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絵本の裏側 5

一歩一歩不思議な森の奥へと進んでいく男の子。
どんどん前へ進みたい気もするけれど...?

地味な世界に気づくとき

不思議な森に入りたての男の子は、細心の注意を払って歩きます。
転ばないように足元ばかりを見ています。
そして、とんがりの貝を見つけます。

マングローブの地面にいる貝、たとえばイボウミニナなどの仲間は、砂粒の周りの栄養を食べながら、ゆっくりと地面を這っていきます。
やわらかい砂地には彼らが引きずる体(貝)の跡が、筋となって残ります。
軌跡と軌跡は重なり合って、交差して、そうかと思えば水が満ちてきて、消えたりします。

すたすた歩いてしまえば見落としてしまいそうなちいさな営み。
「前見て歩きなさい!」子供のころによく注意されたような。
でも、下を見て歩くことで見えるものがあるようです。

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ぞわぞわ...

一度ちいさな貝が見えるようになると、彼らが地面いっぱいにいることに気が付きます。
あれも、これも、そっちも。みんな貝だ。

いきてるのかな?
しんでるのかな?

男の子にモクモクと好奇心が生まれます。
じっとしゃがみ込んで確かめよう。

もぞっ

視界の隅で小さく動くのがわかります。
全部、生きている。

貝が動くのを捉えようと待つ時間。
自分の心臓がどきどきいうのを感じて、過ぎていきます。
どこか流れ星を探す時間に似ています。

そして、ぞわぞわする人には、ぞわぞわ来る時間です。

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彼らの時間

彼らをじっと眺めながら、思ったりします。

ウミニナは私たちよりずいぶんゆっくりと歩きます。
でも、彼らの一生は私たちよりずっと短い。(多分)

何十年もの寿命を与えられながら、毎日せかせかしている自分と、その何分の一かもしれない寿命でもって、ペースを崩さず歩き続けるウミニナ。
私たちとは、違う時間のなかを生きているのだろうか?

その答えは分かりそうになくて、とにかく彼らの時間に自分の時間を合わせてみます。彼らのスピードに近づいてみます。
自分まで貝になりそうだ...

この不思議な森は、違う時空へ飛んでいくような、そんな体験もさせてくれるのです。

この場を借りて

「この貝たち踏んでしまって大丈夫?」
質問してくれる優しい人がたくさんいます。
「貝殻は硬いし、砂の地面は柔らかいから大丈夫だよ。」私は答えます。
たくさんいるので踏まないように歩くのはほぼ不可能。そんなこちらの事情もありますが。
本当のところはどうなんだろう。
優しく歩いてるけど、痛かったらごめんなさい。

〈本編 P.3-4〉

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