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「現実を皮肉る物語」を描いてみない?|『バルカン超特急』に学ぶテクニック

名作映画を研究して、創作に活かそう!

本記事では、「バルカン超特急」に【「現実を皮肉る物語」の描き方】を学びます。

※「バルカン超特急」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。

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「迫りくる危機を、見て見ぬふりしてやり過ごそうとする人びと」を皮肉る!


映画「バルカン超特急」は、1938年末にアメリカ及びイギリスで公開されました。


1938年、すなわち第2次世界大戦直前です。

ヴェルサイユ条約を一方的に破棄し、「軍備の増強」「徴兵制の復活」「近隣諸国への勢力拡大(オーストリア併合など)」と暴走するナチスドイツ


これに対して、ヨーロッパの主要国はどのような対応を取ったのでしょうか?

当時ヨーロッパには、「平和主義」と呼ばれる態度が広まっていました。これは、第1次世界大戦への反省と恐怖から「あらゆる戦争に無条件で反対しよう」というものです。

かくして主要国は、ナチスドイツの暴走を黙認しました。黙認、つまり「見て見ぬふり」。見て見ぬふりを決め込むことで、戦争の再来を防ごうと考えたのです(いわゆる「対独宥和政策」)。


ところが思惑は外れ、間もなく第2次世界大戦が始まるわけですが……それはさておいて。

本作には、そんな「迫りくる危機を、見て見ぬふりしてやり過ごそうとする人びと」(≒ 事なかれ主義者、利己主義者)を皮肉るエピソードが盛り込まれています。

具体的にご紹介しましょう。


<補足>

▶ 本作の舞台(ヨーロッパの架空の国「パンドリカ」)は、ナチスドイツがモデルだとされています。

▶ これを踏まえてストーリーを整理すると、ドイツ旅行を楽しんでいたイギリス人(主人公ら)が、『ドイツに潜入していたイギリス情報機関所属のスパイ v.s スパイを始末せんとするナチスドイツ軍』の戦いに巻き込まれる物語」となります。


見て見ぬふりするイギリス人①


まずは、「カルディコット」と「チャータース」という2人の脇役キャラに注目してみましょう。

・2人ともイギリス人の中年男性。

・他のキャラ同様、ドイツ旅行中に事件に巻き込まれる。


彼らはどのようなキャラか?

ズバリ「クリケット狂」です。2人はいつもクリケットの話ばかりしている。寝ても覚めてもクリケット、クリケット、クリケット!

※クリケット:イギリス発祥。紳士が嗜むスポーツとされている。


物語前半、主人公が事件に巻き込まれます。彼女は戸惑い、困り果てる。

カルディコットとチャータースは、そんな彼女を前に……見て見ぬふりをします。なぜか?予定通りイギリスに帰国し、クリケットの試合を観たいから!「事件に関わると帰国が遅れ、試合に間に合わなくなるかもしれない」という理由で、彼らは物語終盤まで主人公に手を貸そうとはしません。それどころか、「あの女のせいで帰国が遅れちまうよ!」とぶつくさ文句を垂れる。

まったく冷たい連中ですよ!彼らはまさに、「見て見ぬふりしてやり過ごそうとする人びと」です。


そんな2人が立ち上がるのは、物語のクライマックス。いよいよ自分たちにも危害が及びそうになった時です。彼らは主人公と共に戦い、活躍。無事帰国するに至ります。


ちなみに……知らんぷりを決め込んだ彼らには、きちんと「天罰」が用意されています。

ようやく帰国し、「さぁクリケットの試合を観に行こう」と意気込む彼らの目に、とある看板が飛び込んでくる。曰く「洪水のため試合は中止になりました」。カルディコットとチャータースはガックリ落胆します。一方鑑賞者は「ざまぁみろ」と拍手喝采。

因果応報的な結末と言えるでしょう。


見て見ぬふりするイギリス人②


続いて、「トッドハンター夫妻」という脇役キャラにも注目してみましょう。

・2人ともイギリス人。

・「夫妻」と名乗っているものの、じつは「ダブル不倫のカップル」だと物語中盤に明かされる。


トッドハンター夫妻もまた、事件に巻き込まれた主人公を前に、見て見ぬふりを決め込みます。「事件に関わると、不倫がバレてしまうかもしれない」「不倫がバレると、あれこれ困ったことになる」というわけです。


さらに、です。全員が窮地に追い込まれるクライマックス。上述の通り、カルディコットとチャータースは主人公に協力して敵(ナチスドイツ軍)と戦うことを決意します。

ところがトッドハンター氏(男性の方)は、「降服する」と言い出す。曰く「私は死にたくない」「降服すれば命は助かる。ちゃんと裁判だって受けられるさ」。そして彼は皆が止めるのも聞かず、白い布を掲げて敵の前に姿を晒し……はい。即射殺される。

そう、敵は邪悪。我らには戦う以外の道はないのです(と鑑賞者は感じるでしょう)。

トッドハンター氏も「迫りくる危機を、見て見ぬふりしてやり過ごそうとする人びと」を象徴するキャラと言えるでしょう。


ちなみに、トッドハンター夫人(女性の方)は主人公らとともに戦う道を選びます。いつの世も男性は夢想家(≒ 愚か者)、女性の方が地に足がついているということでしょうか。


まとめ


以上、「バルカン超特急」に盛り込まれた「皮肉」をご紹介してきました。


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みなさんの作品にも、こうした「皮肉」を盛り込んでみてはいかがでしょうか?あまりにも政治的なメッセージが強く、露骨なものはちょっとアレかなと思いますが、「バルカン超特急」程度なら悪くないと思うんですよね。


「いま私たちは、何を見て見ぬふりしているのだろう?」なんて考えてみると、ユニークな作品を作り得るかもしれません。

よろしければ試してみてくださいねー!


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▶ 「バルカン超特急」の「三幕構成」分析は、こちらの記事でどうぞ😁 → 【三幕構成の実例】バルカン超特急


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 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

(担当:三葉)

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