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アニメ「Kanon」第9話を5つの視点から分析する👀

引き続き、アニメ「Kanon」を分析します。本記事で取り上げるのは第9話。第8話以前を分析した記事については、最下の「関連記事」欄をご参照ください!


分析対象


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あらすじ


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【ポイント①】覚悟を決めるということ


<1>

前話では、①真琴の正体と、②今後彼女が<壊れていくであろうこと>が明らかになった。

で、本話では実際に真琴が壊れていくわけだが……さて


本話は、<壊れゆく真琴>をどのように描いているのだろうか?また、<壊れゆく真琴>に対して、祐一は何をして、何をしないのか?

詳しく確認していこう。


<2>

前話終盤、祐一は美汐の話を聞き、すべてを知った。①真琴が狐だということ、②祐一に会うために記憶と命を犠牲にして人間に化けていること、③しかしこの<奇跡>はそう長持ちしないであろうこと……。

祐一は強いショックを受ける。


と同時に、前話中盤から真琴の衰弱が始まった。彼女はふらつき、転び、箸すら満足に操れなくなる。


<3>

で、本話である。序盤は前話の続きだ。


すなわち、真琴の衰弱が進む。もう歯ブラシを持つのも辛そうだ。

一方、祐一は激しく動揺している。努めて平然とふるまうものの、ところどころで彼の暗い表情が映る。また、①真琴の想い(すべてを犠牲にしてでも祐一に会いたい!祐一と一緒にいたい!)と、②真琴の最期が近いことを知ったためだろう、祐一はこれまでになく真琴に優しくふるまう……ちょっと不自然なほどに


<4>

そして中盤、真琴が姿を消した

ここからは、この<真琴が一時的に姿を消したシーン>について詳しく考えてみよう。このシーンで祐一は何をしていたのか?何を考えていたのか?


まず、祐一は「まさか……これでお別れなのか!?」と激しく動揺する。実際には、真琴はぴろを探していたのであり夜には戻ってくるのだが、しかし祐一は「真琴が消えてしまった(死んでしまった)かもしれない」と考え、強いショックを受けたのだ

また、祐一は「俺が全部悪いんだ」と呟く。自責の念に駆られているようだ。これは【幼い頃、俺はものみの丘で狐を拾い、そして自分の都合で丘に戻した。その結果として、真琴は記憶と命を犠牲にすることになった。つまりすべては俺のせいなんだ。俺が狐を拾ったりしなければ、自分の都合で丘に戻したりしなければ……!】という意味だろう。


つまりこのシーンでは、【祐一は<真琴の喪失>を疑似体験し、絶望し、自責の念に駆られている】のだ。おそらくは、「もっと優しくしてやればよかった!」などと後悔したりもしていることだろう。


<5>

この疑似体験を機に、祐一は変わる。

このシーン以降、祐一が暗い表情を浮かべることはない。「何でも買ってやるぞ」なんて<不自然な優しさ>を見せることもない。


・祐一の言動①:彼はただただ優しく微笑み、真琴の世話をするようになる。日に日に衰えゆく真琴と部屋にこもり、24時間を共にするのだ(介護や看護の経験者ならご同意いただけると思うが、<衰えゆくもの>の傍にいるのは恐ろしいことだ。それは、「いつ死んでしまうかわからない」という恐怖に晒され続けることを意味している。また、健康な自分と<衰えゆくもの>を比較して理不尽にも自分を責めてしまうことだってあるだろう。ところが……祐一はそれを引き受ける!

・祐一の言動②:美汐が体験談を語ってくれた時には、彼は「ありがとう」と言う(いままさに辛い最中の彼が、かつて辛い思いをした美汐に「ありがとう」と言う!このすごさよ!)

・祐一の言動③:さらに、美汐が「この先本当に辛い目に遭うだろう」と言った時には、「心配するな。俺は元気が取り柄だ」と微笑んでみせる

・祐一の言動④:秋子と名雪に淡々と事情を説明し、理解と協力を求める


<喪失>を疑似体験したことで、祐一は腹をくくったのだろう。もう何があっても揺らがない。最期の最期まで真琴と共にある、と。

嗚呼、祐一のこの強さよ!


余談だが……この辺りの祐一の迫力は、「ハチクロ」の花本修司(修ちゃん)に近いものを感じる。はぐみが重傷を負った後、「人生すべてを懸けてはぐみのリハビリに付き合う」と決意した修ちゃんである。


また「ジョジョ」風に言うならば、彼らは<覚悟ができている者>だ。


ただし、ラストシーン。真琴が「祐一と結婚したい。そうしたら、ずっと……一緒にいられる」と言った時には、さすがの祐一も動揺したようだが(嗚呼、続きが気になる!じつに巧いヒキである!)


