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第7回 ロッキー(1976・米)


 もっとも男らしいスポーツは何でしょうか?アメリカの事実上の国教のアメフト?女人禁制の相撲?日本一のホモの文豪も愛したボディビル?いや、ここはやはりキングオブスポーツ、ボクシングでしょう。

 ボクシングはノンケが変態の古代ギリシャには既に存在した最古のスポーツであり、鍛え抜かれた裸の男二人が激しく己をぶつけ合うスポーツです。これでホモにならないほうがどうかしています。女子ボクシングについては後の為に取っておきます。

 ボクシング映画にホモとくれば、答えは一つしかありません。そう「ロッキー」です。ご存知シルベスター・スタローンが筋肉モリモリノースタントでお送りする汗と精液とステロイドの匂いが立ち込めるアメリカンドリーム。一般常識としてロッキーくらいは見ておきましょう。

ロッキーを観よう!

 意外ですが執筆時点ではU-NEXTで字幕吹替ともシリーズ通して配信がありますが、他はAmazonで有料配信があるのみです。あなたの家の押入れのビデオを漁れば出てくるかもしれませんが。

真面目に解説

アメリカンオールドシネマ

 アメリカ映画はハッピーエンド。これは世界的な共通認識ですが、これに逆らう潮流が60年代の終わりから70年代半ばにかけてありました。所謂「アメリカンニューシネマ」と呼ばれる作品群です。

 当時のアメリカはベトナム戦争で国中がいじけていました。そういう時代にヤケクソな主人公がヤケクソな行動の挙句みじめに殺されるような、後味の悪い映画が流行したのです。それが「アメリカンニューシネマ」です。後味は悪いですが押しなべてホモ臭いのでお勧めです。

 ロッキーはスタローン自ら脚本を書いたのですが、最初はミッキーが試合前にアポロに黒人差別をかまして、ロッキーは失望して試合放棄するという嫌すぎる結末であったそうです。

 しかし、スタローンの奥さんの「こんなロッキー嫌いよ」の一言で書き直しが行われ、古き良きアメリカンドリームを大写しにしたロッキーに生まれ変わりました。この作品の登場以降アメリカンニューシネマは徐々に衰退に向かい、映画の中でくらいはアメリカンドリームをという流れに戻ります。

 しかし、「ランボー」は時期が外れていますが内容はアメリカンニューシネマに分類されます。スタローンは結構根暗なのです。そしてこの素晴らしい奥さんは後に「エクスペンダブル」されてしまいます。

格闘技世界一決定戦

 この映画にはベースになったエピソードがあります。ボクシングの神様モハメド・アリが、コミッションの規定で準備不足のまま防衛戦を開催することを迫られ、無名のチャック・ウェプナーを指名して楽をしてしのごうとしたところ、ウェプナーがこの毛ほどのチャンスに食らいつき、想像以上の善戦をしてアリを苦しめたのです。

 この試合に感動したスタローンはロッキーの脚本を書き上げたのです。そしてこの二人はどっちも後で金に困り、アントニオ猪木と異種格闘技戦をやります。それもまたボクシングの悲しい現実であります。

イタリアの種馬

 この作品で世界中に顔を知らない人がいなくなるスタローンですが、これ以前は極貧の下積み生活を送っていました。ペットの犬をセブンイレブンの前で売り、ポルノ映画に出演し(イタリアの種馬とはそのタイトル)、この直前には伝説のカルト映画「デスレース2000年」にイカれた悪役で出演しています。

 「デスレース2000年」の出演料はわずか5000ドル。B級映画を撮らせたら世界一のロジャー・コーマン監督は「実に良い買い物だった」と述懐しています。ロッキーのヒットで下積み時代の映画もリバイバル上映されてとても儲かったからです。

 そんな中でスタローンはロッキーの脚本を映画会社に持ち込み、低予算での撮影が許されたのです。試写会に招かれた監督達は上映中終始無言で、終わるやさっさと帰ってしまい、スタローンは酷く落胆してしまいます。

