見出し画像

<新・結婚キャンペーン>(作:ぱやちの)

疲れるんだよな、愛とか恋とか好きとか嫌いとか
もうそんな体力も精神力もなくて
さっさと死にたい
うるさい
誰にも指図されたくない 黙れよ

 人間がつくった国とか法律とか道徳とかその他諸々全てのことが漠然とキモくて大嫌いだなと思っているけど、たった一つだけ感謝していることがある。
 結婚の概念を国の都合で捻じ曲げてくれて、ありがとう。
 3億ポイント!
 そう、3億ポイント。国が発表した<新・結婚キャンペーン>により、これまでの結婚の在り方はガラッと変わった。国の指定した日を境に今ある婚姻の事実を全て取り消し、戸籍というものが撤廃された。国民は全て、個人個人が番号によって管理されているので、戸籍は必要ないという結論に至ったようだ。戸籍を巡る問題の解決や、多様性への配慮を訴えていた人々の声が届いたらしい。(本当に、そうなのか?)
 とにかく、<新・結婚キャンペーン>によって結婚は免許制になり、誰もが気軽に締結することのできるものではなくなった。結婚免許は厳しい条件をクリアしたもののみに与えられることになっており、晴れて免許を取得し、結婚を承諾した者には3億円相当の<ウエディンGOODポイント>が付与される。(全くふざけた名前。)このニュースを聞いたときには俺を含め、流石に国中が大騒ぎだった。そして俺は、絶対に3億を手に入れると決意した。この時の俺はまだ、国の想定している「結婚」の内容を詳しく理解はしていなかった。

 何にせよ。
 結婚を、金のための制度だというイメージに変えてくれてありがとう。おかげでもう、誰も結婚について愛とか恋とか言わなくなった。適齢を迎えれば結婚して当然、みたいな気持ち悪い思想も無くなったから、親戚から「お前はまだなのか?」とでも言わんばかりの汚い薄笑いを浮かべられることもなくなった。結婚といえば3億、ってもう誰もが思うようになったよ。
 こんなことになんなきゃ変わんない脳みそって呆れる。元々、勝手にするもんだろ。愛、愛、愛ってさ。愛し合いたいなら勝手にやっとけや。いちいちペラ紙提出して、周りに宣言までして、あほらし。<新・結婚キャンペーン>が無くたって、元々、国が人間を束ねるための制度だっただろ、結婚って。なんでわかんねーのかな。関係ねえよ、愛は。社会で生きていくための裏技に過ぎないはずだろ。元々そうだっただろ。金のためだっただろ。なんでわかんねーのかな。

 結婚が免許制になって本当に感謝している。
 俺は、厳しい条件を乗り越えてやっと、結婚免許を取得した。念願の3億ポイントGETってわけ。従来、周りがどんどん結婚する中“敢えて”結婚していなかった俺は、随分と(不本意に)気の毒がられてきたが、今では結婚する資格があるということで羨望の的になるくらいだ。まあ、皆「結婚」が何なのか、結局よく分かってもないんだろうし、3億ポイントが羨ましいだけなんだろうけど。お前らはいっつもそう。何でもかんでも羨んで、手に入ったら偉そうにして、うんざりなんだよもう。
 俺は全員と縁を切って、3億ポイントを少しずつ使いながら山奥で暮らした。静かで心地よかった。

 愛する人と、なんて思っているようなやつらは結婚なんて目指さなくなった。わざわざ厳しい試験や訓練を乗り越えてまで結婚免許を取得しようという人は結構珍しい。それに、結婚免許を取得するためには、最初の検診で必ず性器を破壊されることになっている。(もちろん、同意の上でだが。)国の説明によると、「新しい結婚の在り方として、子孫を残さないことが最も重要」らしい。よって、出産に一度でも関与したことのある人は、結婚免許を取得することができない。
好きな人とのこどもが欲しいだとか、セックスできなくなるのは嫌だとか、単純に怖いとか、そういう人たちもその時点でリタイアとなる。
このようにして、最初の時点で人によってはかなりハードルが高いので、3億ポイントが貰えるということもまあ頷ける。

 結婚免許を取得した人は、(これは、最終試験の前に初めて明かされる内容であるのだが、)3億ポイントを貰うと同時に、88歳までの寿命を確約されることになる。(88歳より先に生きることはできないということなのかもしれない。)自殺することはできない。国の方針が変わらない限り必ず、88まで生きることになる。
88歳になる頃、国から手紙が届くので、案内に従って指定された場所に向かう。時間厳守。そこにはカプセル状の機械が置いてある。(最終試験前、簡単な図を見せられた)機械には扉が2つ付いているので、そのうち自分の名前と生年月日の彫られたほうを開けて入り込む。もう一方の扉にもおそらく人が入ることになっているのだろう。壁を隔てて、オモチャに入れられた乾電池のように並んで寝そべることになる。そこから先、どうなるのかは詳しく分からないが、その時はじめて「結婚」することになるのだという。
 なんか、結ばれちゃうんだって。人と人とが。本当の意味で一つに結ばれちゃうんだって。結び目はいつか溶けて無くなっちゃうんだって。へへ。なんかおおごとみたいじゃん、でも俺もうどうでもいいからさ。何でもいいからさ。結婚する時が来るまで、山奥で適当に暮らすよ。お前らはまあ、せいぜい死ぬまで愛し合ってたらいいんじゃないんですかね。優しかったきりん組のなおこ先生も、大きくなったら結婚しようねって言ってた八重歯の可愛い幼馴染のミカちゃんも、「あなたのことは好きだけど、そういうのじゃないから、ごめんね」とかいきなり謝罪してきた黒髪クソ文学女も、「こんな仕事、はやく辞めたいよお」って泣いてたデリヘルのメロンちゃんも、なかなか画面から出てきてくれないソフィーヌも、俺も、俺も、俺も もうどうでも、なんでも、どうなっても、どうでもいい、ので。勝手に愛し合っててください。どうか勝手にへらへら愛し合っててください。ほっといてください。

作:ぱやちの
作詞、楽曲制作、イラスト制作等、インターネットを中心に楽しく活動中。丸いかたちが好き。お仕事のご依頼お待ちしております。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?