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レゾンアカウント

「今日のアカウントはコイツでいこう」
 モニター内に羅列される候補から〝一人〟を選ぶと〝俺〟はネットにログインした。
 フラフラと漂うサーフィンダイブに、今日も〝吊るすスケープゴート〟を探す。
 ゴロゴロいる。
 クソ下らねえ連中。
 何か「充実してますよ」ってツラで投稿してるヤツ。
 それとかグダグダでクドイ趣味知識を披露して「私は達観に極めてます」とかアピってるバカ。
 それに対してチヤホヤと歯が浮く緩いコメントを書いているアホ共も。
 見ていて腹立つ。
 だから、思いっきりディス書いてやった。
 おら? 乗ってこいよ?
 気に入らなければバッシング。
 マウント取れそうなら〝警察〟にだってなる。
 正論かどうかとかは、どーでもいい。
 一方的にボコれれば気持ちいい。
 ストレス発散だ。
 仮に反論されても理詰めで黙らせる自信はあるしな。
 どうせ強気に出れないのは百も承知さ。
 心象が悪くなるの怖いんだろ?
 出れないよな?
 ザマァwwwwww
 それでも、たまにいやがる。
 何を勘違いしたか知らないが、マジになって説教垂れるヤツ。
 理屈臭ぇの。
 然も自分が良識みたいにさ。
 こういうの、たいがい老害ね。
 文章で判る。
 堅苦しい。
 マジうぜぇ。
 オマエら死ねよ。

 何やら一階から高い声が聞こえた。
 リビングかな?
 ヘッドフォンにくぐもって、よく聞こえないけど……大方、お袋が何か大声で喋ってるのだろう。
 いつも通り、テレビへの独りツッコミか?
 どーでもいいけど。

 あ? 口論? 炎上?
 ならねぇよ。
 アッチを炎上させる事はあっても、コッチが吊るされる事にはならない。
 さっきも言ったけど、黙らせる自信はあるから。
 要は〈味方〉がいればいいワケ。
 少数でもいいから〝俺〟に味方するヤツが口火を切っちゃえばいいワケ。
 そうすりゃ流れは出来上がる。
 同調するヤツラがワラワラと自然に出て来る。
 涌いて群がる。
 瀕死の昆虫に集る蟻みたいに。
 コイツラも結局マウント取りたい連中ね。
 でもって、自分じゃ何もできねぇクセに、こういう時だけ敏感に匂いを嗅ぎ取るのな。
 死ねwwww
 ま、どっちでもいいけど。
 どうせクソだし。

 ……また一階から、うるさい。
 お袋、何を騒いでるんだ?
 コッチの集中、邪魔しないでくれるかな?
 頼むから。

 ともかく賛同する頭数の多さを盾にすれば、どうせ相手は言葉を呑むしかない。
 誰だろうと同じね。
 結果、泣き寝入りww
 え? 〝俺〟に同調する〈味方〉なんかいるのか……って?
 いるよ。
 伊達に複アカを持っているワケじゃない。
 それも多数。
 自慢じゃないけど、そこいらの連中より複アカ所有数は多い方だ。
 いまは三〇前後かな?
 ケイゴにカズヤにタイチにショウマ……女だってある──ナツキにマヤにナナミ──いま使ってるのは〝タムラ〟ね。
 それに〝俺〟は完璧主義な性格でもあるから、各アカに性格設定も施してある。
 名前や性別も……だけど、キャラクター設定をちゃんと練り込んである。趣味や仕事、それから家族構成や人生経緯も。
 そういうの決めとくとキャラクターにリアリティーが増す……って、マンガやラノベのハウツーに書いてあったっけ。
 たぶん正解。
 実際、文章や言葉使いは自然体に全然変わる。絵文字や語尾や口癖とかな。
 こういうの持ってるから、俺は『一人で多数』って事。
 つまり〈俺の味方〉は〝俺〟……。
 数が物をいう時代で、こんなにツエー事ないっしょ?
 民主主義バンザイwwww
 匿名最高wwwwwwww

 ……と、はい! コイツ撃沈ww
 ザマァwwwwww

 さて、次はどいつをボコってやろうか?

 嬉々を含んで別サイトを選んでいると、唐突に部屋のドアがバンッと開かれた。
 暗室だった部屋が一気に明るくなる。
 〝俺〟は面喰らって背後へと振り向いた。
 お袋だ。
 何やら怒った顔で仁王立ちしてる。
「了太! ご飯だって言ってるでしょ! さっきから!」
「え? あ、ゴメン」
「了太、あなた聞こえなかったの?」
「……ヘッドフォンしてたから」
「まったく毎日毎日ネットネットって……そんな事してて大丈夫なの? 了太、あなた来年は中学生なのよ?」
「うん、大丈夫だよ。学校も勉強も、ちゃんとこなしているから。この間、塾の模試も良かった」
 一頻り吐き出して落ち着いたせいか、お袋は「ふう」と溜め息に鎮静化した。
「じゃあ、早く来なさいね? 了太?」
「うん、お母さん。すぐ行くから」
 階段を下る足音にログアウトすると〝俺〟は消化不良な思いを伸びの解放に乗せる。
 続きは御預け。
 飯の後だ。

 それにしても……さっきからお袋が連呼している〝了太〟って誰の事だろう?


[終]

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