の悲哀
 一方川村は看守のリーダー格の加島(佐藤慶)と飯を食いながら密談しています。

 出世と保身しか考えない所長(伊吹吾郎)のせいで看守が舐められていると加島は不満顔です。あんな大学出に何がわかるとコンプレックスものぞかせます。

 キャリアと現場の対立は刑事ドラマの一つの型ですが、こんなアナーキーな映画で刑務官バージョンが見れるとは思いませんでした。飯と仮釈放が餌なのがしっかり東映ですが。

 しかし、川村は一回裏切られているので「課長さんの約束は信用しとらん」と協力を拒否します。約束を守ることの大切さは本物の極道なら心得ているものです。このせいで事態はややこしくなっていくのです。


無期懲役の悲哀
 田中邦衛演じる皆川は生きて刑務所を出られる見込みのない中、新しい生き甲斐を見つけました。豚の飼育です。富良野に逃げる伏線はこんなところにあったのです。

 ここで話の分かる所長なら飼育を拡大して囚人の更生に役立て、豚肉が島根刑務所の名物となるところですが、そんな看守がこんなタイトルの映画に出てくるはずがありません。

 一方加島は暴走し始め、囚人服から煙草の匂いがするといういちゃもん同然の理由で囚人たちを全裸でうさぎ跳びさせるという懲罰を行います。

 豚が潰されてはかなわないと皆川が愛する豚たちを助けに入ったことで大騒ぎになり、皆川は所長から養豚の中止を言い渡され、署長室の窓から飛び出して自殺します。

 所長は大卒で何も分からない奴なので、全囚人を謹慎と称して飯抜きにします。そして不満を爆発させた沢本は騒ぎ出し、注意しに来た看守にウンコをぶっかけるという暴挙に出ます。

 そして「飯よこせ」コールを始め、これが房内全体に波及します。一連の流れの中で松方弘樹がものすごく楽しそうな表情をしているのがたまりません。

 看守は沢本を見せしめにリンチしようと房から出しますが、看守を切りつけて人質に取り、川村の制止も聞かず鍵を他の房に投げ込み、この映画最大の見どころである大暴動に突入します。


刑務所革命
 ここからはもう収拾のつかない事態になります。何百人もの囚人と看守が入り乱れる様は黒澤映画並みです。しかし、世界のクロサワはこんな下品な映画を撮ろうはずがありません。

 看守は銃で事を納めようとしますが、囚人の方が数が多いので優勢です。やがて囚人たちがツルハシやスコップを手にしたところで完全に囚人ペースになります。

 看守の部屋に押し入って万歳を唱えてからはもうやりたい放題です。備品を破壊し、室田日出男以下捕虜になった看守は裸に剥かれ(間違いなく掘られている!)、医務室のアルコールを回し飲みし、どんどん刑務所を占領していきます。

 看守はバリケードを作って抵抗します。恐ろしくリアルです。というのも、この清華に出る世代は押し並べて大学で似た事をやっているからです。学生運動が世間の為になったという話は寡聞にして聞きませんが、この映画には少なくとも役立っています。

 炊事場には皆川の供養とばかり豚が持ち込まれ、皆でたらふく飯を食って大喜びです。知恵のある囚人は優勢のうちにで和平交渉をと沢本に提案しますが、沢本はアホなので聞き入れず、囚人たちは暴走の一途をたどるのです。


手打ちの難しさ
 良識派は川村の下にまとまって手打ちを模索します。しかし、囚人たちは書類と装備でキャンプファイヤーをしてとっても楽しそうです。ガラスを割って回る囚人、豚を抱いて恍惚とする囚人、監視塔の看守をおちょくる囚人、それぞれ思い思いに反乱をエンジョイしています。勿論男同士で愛に耽る囚人も居ます。そこは外せません

 看守たちは警察の応援を頼みますが、囚人は余計に意固地になって逆効果です。そんな中川村が所長と会談し、処罰をしない事とリンチの廃止を条件に手打ちをまとめることを約束します。

 川村は所長から念書を取り、これだけ暴れれば娑婆でも威張れるとヤクザらしい発想で囚人の説得を図りますが、囚人達は「何年刑を安くしてもらった」などと応じる様子がなく、結局暴力に訴えて承知させます。

 一方沢本は大阪でもらった表彰まで持ち出してアナーキーな演説を警察にぶっていましたが、川村の手打ちを聞いてすっ飛んでいき、取っ組み合いの喧嘩をおっ始めます。沢本はアホで凶暴ですが、川村は本物の極道なのでかろうじて勝利を拾い、勝利の雄たけびを上げます。


