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エンド・ロール!!つまり「役割を終わらせる物語」|『えんどろ~!』(1)

 こんにちは。傑作アニメを分析・研究する「未来世紀アニメスタディーズ」のお時間です。

 本日取り上げるのは……こちらの作品!



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第1回(本記事):エンド・ロール!!つまり「役割を終わらせる物語」

第2回:【キャラ分析】ユーシャの「圧倒的主人公感」の源泉を探る

第3回:ダメダメっぷりがかわいいセイラは、なぜ影が薄いのだろうか?

第4回:ファイ、この王道的萌えキャラを見よ!

第5回:属性山盛りのメイは、私たちを2度裏切る

第6回:キャラ立ちした「体型」に注目!


テーマを考えよう★


 本作のキャッチコピーは「ありそでなかった日常系ファンタジー、はじまるよ〜!」

 かわいらしいキャラデザ(原案は「ゆるゆり」で知られるなもり氏!)や、ゆるいタイトル、そしてこのキャッチコピーを見ると……「あー、ハイハイ!かわいい女の子がいっぱい出てきて、特にコレといった事件が起きるわけではないけれど、ボーっと見ていると萌え萌えのハッピーになれるタイプの作品ね!」と思う方もいるかもしれない。


 なるほど。確かに萌え萌えである。

 ……が、それだけではない。


 いや、確かに萌え萌えなんですが……萌えているだけではもったいない。そこに描かれている「テーマ」にもご注目いただきたいのだ!


 「テーマ」とは何か?

 例えば、みなさんご存知「走れメロス」

 そのテーマは?

 まぁ、「友情」とか「人を信じることの大切さ」とか、そのあたりだろう。


 ……これだ。

 要するに、小説にしろアニメにしろ、1つの「作品」は、複数の「エピソード」や「シーン」の集合体といえるが、その「エピソード」や「シーン」を通じて描かれているもの。それが「テーマ」だ。


 ということで、今回は、「えんどろ~!」という作品のテーマに迫ろ~!


タイトルの意味


 ところで……「えんどろ~!」。じつに不思議なタイトルである

 どのような意味だろう?


 私見では、おそらく2つの意味が込められている。ダブルミーニングというやつだ。


 第1に「end roll」

 英語では、正しくは「credits roll」や「end credit roll」と書くそうだが……つまり、アニメや映画などの最後に流れるアレだ。


 本作では、第1話の開始4分でエンドロールが流れる。そして、そこから本編が始まる(詳細後述)。

 つまり、一見するとエンドロール、しかしそれが物語の始まりであった……という仕掛けを指していると思われる。


 そして、第2に「end role」

 「end」を動詞と捉えれば、「止める・終わる」という意味になる。そして、「role」は「役割」だ。

 つまり、「役割を止める」

 あるいは、「end」を形容詞と理解すれば、「最後の」という意味になる。

 この場合は「最後の役割」

 いずれにしても、何かの「役割」を終わらせるという意味になるが……そう!本作は「役割を終わらせる物語」なのだ!


 そして、「end roll」と「end role」の両者に共通しているのは「end ro」の部分。つまり「えんどろ」……「えんどろ~!」というわけだ


 以上、推測だが……おそらく間違っていないはず★


で、本作のテーマは?


 さて、ここからは本作の「テーマ」に迫っていくわけだが……結論から申し上げよう!

 テーマは……「役割を終わらせる」

 つまり、「end role」

 これだ!

 意訳すれば、「肩書きに捕われず、相手を1人の人間として見ようね★」なんて具合だろうか。


 それでは、「役割を終わらせる」というテーマがどのように展開されているのか、ストーリーを追いかけてみよう!


【ストーリー解説】イントロ


 まずは、本作の基本的な世界観・設定を簡単にご紹介しよう。


 舞台は、RPG風というのだろうか。「ドラクエ」や「FF」をイメージしていただくとわかりやすいと思う。

 ……王国。

 ……中世ヨーロッパ風の街並み。

 ……様々なトラブルを解決する冒険者たち。

 ……冒険者を育成する「王立の冒険者学校」。

 ……そして、たびたび復活する魔王と、それに呼応するかのように現れる勇者パーティ


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 本作の主人公は勇者・ユーシャ(ややこしいのだが、本名は ユーリア・シャルデット。ニックネームが「ユーシャ」)と、その一行


 以下が、勇者パーティのメンバーだ。

 名前を憶えていただく必要は特にないのだが……一応ご紹介。左から、ファイ(戦士)、セイラ(聖者)、ユーシャ(勇者)、メイ(魔法使い)。

 萌え萌えである。

 ちなみに私はメイ推しなのだが、まぁそれはどうでもいい。


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 本作は、ユーシャら4人が魔王と対峙するところから始まる

 突然の最終決戦である。

 「最初からクライマックスだぜぇ!」というヤツだ。


お約束の、

魔王「その力、余のために使うなら世界の半分を与えてもよいぞ、勇者よ」

ユーシャ「いらない!私がほしいのは世界中のみんなが笑ってる世界だけ!」

 ……なんてやりとりが行われる(お約束ではあるのだが……この会話、超重要なのでぜひご記憶いただきたい!)


