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掌編小説

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【無料マガジン】 私の書いた掌編小説を収録していきます。
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#掌編

徳禅和尚が殴られるわけ

徳禅和尚が殴られるわけ

 えぇ、神様仏様に誓って言いますがね?

 あっしぁ、暴力沙汰が嫌いな性分なんでさぁ。そんなもんだから、生まれてこのかた、人様と殴りあいの喧嘩なんざぁした事もねぇんですよ。
 腕っ節に自信がないわけじゃありやせんぜ?
 こう見えても、大工仕事なんぞをしておりやすから、そりゃもう、腕力にはそんじょそこらの野郎共にも負けない自信はありやすとも。
 けどね、喧嘩はいけねぇ!
 近所の寺に〝徳禅和尚〟って

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終わりの夜伽

終わりの夜伽

「ねぇ? おかあさん?」
 つぶらな瞳が、添い寝する母親を正視して尋ねた。
 母親は我が子が安らかな眠りに就けるように、ポン……ポン……と緩やかなリズムに体を叩いてあげていたが、どうやら子供特有の強い好奇心というものは睡魔の誘惑すら跳ね退ける強力な結界らしい。
 だから、柔和な微笑みで聞いてあげる事とする。
「なあに? ぼうや?」
「いちばん強い動物って、なあに?」
 他愛のない質問である。
 実

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大義の聖剣

大義の聖剣

 地上では戦乱が激化の一途を辿っていた!

 その戦禍は歯止めに至る兆しも無く、東西南北の国々は今日も猛々しく意気を吠える!
 神に授けられし〈聖剣〉を掲げて……。

「〈正義〉は我々にあり! この〈聖剣〉こそが証だ! 刃向かう者には容赦するな!」

「大義名分たる〈正義〉は我が方にある! 反抗意思を示す者在らば〈悪〉と裁け!」

「敵国の泣き所は押さえてある! 遠慮は要らん! 〈正義〉の名の下に

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卵

 とある高名な老錬金術師が三人の弟子を呼び寄せた。

 弟子とはいえ、まだまだ一人立ちに値しない若輩者達ばかりではある。
 そんな頼りない弟子達を厳格な視線で見渡すと、錬金術師はこう言った。
「さて、ワシもそろそろ高齢じゃ。口惜しいかな、寄る年波には勝てぬ──歳月を費やした研究が実っていれば別だったがのう。そこで、隠遁でもしようかと考えておる。ついては、この中から後継者を決めようと思ってな……」

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レゾンアカウント

レゾンアカウント

「今日のアカウントはコイツでいこう」
 モニター内に羅列される候補から〝一人〟を選ぶと〝俺〟はネットにログインした。
 フラフラと漂うサーフィンダイブに、今日も〝吊るすスケープゴート〟を探す。
 ゴロゴロいる。
 クソ下らねえ連中。
 何か「充実してますよ」ってツラで投稿してるヤツ。
 それとかグダグダでクドイ趣味知識を披露して「私は達観に極めてます」とかアピってるバカ。
 それに対してチヤホヤと

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