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読書感想   『認められたい』   熊代亨  「承認欲求で悩むすべての人に」

 「承認欲求」という言葉を、本当によく聞くようになったのは、たぶん、ここ10年くらいだと思うが、それは、スマートフォンが、何十年も前からあるように思えるのと同様に、「承認欲求」は、必要不可欠のもののように語られるようになってきた、という印象がある。

 ただ、それだけ重要度が増したものの、その語られ方は、両極端であるように思う。

    その「承認欲求」をどうやって満たすのか?といった、言ってみれば「強者のノウハウ」のように語られるか。
    もしくは「承認欲求」を持つこと自体が、まるで恥ずかしいことのように、ささやかれるか。

 この私の見方自体も偏っているとはいえ、「承認欲求」というものを、その切実さを理解しながらも、そこに埋没しすぎないように、それでも「承認欲求」と、うまく付き合っていける方法論まで踏み込んだ、バランスよく一般向けに伝える書籍は、私が知らないだけかもしれないが、これまでなかったように思う。


「認められたい」  熊代亨

 いつも、読書感想を書く時に、自分なりのサブタイトルをつけているのだけど、今回の『承認欲求で悩むすべての人に』というのは、この本の帯に書いてある文章と、ほぼ同じになってしまった。

 「承認欲求」に関しては、まずはこの1冊を読めば、一般的には、知りたい、もしくは知っておくべきことが、必要最低限かもしれないが、すべて書かれていて、もし、さらに勉強したい、といった思いがあったとしても、ここを足がかりに進めば、それほど大きく間違えることはないと思えるような内容だったからだ。

 それだけ、信頼性の高い書籍だと思う。

 その根拠の一つとして、スタート地点は、著者自身が、「承認欲求」に悩む人だった、ということだ。

 あの日の私は「認められたい」に飢えていた 

 そして、そうした自分の気持ちのあり方が、時代の流れと無関係でないことも、きちんと分析をしている。

 社会全体の流動性が高まり、企業などの共同体に身を任せていられない状況では、自分が評価される場所を自分で探し、そこでスキルを伸ばしていくしかありません。そういう状況に適応していくためには、滅私奉公を良しとする所属欲求の強い心理よりは、他人から褒められたり評価されたりしてモチベーションを獲得するような、承認欲求の強い心理のほうが都合が良かったとは言えるでしょう。

「承認欲求」の丁寧な説明

 その歴史的な必然性を抑えた上で、「承認欲求」についての、丁寧な説明が始まる。

「承認欲求は貯められない」ということです。
 この点、承認欲求はお金より食欲に似ています。 

 さらに、「承認欲求」だけが、幸福の鍵ではない、ということにも触れている。

 おおむね幸せそうに暮らしている人達の大半は、そのような承認欲求と所属欲求のハイブリッドと呼べそうな人達で占められています。 

 また、特に近年になって、多く目にするようになってきた「マズローの欲求5段階説」への穏当で真っ当な疑念は、「承認欲求」に悩む人にとっては、確実にプラスだと思える。

① アインシュタインのような特別な人物の場合、マズローの欲求段階説をそのまま当てはめても違和感はない。
② しかし、ごく普通の人間の場合、自己実現欲求を省いて承認欲求と所属欲求を最上位にしたほうが事実に即している。
③ なかには、承認欲求のほうが先に求められ、後になって所属欲求に芽生えていく人もいるし、いつまでも承認欲求ばかり追い求め続ける人もいる。

当たり前の大事さ

   もしかしたら、どこかで読んだことがあるようなことばかりかもしれない。ただ、それは、こうした事柄が扱われる時に、「すぐに効く」といった極端な語られ方が目立ってきただけで、本来は、こうしたあくまでも日常的な言葉で「承認欲求」は扱われるべきことだったのだろう、とも思った。

   それでも、「承認欲求」で悩む人に対して伝えるべき事として、過不足なくまとまって読めるのは、もしかしたらここしかないのでは、と思えるくらい、かゆいところに手が届く、といった内容が、さらに書かれ続け、その結論のようなところも、とてもオーソドックスでありながら、納得のできる内容だった。

 私のお勧めは、〝適度な欲求不満〟や〝雨降って地固まる〟が成立する関係を長く地道に積み上げていくような「認められたい」です。そうやって「認められたい」のレベルを上げ続けていける人間関係こそが、結局、身の回りにいる人達との日常をきちんと噛み締め、人生を丁寧に耕していくことにも通じているのではないでしょうか。