 しかし、帰ろうと出口に出ると、そこに監督たちが待ち受けていて、スタローンをスタンディングオベーションで迎えたという感動のエピソードが残されています。

 映画も私生活もアメリカンドリームを成し遂げた彼が、今は映画も私生活もエクスペンダブルです。世の中はわかりません。

これロッキーの撮影なのよ

 低予算なので多くのロケシーンは小型カメラを使ったゲリラ撮影でまかなわれました。市場を走るシーンで八百屋のおじさんがリンゴを投げてくれますが、あれはカメラが小さかったのでロッキーを本物のボクサーと思い込み、応援するつもりで投げてくれたのだそうです。きっとおじさんは死ぬまで自慢にしたことでしょう。義理人情の大切さをこの映画は教えてくれます。

 階段を駆け上るシーンもカメラマンが一緒にカメラを担いで上って撮りました。今やあの階段はフィラデルフィアきっての観光名所として「ロッキーステップ」と呼ばれ、銅像が建って美術館で一番の目玉になっています。

 ゴッホの「ひまわり」やセザンヌの「水浴図」の値打ちがわからない人でも、ロッキーが階段を駆け上がる姿は見たことがあるのですから。

拳で語れ

 特筆すべきはノースタントであることです。つまりスタローン達は本当に殴り合っているのです。

 なるほどボクシングの試合としてみた場合、ボクシングシーンは稚拙です。しかし、本当の殴り合いであることが有無を言わせない迫力を生み出しています。

 ボクシングは勇気が要ります。人を思い切り殴るのも、人に思い切り殴られるのに耐えるのもそれ自体が特殊な才能です。だからボクシングはキングオブスポーツと称されるのです。

珍トレーニング

 格闘技漫画の類には絶対変な特訓シーンが入ります。その源流が梶原一騎作品とロッキーであることは疑う余地がありません。

 生卵の一気飲みからしてイカれています。生卵が安心して食べられるのは日本だけです。これは単なる気合を入れるシーンではなく、プロテインが買えないのでそこまでして無理やりたんぱく質を摂るという苦肉の策なのです。

 両足を紐で繋ぐのも考えてみれば不思議ですが、肉を叩くのに至っては意味不明です。スタローンは肉を叩きすぎて拳が平らになってしまったそうです。ボクシングの練習としては不適切だと身をもって証明してくれたわけです。以後、ロッキーシリーズは珍トレーニングが風物詩と化します。

優しいロッキー

 ですがロッキーはとても優しい男です。仕事である借金の取り立てさえ不徹底になり、不良少女におせっかいを焼き、ダメ人間のポーリーを許し、手のひらを反して協力を申し出るミッキーさえ一度は拒絶しつつも許して受け入れます。

 そんなロッキーだからエイドリアンは惚れたし、ミッキーも素質は買っていたし、ガッツォは援助してくれたのです。

シチリアの風

 スタローンはシチリア系です。ロッキーもそうです。アメリカ+シチリア+ボクシング=マフィアです。

 ガッツォさん演じるジョー・スピネルは「ゴッドファーザー」にも殺し屋役で出ています。回転ドアで敵のボスを閉じ込めて殺すのが彼です。出世したんですね。東映ヤクザ映画でチンピラをやっていた人達がVシネで組長やっているのを見るようで感慨深いものがあります。

 更に言えばエイドリアン演じるタリア・シャイアはコニーです。そして彼女はコッポラの妹です。どこまでもボクシングとマフィアはズブズブであることがこんなところからも読み取れてしまうのです。

CV.羽佐間道夫

 さて、かつてスタローンの声は羽佐間道夫が吹き替えるのが定番でした。今ではもっぱらささきいさおですが、羽佐間道夫はロッキーだけは90近くなった今でも絶対に譲りません。

 しかし、スタローンはしゃべり方に癖があるため吹替も難しく、並々ならぬ苦労があるそうです。羽佐間は海に向かって浄瑠璃をうなり、ささきは酒を飲みまくって喉を潰して吹き替えたといいます。

