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ヤクザ映画を見る時には、「ヤクザ観」に注目しよう!!|『無頼より 大幹部』に学ぶテクニック

名作映画を研究して、創作に活かそう!

本記事では、「無頼より 大幹部」に【「ヤクザ = ただただ悲惨で、虚しいもの」というヤクザ観】を学びます。

※「無頼より 大幹部」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。

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「ヤクザ観」に注目!!


ヤクザ映画を見る時には、その映画の「ヤクザ観(View of Yakuza)」に注目すると面白いと思います。

「ヤクザ観」というのは、「ヤクザをどのような存在として描いているか?」ということ。


例えば、「ヤクザ = 仁義に生きるカッコいい連中」と描いている作品もあります。

一方、「ヤクザ = 悪党とはいえ、人間味のある憎めぬ連中」「ヤクザ = 私利私欲のために、平然と他人を陥れるクソ野郎ども」という作品もある。


本作の「ヤクザ観」は?


では、本作の「ヤクザ観」はどのようなものか?

ズバリ本作では、ヤクザは「ただただ悲惨で、虚しいもの」と描かれています。


本記事では、特に「悲惨なエピソード・虚しくなってくるシーン」をご紹介しましょう。


※補足:ストーリー全体については、以下の記事で詳しく分析しました。ご参照ください → 「獲得→再喪失」の物語は、心を揺さぶるぜ!!|『無頼より 大幹部』に学ぶテクニック


【悲惨①】アクションシーン


多くのヤクザ映画には、アクションシーンがあります。

「敵対するヤクザとの抗争」「裏切者への制裁」「仲間を殺されたことへの復讐」など、様々なパターンがありますが……要するに、主人公が銃やドスを携えて敵地に乗り込む。そして勇ましく戦う、そんなシーンです。

鑑賞者はその姿に大興奮。ハラハラドキドキし、手に汗握ることになります。


本作にも、アクションシーンがあります。

ここではその内の1つ、映画開始から45分39秒経ったところから始まるシーンをご紹介しましょう。


五郎(主人公、ヤクザ)は、たった1人で上野組(五郎と敵対するヤクザ)の事務所に向かいました。

事務所には、組長の上野を筆頭に、組員が20人ほど揃っています。


そんな中……五郎がドスを抜いた。

狙うは、上野組長ただ1人です。


五郎は、上野組長を殺さんとしてドスを振る!あるいは、突き刺さんとして体ごとぶつかっていく!

大変勇ましい場面なのですが……ところがですね、これがちっとも当たらないんですよ。空振りの連続。


そうこうしている内に、上野組長は事務所の外に逃げていってしまった。

五郎は慌てて追いかけます。

……が、雨で地面がぬかるんでいた。五郎はすってんころりん、泥水に尻もちをついた。


上野組の組員たちが、「ヤツをぶち殺せ!」と五郎に駆け寄った。

危うし五郎!

……と思いきや、組員たちも泥水に足を取られ、バランスを崩す。


とまぁ、こんな具合です。

「実際の抗争ってこんな感じなんだろうなぁ」「一撃でターゲットを仕留めるだなんて、現実にはあり得ないんだろうね」と大変リアリティを感じるシーンではありますが……まぁ、カッコよさは皆無ですよね。


しかも、結局五郎は上野組長を仕留めることができません。それどころか彼はケガを負い、ほうほうの体で逃げ出すことになります。

うーむ……じつにカッコ悪い!!


