お母さん (日記)
遠い昔、母が語った言葉が、ふと蘇る。
当時、私は小学生だった。
その話しを聞いた時、何だか切なくて胸が苦しくなったのを覚えている。
当時、母はどこかで聞いてきた話しを語り始めた。
話しの内容は、こうだ。
ある所に、母親を亡くした少女がいた。
就寝時には、毎回母親の着物を胸に抱きながら、眠りに就いた、と。
私は話しを聞きながら想像した。
少女は、まだまだ母親が恋しい年頃だろう。
母親の残り香は、少女に安心感を与えたのかもしれない。
そして、自分に重ね合わせて考えてみた。
(もし、母さんが死んでしまったら、どうしよう?
母さんがこの世からいなくなるなんて、絶対に嫌だ!)
想像しただけで、泣きそうになった。
でも今は母は健康だし、死んでしまうなんて、まだまだずっと先の話しだわ、と自分に言い聞かせた。
とはいえ、遠い将来、確実に母がこの世からいなくなると思うと、胸がぎゅっと締め付けられた。
この、母から聞いた話しは、その後も度々思い出した。
今、既に母は亡くなり、あの頃の想像を遥かに超える喪失感をもたらした。
(母さん、母さんが語ってくれた話し、時々思いだすよ。思い出す度に懐かしくて、そして会いたくて寂しくなるよ)
親が亡くなった時の自分の年齢は、若ければ若いほど、ショックが大きいかもしれない。
仮に、私が小学生の頃に母が亡くなっていたとしたら、もっと悲しみに暮れていただろう。
例の少女は大人になるまで、亡き母の着物を抱いて眠りに就いていたのだろうか。