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ディゾルブ!マッチカット!そして、モチベーテッド・ライティングだ!!|『サイコ』に学ぶテクニック

名作映画を研究して、創作に活かそう!

本記事では、「サイコ」に【効果的な編集技術・撮影技術】を学びます。

※「サイコ」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。

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編集技術・撮影技術に注目!!


本記事では、「サイコ」に使用されている編集技術・撮影技術に注目します。

様々なテクニックが使われていますが……その中でも特に印象的なものを2つピックアップして、「どのシーンで、どのように使われているか?」「どのような効果を発揮しているか?」を詳しくご説明しましょう。


【1-1】ディゾルブ


まずは「ディゾルブ(Dissolve)」。これは「2つの場面を繋ぐテクニック」の1つです。

具体的には、「『1つ目の場面の最後』をフェードアウトさせると同時に、『2つ目の場面の最初』をフェードインさせることで、2つの場面を繋ぐ」というテクニック。

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※参考(「映像編集」欄に「ディゾルブ」の説明があります)


【1-2】マッチカット


続いて「マッチカット(Match cut)」。これも「2つの場面を繋ぐテクニック」の1つです。

例えば、画面に「月」が映っているとする。次の瞬間、画面が切り替わり、「太陽」が映る。

……これです!すなわち、月と太陽には「類似性」がありますよね。そう、どちらも星だし、円形(球形)です。このように「『1つ目の場面の最後』と『2つ目の場面の最初』に類似性を持たせること」を、「マッチカット」と呼ぶのです。


※参考


【1-3】「サイコ」の場合


今回注目するのは……マリオンが絶命した直後。「ディゾルブ」「マッチカット」が同時に使用されているシーンがあります。

※マリオン:若い女性。本作前半の主人公。


すなわち……マリオンがシャワーを浴びていると、突如謎の人物が登場。マリオンはめった刺しにされます。間もなく犯人は去る。

一方マリオンは絶命し、バスタブに倒れ込む。彼女の体からは血が流れ出る。そしてその血は、シャワーの湯に押し流されてバスタブの排水溝へ向かう。

画面がグッと排水溝に近寄る……と、そこで「ディゾルブ」。「排水溝の映像」がフェードアウトして、「マリオンの瞳」がゆっくりと浮かび上がってくるのです(フェードイン)。


なお、「排水溝」と「マリオンの開いた瞳孔」はどちらも円い。つまり「類似性」がある。ゆえに、これは「マッチカット」でもあります。


さて、問題はここからです。

というのも、「ディゾルブ」と「マッチカット」を同時に使うと、そのシーンには相当のインパクトが出る。単に「排水溝の映像」から「瞳の映像」に切り替わる場合と比べて、はるかに鑑賞者の記憶に残りやすいのです。

はて。制作者は、一体なぜこのシーンでこのテクニックを用いたのでしょうか?鑑賞者に何を伝えたかったのでしょうか?


私が思うに、おそらく「マリオンの死」を鑑賞者に印象付けたかったのでしょう。要するに……排水溝に流れ込んだ水は、もう2度と戻ってこない。同様に、マリオンももう2度と戻ってこない。死とは不可逆的なものなのです。

「マリオンは、衝動的に勤務先の金を横領してしまった。しかし、つい先ほど改心したところだった。そう、彼女は本質的には善人。真っ当に生きようとしていたのだ。それなのに、嗚呼、死んでしまった……」という具合に、鑑賞者は「マリオンの死」を噛みしめ、ショックを受けるのです。


では、もしもこれが単に「排水溝の映像 → 瞳の映像」と切り替わるだけだったら?鑑賞者が「マリオンの死」に浸ることはなかったと思うのです。


【2-1】モチベーテッド・ライティング


次に取り上げるのは、「モチベーテッド・ライティング(Motivated lighting)」。「自然な光(= そのシーンに存在しても違和感のない光)」という意味です。

「『自然な光』を使うことで、さりげなく演出を加えられる」というメリットがあります。


例えば、月の光。そのシーンが夜ならば、月光が存在することに違和感はありませんよね。したがって、「モチベーテッド・ライティング」に該当します。

そして月光は、「優しい月の光に照らされる『穏やかで平和な街並み』」から、「月の光に照らされ、徐々に狂気に蝕まれつつある主人公」まで、様々な演出に利用可能です。


【2-2】「サイコ」の場合


「サイコ」の終盤、まさにクライマックスの真っ最中に、「モチベーテッド・ライティング」が効果的に使われるシーンがあります。


すなわち……ライラとサムが真相(マリオンの行方など)を知るべく、「ベイツ・モーテル」へ向かった。そしてサムがノーマンの気を引き、その隙にライラはノーマン宅へ忍び込む。

※ライラ:マリオンの妹。

※サム:マリオンの恋人。

※ノーマン:本作の主人公。「ベイツ・モーテル」の経営者。


やがてライラは、地下室に潜入。そこは薄暗い部屋です。天井から裸電球がぶら下がっている。そしてライラはそこで……「干からびたノーマンの母の遺体」を発見する!

ライラは仰天。悲鳴を上げ、反射的にのけぞった。彼女の腕が裸電球にぶつかる。裸電球は、その部屋唯一の光源です。それが振り子のように揺れることで、部屋の中の影がグラグラ揺れ動き、伸びたり縮んだりする。


その結果、画面に非日常感・緊迫感が生まれる。

さらに、です。影がユラユラ揺れ動くため、遺体が生きているかのように見える(影が揺れることで、遺体の表情がコロコロ入れ替わっているように見えるのです)。


ところで……「じつは主人公(ノーマン)が二重人格者だった」というのが「サイコ」のオチ。

ノーマンの中には「ノーマン」と「ノーマンの母」が棲んでおり、「ノーマンの母」が殺人を犯していた。つまり「ノーマンの母」は現実には死んでいるが、ノーマンの中では生きている。

上述の「影がユラユラ揺れ動くため、遺体が生きているかのように見える」という演出は、この二面性を、「モチベーテッド・ライティング」によって表現していると言えるでしょう。


裸電球を1つ揺らすだけで、これほど複雑なことを表現できる!本当にすごいですよねぇ!


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(担当:三葉)

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