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マリオンの「逃走シーン」には、鑑賞者をハラハラドキドキさせるテクニックが詰まっている!|『サイコ』に学ぶテクニック

名作映画を研究して、創作に活かそう!

本記事では、「サイコ」に【鑑賞者をハラハラドキドキさせるテクニック】を学びます。

※「サイコ」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。

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鑑賞者をハラハラドキドキさせるテクニック!


「サイコ」のメインキャラの1人、マリオン。彼女は、ごく普通の若い女性です。

しかしある日、いくつかの「不愉快な出来事」が重なる。その結果、彼女は衝動的に勤務先の金を横領してしまいます。そして、恋人サムの住む街へ車を走らせた。

……かくして映画開始から13分経ったところで、マリオンの逃走劇が始まった!

※備考:逃走に至った経緯は、こちらの記事で詳しく解説しています。よろしければご参照ください。


さて本記事で注目するのは、この「逃走シーン」です。

時間にしておよそ14分間。「鑑賞者をハラハラドキドキさせるテクニック」が、これでもかと詰め込まれた名シーンです。


「逃走シーン」の概要


まずは、「逃走シーン」の概要を確認しておきましょう。


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以上が「逃走シーン」の概要です。

それでは、この「逃走シーン」にどのようなテクニックが詰め込まれているのか、具体的に説明していきましょう。


①マリオンが、ちっとも平静を装えていない


社長や警官、中古車販売店の店員と接する時、マリオンは平静を装おうとします。まぁ、これは当然のことですよね。犯罪者とは、怪しまれぬよう平静を装うものです。

ところがマリオンは……演技がヘタクソ!


例えば、警官から職務質問を受けた時のこと。マリオンはニコリともせずに、しかもややきつい口調で「私、急いでいるんです」「まだですか?」「私、何も違反をしていませんよね?」なぞと言う。

……もうね、何かを隠そうとしているのが見え見えなんですよ。そりゃ警官も訝しみます。


また、中古車販売店でも同様です。

マリオンが、とある車の価格を問う。店員は「えーと……では700ドルでいかがでしょうか?あとはご相談ということで」と答えます。

中古車ですからね、値引き交渉が当然なのでしょう。しかしマリオンは、「それでいいわ」と即答してしまう。

その結果、店員はギョッとして、「これ、本当にあなたの車ですか?まさか盗難車では……」と疑い出す。


マリオンはプロの犯罪者ではありません。ごく普通の女性です。出来心で、犯罪に手を染めたに過ぎない。「ちっとも平静を装えない」のも、まぁ無理ないでしょう。

が、しかし。鑑賞者は気が気ではありません。「おいおいおいおい。せめて愛想笑いくらいしないと……」と息を詰めて画面を見つめることになるのです。


②危機は去ったと思いきや……


逃走開始早々、マリオンが社長と偶然遭遇した時のこと。

まずは、マリオン(+ 鑑賞者)が社長に気づきます。そしてドキッとする。何しろ、マリオンは会社の金を横領しているわけですからね。

ところが、ですよ。社長はマリオンに気がつかない!彼はそのまま歩いて行ってしまう。マリオン(+ 鑑賞者)はホッとして、胸を撫で下ろす。……と思いきや!次の瞬間です。社長がふいに立ち止まる。そして振り返るのです。かくしてマリオン(+ 鑑賞者)は仰天する。


これは、ホラー映画やサスペンス映画ではお馴染みの『危機は去った』と誤解させ、鑑賞者に安心感を抱かせることで、その後の驚き・衝撃を大きくする」というテクニックです。


マリオンが事情聴取を受けるシーンでも、このテクニックが使われています。

すなわち……マリオンの車が道路脇に停まっている。そこにパトカーがやってくる。鑑賞者はドキッとします「まっ、まずいぞ!」。

しかしパトカーは、マリオンの車の脇を通過する。「あー、よかった」……と思いきや、直後、パトカーが引き返してくるのです。


③何を考えているかわからない


「主人公が敵から追われるシーン」と、「主人公が敵か味方かわからぬ人物から追われるシーン(相手がなぜ追いかけてくるのかわからない)」、どちらが鑑賞者の興味を惹くと思いますか?

断然後者ですよね。敵か、味方か?はたまたそのどちらでもないモブキャラなのか?……鑑賞者は気になって仕方がない。画面から目を離せなくなる。


職務質問後、マリオンが運転を再開したところでこのテクニックが使われています。

すなわち、マリオンの後をパトカーが追いかけてくるのです。一体どういうことだ!?ただの偶然?それとも、マリオンは警官から目をつけられてしまったのか?私たち鑑賞者は、続きが気になって仕方がない。


④悪意なき邪魔者


中古車販売店でのことです。

逃走中のマリオンは、「一刻も早く車を買い替えて立ち去りたい」と考えている。

しかし店員にとっては、マリオンは大切なお客様です。ゆえに「コーヒーでもいかがですか?」と愛想よくふるまう。また、「中古車はじっくり選んだ方がいいですよ」とアドバイスを送る。さらにめったやたらと急ぐマリオンに対して、「アハハッ。随分お急ぎですね。誰かに追われているんですか?」とジョークを飛ばす。


店員は、いつも通りの接客をしているにすぎません。しかしマリオン(+ 鑑賞者)からすれば、ズバリ彼は「(悪意なき)邪魔者」です。

本当なら「この野郎!軽口を叩いていないで、さっさと車を売れ!」と怒鳴りつけてやりたいところですが……そうもいきません(そんなことをしたら、一発で怪しまれてしまいますからね)。

ゆえに私たちは、やきもきしながら店員の接客を見つめることになるのです。


⑤鑑賞者が先に気づく(ドラマチックなアイロニー)


引き続き、中古車販売店でのことです。

マリオンが店に入ってから少しして、1台のパトカーがやってきます。中には警官。そう、先ほどマリオンを職務質問したあの警官です。鑑賞者はハッとする「またこいつか!マリオンは目を付けられてしまったようだ。大ピンチだぞ!」。

しかしこの時、マリオンは警官に気づいていません。彼女が気づくのは、もうしばらく後のこと。つまり、「鑑賞者だけが『迫りくる危機(警官)』に気づいている」という状態です。


こうしたシチュエーションを、カール・イグレシアス(Karl Iglesias/アメリカの脚本家、脚本研究家)は「ドラマチックなアイロニー(Dramatic Irony)」と呼んでいます。

このテクニックは、キャラクターが知らない情報を知らせることで観客を「優位」に立たせるという技だ。観客や脚本の読者だけに、そっと耳打ちするようなものだ。
キャラクターが知らない情報を明かされた読者は、キャラクターの身に何が起こるか(または起こらないか)を知ることになる。だから、そのキャタクターが間違った判断を下すのではないかと、やきもきするわけだ。

※カール・イグレシアス「『感情』から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方」(フィルムアート社)より引用


イグレシアスの言う通り、私たち鑑賞者は「ねぇ、マリオン!早く気づいて!危機が迫っているよ!」とやきもきさせられるのです。


まとめ


以上、「逃走シーン」に使われているテクニックをご説明してきました。

①マリオンが、ちっとも平静を装えていない

②危機は去ったと思いきや……

③何を考えているかわからない

④悪意なき邪魔者

⑤鑑賞者が先に気づく(ドラマチックなアイロニー)


たった14分の間に、これらのテクニックが詰め込まれている。その結果、鑑賞者はハラハラドキドキしっ放し。画面に釘づけです。

まさに「一瞬たりとも鑑賞者を飽きさせることなく、興味を惹き続ける名シーン」と言えるでしょう。


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(担当:三葉)

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