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言葉を考える

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いろいろな場所、様々な状況で、毎日必ず接する言葉。時々、その言葉を考えてみたいと思います。
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記事一覧

言葉を考える⑳「むずい」と「恥ずい」。

 やっぱり言葉はかわる。  自分にとって違和感があったとしても、他の人たちが使い始め、そういう人たちが増えて、ごく日常的に聞くようになると、定着していって、気がついたら、その耳慣れなかった言葉が一般的になって、そのうちに辞書にも載るようになり、当たり前の言葉になっていく。  私にとっては、それ自体が古い感覚なのだろうけれど、新しい一般語になろうとしているように思えるのが、「むずい」と「恥ずい」だった。 むずい 難しい、と言う場面で、「むずい」という言葉多く聞くようになっ

言葉を考える⑲「敷居」と「ハードル」。

 言葉は変わる。  というよりは、言葉の使い方が変わっていって、その結果として、言葉は変わっていくのだろう。 敷居が高い おそらく20世紀までは「敷居が高い」という表現は、今よりも多く使われていた印象がある。  辞書には、こう書いてある。  今でも、特に年齢が高い人たちは、この表現を使う傾向が強いとは思うのだけど、21世紀に入ってから、あまり使われなくなった印象が強い。  シンプルに考えれば、「敷居」というものを目にする機会が減ったせいだろう。  家の中に和室がな

言葉を考える⑱「気まずい」。

 エレベーターに乗って、いろんな人と一緒の数十秒。  そこに人がいるのは、もちろん分かっているのだけど、知らない人だから、言葉をかわすことはできない。  その間、ただ黙っている。  だけど、それは一人きりで沈黙しているときとは違って、黙っていることに加えて、妙に気持ちが落ち着かない。  それを、気まずいと表現すると、自分自身だけではなく、他の人も納得してもらいやすくなる。  考えたら、不思議な表現でもある。 味覚 それが本当に正確な起源かどうか分からないけれど、気

言葉を考える⑰「言語化」、という言葉への微妙な違和感

 言語化、という言葉をよく聞くようになった。 スキル 当初は、専門用語的な気配が強くて、少し緊張感のある場面で使われていた印象があったのだけど、そのうち、かなりカジュアルに使用されるようになって、日常語になってきたような気がする。  今は、ビジネススキルの一つとして、「言語化」ということは当たり前のことで、すでにその質が問われるようになってきているようだ。 気持ち 人間にとって、最も負担になるのは、不安だとも言われている。  それが大きくなったり、長く続きすぎたりする

言葉を考える⑯「向き合う」だけでは足りないと思う。

 ここ数年でよく聞くようになった言葉に「寄り添う」という表現がある。  その言葉自体にというよりは、その使い方に抵抗感があることを、この記事に書いたけれど、その内容に関しては、今も同様なことを思っているのと同時に、「寄り添う」だけでは足りないのではないか、と思うようになった。 「寄り添う」ことは難しい。本当の意味で相手の力になれるように「寄り添う」ことは、もっと難しい。だけど、「寄り添う」はスタート地点で、そこからどうするかが大事なこともある。  だから、「寄り添う」を

言葉を考える⑮「一喜一憂」と「喜怒哀楽」

 四文字熟語というような構えた言葉を使わなくても、「一喜一憂」や「喜怒哀楽」は、人の感情を表す表現として、今もあちこちで使用されている。 喜怒哀楽 知っている人は知っていることだと思うので、今さら指摘するのも恥ずかしいのだけど、人間のあらゆる感情を表現しているのが「喜怒哀楽」のはずだった。  だから、とても素朴な見方なのだろうけど、「喜怒哀楽」が、感情を表すときには、かなり万能に近い印象があったので、改めて考えると、少し不思議だったのが「一喜一憂」という言葉だった。  

言葉を考える⑭「勤怠管理」は、どうして「勤務管理」ではないのだろうか。

 個人的なことだけど、会社で働く年数が少ないせいか、「勤怠管理」という言葉を、恥ずかしながら、最近、知った。  反射的に嫌な気持ちがした。 管理すること  会社で働いている以上、管理される部分があるのは仕方がない、とは思う。  私が知っているのは、タイムカードで、出勤時刻と退社時刻を打刻する、というシステムで、そこには数字が並んでいた。それに、どこまで本当か分からないけれど、他の人のタイムカードを押して、遅刻などを減らす、といったことまで行われていた、という話も聞いたこと

