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松下幸之助と『経営の技法』#105

5/30の金言
 後悔をしないためにも、仕事には念を入れ、止めを刺したい。

5/30の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 昔は、いわゆる止めを刺すのに、一つの厳しい心得と作法があったらしい。だから武士たちは、もう一息というところをいい加減にし、心をゆるめ、止めを刺すのを怠って、その作法にのっとらないことを大変な恥とした。
 物事をしっかりと確かめ、最後の最後まで見極め、きちんと徹底した処理をすること、それが昔の武士たちのいちばん大事な心がけとされたのである。その心がけは、箸の上げ下げ、あいさつ一つにいたるまで、厳しく躾けられ、養われていた。
 こんな心がけからふり返ってみたら、止めを刺さない曖昧な仕事ぶりのなんと多いことか。
 せっかくの99%の貴重な成果も、残りの1%の止めがしっかりと刺されていなかったら、それは初めからなきに等しい。もうちょっと念を入れておいたら、もう少しの心配りがあったなら―後悔することばかりである。
 昔の武士が深く恥じたように、止めを刺さない仕事ぶりを、大いに恥とする厳しい心がけを持ちたい。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 この言葉は、別に言うと、「画竜点睛を欠く」「プロの仕事は隅で決まる」等という言葉に置き換えられます。詰めのしっかりした仕事をしよう、ということです。
 しかも、これを「恥」に結びつけています。つまり、①「プロ」「職人」としての「プライド」「誇り」をもって仕事に取り組め、「プライド」「誇り」を持てるほどまで鍛錬しろ、そういう前提があったうえで、②その「プライド」「誇り」に恥じない仕事をすることを、求めているのです。
 これを経営の観点から見てみましょう。
 経営は、人を動かすことですが、特に会社を経営する場合には、利益を上げるために、他社と競争し、勝たなければなりません。しかも、市場のルール(独占禁止法、下請法など)に沿った競争で勝つことが必要です(市場から追い出されないようにしなければならない)から、他社に勝つための重要な戦略は、他社との「差別化」になります。
 「差別化」を単純化すると、例えば「安かろう悪かろう」として、安いものを大量に売る「薄利多売」のモデルや、逆に、数よりも質にこだわり、高品質なものを販売するモデルがあります。松下幸之助氏が、①「プライド」「誇り」を求めているのは、多くの場合、後者の「高品質」モデルでしょう。質よりも量にこだわる場合であっても、その量を出せるだけの「プライド」「誇り」が必要な場合はありますが、品質にこだわるほど、一般的に「プライド」「誇り」が必要となることは、誰でも容易に理解されることです。実際、氏が様々な場面で重視しているのは、(結果的にたくさん売れるかもしれないが)まずは顧客に喜ばれる品質であることを様々な場面で繰り返し強調していますので、数よりも質で「差別化」を図ることの方に、より重点があるモデルと評価できます。
 この「差別化」戦略があったうえで、従業員には①「プライド」「誇り」を要求し、②それに恥じない仕事ぶりを要求している、ということになります。もちろん、このことが、経営戦略を立ててから戦術が決まる、というトップダウン的な方向性だけが正しい、というものではなく、逆に、戦術を模索し、積み重ねていく中から、自分自身の特性を理解し、そこから身の丈に合った経営戦略が定まっていく場合もあります。
 しかし、いずれにしろこの松下幸之助氏の言葉には、会社の経営戦略も結びついているであろうことを、理解しておきましょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
高めると、会社の経営戦略の間に、一貫性があること(あると思われること)を検討しましたが、経営者に求める資質としても、会社の方向性と現場の在り方を一体としてイメージし、それぞれを関連付けながら実施していける能力が必要である、と評価できます。

3.おわりに
 詰めのしっかりした仕事は、プロとして当然求められるものですが、会社のような組織にいると、組織としての力が重要となるため、組織に甘えてしまい、個人の力量を高める努力を怠る場合が出てきます。お祭りの神輿を担ぐ場合でも、疲れてしまい、担いでいるフリをしてしまう場合があることと同じです。
 一時的にはそれでもいいでしょう。時に、仲間を信頼して休みを取ることも必要です。
 けれども、落語で、長屋の住人がお互いに酒を持ち寄った宴会を企画したところ、自分だけだったら分からないだろう、として、持ち寄った「酒」に口を付けたところそれが「水」だった、という演目があります。
 松下幸之助氏が、個人の意識を鼓舞する発言を繰り返しているのには、このような問題もあるように思われます。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。


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