マンガ家としての情熱を失わぬためにストイックになった翼は、小夢によって「年相応の女の子らしさ」を取り戻す|『こみっくがーるず』(14)
本記事は、アニメ「こみっくがーるず」を徹底分析する特集の……第14回である★
第1回からご覧になることをオススメします!
今回のテーマは……!
前回は、小夢について考察した。
そして今回は……翼!
かおすや小夢と共に「女子まんが家寮」に住み、マンガ家として活躍する彼女の人となりに迫ってみたい。
※泣きべそをかくかおす(左上)、口の端にドーナツのかすを付けて笑う小夢(左下)、微笑む琉姫(右上)、そして……1人だけ厳しい表情を浮かべる翼(右下)!
「こみっくがーるず」において、翼はどのように描かれているか?
「『こみっくがーるず』において、翼はどのように描かれているか?」と問われれば、私は以下のように回答したい。
ここからは、これらについて詳しく見ていこう。
【Point 1】マンガに対してストイック
翼は、少年マンガ家である。
彼女は、異世界ファンタジー作品「暗黒勇者」を商業誌に連載しており、単行本も発売されている。
単行本第1巻はアニメイトで平積み販売されており、期待の新人として扱われていることがわかる。
翼は将来有望なマンガなのだ……が!
本記事で注目したいのは、そこではない。
より重要なのは、彼女がマンガに対して極めてストイックだということだ!
以下、具体的なエピソードを交えつつ、象徴的なポイントを3つご紹介しよう。
【1】マンガを描く時は、マンガのキャラになりきる
翼は、マンガを集中して描く時には、マンガのキャラ(「暗黒勇者」の主人公)になりきる習慣がある。
具体的には……まず、右目に海賊のような眼帯を付け、マントをまとう。
※暗黒勇者スタイル。
さらに、ペンを両手で持ち、口にもくわえる(「ONE PIECE」のゾロのスタイルだ)。
そして「ダークネス・ディストラクション!」だの、「我は魔族に生まれし暗黒の勇者!」だのと叫びながら、猛スピードでマンガを描いていくのだ。
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【2】体を鍛える
翼は早朝ランニングをしたり、腕立て伏せをしたり、日々筋トレに励んでいる。
ちなみにオープニングには、かおすら4人が走るシーンがあるのだが、翼は1人だけ圧倒的な脚力を披露している。
これも日々の鍛錬の賜物だろう。
さて、それでは翼は一体なぜ体を鍛えているのだろうか?
……ダイエットや美容、スポーツのためではない。
例えば、以下のようなエピソードがある(第3話)。
かおすら3人が、下着姿の翼を偶然目撃した時のことだ。
琉姫「しばらく見ない間に、つーちゃん、いい体になったわね」
翼はつまらなさそうに「どこが?」
琉姫「ほどよく引き締まってるし」
オッサンオタクのかおすはヨダレを垂らさんばかりに興奮して「素敵です!」
翼はやはりつまらなさそうに「何それ、意味わかんない」
そして翼は、スケッチブックにアスリートのように体を描いて「最低このくらい筋肉ないと、暗黒勇者に相応しくない!」
そう!
彼女が体を鍛えるのは、マンガのキャラになりきるため、つまりマンガのためなのだ!
