読書感想 『52ヘルツのくじらたち』 町田そのこ 「孤独の果てにあるもの」
「本屋大賞」受賞作、と言われると、前は、気持ち的には避けていたのだけど、やっぱり、選ばれるだけの理由があるのかもと思うようになって、だけど、申し訳ないのだけど、自分が経済的に貧しいこともあり、購入する気持ちにまではなれず、図書館で予約した。
そこには、予約者の人数が掲示されるのだけど、三桁になっていて、11ヶ月待って、手元に届いた。
人気作家、というのは、こういうことだと改めて知った。
(※この先は、小説の内容にも触れています。未読の方で、何も情報を知らないまま読みたいという方は、注意していただけたら、幸いです)。
『52ヘルツのくじらたち』 町田そのこ
現代の孤独について、描かれていると思う。
それは、誰もいないという孤独ではなくて、家族がいても、そこで虐待をされていたり、自分の存在自体への違和感があったり、愛情を持って生活を共にしようとした相手から尊厳を無視した扱いを受けたり、人間関係があってこその孤独な状況が、いくつも書かれている。
そして、そうした過酷といって状況の描写がリアルで、私のように、厳しさがない中で育ってきた人間が語る資格はないのでは、と後めたさを持つほどで、その上で、魅力的なほど鮮やかに表現されているから、今を生きる人たちの共感を得ているのでないか、と思う。
無力な善意
現代の小説では、フィクションとはいえ、こうした過酷な状況を生きている時、その周囲の人間の善意が無力であることが、かなり具体的に書かれていることが多い。それは、悲しくて残念だけれど、実際にも少なくないのではないか、と思える。
そのことで、「わたし」は、前よりもひどいめにあってしまう。
孤独の果て
タイトルになっている「52ヘルツのクジラ」は、孤独な存在の象徴で、そうした情報を知らない人間にも、印象に残るような描かれ方をしているのだけど、孤独の中にいるからこそ、同様に孤独を抱えた人たちと出会ったり、だけど、それで、ただ順調に物事が進むわけでもなく、これでもか、といった残酷な出来事が起こる。
そして、そこを乗り越える、といったポジティブなことではなく、強い後悔を抱えながらも、また違う場所で、孤独を抱えた存在に出会って、という展開に進んでいく。
こうしたあらすじだけをたどると、なんだか安直なストーリーにも思えてしまうのだけど、そこに至るまでの具体性と、困難さが、読者にとっても、足元をすくわれるような、もしくは、突然、行く手が真っ暗になるような、そんな過程を通っていくので、たどり着く場所の明るさが、まぶしいのではなく、もう少し柔らかく、それでいて、「孤独の果て」で、嘘くさくなく、ふと目の前が開けるような気持ちにもなる。
タイトルが、「くじら」ではなく、「くじらたち」がふさわしいと思えてもくる。
ここまでの紹介を読んで、少しでも興味を持ってもらい、全部を通して読んでもらえたら、この言葉↑の伝わり方が、すごく違うことに、驚いてもらえるように思います。
おすすめしたい人
周りに人がいるとしても、たった一人で生きているような気がしている人。
環境が厳しすぎると、本を読む気も起きないかもしれませんが、それでも、何か読みたいと思っている人。
たまには、感情を幅広く揺さぶってくれるエンターテイメントを求めている人。
そんな人たちにおすすめしたいと思っています。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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