 そして開戦。

 魔王は強い。

 ユーシャらの攻撃が通じない!


 ユーシャは意を決する。

 4人が力を合わせ、禁断の大魔法を放つのである!


 ユーシャが詠唱する。

ユーシャ「天地の狭間、あまねく満ちる精霊よ!幼き我らことほぎし理の番人に乞い願う!開きたまえ!開きたまえ!世界を隔てし時の一矢!勇者ユーリア・シャルデットの名の下に!心を1つに!」

3人「心を1つに!」

ユーシャ「次元封獄界!開門!……次元の彼方へと去れ!魔王!」

 かくして魔王は滅したのであった。


 と、なるはずだったのだが……詠唱中にユーシャが噛んでしまう!

ユーシャ「天地の狭間!あまねく満ちる精霊よ!おちゃなき我……あ。ごめーん。呪文噛んじゃった!」


 かくして禁断の大魔法が暴走!

 時間が遡行する。

 ユーシャら4人と魔王は過去へ飛ばされてしまったのであった!


 ……こうして……一旦エンドロール(!)を挟んで、本編が始まる。


 まだ魔王が復活していない平和な時代。

 ユーシャら4人は冒険者学校に通う学生だ。4人はすっかり記憶を失い、再び学生としての日々を送っている。


 一方の魔王は?

 魔王は記憶を保持していた!

 しかし、幼女姿となっている(じつは幼女姿が本体であると後に説明される)。

 魔王はマオ(「まおう」だから……)と名乗り、ふとしたことから冒険者学校の教師になる。

※手前がマオ。幼女である。奥はユーシャ。


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 視聴者は思う。

 なるほど。

 元魔王のマオが、まだ非力なユーシャらをやっつけようとするわけか。


 事実、マオはユーシャらを退学させようと画策する。退学すれば、冒険者にはなれない。畢竟、勇者にもなれないだろう。


【ストーリー解説】第1~2話


 第1~2話で描かれるのは、(1)ユーシャらの「勇者らしくない姿」、そして、(2)「魔王」を止めるマオである


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 ユーシャらが「勇者らしくない」とはどういうことか?

 何よりもまず……最終決戦で!勇者が!詠唱中に噛んでしまって魔法が暴走!

 そんな話、あるだろうか?

 冒頭からして、じつに「勇者」らしくないのである


 また(詳細は各キャラについて考察する際にご説明するが)、この4人は、朝寝坊するし、忘れ物はしょっちゅうだし、寝ぼけて人の耳に噛みつくし、オタクだし、何のドラマもなくあっさり「勇者の剣」を引き抜くし、パジャマパーティが始まるし、じつは4人とも自分こそがパーティのリーダーだと思い込んでいるし……。

 能天気というか、お気楽というか、ドジというか、抜けているというか……まったくもって「勇者」らしくないのだ

 

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 続いて、マオが「魔王」を止めるとはどういう意味だろう?

 上述の通り、冒険者学校の教師となったマオは、ユーシャらを退学に追い込もうとする。


 ……が、「勇者」らしからぬユーシャたちを見ている内に、「魔王」らしくふるまう自分がアホらしく思えてくる


 考えてみれば、初めからアホらしい話なのだ。

マオ「勇者どものしょうもないミスで我らの時間は巻き戻ってしまった。……奴らがまたあの調子で魔王となった我の前に現れたなら……歴史は再び繰り返されるのか?我はまたあやつらに振り回されるのか!?……そうなるぐらいなら……ふむ!我、もう魔王やーめた!」


