大義の聖剣
地上では戦乱が激化の一途を辿っていた!
その戦禍は歯止めに至る兆しも無く、東西南北の国々は今日も猛々しく意気を吠える!
神に授けられし〈聖剣〉を掲げて……。
「〈正義〉は我々にあり! この〈聖剣〉こそが証だ! 刃向かう者には容赦するな!」
「大義名分たる〈正義〉は我が方にある! 反抗意思を示す者在らば〈悪〉と裁け!」
「敵国の泣き所は押さえてある! 遠慮は要らん! 〈正義〉の名の下に徹底的に突け!」
「恐れるな! 如何なる行いであろうとも、大義の前に非難などには価しない! これは〈正義〉として当然の所業なのだ!」
斯くして四つ巴の軍勢が大地を砂塵に汚した!
各々が〈正義〉を刃と振るい、眼前に見定めた〈悪〉を無情に裁く!
やがて異状な興奮に呑まれた〈正義〉は、本質を見失っていった!
抗えぬ弱者さえも贄と飽食していくのは、無自覚のままに推移した加虐心!
無抵抗の流血は憐憫誘う愁訴と汲まれる事も無く!
慟哭に流されし涙は鎮静の琴線ともならず!
すわ〈正義〉なり!
すわ〈大義〉なり!
銀光は鋭利に刻み続ける!
ひたすらに!
無慈悲に!
そこに、はたして〈真〉はあったのであろうか……。
やがて万物が沈黙に眠った地上の様子に、天界の神は首を傾げていた。
「おかしいな? 聖剣に刻んだ〈正義〉は、ただひとつ──〝他者を傷つけるな〟だったのだが?」
[終]
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