<6>

続いて、中盤以降の真琴について考えてみよう。


中盤以降、真琴の<喪失>が加速する。

・真琴の喪失①:まず、ぴろがいなくなる。ぴろは真琴の半身と言っても過言ではない存在であり、これはつまり真琴の終わりがググッと近づいたことを象徴していると思われる。

・真琴の喪失②:続いて、彼女は発熱する。そして幼児化(正確には「非人間化」とでも呼ぶべき現象だが、ここでは「幼児化」と称する)が始まる。まるで子どものように祐一に甘え、次第に言葉を話せなくなり、そしてみかんの皮を飲み込むことすらできなくなる。


<7>

以上をまとめると……

▶前半

・真琴:衰弱が続く

・祐一:動揺を隠しきれない。真琴には不自然に優しくふるまう


▶中盤以降

・真琴:発熱、そして幼児化が進む

・祐一:<真琴の疑似的な喪失>を経て、腹をくくる


中盤を境に、物語が大きく変化していることがおわかりいただけるだろう。真琴はどんどん壊れていく。一方、祐一は腹をくくった。


<8>

壊れゆく真琴と、腹をくくった祐一……見ていて辛い。本当に辛い。そして怖い。だって、次の瞬間には真琴の最期がくるかもしれないのだから。


だが、見ずにはいられない。一瞬たりとも見逃せない!

何しろ、いつその時がくるかわからないのだから。

また、覚悟を決めた祐一を見ていると、<どれほど辛かろうと怖かろうと、目を背けてはならない>という気がしてくるのだ。


【ポイント②】冒頭9秒間からしてとんでもない


<1>

本話は名にし負う傑作であって、あちこちに名シーン・名演出が見られる。ここからは、その中でも特に目立つものをご紹介しよう。


まずは、冒頭シーンだ。

---

・1:本話は、<ぴろのしっぽがゆるゆると動く映像>から始まる。ぴろは餌を食べている

・2:次の瞬間、そこに箸が落ちてくる(箸は画面を真っ二つに切り裂くかのように落ちてくる)

・3:カメラが切り替わる。祐一らがテーブルに座り、朝食を食べているシーンだとわかる

・4:真琴は自身の右手を見つめている。そして呟く「あれ……お箸、落としちゃった」

・5:再びカメラが切り替わり、祐一の暗い表情が映る

---


<2>

ぴろは<幸福な日常>を象徴するものだろう。そこに箸が落ちてくる。まるで<幸福な日常>を切り裂くかのように……!そして真琴のセリフと、祐一の表情。

以上、冒頭9秒間の映像である。


たった9秒間で、

・1:<幸福な日常>が間もなく終わるであろうこと

・2:しかし、当事者たる真琴は何も気づいていないこと

・3:祐一が深い悲しみ・戸惑いの中にいること

……このすべてが伝わってくる!説明的なセリフがあるわけでもないのに、私たち鑑賞者は状況をばっちり理解できる!


一切の無駄なし!すべてのカットに意味がある!

とんでもない冒頭である!


【ポイント③】その日、なぜ食卓にカレーが並んだのか?


<1>

続いて取り上げるのは、【物語前半、祐一、秋子、名雪、そして真琴が、4人そろって夕食を食べるシーン】

なお、メニューはカレーである。


----

名雪が喜ぶ「わぁ!今日はカレーだね!」。

秋子は「そうよ。真琴は私のカレー食べるの初めてでしょ」と言って、テーブルにスプーンを並べた。そう、スプーンだ。

名雪は声を弾ませる「お母さんのカレー、とってもおいしいんだよ!」。

真琴は「へぇ」と言ってスプーンをつかむ。

真琴はスプーンでカレーをすくい、口に運んだ「おいしー!」。

祐一と名雪は目を合わせ、微笑み合う。

---


<2>

さて、秋子はなぜカレーを用意したのだろうか?


そう!箸を使えなくなった真琴を想い、スプーンで食べられるメニューを用意してやろうと考えたからに違いない。

なお、祐一と名雪は秋子の気遣いを察しているようだ。だから、2人は目を合わせて微笑み合ったのだろう。


<3>

このシーンには、露骨な<説明>はない。

つまり、「スプーンで食べられるメニュー、何かないかしら?」と秋子が呟いたり、「さすが秋子さん!」なんていう祐一のモノローグが入ったりはしない。


しかし、たいていの鑑賞者は気づいたはずだ。「これ、秋子さんが真琴を気遣ってやっているんだな。なんていい人だ!」と。

では、私たち鑑賞者はなぜそうと気づくことができたのか?