 かくして、マオは「魔王」という役割を放棄してしまう(第2話にして、ある意味魔王討伐完了!)。


【ストーリー解説】第3~4話


 第1~2話では、「勇者」らしからぬユーシャらの姿が描かれていると申し上げたが……一転!第3~4話では、彼女らの「(ある種の)勇者らしさ」が描かれる


 すなわち……ユーシャら4人は、授業の一環でクエストに挑戦する。しかし途中、困っている人に遭遇すると……4人とも躊躇なくクエストを放り出し、手助けするのだ


 私が特に興味深いと思うのは、第3話である。

 4人は、飼い猫がいなくなったと泣いている少女と出会う。

 猫探しを手伝ってやりたいと思うユーシャ。しかし、いまはクエスト中だ。

 彼女は他の3人に訊く。

ユーシャ「ダメ……かな?」


 それに対して、最初に反応するのがセイラ

 セイラは4人の中で最も真面目で、逆に言えば堅物にも見える。「いまは授業中だから……」なんて言っても不思議ではないキャラだ。

 しかし彼女は、真っ先にうなずく。

セイラ「大丈夫!お姉ちゃんたちは猫探しのプロだから!」

 もちろん他の2人、ファイとメイもすかさず同意する。


 これである。

 彼女らは、困っている人を見過ごせないのだ。

 第1~2話で見た通り、彼女たちは能天気で、ドジで……一見すると「勇者」らしくない。しかし、「勇者」にとって最も重要な資質は持っているというわけだ!


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 以上、ユーシャら4人の善人っぷりが描かれる第3~4話だが……話の端々に、すっかり教師らしくなったマオが描かれているのも見逃せない。


【ストーリー解説】第5話


 ここで新キャラが登場し、話の流れが変わる。


 新しく登場したのは……王の娘、すなわち王女。その名はローナ姫である!

※右がローナ姫。左はユーシャ。


 ローナ姫は「勇者オタク」だ。


 彼女は、幼い頃から勇者に憧れてきた。

 過去の勇者の活躍を描いた物語を愛読し、いつか勇者と出会う日を夢見てきた。

 そして、冒険者学校の生徒の1人が、勇者の剣を手にしたと聞き……居ても立ってもいられなかったのだろう。

 自ら冒険者学校にやって来たというわけだ。


 ローナ姫とユーシャはすぐに仲よくなる。

 ……が!

 ローナ姫の心の奥には戸惑いが存在する。

 彼女が思い描いてきた「勇者像」と、目の前のユーシャはあまりにも乖離している。

 確かにユーシャはいい子だ。しかし……これが、私の夢見てきた勇者なのだろうか?


 ……なお、第5話のサブタイトルは「私の勇者様〜!」。ぜひ覚えておいていただきたい★


【ストーリー解説】第6話


 第5話から「ローナ姫を中心としたエピソード」が始まったかと思いきや……ここで一旦脇道に逸れる


 第6話の主役は……マオだ。


 冒頭、マオが風邪を引き、倒れる。

 病床のマオは、過去を思い出す。魔王時代の圧倒的な強者ゆえの孤独……。

 彼女が感傷に浸り、寂寞としていると……ユーシャたちが見舞いにやってくる!一気に騒がしくなる!

 マオは「迷惑だ。とっとと帰れ」と言いながらも、じつは嬉しそうに見える。


 「魔王」という役割を捨てたことで、彼女が幸せになったことがよく伝わってくるエピソードだ♥


【ストーリー解説】第7~8話


 さて、第5話に続く「ローナ姫のエピソード」である。


 ユーシャだけではなく、他の3人とも親交を深めたい、とローナ姫。

 かくして第7話では、ローナ姫がセイラ、メイ、ファイと順々に交流していくのだが……その中で、徐々にローナ姫が「変化」していく



 熱烈な「勇者オタク」たるローナ姫にとっては、「ユーシャら4人 = 憧れの勇者パーティ♥」。必要以上の敬意を払い、まるで勇者パーティのスポンサーのようにふるまっていたわけだが……3人、特にファイと関わる内に、対等の友だちのようになっていく……!


※ご視聴済みの方へ:アンダスメロンの大食い大会の最後、「これは負けちゃったかな……」と苦笑するファイに対して、ドレスの裾を破き、「いいえ!まだです!!」とローナ姫が飛び出していくシーンを覚えていらっしゃるだろうか?まさにこの時だ!この時、ローナ姫は「勇者パーティに救われる側」から「勇者パーティとともに戦う側」へ移動したと言えると思うのだ。


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 そして第8話……サブタイトルは「私のユーシャ様〜!」


 ……そう、第5話の「私の勇者様〜!」の裏返しである。

 このサブタイトルの変化がすべてを表している。


 ローナ姫は、「ユーシャ = 憧れの勇者様♥」という固定的な見方を捨て、ユーシャを1人の人間として見るようになる

 もっと言えば……これまでのローナ姫は、ユーシャらに「勇者」という役割を押し付けようとしていた。しかしいま、ローナ姫はそれを止めた


 そして改めて、「1人の人間」として見てみると……ユーシャらはじつに魅力的だ★

 ローナ姫は4人と友だちでありたいと願う。

 これ以降、ローナ姫はユーシャらを「友だち」と呼ぶようになる


【ストーリー解説】第9~10話


 日常回だ。


 全12話なので、残り4話。通常なら物語は佳境に差しかかり、シリアスな展開の1つも始まりそうなものだが……本作は違う!!


