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それでも好き

お酒を呑む事とお風呂で本を読む事とラジオを聴きながらウォーキングをする事と銀紙の端っこに取り残された微かなベビーチーズに「僕は見逃さないからね。可愛いね。1番好きだよ」と囁きながらキスをする事が僕の趣味でカロリーが低いのに美味しいスイーツへ熱中しだしたらとうとうオカマだなあと思っている

18歳の時に太陽とはお別れしてからは夜に騙されて朝に笑われてを繰り返している
母親の「ちゃんと朝起きて夜に寝る生活しな頭おかしなるで」という愛しい忠告を無視し続けたおかげかは知らないけれど起きたら部屋の中にはいつもコバエと地獄が充満しており「馬場だけにコバエがたかる」と笑う力も残っておらずいつもと変わらない糞みたいな天井を見つめながらただただ東京フレンドパークの様に布団から自力では身体を剥がす事のできないゴキブリホイホイみたいな毎日だ

なんとか外へ出る時は心療内科へ行く時だけだ
服を着るのも服を選ぶのもめんどくさい
部屋の片隅にほったらかしてあるオナニーティッシュみたいなアロハシャツ達の中から一枚を適当に選ぶ
羽織るのさえめんどくさてあしたのジョーみたく肩から背中に垂れ流す
外へ出てから直ぐに引き返したのはお医者様にそんな明るいアロハシャツを着れる君にはお薬は必要ございませんよ もっと苦しい人がいてるんですよ 何を君ごときが苦しんでいるんですかと言われてしまうかもしれないからで仕方なく黒のVネックを着直した
綺麗でシンプルな診療室の中で本当は優しいんだろうお医者様の爽やかな「おはようございます」が耳に入るたびにお前はどうしようもない人間だという判子を押された気がしておはようございますを返すまでに時間がかかってしまう

敬愛するお師匠様が言っていた「正統ではなく異端を王道ではなく邪道を」という言葉を母親よりも愛してしまったツケがまわってきた
センスの無い凡人のお前ごときがそんな言葉を信じてしまった当然の報いだろう
MサイズがXLを着ている様なもんだ
結局ギニューが悟空の身体を乗りこなせなかったみたいに

自分の中で宙ぶらりんの名前が付いてない気持ち
そのほとんどが本の中に書いてある
それしかない的確な言葉を残してくれている
その発見と共感はショックで恐怖だ
なあわかっただろう
お前なんか何者でもないと地獄に殴られる
なあそれでも好きかと地獄に胸ぐらを掴まれては心がちぎれる
人生は生きてる内に何度も終わる

僕が365日お酒を呑む理由は目の悪い人が眼鏡をかけて視界をくっきりさせるのとは逆で
糞みたいな現実から糞みたいな自分から逃れる為である
太陽を直視したら目がいかれてしまうからサングラスをかける様にお酒で社会とか世の中をぼんやりさせている

綺麗な顔に

長い手脚に

小さなお尻に

細い二の腕に

くっきりと浮かび上がる鎖骨に

可愛い笑顔に

いい匂いに

ああなんて全く自分とは関係ないんだろうと死にたくなる
なんだかたまらなくなって昔々のSEXを思い出して射精する
おちんちんを拭かずに頭から布団を被る
どうでもいい奴がまたどうでもいい事をしてしまった罪悪感を枕にして眠る

僕を思い出へのストーカー及び気色悪い容疑として逮捕する隙があるならばその前にありがとうとごめんなさいを法律で取り締まって下さい順番がおかしい
モザイクが必要なのはいつも人生だけだろう

空き地になったとたんそこに何があったか思い出せなくなるみたいに簡単に何もかも忘れられたらいいけど簡単に忘れられない事は忘れてはいけない事なんだよと情けない自分を鼓舞しながら後悔や挫折を一生引きずってここまできた

何も無いけれど微かに残ってくれたのはいつでもヤラせてくれる女の子ではなくて小さな小さなプライドだけでもうそれ以外強く抱き締める事のできる物は何一つ残っていないのだから僕ごときのレンコンみたいになった心の穴に入ってくれた優しい柔らかい物だけを信じる

美しいに目を瞑り良い香りに息を止める
男らしくないと笑われ女々しいと馬鹿にされ沈黙を舐められても大丈夫全然平気と自分に言い聞かしては歯を食いしばる
女の子のおっぱいではなくて人間の心に触れる為に

真夏のピークにいつも通りウォーキングをしていたら懐かしいに襲われた
頭のてっぺんが髪の毛が太陽に照らされてめさめさ熱くなる感じ
サッカーだけしていた頃を思い出して懐かしい気持ちになる
僕は小3から高3までサッカーを愛していたなあと

「ボケナスーーー!!ノーーータリーーーン!!」

僕が小3から6年生まで所属していた北摂スカーレットというチームの谷口監督の口癖
試合中に何度も叫ばれた

ボケナス
ノータリン
訳せば
頭悪い
脳味噌が足りとらん
脳味噌が少ない
お前アホかっていう意味だと思う
僕が子供の頃はまだまだ言葉に棘が溢れていた
それが普通だったので僕も保護者も何も気にしていなかったけれど今なら批判が殺到してもおかしくないかもしれない
例えば敵のゴールではなく不本意ながら自分のゴールに得点を決めてしまう事を今ではオウンゴールと言うが当時は自殺点と誰もが言っていた
自殺点を決めてしまったチームメイトの繊細な太田君は敵チームに「ナイスシュート!」等でいぢくりまわされたあげく心が死んでしまってサッカーを辞めてしまった
自殺点という言葉は小6か中1の頃に封印されたと思う
テレビでキチガイと言ってはいけないみたいに頭がユニークな人とオブラートに包むみたいに

