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世界一小さな芸術祭2023レポート⑥〜葛藤そしてふっきれる〜

いつもの中華店でインタビュアーのゴン田中(通称ゴン)を待ちながら大好物である蒸し鶏ピータンを食べ、瓶ビールで喉を潤せながらこの芸術祭の事を考えていた。

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11月29日から始まり(寺越曰くもっと前から始まっていたらしいが)12月28日で閉幕のようなのでもう終盤に差し掛かっている。

タイムテーブル

私とゴンは何度も野外で行われる三組の創作過程に足を運び、唯一文章のみで表現している石井理加さんのnoteもみながら盛り上がっていた。時には急遽中止になりゴンとこの店に駆け込み寺越の愚痴を言ったりしたものだ。


「遅くなってすいません〜ケイさん!!あ、大将!生小一つ。ケイさん!理加さんの再生への道新しいのあがってましたね、みました?」

矢継ぎ早に喋るゴンの顔は生き生きとしている。
勿論みてきた。石井理加さんはより再生へ進み出しているように感じた。

「いや〜いいっすよね、興味あるところにアタックしてアクションするのがアグレッシブでポジティブなエネルギー感じるし〜」

お前はミスターか?とツッコミたくなるがゴンの言いたい事はとてもよく分かった。ゴンはエネルギーをもらったのだろう。
お酒の弱いゴンが小さい生ビールを少し口に湿らせて

「あと少しで芸術祭終わっちゃいますねぇケイさん。なんか僕ちょっと寂しいです。仕事終わりとか合間に、みんなの創作みるのってけっこうエネルギーもらえてたんですよねぇ」


ゴンの言葉を聞いて寺越が言っていた、芸術祭のテーマとなっている”日常への介入から変質へ”という言葉を思い出した。もしかしたらこういうことだったのかもしれない。
私たちはまんまと寺越にはめられたわけだ。

「しかし連日みてて思うのは佐藤さんと橘さんも佐竹さんとどまさんも2人じゃないすか。それに比べてリッキーさんって1人で延々とやってるって本当に大変っすよね、創作の日数も多いし」

そう、石谷力さんは本当に大変そうだ。2人だとまだそれぞれで意見交換ができる。だが1人だとその場に寺越しかいない。更にこの芸術祭では一番創作の日数が多い。

突然私のスマホがなったので、みてみると寺越からのLINEでちょっと飲みたいらしい。ゴンに了承を得て店の場所を教える。

「お、寺越さん登場!いろいろ聞きたいっすねぇ」

ゴンのインタビュー精神が全開になっている。
私はこの前の石谷力さんの創作過程を見ていて寺越の反応が気になっていた。寺越の中でいろんなものが揺れ動いているようにみえたからだ。

暫くして店の扉が開いて寺越が姿を表した。

”お疲れ様です、すいません2人で飲んでるところに”


疲れているように見える寺越


「いや〜寺越さん、お疲れさんっす!もう少しで終わっちゃいますね、僕寂しいっすよ」

”そんなこといってくれるのゴンさんくらいですよ。本当に誰も知らないですからね、この芸術祭(笑”


少し自嘲気味にいう寺越を察してゴンが


「なんか元気ないっすね、どうしたんすか?」

”いや〜この前のリッキーの公開クリエーションに2人きてくれたじゃないですか?見ててどうでした?”


やはり私の予想は当たっていた。


「う〜ん、そうっすねぇ。創作の上で苦悩してる姿は僕はいいなぁ〜と思って見てました!なんか問題あったんすか?」


”問題っていうか、まぁ問題かぁ。おれの提案によりリッキーがどんどん苦しんでいるような気がして、そこまで苦しい思いをさせるのは違うんじゃないかなぁと思ったりもするんですよ”


確かに現場では寺越の提案や問いにより石谷力さんが考えて止まってしまうところが何度となくあった。だが創作というのはそういうもんではないのだろうか。


「でもリッキーさんの一人芝居をよりよくしたいと考えた上での提案だったりするわけでしょ」


”そうなんだけど‥そうなんだけどぉ‥う〜ん難しいなぁ。今回はリッキーのやりたい事を兎に角やりたい様に楽しくやってもらいたいというところが第一におれにはあるんですよね。ただ「審判」という難解な戯曲に向き合うとすると、特に様々な目的が明確に必要になってくるとおれは思っていて‥それを知りたいから聞いてるつもりなんだけど、どうやらそれが苦しめている原因のような気もして‥”


