フィナンシェ|文藝メディア

文藝メディア「フィナンシェ」公式|7月のテーマは「天体観測」|毎週日曜 20時更新|お…

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文藝メディア「フィナンシェ」公式|7月のテーマは「天体観測」|毎週日曜 20時更新|お問い合わせはXのDMまで

記事一覧

的(作:ぱやちの)

人はどうして、星に願ったりするようになったのでしょうか 見たことのない色をした星が、今日、お空に仲間入りしました ボニーがいつまでたっても死なないものだから 人々…

眼窩より咲く向日葵のまぶしさは部屋の遺体に縋り生く夏(作:後藤ケンタ)

7月21日、朝。炎天の下、澄ました顔で佇む白無垢のあなたが一瞬でも私のことを思い出してくれていたなら、それだけで私はきっと全てを許せたのでしょう。映画とはまるで線…

興味がない(作:坂口喜咲)

私はなぜだか星に興味がない。プラネタリウムも小学校の社会科見学くらいでしか行ったことがないし、特に関心がない。なぜだかはわからない。 星座もひとつも知らないし星…

stargazer(作:上篠翔)

 小学校の校庭の中心には、天体望遠鏡。夜に家の外に出ることすら珍しかったのに、その日は大勢の子供が校庭に集まって夜空を眺めている。目的は土星の輪を見ることだった…

ストロベリーフィールズの夢(作:星屑)

 金木犀を選び取った夏が秋へと姿を変えたとき、もう君に夢を見ることはないと思った。ひとは未だ見ぬものに夢を重ねる。何かに憧れるとき、その対象に夢を見ている。過去…

<新・結婚キャンペーン>(作:ぱやちの)

疲れるんだよな、愛とか恋とか好きとか嫌いとか もうそんな体力も精神力もなくて さっさと死にたい うるさい 誰にも指図されたくない 黙れよ  人間がつくった国とか法律…

好きな人へ。好きだ。死んでくれ。(作:後藤ケンタ)

今日、久しぶりに好きな人に会った。ただただ可愛すぎて心臓が本当に痛くなった。真っ黒でサラサラな髪も、本当に透き通っているガラスのような白い肌も、超塩顔なところも…

エンジェルブルー(作:坂口喜咲)

天国、ピンク、お母さん、ときて、4回目のテーマは結婚。 毎回なんとなく、本当はもっと傷口に触れるみたいな文章を求められてるのかなあ〜とやんわりテーマから感じ取っ…

カンピドリオの丘で(作:上篠翔)

 結婚しようよ、もう結婚するからぁぁぁぁ、と泣いたり叫んだりしたのは、国道246号線の歩道橋の下だった。ときどき石みたいになって動かなくなるきみに、とうとうぼくは…

マオマウゥルーンの樹(作:ぱやちの)

ママンの樹 マオマウゥルーンの樹 色の無いとびらの向こうに マオマウゥルーンの樹は暮らしています 私はその樹について 親しみを込めて、「ママンの樹」と呼ぶことにし…

Scaramouche(作:上篠翔)

 ママのことを思い出すときぼくのこころに思い浮かぶのは軒先に太く垂れ下がった氷柱だとか春になるともぐら叩きみたいに生えてくるフキノトウだとかママの名前のついた桜…

成長するということ、別れ/秒(作:星屑)

 「君に出会えたのが大人になってからでよかった。目まぐるしく成長してしまう子どもだった頃じゃなくてよかった」  たとえば小さい頃に居た好きな人って、今となっては…

自分の話(作:坂口喜咲)

4月末、コロナに罹った。一度も罹らずここまで来ていたのだが、症状の重さには驚いた。9日目 にしてだいぶましになってきたので、締切間近、なんとかやっとこさ書いてみる…

1991年、母の恋(作:中村瑞季)

 今回執筆の依頼をいただいた際、そのテーマには正直戸惑いを覚えた。「お母さん」という言葉にはどうしても苦手意識がある。  僕の母親はいわゆる過保護・過干渉タイプ…

COLOR OF POISON(作:ぱやちの)

 昔々、とある天国でのお話。一匹の神様が、ある日突然全身からショッキングピンクの汗を噴き出して、何日も苦しんだ果てに死にました。その死体の惨たらしいことといった…

Pink Elephant(作:上篠翔)

 ピンクにうんざりしているのは、ピンクという音をもうどうやっても素直に聴くことができないからだ。  ピンクは赤ちゃんを守るためにプログラミングされた女の子のため…

的(作:ぱやちの)

的(作:ぱやちの)