 字幕派の皆様、これを聞いても吹替を悪く言えますか?仲良くしましょうよ。

思い出の映画

 ここは飛ばして結構です。個人的な思い出話ですから。

 私は本や映画にあまり人生観を変えられた覚えがありません。人生を変える名言集とかを鼻で笑いながら最後まで読んで、こんなことを言う〇〇はホモに違いないとかの感想しか残さない、そういう男です。しかし、ロッキーは違いました。間接的にですが私の人生観に影響を及ぼしたのです。それも二回も。

 私がまだ学生の頃、ロッキーのテーマを演奏したトランぺッターのメイナード・ファーガソンが私の故郷である田舎町に公演にくる運びになりました。盛んにCMで宣伝を打っていましたが、ある月曜日、私の親友が公演は中止になったということを教えてくれました。

 彼が母親とテレビを見ていると見飽きるほど見た公演のCMが流れたのですが、その時だけは「公演は中止になりました」というテロップが添えられたのです。

 彼の母親は「外タレはすぐサボる」と観に行くわけでもないのに憤慨したそうですが、CMが明けてニュース番組に入ると顔色が変わりました。トップニュースはファーガソンの訃報だったのです。

 大抵の事には事情がある。それを考えさせるおかしくも悲しい事件でした。世の中はわかりません。

 そしてもう一つ、それより少し後に事件が起きました。クラスメイトが学校を休んだので、私がプリントを届けに行きました。プリントを届けて何で休んだのか聞いてみると、映画に影響されたというのです。

 聞けば深夜放送でやっていた「ロッキー」に大変に感動し、放送が終わるや冷蔵庫へ走り、古い卵を飲んで腹を壊したのです。なんとイカれた奴だと驚くとともに、私は「彼女」に惚れました。

 しかし、気の弱い私はその気持ちを誰にも打ち明けることなく故郷を去り、男にも目覚めてホモ小説を書くようになりました。世の中はわかりません。

BL的に解説

ロッキーはシリーズで楽しめ!

 まず言っておきたいのはこれです。ロッキーはシリーズが6作作られ、今はアポロの息子のクリードを中心に世代交代して3作目が作られようとしています。BL好きなら全部見なきゃ損です。

 徐々に登場人物の関係に変化が生じていくわけです。意外な人物が再浮上したり、新しいカップルが誕生したりあるいは掘り下げられたりとまこと楽しいわけです。今後「火曜日はロッキー」と称して毎週一本ずつ紹介していきます。午後ローのパクリとは言わないで下さい。リスペクトです。

スタローンは総受け

 これは私の中では鉄則です。それは他の映画でも変わりません。健さんの時にも言いましたが、ケツを貸すところは想像できても借りるところは想像できないのがスタローンです。

 そもそもステロイドを使うと勃起不全になるのはよく知られた話です。そういう事情もあって「エクスペンダブルズ」は受け属性の供給過剰でカップリングに困るのですが、それは別の機会に取っておきます。

ミッキー×

 ボクサーとおやっさんはBL的観点から考えればデキない方がどうかしています。

 ミッキーのツンデレぶりがポイントです。あいつはもう駄目だと半ば見放しつつも、ロッキーにたぐいまれな素質があるのを見抜いています。だからこそタイトルマッチが決まった途端過去の遺恨を承知でマネージャーを買って出たのです。

 そして恨み言を一通り言った後は許すロッキー。この優しさこそがロッキーの魅力であり、ミッキーもそんなところに惚れたのでしょう。

 そしてボクシングのお約束としてミッキーは禁女を言い渡します。「女は足にくる」という意味深なセリフがBL的観点からみると殺し文句です。

 エイドリアンを恋しがるロッキーを管理するという名目で掘るミッキー。受けなら足にも来ないでしょう。ワセリンは顔だけ塗るものではないのです。

ポーリー×

 ポーリーは重度のシスコンです。妹が行き遅れることばかり心配しています。しかし、冷静に考えてみてください。あのダメ人間のポーリーがそんなに妹を大事にするでしょうか?