「ボケナスーーー!!!ノータリーーーン!!!お前らにオフサイドトラップなんて10年早いんじゃ!!!」

当時、 高槻市に何チームあったか知らないけれど
例えば2、30チームだったとして僕らの実力は下から数えた方が早くて当然試合に勝つ事の方が少なかった
ほとんどのチームに「やったー北摂や楽勝」と思われていたと思う
そんな中で一丁前にオフサイドをアピールする僕達が死ぬほど気に食わなかったのだろう
技術もないくせにほざくなと

オフサイドトラップなんて10年早いんじゃと言われてから20数年が経った

たまに試合に勝てた時も谷口監督は「試合には勝ったけど内容では負けてた」と言った
たまたま勝てただけ
お前ら何も考えず適当にボンボン前にボール蹴ってるだけ
相手チームはしっかりパスを繋ごうとしてゴールに向かっていた
お前らのサッカーに未来は無いとかなんとか今思えば渋い事を仰ってはった

一方、僕らの大好きな宮山コーチはサッカーより野球と酒が好きで「男は気合いじゃ根性じゃ」とだけほざいてくれていて僕らが試合に勝とうが負けようが気持ちで負けんながスローガンだった為「今日も声が出てたから良し」と褒め称えてくれるのが常だった
よくわからない難しい谷口監督より単純で易しい宮山コーチの方が好きだった

真夏のピークには毎年、神奈川県へ遠征に行った
大根(おおね)ダイコンズという初恋の女の子みたいに忘れられない名前のチームとの対戦を目指して
試合と言っても僕らには余り緊張感がなかった
試合をした後に敵チームである大根ダイコンズのお家にそれぞれがお泊りをしてはカレーを食べる儀式だけを楽しみにしていたからだ

大根に向かう朝方
遠足のテンションで電車を待つホームで皆とはしゃいでいた
無言で僕達の頭を次々と谷口監督がしばいた
もうすぐ電車来んのにいつまで騒いどんじゃ危ないやろボケナスノータリンという意味だろう
淡々とパシパシ全員の頭をしばいた
その中でもキャプテンの清水は誰よりも強くしばかれていた
つい最近加入した小林ひでだけがしばかれていなかったのは「新入りは右も左もわからへんねんからお前がちゃんと新しいチーム引き締めていかなあかんやろ」という意味だったのかもしれない
謎に2倍しばかれた清水はきっと腑に落ちないしそんなんえこひいきやと思っていただろうけれども谷口監督に言わせればきっとサイドバックと愛はオーバーラップに限るとかほざくんだろう

谷口監督が試合中、ボケナスノータリンと同じくらいに叫ぶのは「勝負ー!勝負ー!」だった
下手くそなりに目の前にいる敵にドリブルを仕掛けていくのか下手くそやから諦めて怯んではバックパスをするのか

「勝負ー!勝負ー!」 蝉の鳴き声みたいに意味もなくうるさかっただけのはずの谷口監督の「勝負!勝負!」

蝉の抜け殻の様に動かなくなってしまった糞みたいにどうしようもない33歳の僕に今頃、点と点が線になって意味を持ったスルーパスとして心に突き刺さって震える

茨木に畑田けまり団というチームがあった
僕達より弱い
僕達は弱いから僕達より弱いチームの時だけイキイキしていた
余裕で勝てるから楽しくてしゃあない僕達をみかねて谷口監督は「お前ら今日の試合インサイドキックのみ」と言った
足の横側
ナイキのマークが描かれているところの内側
弱い相手にだけ調子乗んなボケナスノータリン
丁寧にパス繋いで丁寧にゴール決めさらせボケナスノータリンという課題だった
せっかく楽しく遊べるチャンスなのに僕達は落胆したがそれを実行した

いつもなら5対0とかで勝てる相手なのにいつまでも0対0が続く
後半ラストプレーコーナーキック
キッカー馬場直人
思いっきりインサイドで蹴ってみたけれども当然ベッカムみたいな技術なんてないから勿論ゴールまでは届かず虚しくコロコロと相手デイフェンスにパスをした様な形で試合が終了
ホイッスルと同時に「ボケナスーーー!!ノーーータリーーーン!!」が鳴り響いた

後々、いやいやそこまでインサイドキックじゃなくてええねんみたいな顔で怒っていた
知らんがなと思った
確かに試合には勝てなかったけれども
お前はめさめあ素直やなおあ
前はめさめさ可愛いなあ
と何故抱きしめてくれなかったのだろうか

誰かの本当の気持ちはいつもわからないし
僕は今でもボケナスでノータリンやけども
うまく言葉にできない事がいつも真実で
心が言葉に負けた事は一度だってない
心がウイスキーなら言葉はハイボールだ

挫けても拗ねても誰かのせいにしても結局自分に返ってきて
誰が見てようが見ていまいが本当の事は自分だけがわかっているはずで
調子に乗っていた時の自らの言葉が自らの心臓を貫いて立ち直れなくなるのはいつだって自分だけは騙せないからだろう
地獄で釜茹でにあっても余裕で「あ〜ええ湯加減やわ〜」と強がって笑って逝くであろう
心配なんて大きな余計なお世話であろう

強くて優しいあなたの饒舌な背中が今日も永遠に愛を語る

糞みたいな今日に
相変わらず
愛変わらず
乾杯

昨日にキック
明日にジャンプ
今にキッス
カルピス

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