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【3】熱いセリフを吐く
翼は、しばしば熱いセリフを口にする。
例えば、デビューしたものの人気が得られるか不安だと語る小夢に対して、こんなことを言っている(第1話)。
翼「人気なきゃ、描く意味ないって思ってるのか?」
小夢「そんなことないです!マンガ描くのはずっと好きで……」
翼「じゃあいいじゃん。自分の理想に近づくには、描き続けるしかないと思う」
あるいは、寮の建て替えが済み、かおすら4人が久しぶりに集合した時のこと(第12話)。
小夢「かおすちゃん、マンガは順調?」
かおす「あっ……じつはまたその後ネームがボツ続きで……連載への道はまだまだ遠いです……」
翼が「暗黒勇者」風のポーズをキメて「道は遠いほどがんばり甲斐がある!」
翼は倒置法を使った方が効果的だと感じたようで、言い直す「がんばり甲斐がある。道は険しければ険しいほど!」
小夢「あっ!言い直した!」
こうしたセリフの背景には、もちろん「マンガに懸ける熱い想い」があるわけだが、それに加えて「マンガを描いていない時も、マンガのキャラのようにふるまうのが習慣化している」ことも一因になっていると思われる。
翼はそれほどマンガにのめり込んでいるのだ。
【Point 2】マンガ以外のことには関心が薄い
上述の「Point 1」の裏返しになるが……翼はマンガ以外のことにはほとんど関心がないようだ。
【1】オシャレに関心がない
例えば、彼女はオシャレに関心がない。
髪が短いのは、その方がマンガに没頭できるからだ。
また、洋服については以下のように言っている(第9話)。
小夢「着たい服ないの?」
翼「特にない……マンガ描きやすければ服なんて……」
さらに、Tシャツがインクで汚れてもまったく意に介さず、そのまま登校してしまうなんてエピソードもある。
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【2】デリカシーのないセリフ、非人間的なセリフを口にする
あるいは、彼女はいつも琉姫から「デリカシー」がないと言われているそうだが……なるほど。
以下のセリフを見ると、確かにデリカシーはなさそうだ。
TL(ティーンズ・ラブ)マンガ家の琉姫が、かおすらに原稿を見られるのが恥ずかしいと赤面した時のこと(第4話)。
翼は冷静な口調で「るっきーのHな妄想、すでに全国の書店で販売されてるから諦めろ」
……この配慮のなさである。
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あるいは、「対人恐怖」を抱えるかおすが、クラスメイトらと上手く付き合えずに「知らない人……怖いです……」と嘆いた時のことだ(第2話)。
翼「なぁ。無理に人と話さなくてもいいと思うけど。毎日こんなたくさんの人と会えるのは学生時代の内だけだし、マンガのための人間観察だと思いなよ」
なるほど。翼のアドバイスは実践的である。
家族以外の人と交流した経験が極めて少ないかおすにとって、人間観察は有益だろう。
……だが、いかがだろうか。
ちょっと非人間的な気もしないだろうか。
と言うか、これが翼の人間観ではないかと思うのだ。
つまり、彼女は他人にあまり関心がない。
翼にとって、他人は観察対象であり、よりよいマンガを描くためのマテリアルにすぎないのだ(と言うのはちょっと言い過ぎかもしれないが……)。
【考察①】なぜ翼はかくもストイックになったのか?
以上、翼は「マンガに対してストイックで、逆にそれ以外のことにはあまり関心がない」とご説明してきた。
※ストイックな翼。
……で、だ。
一体全体、翼はなぜこれほどにストイックなのだろうか?
作中では明言されていないが……以下、私見をご紹介しよう(手前味噌で恐縮だが、かなりいい線いっている分析だと思う)。
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そもそも……翼の実家は大変な富豪だ。
実家は、麻布十番に立地する西洋風の城。
彼女の父は会社の経営者だという。
翼は、そんな家で、家族の過剰なほどの愛情と、厳しい母の下、お嬢様として育てられたようだ。
ちなみに母は、翼がマンガ家になることを嫌っている。
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翼が、正月に帰省するエピソードがある(第10話)。
彼女は家族が望む姿、つまりお嬢様風の服を着て、ピアノを弾いたり、刺繍をしたりしている内に……次第にマンガへの情熱や、マンガ家としての自覚を失っていく。
かおすはそんな翼を見て衝撃を受ける「翼さんが、だんだん普通におしとやかになってきてる!」
かおすは、おそるおそる切り出す「つっ、翼さん……ネームは大丈夫なんですか……?」
翼「ネーム?ネームって……何?」
かおす「翼お嬢様ぁ!マンガ描かなくていいんですか!?」
翼「マンガ……ああ……。別に……私が描かなくても……家で大人しくしてた方がみんな喜ぶし……幸せ」
※右下:お嬢様化した翼。
普段のストイックな翼からは想像しがたいこの姿!
コメディタッチで描かれた大変愉快なエピソードなのだが……翼を理解する上でじつに興味深いシーンでもある。
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上記の通り、翼は正月に帰省し、家族と生活する内にマンガ家としての情熱を失っていくのだが……彼女が滞在したのはわずか数日間だ!
つまり!
たった数日でマンガへの情熱を失ってしまうほどの空間!