恐らく寺越は石谷力さんのやりたい事を思いっきりやってもらうための手助けがしたいんだろう。そのためにやりたい事をより明確にするために聞いていた様にも思う。
しかしそれが今のやり方では石谷力さんにとって苦しみでしかないのでどうすればいいか悩んでいるんだろう。


「う〜ん‥まぁとりあえず先ずは飲みましょう。ケイさんの瓶ビールまだ余ってますよね?あ、大将!グラス一つ」


ゴンが空気を変える。こういうところは気が効く。寺越は礼をいってグラスのビールをくいっと飲んで


”いくらクリエーションのためとはいえ、おれの言葉により相手が苦しんでいたら、それはなんか違うと思うんすよね”


「じゃあどうしたいんすか寺越さんは?」


”楽しんでやりたい事を思いっきりやって欲しい。そのために足りないものがあったらおれを利用して欲しいと、今回に関しては思ってる”


楽しんで思いっきりやるか‥


私はお芝居の事はわからないが、表現活動をしていく上で楽しむためには時には苦しみを乗り越える必要があると考えている。
確いう私もノンフィクションライターとして書く上で苦しい瞬間は何度となくある。ただそれは乗り越えなければいけないものだ。そのままでいいと寺越に声をかけようとした矢先


「それだったらリッキーさんをもっと信じていいんじゃないっすか?確かに苦しそうには見えましたけど、ネガティブじゃないっつうか〜なんか寺越さんの言葉を受けとめて足掻いているように感じましたよ。まぁちょっと寺越さん喋り過ぎな気はしますけどね(笑」

”そうっすか、本当に?まぁ‥お喋り野郎なんすよ、おれ”

「ねぇケイさん」


ゴンに唐突に振られなんとなく返事をする。
私はゴンの言葉に押されていた。
こういう言葉を何気なく言えてしまうゴン。
寺越の顔が少し明るくなっていく。


「まぁ飲みましょうよ。しかし寺越さん毎日同じ服きてません(笑)」

”そうなんすよ。でもあと一着位はあるかな(笑”


寺越のくだらない話しを聞きながらこの日は多いに盛り上がった。


次の日

公開クリエーションがちょうど石谷力さんだった。私は少し遅れながらいつものゆうちょ前に駆けつけるとゴンが笑顔で見つめている。


石谷力さんの様子が全然違う、どういうことだ。


いつも塞ぎこんでいた様子は微塵もなく自信に満ちて寺越の話しを聞いていた。むしろ寺越がちょっと戸惑っているようにもみえた。


何があったのだ。


石谷力さんとゴンが談笑してる時に寺越のところへいき聞いてみると


”おれもわからないんですよ。今日あったら全然違う雰囲気を纏ってて、なんなんすかねぇ〜(笑)でもよかったぁ〜”


ゴンがきたので聞いてみると


「面白いですね、人ってやっぱり!さっき話したらリッキーさんは覚悟したっぽいっす!それじゃないっすか、こんなに変わったのは!こういう人間の変化を間近でみれるの楽しいっすねぇ!」


興奮しているゴンを他所に石谷力さんの様子をみながら私は考えていた。
石谷力さんは苦しみながらも自分で向き合って悩み抜いて、自分に出来る事しかできないという事を受け入れながら、ここに立つ事を決めたのだ、きっと。そういう意味での覚悟なのではないか。

何にせよ前の日までの寺越の葛藤はなんだったのだろう。そしてその時間に付き合っていた私たちは‥といろいろ考えているとそれさえも滑稽だなと笑えてきた。 
もはや公開クリエーションという名の人と人の生き様の中に私とゴンも参加しているのかもしれない。

不思議なものだ、もうすぐ閉幕してしまう芸術祭に私も寂しさを覚えてきた。


文 中谷計


チラシデザイン 吉田みずほ



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