【悲惨②】小指を詰めるシーン


<1>

五郎の子分(鈴木)が上野組に拉致された時のこと(映画開始から43分9秒経った場面)。


五郎はたった1人で上野組の事務所に乗り込んでいき、「鈴木を解放してやってくれ」と頭を下げました。

対する上野組長は、下卑た笑みを浮かべた。そして、「面白ぇ。詫び次第じゃあ返してやってもいいんだぜ。どんな詫び入れるつもりだい?」。

五郎は「いまお見せしますよ」と応えると、懐からスッとドスを取り出しました。


上野組の組員たちは、「この野郎!やる気か!?」と慌ててドスやら銃やらを構えた。


しかし、そうではありません。

五郎はドスを机に突き立て、グッと上野組長を睨みつけた。

五郎の手はぶるぶると震えています。さすがの彼も恐ろしくて仕方がない様子。


けれども、五郎は見事にやり切った。そう、自らの小指をドスで切断したのです。

五郎の顔が苦痛に歪む。だが、悲鳴を上げることはない。彼は堪える。そして自らの小指を上野に差し出し、うめくように言った「こいつで勘弁してやっておくんなさい!」。


それを見た上野は、「よぉし。そっちがそう筋を通すんなら、鈴木を返してやる」と言って、子分に命じた「野郎を連れてこい」。

五郎は止血を施しながら、「ありがとうございます!」。


<2>

単身敵地に乗り込んでいって自らの小指を詰めるとは、さすがは五郎!

そこらのヤクザとは、ヤクザの出来が違う!こんな兄貴分を持って、鈴木は幸せだ!

それに、この上野という組長。下劣な悪党かと思いきや、最低限の約束は守るヤツらしいぞ。よかったよかった。


と、多くの鑑賞者が胸を撫で下ろしたであろうこのシーンですが……。


<3>

上野組の組員が運んできたのは、鈴木の遺体でした。そう、既に鈴木は殺されていたのです。

顔のあちこちに痣ができている。ひどいリンチを受けたに違いありません。


五郎はショックを受ける「鈴木……!」。

上野組長は爆笑した「ヒャッハッハッハッハ!おぅ、そいつ背負って帰んな。ついでに、お前の小汚ない小指も忘れんなよ」。

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要するに、「さすがは五郎!」と思われた彼の行動はすべて茶番だったのです。

まさに悲惨……。


【悲惨③】セリフ


最後に、セリフに注目してみましょう。

本作には「ヤクザの悲惨さ、虚しさ」を伝えるセリフがたくさん登場します。


例えば、こちらの五郎のセリフ。

「おめぇ、ヤクザの中身知ってんのかい?いま見送られて出て行った野郎が、1時間後にはズタズタに斬られて道端に転がって死んでるんだよ。そいつのスケはな、今日は男が狙われやしねぇか、明日はバラされやしねぇか、そう思って年中ハラハラしながら暮らしてんだよ」(映画開始から40分00秒経った場面でのセリフ)

※スケ:女性のこと。ここではヤクザの恋人や妻、情婦を指す。


続いて、夢子というキャラのセリフを見てみましょう。

「ヤクザなんて、みんな人間じゃないのよ……」(映画開始から31分38秒経った場面でのセリフ)
「ヤクザと知っていながらそんな男に惚れる……女がバカなのよ。自業自得なのよ」(映画開始から32分17秒経った場面でのセリフ)

※夢子は、とあるヤクザの情婦です。つまり上記は、自虐を含んだセリフです。


さらに、公子というキャラのセリフ。

「ヤクザなんて無駄な人間よ」(映画開始から23分53秒経った場面でのセリフ)
「ヤクザなんて……みんな死んじゃえばいい!この世の中から……1人もいなくなっちまえばいい!」(映画開始から1時間16分16秒経った場面でのセリフ)


まとめ


以上、「ヤクザ = ただただ悲惨で、虚しいもの」と感じられるエピソードやシーンをご紹介してきました。


・1:アクションシーンは、カッコよさ皆無

・2:主人公の男気溢れる行動は、全部茶番

・3:主人公の仲間はあっさり殺される

・4:主人公も彼の周りの者も、「ヤクザ = 悲惨、虚しい」と理解している


ヤクザや、それに類するキャラ(マフィア、アウトロー、犯罪者、不良 etc.)が登場する作品を作る時に、ぜひ参考にしてみてくださいねー!!


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(担当:三葉)

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