「女子まんが家寮」に入る前、翼はそんな場所にいたのだ。
ところで……人間は、否応なく環境に適応する。
例えば、幼い頃に虐待を受けると、生き延びる手段として感情を捨てることがある。
鈍感でなければ生きていけぬ環境下では、人は鈍感になることを選ぶというわけだ。
そして、翼もこれと同じだと思うのだ。
彼女は少年マンガと出会い、マンガ家を志した。
しかし幼少期の翼は、マンガ家になるにはあまりにも過酷な環境にいた。
その結果、彼女はストイックになったのだ。
いや、正確には、「マンガへの情熱を守るためにはストイックにならざるを得なかった」と言うべきだろう!
【考察②】翼にとっての小夢の意味
上述の通り、翼はマンガへの情熱を守るためにストイックになった。
やがて彼女は、親友・琉姫の手助けで実家を離れ、「女子まんが家寮」に入るが、そのストイックさが変わることはなかった。
……小夢と出会うまでは!
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本記事冒頭で申し上げた通り、翼はマンガ家として素晴らしいキャリアを歩んでいる。
少なくとも、現時点では大成功だ。
当然ながら、彼女の成功の裏にはそのストイックさがある。
その意味で、彼女はストイックになってよかったと言える。
ただし一方で、そのストイックさゆえに失ったものがあるのもまた事実だ。
例えば、琉姫が、翼の変化について語るシーンを見てみよう(第9話)。
琉姫「知り合った頃のつーちゃん、マンガの趣味は男の子っぽかったけど、それ以外は女の子らしかったのよ」
(ここで、琉姫の回想シーンが挟まる。琉姫と翼が出会ったのは小学生の頃のようだ)
琉姫「けど、本格的にマンガを描き始めるようになってからは、どんどんストイックになって……ショートにした方がマンガに没頭できるってバッサリ……。それから、つーちゃんの視界からどんどん女の子らしいものが排除されていったの……」
つまり、翼はマンガへの情熱を守るためにストイックになり、その代償として「年相応の女の子らしさ」を失ったのだ。
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ところが!
翼は小夢と出会い、徐々に変化し始める。
象徴的なのが第9話だ。
翼が、小夢らと共に買い物に出かける。
一同ファッションビルに入るが、上述の通り、翼はファッションには関心がない。
小夢「着たい服ないの?」
翼「特にない……マンガ描きやすければ服なんて……」
ここだ!
ここで小夢が食い下がるのだ!
小夢「嘘!じゃあ裸でもいい!?」
翼は小夢の迫力にたじたじになって「いっ、嫌です!ごめんなさい!」
小夢「ちゃんと鏡見て!着てみたい服とかあるでしょ?スタイルいいんだからぁ!」
翼「えと……どちらかというとスカートよりパンツかな……」
そして翼は、自身の選んだ服を試着する。
小夢「どう?自分で選んだ服を着るとワクワクしてこない?」
翼は頬を染めて「うん……する」
小夢「他には?何でもいいよ。翼ちゃんがかわいいって思うもの、教えて!雑貨でも何でも!」
翼「えと……探してみる」
しばしの散策後、翼は雑貨店でひよこの目覚まし時計を手に取る。
翼「これ……ひよこ……」
※ひよこと翼。
つまり!
ストイックな翼が、かつて捨てた「年相応の女の子らしさ」を徐々に取り戻し始めたのだ!……小夢のやや強引とも言えるアプローチによって!!
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前回ご紹介した通り、小夢は外向的で、物怖じしない性格だ。
その上彼女は、翼に特別な感情を抱いている。
だから小夢は、「あまりにもストイックで、『年相応の女の子』として生きることを放棄しているかのような翼」を放っておけない!
グイグイ迫る!
その結果、翼が変わり始めたのだ。
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前回、「翼に恋したことで、小夢は『マンガ家としてのストイックさ』を獲得し、マンガ家としてステップアップした」とご説明した。
今回見てきたのは、この逆だ。
翼が、小夢によって「年相応の女の子らしさ」を(再)獲得したのだ。
ちなみに上述の買い物のあと、翼はマンガを描き、担当編集者から褒められたと言う。
おそらく、これまでにはなかった「女の子らしさ」や、「(ストイックさの反対にある)ゆるさ」のようなものが評価されたのだろう。
つまり、「こみっくがーるず」では小夢と翼は補完関係にあり、互いに強みを提供し合うことで2人は成長するに至ったのだ。
まったく理想的なパートナーである!
明日に続く★
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関連
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最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。
(担当:三葉)
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