「コミュニケーション能力を育てる方法」の語り方

 さらに、感心するほど親切だと思えるのは、「認められたい」という「承認欲求」を満たすためには、どうしても人との関わりが必要で、そのために避けて通れない「コミュニケーション能力を育てる」ことも、「七つの基礎」として、丁寧に述べられていることだ。

 その「七つの基礎」は、もし、興味があれば、直接、手にとって確認してもらいたいのだけど、最初が「挨拶と礼儀作法」次が「ありがとう」と続き、中には他では指摘されていない意外で大事なポイントもあるのだけど、「一気に、楽に、意外な方法」を求める人には、下手をすれば落胆するような内容だと思う。

 だけど、ダイエットの方法が、様々な奇をてらうことが現れては消えるものの、結局は「摂取カロリーを減らして、適度な運動をする」という、面白くも何ともない方法だけが確実なのと同様に、「コミュニケーション能力を育てる」も、すぐに身に付くものではなく、誰もが知っていることを確実に続けるしかない、ということだと思う。(ここで、能力をあげる、というのではなく、育てる、という言葉を選ぶところが、この著者の特徴があらわれているようにも思う)。

 時間はかかることを覚悟した上で、地道に続けることで、気がついたら、自分が成長する、というシンドイかもしれないが、理想的な方法でもあるだろうし、「承認欲求は貯められない」以上、高齢社会になってしまった現代においては、世代を問わず、(自分も含めて)これからの時代にますます必要性が高まるような書籍だと思う。

 最終的な提言も、本当に文句のつけようがなくて、読者としても何の異議もなく、自分もそれに対して、微力であっても協力したいと思えるようなことだ。

 私は、もっと「認められたい」気持ちを充たし合えるような社会になるべきだと思います。他人から評価されやすい長所を持った人・コミュニケーションをうまくこなせる人ばかりが承認欲求をかき集め、そうでない人が「認められたい」をお金で充たすか、その気持ちに蓋をしておくしかない社会は、ごく一握りの強者には理想的でも、ほとんどの人には息苦しいものです。  
 たくさんの人が、「認められたい」を充たし合える未来に変わっていく第一歩として、まず、あなた自身が「認められたい」をレベルアップさせていって、周りの人達と認め合えるような関係を築いていって欲しいと思います。そうやっていけば、あなたの周りにいる人達も「認められたい」のレベルアップを成し遂げやすくなるでしょう。そうやって、ひとりひとりのレベルアップが連鎖していけば、「認められたい」を巡る今の息苦しい光景も、少しずつ良くなっていくのではないでしょうか。 

信頼性の根拠

 こうしたことを、きれいごととか、理想論などと批判するのは簡単なことだとも思うのだけど、もともと、この著者が、「承認欲求」に恵まれていない地点からスタートした上で、ここにたどり着いたことに、強い説得力を感じる。

 著者は、かつては「承認欲求」に関しては、弱者だったはずだ。それが、精神科医となり、ブログで発信をしたり、こうして著書も出しているのだから、今は「承認欲求」の強者といってもいい。

 そうした、這い上がってきた人の場合、本文中にあるような「コミュニケーションモンスター」として、今も「承認欲求」の弱者から抜け出せないような人たちに対して、「上から目線」で振る舞い、自身の優越感を、満たしてしまう事も少なくない印象がある。それは、現在も劣等感から自由になれていないことを表現してしまっているのだけど、そこには気がついていないことも多い。

 だけど、この本を読んで、偉そうな言い方になってしまうが、そんな印象はなく、かつての『承認欲求に飢えていた』自分に対して、決して見下すことなく、今も共感と共に、書かれているようにも感じる。

 そうした姿勢は、信頼ができると思うし、実は、かなり難しいことではないか、とも感じる。

 この著者には、もともと、そうした資質もあるかもしれないけれど、その上で、試行錯誤しながら、「コミュニケーションを育てる方法」などを、実行してきて、今があるのだから、この本の方法は、信頼できる、という根拠の一つになっていると思う。


 そこで、最初に戻って、だから、この本は「承認欲求に悩むすべての人に」おススメできます。もし、興味がある方は、一度は読んでもらえる価値があると、個人的には思います。



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