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松下幸之助と『経営の技法』#53

4/8の金言
 商売を通じてお客様と心が通いあう。そうして社会全体が潤いのあるものになる。

4/8の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。少し長いですが、そのまま引用しましょう。
 昔の商売人は「お客様の家のほうには足を向けて寝ない」というほどの感謝の気持ちでお客に接したといわれる。そういうものがおのずとお客にも伝わり、そこにその店に対する“ひいき”の気持ちが生まれる。どこで買っても品物は一緒だけれど、何となくあそこで買わないと気がすまない、というようなことになって、両者の心が通いあい、ひいては社会全体が潤いあるものになってくる。
 そういったものが世の中が便利になり、あるいは会社の機構が大きくなっていくにつれ、いつとはなしに薄れてくるという面があるのではないだろうか。そして物を売りさえすれば、それで事足れりといったことになる。しかしそういうことでは、だんだん、人間と人間の心のつながりがなくなり、国民全体の情緒も薄れていってしまうだろう。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 たしかに、スーパー、量販からネット販売へと時代が進むにつれ、顧客の店舗選択理由の中で、店舗への愛着のようなものの比重は小さくなっているようです。
 けれども、人とのつながりを求めた動きも根強く残されており、他人とのコミュニケーションが重要な役割を占める商品やサービスが、様々な形で登場してきています。松下幸之助氏が懸念する社会の崩壊のような事態は、社会構造の変化やビジネスモデルの変化によってコミュニケーションの重要性が別の形で認識されていますから、現在は、コミュニケーションが無くなってしまうことへの心配よりも、新しいコミュニケーションの在り方を考えるべき状況のように思われます。
 ここでは、従前のビジネスモデルとは違うモデルで、けれども同様に「コミュニケーション」が重要なビジネスモデルに、会社のビジネスモデルを変革できるための内部統制の条件を考えてみましょう。これは、「コミュニケーション」という会社の伝統的な強みを生かしつつ、時代に合ったビジネスに柔軟に変化できる経営ということになります。このような経営モデルは、特に「老舗」経営として研究されてきたものです。
 すなわち、伝統を重んじる、という頑固な面と、時代に合わせて変化する、という柔軟な面の両立は、非常に難しい問題です。けれども、日本では創業百年を超える企業の数が、世界の中でも際立って多いと言われています。例えば、西陣織の織物屋が、織物産業から脱却しつつ、織物の技術を生かして世界でも有数な電子部品のメーカーに変身するなど、一見すると伝統文化が本当に承継されているのかすら判別しない場合があります。
 そして、これだけの大きな決断と実行ができるために必要なことは、経営的に見ても、リスク管理の観点から見ても、共通します。
 特に重要と思われるのは、「衆議独裁」のように、皆で意見を出し合い、知恵を共有し、納得のいく決定をしつつ(衆議)、一度決めたら、全社一丸となって、決定事項の実現に向かって邁進する(独裁)、という企業文化や社内統制が必要でしょう。今までの伝統の良い所を重視する従業員たちと、変化を重視する従業員たちの両方が納得して変化を決意し、両方が一体となって変化を実行できなければ、会社内での対立によって結局どっちつかずに終わってしまうのです。それだけでなく、これを実現するためには、相当なリーダーシップと、そのリーダーシップを支えるだけの適切なプロセスや組織体制が必要です。
 このようにしっかりとした「器」があったうえで、その中に、多くの人を束ねて苦境を乗り越えていけるだけの求心力ある「将来」の絵が必要となるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 すなわち、投資家である株主と経営者との関係で見た場合、このような「変革」は、実は、コミュニケーションを軸にビジネスモデルを変える場合だけでなく、閉塞感が漂う日本の多くの企業に求められていることがわかります。
 すなわち、有力な統計データが、多くの機関投資家が日本企業の経営に必要と考えている最大の経営戦略は、「選択と集中」である、という結論を示しています。これは、様々な事業分野の中から、勝負すべき事業分野以外の事業を廃止することを意味しますから、老舗が伝統的な事業を思い切ってやめてしまう(それによって競争を生き抜いてきた)したたかさを、多くの企業が学ばなければならないのです。
 このことは、多くの投資家が「選択と集中」を期待しているのに、多くの経営者がそれを実行できていないことを意味します。経営者には、上記1で検討したことを実行する強いリーダーシップと決断力が求められるのです。

3.おわりに
 会社と顧客とのコミュニケーションが悪くなっていくことに対する松下幸之助氏の懸念は、単純に社会が衰退する、というものではないかもしれませんが、けれども、多くの会社で経営戦略の根本的な見直しを要求されている現状を見れば、大筋で的中していた、と評価すべきかもしれません。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。


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