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「主人公が嬉しそうに栗ぜんざいを食うシーン」は、なぜ必要不可欠なのか?|『無頼より 大幹部』に学ぶテクニック

名作映画を研究して、創作に活かそう!

本記事では、「無頼より 大幹部」に【鑑賞者の気持ちを緩める「リラックスシーン」が必要な理由】などを学びます。

※「無頼より 大幹部」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。

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【Topic①】五郎は、嬉しそうに栗ぜんざいを食う


「無頼より 大幹部」には名シーンがたくさんありますが……本記事ではその内、特に私が好きなシーンを2つご紹介します。


<1>

本作の主人公は、五郎


映画冒頭、五郎の半生がダイジェスト風に描かれます。

・1:五郎は、貧困家庭に生まれ育ちました。父はおらず、母と妹は死んだ。近所の人は、幼い五郎に冷たかった

・2:五郎は生きていくために握り飯を盗み、鑑別所に入った

・3:やがて五郎はヤクザになりました


そして映画開始からおよそ4分経ったところで、五郎は世話になった組のために人を刺す。

かくして彼は、逮捕されました。

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……いかがでしょうか。

なかなかヘビーな出だしですよね。五郎の哀れな境遇は、見ていて息苦しくなってくる。

「つまらない」というわけではありませんが、ちょっと重いというか、胃もたれしそうなオープニングです。


<2>

次いで映画開始から6分50秒経ったところで、五郎が出所します。


彼は、3年間堀の中にいました。久々のシャバです。さて、五郎は一体何をするでしょうか?

酒を飲む?ラーメンや牛丼を食べる?それとも、赤線に行く?(本作は、赤線がある時代の物語です)


正解は……五郎は、まず浅草寺にお参りに行きました。真剣な表情で、手を合わせる。


境内では、若い女性が2人楽しそうに鳩にエサをやっていた。

それを見て、五郎は思わず微笑みます。「無邪気でかわいらしいもの」を久々に目にして、思わず頬が緩んだのでしょう。


続いて五郎は、仲見世を散歩しました。

のんびりとした足取り。空の青さに、ちょっとまぶしそうに目を細める。「嗚呼、オレはいま自由なんだなぁ」と喜びを噛みしめているのでしょう。


その後、五郎は甘味処に入りました。そして栗ぜんざいを食い、じつに嬉しそうに微笑んだ。


<3>

以上、「刑務所を出た五郎の足取り」をご紹介してきました。

・1:寺に参拝する

・2:無邪気でかわいい女の子を見て、微笑む

・3:自由を満喫するが如く、のんびり散歩を楽しむ

・4:甘いものを食べて、口元をほころばせる


およそ3分弱の短いシーンです。セリフはなく、派手なアクションがあるわけでもない。まぁ、地味なシーンと言えるでしょう。

しかしですね、これ、必要不可欠な重要なシーンだと思うんですよ。


と言うのも……上述の通り、本作冒頭は「重い」。

そして重苦しいシーンが続くと、鑑賞者は疲れてしまうものです。集中力が低下する。映画への興味も薄れてくる。

そう、「重いシーン」の後には、鑑賞者の気持ちを緩める「リラックスシーン」が必要なのです。


そこで、本シーン。

何しろ、五郎はヤクザ。そして犯罪者。我々一般人には理解しがたい男に見える。その五郎が神仏を崇めたり、旨そうに栗ぜんざいを頬張ったりするわけですからね、じつにほっこりする!

つまりこれは、物語が本格的に動き出す前のリラックスタイムなのです(栗ぜんざいを食い終わった五郎は、敵対するヤクザとの抗争に巻き込まれていきます)。


「重いシーン」の後には「リラックスシーン」を設けるべし……お忘れなく!


【Topic②】五郎と一般市民の対比


<1>

物語冒頭、五郎には冴子という恋人がいます。

五郎が逮捕された時、冴子は言った「待っているからね!」。


しかし3年後、五郎が出所すると、冴子は別の男と結婚していました。

「冴子が結婚した。相手は平凡なサラリーマンだ」と聞き、五郎は強いショックを受けます。


まぁ五郎がショックを受けるのは当然でしょうが……しかし、冴子の気持ちもよくわかる。

何しろ3年です。長いですよねぇ。きっと冴子は、何度も何度も寂しさや不安に押し潰されそうになったことでしょう。

また、五郎はヤクザですからね。出所したところで、いつまた逮捕されるかわからない。それどころか、敵対するヤクザとの抗争で殺されるかもしれません。

冴子が「平凡なサラリーマン」と結婚したのも頷けます。


さて、「冴子が結婚した」と聞き、一度は言葉を失った五郎。しかし、彼はすぐに笑い飛ばしました「スケなんてのはいくらでもいらぁ!」。

……無論、これは虚勢です。


<2>

翌朝、五郎は満員電車に乗りました。

そして、東武東上線の上福岡駅で降車。


彼は、とある団地へと向かった……そう、冴子と夫が暮らす団地です。


団地に到着。間もなく、五郎は冴子を発見します。

冴子はエプロンを付けている。髪型も変わっている。いかにも「主婦」といった雰囲気です。

また、彼女の傍にはスーツを着た男がいる。夫でしょう。平凡そうな、しかし善人そうな男です。

夫が駅へ向かって歩き出す。冴子がそれを見送る……。


五郎は、その一部始終を物陰からじっと見つめていました。

その後、彼は声をかけることなく立ち去ります。


<3>

さて、このシーン。ご注目いただきたいのは、五郎が駅から団地へと向かうところです。


朝ですからね、サラリーマンらしきスーツ姿の男性、学生、ランドセルを背負った小学生などなど、たくさんの人びとが駅へ向かって歩いていきます。

そんな中、五郎だけが人波に逆行、団地へと向かって歩いていくのです。


これ、「五郎が、普通の人びと(= 普通に働き、普通に家庭を築き、平凡ながらも幸せな日々を過ごす人びと)とは決定的に異なる存在」であることが、視覚的に表現された名シーンだと言えるでしょう!


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(担当:三葉)

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