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【展覧会感想】 『生誕140年 YUMEJI展』 2024.6.1~8.25 東京都庭園美術館。

 自分が生まれるずっと以前の有名な人で、当たり前のように作品も目にしてきた。

 竹久夢二。

 ペンネームに「夢二」とつけるセンスは最初はあまりにもあざといのではないか。自分の妻に店を開かせたり、その後も様々な女性との付き合いも華やかで、そうした存在だと少しでも知ると、勝手な話というか、モテない人間のひがみのようなだけど、「(モテない)男の敵」のように思ってしまっていた。


橋本治の指摘

堂々たるもの(2)竹久夢二筆「立田姫」

 橋本治の「ひらがな日本美術史」のおかげで、日本の美術作品にも興味を持てるようになったし、おそらくは新鮮な視点で見られるようになった。そして、「竹久夢二」も、その単行本での最終巻で作品について「堂々たるもの」という表現で文章が書かれていた。

 そこで印象に残ったのは「夢二式美人」と言われる「美人画」の特徴についてだった。夢二の描く女性は、確かに独特で、それほど興味がない私でさえ、あ、夢二だ、と思ってしまうくらいだけど、どの女性も手足が大きく描かれていたことに橋本治の文章で初めて気がついた。

 というよりも竹久夢二の作品は、主に印刷物などを通してだけど、いろいろな場所で目にする機会があったから、かなりの数見ているはずなのに、そこには一度も視点がいかなかった。

纏足とは、前近代の中国で行われた、女性の足を布で縛り小さく変形させる慣習です。纏足は美と女性らしさの象徴でした。

(『聖心女子大学』より)

 そうした文化は、おそらく長く続き、手足が小さい方が(実質的な苦痛とは別としても)美しいとされていたはずで、だから、竹久夢二のように多くの人に支持されるような作家は、そうした一般的な見方に従うはずなのに、でも、竹久夢二は手足を大きく描いていた。

 だから、ただか弱い存在として表現されていない象徴として、竹久夢二の描く女性の手足は大きいのではないか、と橋本治の指摘で改めて思うようになった。同時に、だから竹久夢二の作品は女性に支持されたのではないか、といった視点も自分の中では「常識」のようになっていた。

東京都庭園美術館

 できたら妻と一緒に美術館などに行きたいと思っているので、自分が興味を持てた展覧会などの情報を見せて、出かける場所を決める。

 この夏のそういう展覧会の一つが「YUMEJI展」だった。

 竹久夢二生誕140年、には、いつも感じるちょっとした違和感があったものの、その場所が東京都庭園美術館ということに、より興味を持てていたのは、元は人が住んでいた場所であるから、それほど根拠はないのだけど、そうした場所の方が竹久夢二の作品を展示するのに向いているのではないかと思っていたせいもある。

 それでも、出かける前の日に、そのサイトを確認していたら、予約が必須のようなことが書かれていた。

 勝手に夜中に焦って、二人分の予約をした。いろいろと選択できたので、支払いは現地ですることにしたのは、もしかしたら当日に何かあったら、と考えたせいだった。

展覧会

『YUMEJI展』に出かける日は天気も悪くなくて、久しぶりに降りた目黒駅の東口の光景は変わっていた。新しい大きいビルもできて、印象も違っていた。

 それでも、東京都庭園美術館のそばに来ると、それほどひんぱんに来ていたわけでもないのに、懐かしく、何年か前にきた内藤礼の個展のことも思い出した。

 受付で、入場券を購入するために予約したことをプリントアウトして見せたのだけど、かなりの混雑を予想していたのに、それほどでもなく、平日のせいか、もしかしたら予約なしでも入場できたかも、というような状況だった。

 そこから美術館の建物までは距離もあり、緑も豊かで、それだけで気持ちが違ってくる。よく「金持ちの家」は門を入ってから、玄関までやや時間がかかるという描写はドラマなどのフィクションで数限りなく見てきたけれど、ここもそういう場所だったんだ、と改めて思った。

『YUMEJI展』

 平日なのに、人が思ったよりも展覧会を鑑賞していた。

 着物を着てくると割引、ということもあって、そうした姿の人も見かけた。

 100年以上経っても、新しく発見される作品があって、今回もその「アマリリス」が展示されていたのだけど、それほどの驚きがなかったのは、これまで見てきた竹久夢二の作品として、やはり同じように完成されていて、他の誰とも似ていない感じだったせいだろう。

 竹久夢二は、絵画を描いたが、それは雑誌の挿絵が多かったようだし、さらには、今で言えば雑貨のデザインもしていたし、生活の中に自分の作品が存在するようなことを続けていたけれど、そんな方法をとっていた画家や芸術家は、おそらくは他には存在しなかっただろうから、展覧会を行ったといっても、当時の画壇という場所からは無視されていたのではないだろうか。

