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〜あの頃の備忘録〜 私が独身だった時の話

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カネと酒と本さえあればいい。旦那に会うまで結婚なんて想像していなかった独身時代の話。
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酒の楽しみ方

酒の楽しみ方

アパートの台所の下の扉の中には、いつも鏡月の1.8ℓボトルが入っていた。

深夜2時を回り、居酒屋のバイトが終わった私は車で約30分かけて自宅に帰る。立ち仕事でヘロヘロに疲れた足を何とか動かし、玄関を開け我が家へ。ただいまなんて絶対に聞こえない部屋の明かりをつけ、ニトリで買った1万円くらいの安いベッドに飛び込む。だが、ここで寝ない。仕事モードが抜けないせいか、むしろ目がギンギンに冴えるのである。

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独身の楽しみ

独身の楽しみ

独身のとき憩としていたのは、お酒を飲んでからの読書。まず一杯目はビールから始まり、ウイスキーや焼酎など組み合わせを考えず呑む。決して粋な飲み方ではないが、これが至極の時間。ほろ酔い気分になった頃、グルメ系の小説を読み始める。まるで、本の中で一緒に呑んでいるような感覚になりながら。

酔いも深まると、コラムを読み漁る。恋愛、人間関係、婚活、お金にまつわる話など手当たり次第読む。ヒトサマの人生を覗き見

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就活の目的

就活の目的

学生時代は経済学を専攻していたが、趣味といえば専ら酒、読書、そして現代アートだった。

大学3年の冬から春にかけて、例にならい就活に勤しんでいた。しかし私の場合、目的は内定獲得などではなかった。
「美術館巡り」これにつきた。

地方出身のため、東京に行くのはやはり一大事だ。面接を建前に観たい展示を吟味し、1泊2日で2ヶ所はまわった。終わったあとの心地よい疲れは、なんともいえない満たされた気持ちであ

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現代アート

現代アート

学生時代、現代アートのボランティアスタッフとして、国内外のアーティストの作品制作や展示のお手伝いをしていた。どのような作品に触れたのか、どんな人が訪れたかは詳しくはまた別の機会に書きたいと思う。

アートは、私の学生生活の記憶の大部分を形成してる。一般的に敷居が高く敬遠されがちに思えるが、その内情はとても豊かだ。日本では、モネやルノワールなどの印象派が不動の人気を誇るイメージがある。様々なジャンル

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麓の家

麓の家

一人暮らしで初めて住んだのは、山の麓のアパートだった。

高校を卒業後、地元から車で二時間半ほどの大学に通うことになった。引っ越しの準備を済ませ、父親の運転する車で山深い道を進みながら新居を目指した。私は最初から反対だった。学校に近く、家賃が安いというだけで母親が決めてきた物件。コンビニが一番近くて徒歩30分、バスも登校時間に2、3本でそのほかは2時間に1本あるかないかだった気がする。絶対に途中で

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思い出の恋模様

思い出の恋模様

「ごめん、ちょっと行ってくる。」

深夜0時を回る頃。20歳になる彼の誕生日ケーキを作って待っていた私を置いて、あっさり出て行った。驚きすぎて、状況が呑み込めない。

私は圧倒的に男がわからない女だった。高校のころ、初めて付き合った男との別れは墓所の前だった。近くにカフェも移動手段もないわたしたちは、道路脇にある墓所のベンチで話し込むことが多かった。今考えると、そんな場所を選んだ自分たちに若干どこ

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