読書感想 『ネットは社会を分断しない』 「事実を受け入れる難しさ」
誰でも発信できる。
世界のどこにでも、自分の考えを届けることができる。
集合知で、人類は進歩できる。
インターネットにまつわるそんな夢のような言葉を聞いたのは、20年くらい前の話で、しかもそれが全くの夢物語に感じられない時代が確かにあった。
だけど、それが失望に変わるまで、もしかしたら、これまで人類が発明したあらゆる技術の中で、もしかしたら最速かもしれない、と思うくらい、あの夢のような話は、どこかへ行ってしまった。
誰でも発信できる。
その前提自体は、ずっと変わらないけれど、インターネットのイメージは、全く変わった。
毎日のように論争が行われている。
信じられないような罵詈雑言が飛び交っている。
エコーチェンバーと言われる現象で、思想が極端化する。
そして、社会の分断をすすめる。
それほどインターネットに接していない自分でも、そのことは「常識」として疑わなくなっているし、もしかしたら、もっと詳しいヘビーユーザーでも、同じように感じているのかもしれない。
だから「ネットは社会を分断しない」というタイトルを見たときは、これもインターネット上でよく見かけるようになった「逆張り」ではないか、という疑いさえ持った。
『ネットは社会を分断しない』 田中 辰雄 浜屋 敏
この著書では、これまでの調査を踏まえて話が進められている。
いったんそう結論づけ、そして、そこから、逆の結論を積み上げていく作業を続けていく。
高齢者の分断
まず、年齢別の分析が始まる。
以前は、いわゆる「ネトウヨ」と言われる存在は、若いと言われていたし、インターネットに詳しくない私のような人間は、それを信じていた部分があった。だが、それに大きく疑念が向けられるようになったのが、2017年の「弁護士大量懲戒請求事件」だった。
この「事件」を起こした人たちの年齢が高かったからだ。
高齢者の「ネトウヨ」化の実態
「日刊SPA!」では、「ネトウヨの高齢化」としているが、『ネットは社会を分断しない』では、「ネット原因説に疑問を投げかける」ので、「ネトウヨ」という表現をとっていない。
ただ、ここで、一つの疑問もわいた。直接的に知っているわけではないが、それこそインターネット上で、「親 ネトウヨ」で検索すると出てくる大量の「事例」のことだ。それまでごく普通に働き、社会人として生きてきた親が、仕事を離れ、スマホを持つようになり、いつの間にか「ネトウヨ」になってしまった、という話が数多くある。
だが、これも、『ネットは社会を分断しない』の中に、こうした指摘がある。
親がいきなり「ネトウヨ」になった状況の中にいて悩んでいる人には、失礼な推察かもしれないけれど、もしかすると、ごく普通に見えていた「親」が、実はその思考の中に、見えにくいけれど、元々、そうした分極化が息づいていた可能性もあると思う。
それは、戦前生まれの世代でも、ごく平凡に生活しているように見えていた人が、日常会話の中で、「分極化」とも言える考えを口にすることもあったからだ。それは時代の影響を受けていた、ということかもしれないし、どこかで、それが世間ではないかとも思っていた。
エコーチェンバーの実際
近年、インターネットでの「常識」の一つになってしまったと思えるのが「エコーチェンバー」だと思う。
インターネットを利用すれば利用するほど、自分の意見に近い言葉ばかりに接するようになるのが、インターネットの仕組みであり、そのことによって、気がついたら思考が偏るような状況を指しているが、このことに関しても『ネットは社会を分断しない』は実態調査によって、印象とは違う事実を提示している。
この数字を見ると、ここ何年か言われているほど、エコーチェンバー現象は多数派でないことが分かる。こうした調査がなければ、もしかすると、もっと大勢の人が「エコーチェンバー現象」の中にいるという、実態とは違う印象のままだったのかもしれない。
目立つ極論
それでも、毎日のように触れている「具体的」な言葉が過激であり、極論であれば、やっぱり分断しているのではないか、という感情に引っ張られる。
だけど、それも調査による数字で、その思い込みを否定している。
そして、この具体的な調査に基づく「主張」は、やはり説得力がある、と思う。
この著書が2019年に出版されてから、3年が経とうとしている。それでも、こうした「事実」はあまり知られていないように思えるから、それは、感情的な印象をくつがえすような「事実」を受け入れる難しさも示しているのかもしれない。
おすすめしたい人
日常、ネットに触れることが多い人。
インターネットに希望が持てなくなってしまった人。
SNS疲れを感じている人。
今回、引用したのは、著書のごく一部です。もし少しでも興味が持てたら、ぜひ、手にとっていただきたいと思います。
また、今回の著者の一人・田中辰雄氏が、以前、共同執筆している『ネット炎上の研究』も、合わせて読んでもらえると、さらに考えが深まるので、こちらもおすすめです。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
#推薦図書 #読書感想文 #ネットは社会を分断しない
#田中辰雄 #浜屋敏 #ネット炎上の研究 #分断
#穏健化 #インターネット #SNS #コミュニケーション
#対立 #保守 #リベラル #毎日投稿
記事を読んでいただき、ありがとうございました。もし、面白かったり、役に立ったのであれば、サポートをお願いできたら、有り難く思います。より良い文章を書こうとする試みを、続けるための力になります。