言葉を考える⑬「低気圧」のイメージについて。

 雨が降りそうになる前に、ヒザが痛む。腰がうずく。  そんな言葉は、ずっと昔から聞いていたのだけど、そのうち、その言い方が、微妙に変わってきたように思う。例えば、こんな言葉↓になった気がする。  低気圧が近づくと、その前に、体の調子が悪くなってくるので、分かる。 「気象病」  電車に乗っていた時に、ドアの上の小さな画面でニュースや広告など映像が流れ続けている。その中で、「気象病」という言葉がすでに一般的になっているのを恥ずかしながら初めて知った。  一般的なクリニック

言葉を考える⑫「かんのむし」という知恵。

 今は、あんまり聞かなくなった言葉の一つに「かんのむし」がある。  私自身は、子どもを育てた経験がないので、聞いたり、見たりするしかなくて、想像するしかないのだけど、例えば、電車の中などで、ぐっすり寝ていたと思えた赤ちゃんが、急に泣き出し、それを焦ってあやす保護者の方を見ていると、なんとか声をかけた方がいいのかも、と思いながらも、どうかけたらいいのか分からない。  気にしてませんよ、みたいなことをどう伝えたらいいのか、といったことを、うじうじ考えて、なんだか何もできず、申

言葉を考える⑪「寄り添う」は、とても難しいはずなのに。

 「寄り添う」という言葉を、とても多く聞くようになった気がする。  それは、個人的に気になっているから、余計に目について、そのために多用されているように見える、といった作用かもしれないけれど、そう思うようになったきっかけは、やはり政府関係者が使ったせいもあると思う。  特に沖縄に関して、「寄り添う」という言葉を使いながらも、その土地の人たちの要望に対して応えることはしていなくて、逆に要望を踏みにじっているように見えた。  だけど、少し考えたら、「寄り添う」という気持ちは

言葉を考える⑩「わかりみ」だと届かないところ

 言葉は日々新しくなる、というよりは、これまで空き地だった場所にビルが建ち始め、それが毎日のように通る場所でも、その工事の途中では見えているのに見えていなくて、完成してから、いつのまにここにあったのだろう、と思う感じと似ていて、本当は定着するまでに時間がかかるものだと思う。  だから、たとえを続けてみれば、新しくできた言葉も、建設途中で放棄されて、いつのまにか風化していく建物のように、一時期の流行語は、生まれて、使われて、消えていき、「死語」と言われるようになっていくのでは

言葉を考える⑨「前だけを見て、進みます」の危うさ

 最初に、「ただ、前だけを見て、進みます」といった表現が強く印象に残ったのは、国民的アイドルが、テレビで公開謝罪といった状況で、発せられた時だと思う。  その時は、そのグループは解散するのではないか、などとも言われていて、それは後に現実になってしまうのだけど、その公開謝罪みたいな時には、これまでいろいろとあったのだけど、それはそれとして、何があっても、これから頑張ります、といった言い方に聞こえた。  そして、その「前だけ見て」といった言葉を発している人間と、その他のメンバ

言葉を考える⑧「違和感を、感じる」を、考える。

 違和感を、感じる。  こう書くと、それは、間違っているとは言わないが、美しくないのではないか、といった批判がされているのは、知っている。  それは、違和感を感じるが、「腹痛が痛い」に近い二重表現ではないか、という指摘らしいが、その場合に正しいとされる「違和感を覚える」も、この場合の意味「覚える」も「感じる」に近いらしいので、どちらにしても「二重表現」になって、つまりは、正解はない、ということらしい。  そうなると、何を使ってもいい、といった「正解のない答え」になってしま

言葉を考える⑦「普通に、おいしいです」の誠実さ

 何かを食べた時の感想として「普通に、おいしいです」と言われ始めたのが、いつ頃だったのかは、はっきりと覚えていない。だけど、使われ始めた頃には、特に年長者からの「普通って、なんだ?」という反発があったのも確かだったと思う。それが、時間がたつことで、今は、この「普通に、おいしい」という言い方も定着しつつあると思う。  そして、今は、「すごくおいしい>普通に、おいしい>おいしい」といった順番になっているように感じる。それは、カレーの「辛口>中辛>甘口」の辛さの程度と似ていて、微