 そこにはロッキーへの愛があるのです。ロッキーと間接ホモセックスです。二人の前にはエイドリアンさえコンドームほどの値打ちしかありません。

 それにロッキーは頼み込めばヤらせてくれそうなところがあります。酔った勢いで一発くらいやったことがあっても驚きません。「肉食わせてやっただろ。お前を食わせろ」と言えばロッキーは断れないはずです。

アポロ×

 アポロとは今回多く語りません。彼との愛が爆発するのは後になってからです。だからロッキーはシリーズを通して観ないといけません。

ガッツォ×

 この一本に限って考えた場合、一番おいしいカップリングだと私は思います。ガッツォは持ち前の優しさ故に借金の取り立てさえ手ぬるいロッキーを心から可愛がっています。

 エイドリアンとデートに行くと聞きつけて小遣いを渡し、タイトルマッチが決まったと知るや500ドルもくれて、煙草は取り上げてしまうのです。そして試合には当然のように駆けつけて「やっちまえ!」と叫ぶ。並々ならぬ可愛がり方です。

 そこには恋心があったのではないでしょうか。社員のデートのスケジュールを知っている社長なんて普通は居ません。ニューヨークで修行中にドンに男を教えられたに違いありません。マーロン・ブランドがバイセクシャルなのは以前説明したとおりです。

リコ×

 二人は旧知の仲であることが推測されます。昔のボクサーは試合数を多くこなしたので、同じカードが何回も組まれることは珍しくありませんでした。某ホモゾンビの想い人とのすれ違いはおかしいのです。

 リコはロッキーをライバル視していて、ロッキーもまたリコを認めていることが描かれています。これは注目すべきポイントです。

 何度も対戦すればそうなるのです。単なるライバル以上の絆が芽生えるのです。嘘だと思うなら近所のできるだけ古いボクシングジムに行って、ミッキーくらいの歳の会長やトレーナーに聞いてみてください。腐女子だったら鼻血を流して悶絶するようなエピソードが聞けますよ。

 リコは惜しくもロッキーに敗れ、「この借りは返す」と息巻いていました。そして、この二人は後々とんでもない形で薔薇の花を咲かせますそれについてもまた追って紹介します。

アポロ×デューク

 ボクサーとおやっさんならこっちも忘れてはいけません。チャンピオン暮らしが長くなって腑抜けてしまい、金勘定ばかり考えているアポロ。それを確かな手腕で支えるデューク。尊いことこの上ありません。

 ロッキーは強いというデュークの見立ては当たり、アポロは苦戦を強いられてしまいます。そして最終ラウンド前、デュークは棄権しようと提案するのです。ベルトよりアポロの身体が大事という判断ですが、これができるのは並みのトレーナーではありません。

 しかし、そんなデュークの提案をアポロは拒絶して苦しい苦しいファイナルラウンドに臨むのです。こんな形でお前の苦労をふいにしてたまるかというアポロの意地です。なんと美しい絆でありましょうか。そして、そんな腕利きのデュークが「女は足にくる」程度の事を知らないはずがないのです。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介します。

『ロッキー2』(1979 米)
『ロッキー3』(1983 米)
『ロッキー4/炎の友情』(1985 米)
『ロッキー5/最後のドラマ』(1990 米)
『ロッキー・ザ・ファイナル』(2006 米)
『クリード チャンプを継ぐ男』(2015 米)
『クリード 炎の宿敵』(2018 米)

『レイジング・ブル』(1980 米)(★★★★★)(上品なボクシング映画)
『リベンジ・マッチ』(2013 米)(★★★★)(そして悪魔合体)
『ランボー』(1982 米)(★★★★★)(根暗な側面の出たスタローン)
『エクスペンダブルズ』(2010 米)(★★★★)(ねじの外れたスタローン)
『ベスト・キッド』(1984 米)(★★★★)(空手バージョン)

今までのレビュー作品はこちら

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