<4>

理由は明白だ。

ずばり、夕食場面の前後に<真琴がモノを上手くつかめないことを示唆するシーン>が配置されているからだ。

・夕食場面の前:朝食時、真琴は箸を上手くつかめずに落としてしまう

・夕食場面の後:洗面所、真琴は歯ブラシを上手くつかめない


この2つのシーンが前後に配置されているからこそ、見巧者はもちろん、そうでない人も、<説明>なしに秋子の配慮を理解できるのだ。

これ、構成の妙と言えるだろう。すごい!


【ポイント④】春はくるのか?


<1>

続いて取り上げるのは、物語序盤の以下のシーンだ。


---

朝、祐一と真琴がそろって家を出た。祐一は学校へ、真琴はバイト(?)へ。

空気が冷たい。真琴は溜息をつく「ハァ。今日も寒いねぇ」。

祐一が言う「お前、寒いの苦手だもんな」。

すると真琴は太陽を見上げて「うん。暖かいのがいい。春がきて、ずっと春だったらいいのに」。

祐一が「もうすぐ暖かくなるさ」と言うと、真琴は微笑んだ「だよね」。


なおこの時、2人は川の傍を歩いている。そして川には雪の固まりが流れている。山から流れてきたものだろう。

---


<2>

上述の通り、祐一は「もうすぐ暖かくなるさ」と言う。また、川を流れる雪の固まりは、間もなく春が到来すると告げているかのようだ。


……だが本当に?

本当に春はやってくるのだろうか?果たして真琴は、春を迎えられるのだろうか?


<3>

ところで……本話には、降雪が2度描かれている物語中盤(真琴が姿を消したシーン)とラストシーン(真琴が「結婚したい」と言うシーン)だ。

いずれも、<燃えるような夕焼けを背景に雪が降り積もる>というかなりインパクトの強い映像である。


<4>

以上の冒頭シーンと降雪シーンを合わせて考えると、こう言えると思うのだ。

すなわち……物語序盤には、まだ希望らしきものがあった。真琴はいずれ壊れてしまうにしても、もう少し猶予があるかもしれない。どうにか春を迎えられるかもしれない。

しかし中盤に発熱。そして美汐の言葉から、もう時間が残されていないことが明らかになった。真琴は明日終わってしまっても不思議ではないのだ!


つまり、中盤とラストシーンで2度描かれる<降雪>は、まだまだ春がやってこないこと、要するに真琴と祐一の願いが叶わないであろうことを示唆していると考えられる。

美しくも残酷な雪景色なのだ。


【ポイント⑤】そこは逃げ場のない一本道


<1>

最後に、【祐一と美汐の会話シーン】に注目したい。

美汐は「どうしても真琴のことが気になって……」と祐一を呼び出した。
場所は歩道橋の上だ。


<2>

それは大きな道路(4~8車線程度?)にかかった歩道橋で、長さは数十メートルはありそうだ。

一方、横幅は狭い。人が数人並んで歩ける程度だろう。

左右には、壁の代わりに1mほどの鉄柵が嵌っている。

そして上には屋根

また、時間は日没直後。既に夜の帳は下りており、遠くの方では、駅舎やビル(オフィスビル、商業施設、マンションなどだろう)の窓の光、車のヘッドライトが輝いている。


つまり……2人がいるのは<逃げ場のない一本道>なのだ。<鉄柵に囲まれた檻の中>と言ってもいい。そして、駅舎やビルの光、車のヘッドライトは、まるで<監獄のサーチライト>のように見える。


これ、2人の現状を象徴していると言えるだろう。

<やがて真琴が壊れてしまう>という運命から逃れる術はない。2人は<逃げ場のない一本道/まるで監獄のような場所>の中にいるのだ。


<3>

また、<2人の体の向き>にも注目したい。

会話中、美汐は横を向いている(鉄柵に手を置き、道路を見下ろすような格好をしている)。

一方、祐一は前方を向いている(美汐の横顔を見ている)。


これ、【祐一はしっかりと前を向いている。彼は残酷な運命を直視する覚悟ができているのだ。一方、美汐はかつての悲劇をまだ受け入れられていない。だから横を向いているのだ】と解釈できるだろう。


ただし例外がある。

<幼い頃、ものみの丘で狐と出会い、友だちになった>と過去を語るシーンでは、ごく短い時間ながらも美汐は祐一と相対する(つまり、前方を向く)のだ

すぐにまた横を向いてしまうものの……【祐一と関わる中で美汐が過去と向き合う<覚悟>を持ち始めたこと】を示唆していると考えられる。


<4>

ところで、<歩道橋>といえば思い出されるのが第7話真琴がぴろを歩道橋の上から投げ落としたシーンだろう。


真琴はなぜあんな暴挙に出たのか?

いま振り返ると……あれは、【<逃げ場のない一本道から逃げ出したい>という真琴の無意識の願望を反映した行動】だったと考えることができそうだ。

真琴は、自身の半身とも言えるぴろを一本道の外に出したのだ。



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(担当:三葉)

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