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これぞ、「鑑賞者を物語に引き込む完璧な冒頭シーン」である!!|『サイコ』に学ぶテクニック

名作映画を研究して、創作に活かそう!

本記事では、「サイコ」に【「鑑賞者を物語に引き込む冒頭シーン」の描き方】を学びます。

※「サイコ」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。

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物語の冒頭で最も重要なことは……!


物語の冒頭で最も重要なことは何か?ズバリ、「鑑賞者・読者が『主人公』に関心を持ってくれるように、仕掛けを施すこと」でしょう。

「共感」でも「感情移入」でも「好き」でも「応援したい」でもどれでも構いませんが……とにかく、まずは主人公に関心を持ってもらわねば!


何しろ、これから一定期間、鑑賞者・読者には主人公を通じて物語を楽しんでもらうわけですからね。

主人公がピンチに陥れば、鑑賞者・読者にはハラハラドキドキしてほしい。主人公が活躍すればスカッとしてほしいし、勝利すれば喜んでもらいたい。そのためには、主人公に関心を持ってもらう必要があります。


もしも初っ端から主人公が嫌われてしまったり、一切関心を持ってもらえなかったりすると、すべてが茶番になってしまうでしょう。

主人公がピンチに陥ろうが、活躍しようが、勝利しようが、鑑賞者・読者の感情が揺れることはない。「物語はドンドン進むけれど……だからどうした?」「なんかダダ滑りって感じの作品だなぁ」「この主人公、ムカつくんだよなぁ」。


「サイコ」の冒頭シーンを分析しよう!


さて、本記事で注目するのは映画「サイコ」の冒頭です。主人公に関心を抱いてもらうためにどのような仕掛けが施されているか、チェックしてみましょう!


なお、「サイコ」の主人公はマリオンという若い女性です。

※補足:厳密には、マリオンは主人公ではありません。しかし、それが判明するのは映画開始から47分経ったあたり。それまでの間、鑑賞者は「マリオン = 主人公」と考え、マリオンを通じて映画を鑑賞します。ゆえに本記事では、マリオンを主人公と扱います。


冒頭シーン①


物語は、安ホテルの一室から始まります。真昼間ながら、マリオンがとある男性とベッドを共にしている。

はて、一体どのような状況だろうか?この男は誰だ?2人はどんな関係だろうか?


鑑賞者は2人の会話に耳を澄まします。そして次第にわかってくる。

男性の名前はサム。どうやら、2人は恋人らしい。マリオンは、サムとの結婚を望んでいるようです。一方のサムも、マリオンを愛している様子。

しかし、彼は結婚に踏み切れないでいる。なぜならば、経済的な問題を抱えているから。亡父が遺した借金の返済や、前妻への扶養料の支払いでカツカツらしい。

サムは俯き、「返済・支払いが終わったら結婚しよう」と言う。しかしマリオンは耐えられない「すぐに結婚しましょうよ!」。2人は情熱的なキスをかわします。

ところが、サムはすぐに首を横に振る「いや……ダメだ」。彼はマリオンを愛している。だからこそ、貧乏生活をさせるわけにはいかぬと考えているのです。マリオンは「私は耐えられるわ」と言いますが、サムは黙ってしまう。

2人の辛そうな表情……。

この直後、マリオンは部屋を出て、職場に戻ります。そして、「彼女が昼休みのごく短い時間にサムと密会していたこと」が明らかになります。


さて、このシーン!あなたはどう感じましたか?

おそらく多くの鑑賞者はこう感じたはずです。マリオンもサムも悪いヤツではなさそうだ。しかも彼らは愛し合っている。ところが一緒になれない!嗚呼、何たる悲劇か!

「ロミオとジュリエット」を持ち出すまでもなく、「愛する人と一緒になれない」というシチュエーションは、多くの鑑賞者の涙を誘うものです。かくして私たちはマリオンに同情心を抱き、「どうにか幸せになってくれるといいのだが……」と行く末を案じることになる。


冒頭シーン②


映画開始から6分57秒経ったところで、マリオンが職場(不動産会社)に戻ります。

そしてマリオンと、同僚の女性(キャロライン)の会話が始まる。


<会話1>

マリオンが言う「頭痛がするわ……」。キャロラインは「私、頭痛薬を持っているわよ」と親切に申し出る。

そして笑いながら付け加えた「これ、結婚式の日に母からもらった薬なの。鎮静剤よ。初夜に飲めって」。


<会話2>

マリオンが問う「私がいない間に、どこからか電話はあった?」。

キャロラインが答える「私には、夫から電話があったわ。そうそう、あなたには妹さんから」。


マリオンとキャロラインとの会話はごく短いものです。しかしその間、キャロラインは「結婚」を想起させる発言を繰り返す……!

