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絵本ができるまで

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一冊の絵本が出来上がるまでの記録です。絵本のページに込めた思いと情景をつらつら書いています。
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絵本 ふしぎなもり

絵本 ふしぎなもり

男の子が不思議な森を探検するお話です。どんな不思議があるのかな。

日常を離れて、少しだけ探検の世界へ。こどもにとっても大人にとっても、息抜きになれば幸いです。



























最後まで読んで頂き、ありがとうございます。「ふしぎなもり」は、オヒルギという種類のマングローブの森のことでした。

初めてオヒルギの森に入ったとき、ちょっと怖

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絵本の裏側 1

絵本の裏側 1

なぜ絵本をかくことになったのか。
絵本作り初心者らしく、格好悪くさらけ出してみようと思います。

スケッチのおじさんその頃、仲良くなって、たまに訪ねてはおしゃべりをするおじさんがいました。おじさんは、市場の一角で1坪くらいの小さなアトリエを開いていました。
1坪といっても、広場にテーブルを置いたり、ワゴンを持ち出したり。閉まっていると1坪、という場所でした。

アトリエは、「スケッチ」といいました

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絵本の裏側 2

絵本の裏側 2

絵本をかこうと決めました。締め切りも目標も決めました。
さて、どんな絵本にしよう?

生き物が好きだ私は脱サラをして、沖縄に移り住んでいました。
とてもざっくり言うと、生き物が大事、ということが理由でした。

サラリーマン時代は満員電車に乗り、コンクリートのまちの中をせかせか動き回っていました。生き物のことなんてこれっぽっちも気にしないで、毎日が過ぎていきました。

脱サラしてがらりと変わりました

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絵本の裏側 3

絵本の裏側 3

処女作完成から約半年。
なんと、コンクール事務局から手紙が届きます。

再挑戦、なのか何のことはない、過去の応募者へ宛てた次のコンクールへの案内でした。
それでもその便りによって”絵本”を思い出します。そして葛藤が生まれます。

正直しんどかった製作期間。
消化不良に終わったもやもや感。

再挑戦決心の決め手は、新しい出会いでした。

こんにちは屋我地島屋我地島(やがじじま)。そこは、私の新しい職

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絵本の裏側 4

絵本の裏側 4

それではここから本編です。
ひと見開きずつ『ふしぎなもり』を歩いていきます。
絵本を通しで読みたいよ、という方は下のリンクをご覧ください。

はじめの一歩ほんとうはちょっとこわいけど、はいってみようとおもったんだ。

男の子が、未知なる森へ記念すべき一歩を踏み出します。
決心が鈍らないように、力強く。
でも恐れる気持ちがあって、ゆっくりしか進めません。

男の子は、前からこの森の存在を知っていまし

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絵本の裏側 5

絵本の裏側 5

一歩一歩不思議な森の奥へと進んでいく男の子。
どんどん前へ進みたい気もするけれど...?

地味な世界に気づくとき不思議な森に入りたての男の子は、細心の注意を払って歩きます。
転ばないように足元ばかりを見ています。
そして、とんがりの貝を見つけます。

マングローブの地面にいる貝、たとえばイボウミニナなどの仲間は、砂粒の周りの栄養を食べながら、ゆっくりと地面を這っていきます。
やわらかい砂地には彼

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絵本の裏側 6

絵本の裏側 6

"とんがりの貝" から目を上げて、もうそろそろ立ち上がろうかな。
男の子はまた、歩き出します。

気のせいかな?よっこいしょ。
腰を上げたその時です。

カサッ。

何かが動いたような。気のせいだろうか?

カササッ。

気のせいじゃないみたい。
木の幹からだ。
ぼくか動くたび、何かがサッと隠れるみたい。

ぼくが動く、なにかがサッと。
ぼくが一歩、なにかがサッと。

何が動いているんだろう?

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絵本の裏側 7

絵本の裏側 7

男の子はふと、上を見上げてみました。
自分が大きな木に囲まれていたことに気が付きます。

怖くないかもオヒルギの根っこに注目したり、 ”とんがりの貝” を探した地面。
すばしっこい生き物を探しまわった幹。
そして、見上げた頭上の枝。
好奇心のまま見てきた断片的な景色が、繋がっていきます。

うわぁぁ...
おおきなき だったんだね。

大きな木に囲まれていても、もうあまり怖くはありません。
むしろ

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絵本の裏側 8

絵本の裏側 8

不思議な森を抜けました。
男の子が次に見るのはどんな景色?

もりを ぬけた。

とても とても ひろいところ。
だけど そこは うみじゃない。

とても ひろいところ一面の砂地。
見渡す限りの地面。

森の外には海が広がっているかもしれない。
そんな男の子の淡い期待は裏切られます。

薄暗くてじめじめとした雰囲気と打って代わり、
明るくて広い砂地には気持ちの良い風が吹き抜けます。
男の子はその広

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絵本の裏側 9

絵本の裏側 9

誰もいない。何もない。
そんな場所って、ほんとうにあるのかな。

もこもこもこ男の子が立つ砂地の表面は、どこまでもなめらかです。
所によって波打つ模様があったり、小さな起伏があったり。
優しい模様が遠くまで続きます。

その、表面に。

もこもこ もこもこ。
もこもこもこ...

周りから浮いて、異様な場所がありました。

なんだろう。

よく見ると、それはたくさんの小さな泥だんごの集まり。
直径

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絵本の裏側 10

絵本の裏側 10

砂地に置かれた泥だんごのすぐそば。
地面がもぞもぞと動き出します。なんだなんだ??

誰の仕業?そこに何かがある時、
きっと、誰かや何かの理由があってそこにあるのだと思います。
とすればこの泥だんごも、なにか訳があってこの砂地にある。
それを確かめるためには、やはりじっと観察するに限ります。

この瞬間の驚きとドキドキは忘れられません。
何度見ようと遭遇するたびに嬉しくなる光景のひとつです。

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絵本の裏側 11

絵本の裏側 11

だだっぴろい砂地の真ん中。
じいーっとミナミコメツキガ二を見ていたら、周囲はすっかり賑やかになっていました。

じっとする、の効果生き物を観察したいとき、じっとしたもん勝ちだと勝手に思っています。
体は動かさず、影も動かさず、でもぼうっとしている訳ではなく、五感はきりっと研ぎ澄ませて、じっとします。

男の子もミナミコメツキガ二にすっかり心を奪われて、一生懸命に彼らの動きを見ていました。

すると

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絵本の裏側 12

絵本の裏側 12

何にもいないと思った、広い、広い砂地の上。
本当はたくさんの生き物が潜んでいることが分かりました。

砂の隠れ家この砂は無数の生き物を隠していたのか。
はたまた、みんなこの砂に上手に隠れていたのか。
ここは生き物たちの隠れ家だったんだね。

生き物に囲まれてすっかり身動きが取れなくなっちゃった男の子。
考え始めます。

こんなにたくさん隠れていたということは…
潜んでいる生き物は今見ているもので全

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絵本の裏側 13

絵本の裏側 13

ぷこぷこぷこ…
あれれ、お水がやってきた。

ここは、生き物と戯れているうちにすっかり時間が経っていたようです。
顔を上げると、なんと、すぐ近くまでお水がやってきています。
男の子はピンときます。

そうか ここは うみなんだ。

ぷこぷこぷこ。

にぎやかな音をたてながら。

こぽこぽこぽこぽ。

アッという間に浅い海が広がっていきます。
ここは、海の底になるのです。

ゆるい、境目さっきまで、

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