人はどうして、星に願ったりするようになったのでしょうか
見たことのない色をした星が、今日、お空に仲間入りしました

ボニーがいつまでたっても死なないものだから
人々は次第に「死ぬ死ぬ詐欺」などと揶揄するようになり
とうとう誰もボニーの話はしなくなりました
皆、変わっていくボニーをあんなに面白がって見ていたのに
嘘吐き、嘘吐き、と吐き捨てて誰もが去っていきました
今はもう、もっと面白いものに夢中にな

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眼窩より咲く向日葵のまぶしさは部屋の遺体に縋り生く夏(作:後藤ケンタ)

7月21日、朝。炎天の下、澄ました顔で佇む白無垢のあなたが一瞬でも私のことを思い出してくれていたなら、それだけで私はきっと全てを許せたのでしょう。映画とはまるで線路のようです。あらかじめ決められた時間をかけて、あらかじめ決められた終わりにしか私を連れていってくれない。だから私は、映画をみる人は頭がわるいと思っています。あの日、あなたが私にかけた言葉にはどんな意味が込められていたのでしょうか。あなた

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興味がない(作:坂口喜咲)

私はなぜだか星に興味がない。プラネタリウムも小学校の社会科見学くらいでしか行ったことがないし、特に関心がない。なぜだかはわからない。

星座もひとつも知らないし星の配置もわからない。体調が月に左右された記憶もないし、いかにも繊細に影響受けそうなタイプに我ながら思えるのに、意外だなあと思う。

星占いは嫌いじゃない。星座の相性はなんとなく感じるし、海が月と関係してるのもおもしろいと思う、海が好きだか

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stargazer(作:上篠翔)

 小学校の校庭の中心には、天体望遠鏡。夜に家の外に出ることすら珍しかったのに、その日は大勢の子供が校庭に集まって夜空を眺めている。目的は土星の輪を見ることだった。教師ではない、何の職業なのかわからない老人がその場を取り仕切り、一人ずつ順番に望遠鏡を覗かせていた。
 
 星を見るのが好きだった。
 ベランダに出て眺める牡牛座のプレアデス星団。門限を過ぎて締め出された日のペガスス座。水死の悲劇とともに

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ストロベリーフィールズの夢(作:星屑)

 金木犀を選び取った夏が秋へと姿を変えたとき、もう君に夢を見ることはないと思った。ひとは未だ見ぬものに夢を重ねる。何かに憧れるとき、その対象に夢を見ている。過去ではなく未来に、予感に、鼓動はスピードを上げる。

 あの子は銀杏BOYZのCDを捨てた。嫁入り道具として持って行くには邪魔だったから。あの子はあの子自身を捨てるしかなかった。"正しいお嫁さん"になるために。義両親が住む遠い田舎に引っ越しを

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<新・結婚キャンペーン>(作:ぱやちの)

<新・結婚キャンペーン>(作:ぱやちの)

疲れるんだよな、愛とか恋とか好きとか嫌いとか
もうそんな体力も精神力もなくて
さっさと死にたい
うるさい
誰にも指図されたくない 黙れよ

 人間がつくった国とか法律とか道徳とかその他諸々全てのことが漠然とキモくて大嫌いだなと思っているけど、たった一つだけ感謝していることがある。
 結婚の概念を国の都合で捻じ曲げてくれて、ありがとう。
 3億ポイント!
 そう、3億ポイント。国が発表した<新・結婚

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好きな人へ。好きだ。死んでくれ。(作:後藤ケンタ)

今日、久しぶりに好きな人に会った。ただただ可愛すぎて心臓が本当に痛くなった。真っ黒でサラサラな髪も、本当に透き通っているガラスのような白い肌も、超塩顔なところも、笑うときに声が息と混ざって軽くなるところも、何を考えているのか分からない目線も、全部かわいくて全部だいすきだ。大げさじゃなく、世界で一番かわいいと思う。初めて見た時から世界で一番かわいかった。誰よりも好きだ。だからこそ、今日でもうバイバイ

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エンジェルブルー(作:坂口喜咲)

天国、ピンク、お母さん、ときて、4回目のテーマは結婚。

毎回なんとなく、本当はもっと傷口に触れるみたいな文章を求められてるのかなあ〜とやんわりテーマから感じ取ってはいるのだが、期待されているようなことは書けそうになくて、暇つぶしで読んでもらえたらうれしいです

私は未婚で、もうすぐ36歳になる。結婚について、全く考えないで生きてきたかと言えば嘘になるけど、正直、変なタイミングで結婚してこなくてよ

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カンピドリオの丘で(作:上篠翔)