無論、キャロラインに他意はないでしょう。彼女は、マリオンに嫌がらせをしてやろうなぞとは考えていないはず。またマリオンにしても、キャロラインの発言に対して特に目立った反応は示していません。

一見すると、特に意味のない些細な1コマに見える。


……が、しかし。

私たち鑑賞者は、すでにマリオンに同情しています。ゆえに、キャロラインが「結婚」を想起させる発言をするたびに、胃の辺りがキリキリと痛むのです。マリオンは平然としているが、その心中はいかばかりか……。嗚呼、頼むから、マリオンの前で「結婚式」だの「夫」だのと言うのは止めてくれ!

要するに私たち鑑賞者は、マリオンに対して、ここでより一層の同情心を抱くというわけです。


冒頭シーン③


マリオンとキャロラインの短い会話の後、会社に客がやってきます。

性別は男性。年齢は50歳くらいでしょうか。彼は、入ってくるなり「こりゃひどい暑さだ。蒸し風呂だな」と文句をつける。さらにマリオンとキャロラインに向かって、「やぁ、お嬢さん方。社長に言って、クーラーをつけてもらうんだな」。

……どうにも横柄で、嫌な感じのオッサンです。


オッサンはマリオンに言います「明日、うちの娘が結婚するんだ。18歳なんだか、これまで何1つ不自由させたことがない」「不幸なんてものは、金で追っ払っちまうのさ」。

うわぁ……この成金野郎め!鑑賞者は早々に反感を抱くでしょう。


オッサンはマリオンに問いかけます「あんた、不幸かい?」。マリオンが微笑み(無論愛想笑いでしょう)、口を開く「まぁ……人並みに」。

それを受け、オッサンが言う「娘に家を買ってやるんだ。4万ドルの家だぞ」「金で幸せを買うんじゃない。金で不幸を追っ払うのさ」。マリオンは硬い表情でうなづきます。一方のキャロラインは羨ましそうな顔……いまにもヨダレをたらしそうな顔をしている。

続いて、オッサンが4万ドルの札束を取り出します。マリオンが微笑む……が、今度の笑みはどうにも不自然。顔が引き攣っているように見える。


いかがでしょうか、このやりとり!「経済的な理由で愛する人と一緒になれぬマリオン」と、「成金風のムカつくオッサン」。マリオンの硬い表情や、引き攣った笑顔が泣かせます。

かくして私たちは、さらにさらにマリオンに同情を寄せるのです。


まとめ


以上、「サイコ」の冒頭(約11分間)をご紹介してきました。

物語はこのあと、「マリオンがオッサンの支払った4万ドルを衝動的に横領し、サムの住む街へ向かう」というシーンに突入します。

横領……言うまでもなく犯罪です。しかし私たちは、マリオンを嫌いになったりはしない。なぜならば、そう!私たちは、強く強くマリオンに同情しているのですから。


つまり本作は、冒頭の11分間の「3つのシーン(サムとの会話、キャロラインとの会話、クソオヤジとの会話)」で、鑑賞者の心の中に「マリオンに対する『同情心』と『応援したいという気持ち』」を生み出すことに成功しているのです。

そしてその結果……マリオンがピンチに陥れば、鑑賞者はハラハラドキドキするでしょう。「何とか上手く切り抜けてくれ!」と願い、やきもきするに違いない。また、マリオンが窮地を脱すれば、鑑賞者は我がことのようにホッとする。つまり鑑賞者は、「サイコ」という物語を存分に楽しむことができるのです。


さりげない描写から、マリオンに対する同情心を喚起する!(「ほらほら見てよ!かわいそうでしょ!」と押し付けられると、鑑賞者は引いてしまいますからね。「さりげなさ」が重要なのです)

本作の冒頭は、「鑑賞者を物語に引き込む完璧な出だし」と言えるでしょう。

マジですごい!!


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(担当:三葉)

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