見出し画像

絵本の裏側 10

砂地に置かれた泥だんごのすぐそば。
地面がもぞもぞと動き出します。なんだなんだ??

誰の仕業?

そこに何かがある時、
きっと、誰かや何かの理由があってそこにあるのだと思います。
とすればこの泥だんごも、なにか訳があってこの砂地にある。
それを確かめるためには、やはりじっと観察するに限ります。

画像1

この瞬間の驚きとドキドキは忘れられません。
何度見ようと遭遇するたびに嬉しくなる光景のひとつです。

地面のあちこちがもぞもぞと動きだし、やがてピンク色した細かい脚が砂を掻いているのが見えてきます。そうこうしているうち、くすんだ水色のような不思議な色をした小さな生き物が土の中から現れます。

不用意に動いて警戒させなければ、後から後から、これでもかというくらいに這い出てきて、アッという間に地面を埋め尽くします。

丸いカラダ

画像2

その名は、ミナミコメツキガ二。
大量に出てきて集団で行進することがあることから、 Soldier crab (軍隊かに)という英名もあります。

一匹を優しく拾い上げ、手のひらに乗せてみます。

丸っこい体に、細長い足。
小さな目が体の上にちょこんと付いています。
どことなくロボットのようにも見える体つき。
軍隊というイメージとは程遠く、繊細でひ弱そうな雰囲気が伝わってきます。

彼らはこの広い干潟で、他のカニ、鳥、魚など、たくさんの天敵に晒されています。
対抗するために用いる術は、土の中に隠れることと、集団でいること。
ハサミで戦っているところは見たことがありません。

丸いカラダになったのが先か、潜り方を編み出したのが先か。
くるくると回転しながらの鮮やかな砂潜りは、身を守るための必殺技なのでした。
土の中へ消えたり出てきたり。飽きることなくいつまでも見ていられます。

泥だんご名人

誰からも食べられてしまう、ミナミコメツキガ二。
彼ら自身は何を食べているのでしょうか。
主に砂粒の周りの栄養です。

ハサミを上下に動かしながら、泥を口に含んでは、食事済みの泥を小さなだんご状にして出していきます。その速さはまさに、泥だんご名人。
泥だんごを地上に並べていくこともあれば、自分自身の体を隠すように、頭の上にドーム状に連ねていくこともあります。(トンネル技師でもあるのかも。)

泥だんごの連なった盛り上がりを見つけたら、指で優しくドームの屋根を持ち上げて、彼らが少し前に通って行ったであろう、トンネル跡を確認するのがひそかな楽しみだったりします。

新鮮な泥だんごほど、だんごの一つ一つがはっきりしています。
そういう泥だんごは、たとえ姿は見えなくても、近くにミナミコメツキガ二がいる可能性が高いことを教えてくれます。

〈本編 P.13-14〉

【絵本のまるごと、こちらから】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?