列車でGO
 しかし、東映映画で役人は絶対悪なので、沢本と川村を拘束して網走に送ります。簀巻きにされてトラックに載せられ、喧嘩をしながら駅まで送られる二人。

 そして中谷一郎と志賀勝が網走から迎えに来て、手錠をはめられた二人を列車で護送します。左利きの松方弘樹がちゃんと左手に手錠をはめられているのがポイントです。

 凄い組み合わせですが、何しろ網走には健さんやアラカンが入っているくらいなので、このくらいでないと看守も務まらないのです。しかし、水戸黄門率の高いシリーズです。

 二人は土壇場になって結託し、便所で中谷一郎を締め落として窓から逃走。鉄橋でレールに手錠を渡し、明らかに戦後のそれとは思えない汽車が通過するのを待って手錠を切ります。

 手錠をはめて逃げる時は線路で切る。これは一つの型です。私も脱走する機会があったら手錠はこう切りたいものです。

 沢本は川に落ちましたが、川村と切れた手錠をじゃらじゃらさせて一緒に喜び、泳いで去っていく所で映画は終わります。健さんとの夢の共演はありませんでした。

BL的に解説

沢本×川村
 このコンビのBLこそがこの映画の肝です。片や無軌道な愚連隊であり、アナーキズムがパイプカットをしたような狂人である沢本、片や筋金入りの極道であり、奥さんの為にひたすら耐える川村。こういう組み合わせはホモホモさせるに限るのです。

 吉成を撲殺した沢本に川村は一目置いていました。腐りきった奴を殺すというのはやろうと思ってもできないものです。極道としてのシンパシーを感じていたのです。

 懲罰房でいじける沢本に煙草を差し入れて励ますシーンはもはや入っていないだけでセックスです。差し入れ主の皆川のおっさんもコンドームでしかありません。

 しかし、その正反対の行動原理が大暴動にあたって衝突します。刑務所を乗っ取るしか娑婆に出る方法はないと言いつつ、闘争その物に意義を見出して暴れ狂う沢本に対し、川村はどうにか手打ちをして自分の刑を安くしてもらうのに必死です。

 結局拳で決着です。割とお行儀良い役ばかりやっていた当時の北大路欣也には珍しく醜く取っ組み合ます。

 しかし、看守が司法取引に応じるという考えが甘ちゃんでした。結局看守たちは念書まで取ったというのに約束を反故にして二人とも網走送りです。

 BL的映画鑑賞の鉄則として、タイマン張ったらマブダチならぬ、タイマン張ったらホモ達という物があります。二人の関係はこの喧嘩を機に明らかに変質をきたすのが見て取れるはずです。

 簀巻きにされて護送中に沢本に恨み言を散々言われ、川村は「女の腐ったこつ」などと言い返して喧嘩をおっ始めます。もはや完全に夫婦です。

 夫婦愛は網走へ向かう汽車の中で爆発します。先に手を出したのは川村でした。沢本なら乗るという計算があったはずです。逃走の意思、手錠、精神的ホモで結ばれた二人の前には中谷一郎など空腹のうっかり八兵衛程の力もないのです。

 そして山中を手錠の破壊を試みながらさまよう二人。大きな岩を見つけては意思で手錠を叩いて壊そうとしますが、上手く行きません。その苛立ちと刑務所での禁欲生活のうっ憤を発散する方法は決まっています。

 そして二人は線路で手錠を切り、大喜びして別れます。かくして二人の長い長い初めての共同作業が終わりました。壊れた手錠は二人のエンゲージリングなのです。身体は離れましたが、心はもはや永遠に離れません。


沢本×皆川
 皆川は沢本に良くしてくれました。何故か?下心に決まっています。『脱獄広島殺人囚』でも言いましたが、二人は『県警対織暴力』では遠藤辰雄の子分とアンコという関係になるのです。伏線はこんなところにあったのです。

 そしてそれを快く思わなかった吉成が皆川を陥れ、沢本は吉成を殴り殺して三年刑を加算されます。何故そこまでしたのか?愛に決まっています。世界一乱暴な今夜OKのサインに他なりません。

 そして二人は懇意になります。皆川も最愛の豚を沢本に披露し、一緒に飼育をやらないかと求愛行動を見せます。しかし、その直後に沢本は脱走します。

 刑務所に舞い戻った沢本は、考えて見れば皆川の自殺が基で暴動を起こしたのです。腹が立ったし減っていたのでしょう。しかし、その動機に皆川への愛がなかったと言いきれましょうか?何と言っても皆川の為に人を殺すのですから。

 今回は主題歌も歌っている歌の上手い松方弘樹の事です。暴動はそれ自体が皆川への鎮魂歌だったのです。皆川を追い詰めた看守を犯し、皆川の育てた豚を食う。それが供養になるのです。


沢本×松本

 沢本は特に必然性なく二本も指を差し出し、それきり何の影響も及ぼさずに消えました。モデルになった人のエピソードの余り説が真実だとすると、松本は当然美味しくいただかれているはずです。

 前回も話しましたが、この人は刑務所で200人以上のアンコを飼い、最愛の人を刑務所で見つけたことで脱獄を辞めたのです。指二本を差し出す松本が今度はケツを差し出して求愛するのは当然の流れです。