 ただ、今回、作品を改めて見ていると、竹久夢二は、最初から竹久夢二という独特の存在で、ずっと変わらなかったように思えた。

(「YUMEJI展 ジュニアガイド)

https://www.teien-art-museum.ne.jp/wp-content/uploads/2024/06/YUMEJI_juniorguide2024.pdf

 今回、親切にも「ジュニアガイド」というものを制作してくれて、それがとてもわかりやすい。

 展覧会の会場にも、この「ジュニアガイド」にも説明があるのだけど、竹久夢二は美術の学校など専門的な教育を受けずに独学で自分の画風を確立したという。しかも、小学生の時の美術教師の影響を受け、17歳で家出をし、東京に上京し働きながら学校に通う。その中で、雑誌に挿絵が入賞すると学校をやめて画家に専念する。そんな思い切った過程を通る。

 その頃の作品も、『YUMEJI展』には出展されていたと思うけれど、すでに「夢二式」の画風が確立されているように見えた。独学といっても、いつどこの誰の影響を受けたのかもわかりにくい。

 そして、人気の画家になった頃に、専門的な勉強をしようと思い、美術の学校に通おうと思った時期もあったらしいが、相談した相手に、独自の道を歩んだ方がいい、と言われたらしい。

 そんなことを、今回の展覧会場の年表などでも改めて知ったのだけど、そんなアドバイスをしたくなるほど、竹久夢二のスタイルは20歳そこそこで確立していたのではないか。そんなことを思うほど、その後もずっと「夢二式」は変わらないように見えた。

 誰かが助言したのかもよくわからないが、30歳の頃に夢二がデザインした雑貨や本を販売する店を開く。どこかに品物を並べてもらうのではなく、おそらく、その店の隅々まで「夢二式」にデザインされた場所ではないかと想像がつくが、21世紀でも切手のデザインに採用され、それが魅力的に見えるほど、夢二のデザインは、あまり古く感じないし、かわいさがずっとある。

 どうして、最初から竹久夢二は、特に若い女性に届くような魅力を持った絵画が描けて、さらにはデザインができたのだろう。そのスタイルを確立するための苦闘、もしくは過程のようなものがやっぱりわからなくて、世の中に出てきた時は、すでに竹久夢二であって、その後も、揺らいだ感じはしない。

 独学、と表現されるのだけど、どうやって学んだのだろう。

 手足が大きかったり、化粧中の女性の描写を見ても、若い男性(特に女性との付き合いがあまりない)が抱きがちな過剰な憧れのようなものがなく、もしくは男性側から見た女性像というよりも、女性が憧れる女性を描いているように思える。

 どうして、竹久夢二に、それが可能だったのだろう。

 今回、展覧会を見て、やはりわからないままだった。

「竹久夢二」という存在

 今回の展覧会で初めての公開となるらしいが、1931年から約2年間、欧米を巡るたびに出かけたときのスケッチブックも展示されていた。

 これは、とても個人的な感想にすぎないけれど、明治以降、日本から欧米に行って、絵を学ぶと、当時の欧米で流行している(ということは一昔前の)絵画の方法を学んできて、その影響が色濃く出た作品を発表し、それで「洋行帰り」として評価される、といったことが多かったように思う。

 だから、どんな画家でも、日本国内の時の画風と、海外に行ってから帰ってきた、特に直後は、誰の作品に影響を受けたのか、がわかるくらい、強く画風が変わるように思う。

 でも、竹久夢二のスケッチブックには、竹久夢二の作品が並んでいた。

 その画風で、でも、日本では見られないような人物や風俗を描写しているような印象だった。

 竹久夢二が、その洋行帰りの頃に描いた油絵の裸婦もあったが、それは髪色がブロンドになった「夢二式美人」に見えた。

 こんなに海外の影響を受けていない画家は、あまり見た記憶がなかった。

 頑固、という固さはないのだけど、これだけ常に竹久夢二として確固とした存在は珍しいのだろうし、こうした独特の存在が、明治から大正にかけては、画家としておそらくはとても人気があって有名だったことを考えると、不思議な気持ちになる。

 知識が不足しているから、そう思えるのかもしれないけれど、こうした存在は、それ以前にもいないし、それ以降は、影響を受けたアーティストは実は結構多そうなものの(中原淳也など)、竹久夢二が現役の頃は理解者も、応援する人も、もちろん大勢のファンがいたかもしれないけれど、美術史の中でも孤立した存在に思える。

 もしかしたら、大正ロマンという時代自体も、竹久夢二がいなければ有り得なかった文化かもしれないとまで思った。

 そんなことを、展覧会を見て、考えたりもできた。



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