 結婚しようよ、もう結婚するからぁぁぁぁ、と泣いたり叫んだりしたのは、国道246号線の歩道橋の下だった。ときどき石みたいになって動かなくなるきみに、とうとうぼくは業を煮やしてしまったのだ。かといって、直接きみを殴ったり、蹴ったりすることはない。昔のドラマみたいに物にあたることもない。でも、このときばかりはちょっと頭がおかしくなっていたみたいで、どこかへ走り去ったきみの幻が眼前にくっきりと見えて、ぼ

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マオマウゥルーンの樹(作:ぱやちの)

マオマウゥルーンの樹(作:ぱやちの)

ママンの樹

マオマウゥルーンの樹

色の無いとびらの向こうに
マオマウゥルーンの樹は暮らしています
私はその樹について
親しみを込めて、「ママンの樹」と呼ぶことにしています

ママンの樹は
私が存在を知るずっと前から、その場所にいました
その場所の名前は、マオマウゥルーン
ママンの樹は
誰も立ち入ることのできない場所で
たくさんの〈ママ〉と共に
ずっとずっと昔から、暮らしています

ママンの樹は

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Scaramouche(作:上篠翔)

 ママのことを思い出すときぼくのこころに思い浮かぶのは軒先に太く垂れ下がった氷柱だとか春になるともぐら叩きみたいに生えてくるフキノトウだとかママの名前のついた桜だとか嫌な匂いのドクダミで、そんなことを考えていた冬にジジは死んだ。詳しいことは知らないけど医療ミスらしくて、でもジジと離れてもう数年経っていたぼくには憎むべきものといったら何もなく、ただ涅槃図の横で寝そべっている冷たいジジに触るのが怖くて

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成長するということ、別れ/秒(作:星屑)

 「君に出会えたのが大人になってからでよかった。目まぐるしく成長してしまう子どもだった頃じゃなくてよかった」

 たとえば小さい頃に居た好きな人って、今となっては何が好きだったのかわからない。互いのスピードがめまぐるしいから一瞬しか重なることのできなかった星たちが遠くで死んでゆく。

〈大人になった人から先に、誰かを長く好きでいられるのかもしれない〉


***

5才くらいの頃「おかあさんっ

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自分の話(作:坂口喜咲)

4月末、コロナに罹った。一度も罹らずここまで来ていたのだが、症状の重さには驚いた。9日目 にしてだいぶましになってきたので、締切間近、なんとかやっとこさ書いてみる。(現在4/28)

コロナ陽性だと言ったら、心配性の母がネットスーパーでたくさん注文して送ってくれた。何も食べられないと言ったので、すべて水とポカリとお茶だった。水分ばかり約40リットル!吐き気がすごく、水を一口飲むのも難しい時期で、こ

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1991年、母の恋(作:中村瑞季)

 今回執筆の依頼をいただいた際、そのテーマには正直戸惑いを覚えた。「お母さん」という言葉にはどうしても苦手意識がある。
 僕の母親はいわゆる過保護・過干渉タイプで、なおかつ攻撃的な人だった。何事にも否定から入る人で、そのせいか本人も人間関係が上手くいかずいつも職場のコミュニケーションに苦戦し、それを僕にぶつけていた。実家が理由で鬱病を発症し、それから逃れるように大学卒業時の進路として地元の北海道を

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COLOR OF POISON(作:ぱやちの)

COLOR OF POISON(作:ぱやちの)

 昔々、とある天国でのお話。一匹の神様が、ある日突然全身からショッキングピンクの汗を噴き出して、何日も苦しんだ果てに死にました。その死体の惨たらしいことといったら! ええ、本当に、あまりにも酷い有様だったのです。今、あなた方が想像している映像の何倍も酷い有様です。誰も、触れることは疎か、直視すらできず、遠くから火を放ちその神様の家ごと燃やして火葬することになったほどに。焼け跡に残された骨は、そのほ

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Pink Elephant(作:上篠翔)

 ピンクにうんざりしているのは、ピンクという音をもうどうやっても素直に聴くことができないからだ。
 ピンクは赤ちゃんを守るためにプログラミングされた女の子のための色。そうなんだ、と思ったのはぼくにとってピンクは何よりも庭の椿の色で、八重桜の色だったから。ピンクのサブカル史、というものがきっと書けるくらいには、ピンクはあらゆるものを背負いすぎた。ぼくだって高校生のころはピンクの差し色のパーカーばかり

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