 なぜなら、すべてはもう解決しているのだから。

 勇者、(元)魔王、姫が同じ空間で笑っているのである。

 そして、最早「勇者だから○○」「魔王だから○○」「姫だから○○」なんて「役割」を押し付ける者もいない。全員が、互いを1人の人間として認めているのである。


 何も起きない。

 しかし幸福な時間が描かれる。


 ……補足。いや、実際にはアレコレ起きるのだが、それはもう「日常の1コマ」に過ぎないのだ。


【ストーリー解説】第11~12話


 ……が、物語は終わらない!


 なぜなら、ユーシャは「勇者の剣」を持っているのだから。

 そして、マオの中には「魔王の力」が眠っているのだから。


 マオは、一介の教師として、生徒を教え導く喜びを感じる日々を送っていたが……ふとしたことでその正体がバレる。

 一同混乱。


 ユーシャは悩む。

 勇者である以上、魔王を討たねばならぬ。

 しかし、魔王の正体はマオだ。あの大好きなマオを殺す……?


 ……間もなくユーシャは思い出す。

(みなさんも、先にご紹介したセリフ「私がほしいのは世界中のみんなが笑ってる世界だけ!」を思い出していただたい!)


ユーシャ「私は、かっこいい勇者になりたかった。悪い魔王をやっつけるかっこいい勇者に……」

 しかし、彼女は続ける。

ユーシャ「私が勇者になりたかったもう1つの理由は、みんな楽しく笑っていてほしいからなんだよ。……そこには当然マオちゃんの笑顔も入ってるんだよ。マオちゃんを泣かせるぐらいだったら、私は勇者でなくたっていい!」


 そしてユーシャは勇者の剣を破棄して、「勇者」であることを辞めてしまう!!

 勇者が!最終決戦で!「勇者」という役割を放棄する!!


 その後ちょっとした事件が起きて……「食ったものの概念を破壊する」というチート能力を持つドラゴンによって、マオの中の魔王の力も失われる。

 ……マオが「魔王」でなくなったのだ!


 かくして、この世界にはもう「勇者」も「魔王」もいない。

 世界は幸福な「日常」に戻ったのである。


 しかし、ユーシャは言う。

ユーシャ「私は……やっぱり勇者になるよ!」

マオ「まったく……フン!これだから勇者という連中は……まっ、せいぜい頑張るのじゃぞぉ」

ユーシャ「うん!私、頑張る!」


 ……ユーシャは既存の「勇者」という概念を破壊し、新たな、そしておそらくは彼女だけの「勇者を求め始めたのだった……おしまい。


まとめ


 整理しよう。

 つまり本作は、

▶ 一見すると、「勇者」という役割に相応しくないユーシャらが……

▶ 魔王に「魔王」という役割を放棄させ、

▶ 姫に「勇者像」(「勇者たるもの○○」という役割期待)を捨てさせ、同時に「姫」という役割も放棄させ、

▶ 最後には「勇者」、そして「魔王」という役割それ自体を破壊する物語!


 冒頭申し上げた通り……一言でいえば「エンド・ロール」、「役割を終わらせる物語」なのだ!


補足:オープニング曲の素晴らしさについて


 最後に、オープニング曲の「えんどろ~る!」をご紹介したい。

※著作権者による動画です。


 大変楽しく、元気の湧いてくる歌なのだが、ここでご注目いただきたいのはその歌詞である

 ここまでご紹介してきた本作のストーリーと強くリンクしているのだ★


 以下、私が特に印象深いと思った一節をご紹介しよう。


「迷子の/なかまを/めでたしの奥には置いてかないから!」


 ……これは、ユーシャらが、マオ(元魔王)を「仲間」と歌い、仲間の犠牲の上に成り立つ「めでたし」を否定していると解釈できる。

 じつに「勇者」らしくなく……そして「ユーシャ」らしい!



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(担当:三葉)

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