ゲイのサディスト加島
 暴動が起きた元凶の一つは加島の横暴です。あいつはどう考えてもゲイのサディストです。例えば、牢名主として利用してきた川村の仮釈放の約束を破ったのは意地悪以外の何物でもありません。何故そんな事をしたのか?勿論男のジェラシーです。

 一日も早く娑婆に出て奥さんと会う事ばかり考えている川村の事です。加島がケツ貸せと言えば差し出すに決まっています。しかし、身体は許しても心を許す川村ではありません。

 自分にケツを向けるばかりで振り向いてくれない川村に意地悪してしまう加島。小学生の男子と同じ行動原理です。男とはいつまでも少年の心を捨てきれないのです。

 一方加島は所長の三宅にも別方向の嫉妬の炎を燃やしています。現場の事も分からないくせに威張りやがってといじける加島。囚人の事なら痔の具合まで知っているのに、自分は所詮所長には勝てないのです。

 極め付きの危険人物である沢本を所長宅に使役に出したのも、沢本なら奥さんを強姦して逃げるという計算があったのではないでしょうか?所長の精神的ダメージは計り知れません。ゲイのサディストならではの発想です。

 沢本がその狂人ぶりでカリスマとなり、所内の風紀を乱し始めたのも加島にとってはチャンスです。川村に飯を食わせ、一緒に風紀を改善しようと復縁を持ち掛けます。

 所長への不満も川村に吐露します。囚人と看守という道ならぬ仲ですが、愛すればこそ弱みを見せることができるのです。しかし、川村は意地悪されたことを根に持ち、飯は食っても自分は食わせません。

 掘るばかりなのでケツの穴の小さい加島はこの一件以来暴走し、裸うさぎ跳びなどやらせて囚人に八つ当たりします。そして暴動に至ります。

 川村が手打ちの交渉に来た時も、話を聞こうとしない三宅をとりなしたのは加島でした。そして嫌がる所長を説得して念書も書かせます。

 そして川村に「これで一年は早く女に会えるな」などと減らず口を言います。手打ちが成功した暁には川村をまた掘れます。そして手打ちは加島の手柄になり、三宅にも優位に立てるのです。どっちも美味しくいただける薔薇色の計画です。

 しかし、ここで問題が生じます。沢本が想像よりイカれていたことです。沢本は川村が倒しましたが、その夜の看守による暗殺計画は失敗に終わります。

 二人の特別な絆が加島には見えていたに違いありません。そうなればもはや川村は諦めるしかないのです。だから二人は網走へ送られたのです。

ナマモノ注意

松方弘樹×北大路欣也
 二人は同い年で仲が良い一方で、父親同士が師弟関係にあったというのは前述の通りです。セットで売り出されたとは言っても、二人の扱いには無視できない差がありました。

 松方弘樹は役に恵まれない時期が続いた一方で、北大路欣也は千葉真一と役を入れ替えろというわがままを通せるほど(それも二回も!)権力を持っていたのです。

 市川右太衛門は元が歌舞伎役者なので格と上下関係にうるさく、近衛十四郎は息子とプールで遊んでいても市川右太衛門を見つけると駆け寄ってペコペコしていたという証言を松方弘樹は遺しています。

 梨園の師弟関係とはかくも厳しい物なのです。そして歌舞伎がその実高級ウリ専であった事はもはや常識です。

 市川右太衛門は誰それの息子という肩書を持たない門閥外なので映画に活路を見出し、天下御免のスターとなりました。掘られる(掘らされる)側から掘る(掘らせる)側に回ることに成功したわけです。近衛十四郎は迫られれば断れないのです。

 そして着目すべきは、松方弘樹は極度のファザコンであることです。ちっとも褒めてくれない父親に認めてもらうために役者業にまい進し、父親の死後はショックでマグロ漁師に転職しようとした程です。

 そんな松方にとって、師弟関係とはいえ父親がペコペコする様はショッキングであったに違いありません。

 そして二人は大人になり、一緒に馬鹿みたいに飲んで遊び歩く仲となります。そして酔った勢いで歪んだコンプレックスを吐露し、北大路欣也に迫る松方弘樹。

 片やパイプカットしたほどの暴れん坊松方弘樹。片や一般女性と大恋愛の末結婚して「欣也様」と呼ばせ、一緒に老人ホームに入っちゃう北大路欣也。勝負は最初から見えています。かくしてきつーい一発をかまされる。そういう夜があったとしても驚くことはありません。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します

脱獄三部作
『脱獄広島殺人囚』

『強盗放火殺人囚』

『大脱走』(★★★★)(西洋風)
『沖縄やくざ戦争』(★★★★★)(暴れん坊大暴れ)
『ダイナマイトどんどん』(★★★★)(プリンス大暴れ)

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